第十三話 体育祭?違う。打ち上げだ!
体育祭が終わった。
体育祭が終わり信介は1度家に帰った。
体育祭の疲れから信介はシャワーを浴びて私服姿に着替える。
これから体育祭の打ち上げで近藤と木村のいつものメンツでこの前行けなかったカラオケへ行くことになっているのだ。
体育祭で疲れている為行きたくないのだが、田中のせいで行けなくなったカラオケに行きたいと近藤が言うので行く事にしたのだ。
信介は財布に学生証、スマホをカバンに入れて家を出る。
スマホには母から
『体育祭に行かなくてごめんね』
とメッセが送られていたので信介はそれに
『大丈夫。仕事がんば』
と返しておいた。
体育祭には多くの生徒の家族が我が子の勇姿を見に学校に来ていた。
信介は体育祭に母が来なかった事は特に気にしてはいない。
去年も来ていないので信介からしたら慣れているのだが、母はこうしてイベント事に来れないとメッセを飛ばして来てまで信介に謝罪をしてくる。
罪悪感があるのだろうか。
信介は待ち合わせ場所に指定された駅前に集合時間5分前に来た。
「はやっ、もういるし」
だがそこには既にイヤホンをしてゲームをしている木村がベンチに座っていた。
信介はそれを見てベンチに近づく。
木村はイヤホンをしているが近づく信介に気づきイヤホンの片方を外した。
信介は木村の隣の空いているスペースに座る。
「早いね」
「遅れたら祐樹が煩そうだし」
合流した木村だが、それでもゲームをする手は止まらない。
そこから数分後、丁度合流時間になると遠くの方に近藤がいるのが見えた。
しかし
「何で中条達もいるの?」
そうだ。
木村の言う通り、見えるのは近藤1人ではなく、その周りに新城に中条、宮野と言った最早恒例メンバーのなっているメンツが集まっていた。
しかし信介も木村も今日のカラオケは3人だけと思っていたのだが。
「..........知ってた?中条達も一緒なの」
「いや、何も聞いてない。木村は?」
「俺も信と同じ」
2人は祐樹から女子も一緒にと言う報告を何も聞いていない。
なのでもしかしたら途中で偶然会って今に至る可能性もある。
しかしそれでも近藤と女子3人は離れる事なく、そのまま固まって信介と木村のもとまでやって来た。
「よう!待ったか?」
「いや、そんなに待ってないけど........」
「何で中条達がいるの?」
信介の気持ちを代弁するように木村は近藤に問うた。
近藤はまるで待ってましたと言わんばかりの笑顔を顔に出した。
「いや〜、本当は言うつもりだったんだけど中条が『どうせなら2人には知らせないでサプライズにしようよ!』って言ってな。面白そうだから俺もそれに乗っかったんだ」
「2人の顔を見るに大成功だね!」
ノリノリな2人とは違い新城と宮野は苦笑いを浮かべている。
これにより今回の事は本当に近藤と中条の2人で企んだ事だと信介と木村は察した。
「はあ、それでこの6人でカラオケ?」
「おう!」
「こんな大人数で行けるの?」
「大丈夫!私が6人でって予約しといたから!」
「うわ、用意周到」
「そうと決まればレッツゴー!」
男女比率3対3で信介は合コンに参加する時はこんな気持ちなのかもと生涯参加しないであろうイベントに参加している気分になった。
道中は予約を取った中条を先頭に街を歩いて目的のカラオケ店へ行く。
道中、信介は新城と会話をしていた。
「槙本くんは何歌うの?」
「俺基本歌う方じゃなくて聞専なんだよね」
「そうなの?」
「うん。あんまり歌は得意じゃないから。でも、あの2人が仕切るなら最低でも一曲は歌わないと帰してくれない気がする」
信介は前を歩く中条と宮野と話しながら歩く近藤を見ながら言う。
信介の事に近藤の事は兎も角中条の事を良く知っている新城は「ははは......」と苦笑いを浮かべる。
「..........でもさ」
「ん?」
そんな2人の会話に木村が口を出す。
「信って「歌が得意じゃない」って自分では言うけど歌上手いよね」
「え?」
「................」
「前2人で行った時95点だったよね?」
「そうなのか!?」
木村の言葉に宮野と話していた近藤が驚いた声と顔で後ろにいる信介の方へ振り返る。
それに先頭を歩く中条が呆れた表情で見る。
「何で近藤が知らないの?」
「..............信と行く時大体大人数とかで行くから、信は歌わないんだよ。だから、信が歌ってるとこなんて見たことねえ。ってか、2人でカラオケに行ってたなんて俺知らねえぞ!?」
「だって聞かれてないし」
「態々言うほどの事でもないだろ」
「くそっ!今度から俺も誘えよ!」
「槙本くんと木村くんは良く行くの?カラオケ」
「あんまり」
「大体行く時どっちも腹減ったり暇してる時だから。歌って遊べるし飯も食えるから俺と信にとってカラオケは飲食店みたいな扱いかな」
信介と木村が2人でカラオケに行く事とそれを近藤が知らなかった事実が暴露され、一同は中条が予約してあったカラオケ店にやって来た。
店内には信介達以外にも、他校の制服を着た男子グループの集団に、歌い終わりに店の入り口付近に設置してあるドリンクバーに飲み物を容れる信介達と同年代の女子2人がコップを持って居た。
「まぶしっ...」
「ほら、行くよ皆んな」
少し外が暗くなり店内の明るい照明に若干眩しさを覚える信介だが、その間に中条がレジにいる店員に話しかけ手続きは終了。
戻って来た中条の手にはマイクが3本入ったカゴがある。
「中条何号室?」
「11番。二階だから、今のうちに飲み物とか入れといてね」
信介達は全員飲み物を片手に中条案内のもと、店員から指定された部屋へ行くべく階段を登る。
階段を登る際も店内のアナウンスと他の部屋から漏れ聞こえる歌声を聞きながら信介達は指定された11と扉に記載された部屋に入る。
中は信介達計6人が入っても十分余裕に座れるスペースがある。
各々好きな様に座るが、付き合っている近藤と宮野は隣同士で座り、中条、新城、信介、木村と言う順番になった。
「さあさあ歌っていくよ!」
まだ機械に曲を入れていないにも関わらず中条のテンションは上がりまくり、それに続く様に近藤も声を出す。
「最初はやっぱり信だ!!」
「え.......」
信介は動揺する。
だが、この店に来る前の流れからして自分が早めに歌わされるとは少し予想していたのだが、まさかこうも自分の思っていた通りの流れになるとは思わなかった。
信介は内心断りたいが、木村以外信介の歌っている所を見た事のない他の4人は興味津々に信介の顔を注視する。
「ほらほら信早く歌って歌って!」
「ほいマイク」
「おっと......」
近藤から投げられたマイクを取る信介。
この流れでは断りずらいので、信介は「分かったよ」と渋々承諾してタッチパネルで自分の歌う曲を探す。
その間にも信介以外の5人は信介の歌を想像していた。
(信の歌う所とかマジで見た事ねえ!これはレアだ。動画でも撮ってやろうか)
(木村が「上手い」って言ってたから楽しみ〜)
(どんな曲歌うんだろう)
(ああ......!....隣に......!)
(...........変にハードル上げたかも。ごめん信)
信の歌っている所を学校の校歌や国歌ぐらいしか知らない近藤はスマホで撮影しようかと企み、木村の一言で信の歌が気になる中条、知り合ったのがつい最近の宮野はどんな歌を歌うのか気になり、新城は隣で凄く近い信介に嬉しさと緊張、木村は自分の一言で信介の歌のハードルが上がった事を心の中で信介に謝る。
「ん、俺は入れたから入れて良いよ」
曲を決めて機械に入れた信介はタッチパネルを近藤に渡す。
それから数秒で室内は信介の入れた曲のメロディーが流れる。
マイクを持ち、機械に歌詞が出て歌い始めるまで待つ信介。
そして信介は機械に現れた歌詞通りに歌っていく。
信介の入れた曲は、新城と帰り道が一緒の時に聞いていた男性グループの曲だ。
バラードで恋愛ソングに似た歌詞で構成されており信介は記憶にある通りに歌っていく。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
それを聴いた皆の反応は........
(上手っ!?信うますぎだろ!)
(普段とのギャップがすごい!)
(.....................................)////////////
(あ〜、葵が聞き惚れちゃってる)
(相変わらず上手いな。どっから声出てんだろ)
信介は皆んなの反応を見ずに最後のサビまで歌い切った。
歌いきり、機械の画面に信介の歌唱力の点数が出る。
「94.............高っ」
「上手いじゃん信!驚いちゃったよ!」
「葵〜、終わったからそろそろ現実に戻ってきて〜」
「............はっ!」
「高いね〜」
信介は皆んなの評価を聞いて少し照れくさく感じる。
今までカラオケで歌うことなんて木村の2人で来る時しか無かった。
別にカラオケに来る頻度が少ない訳ではない。
近藤や他のクラスの友達に連れられて大人数で来たことの方が多い。
しかし信介自身人前で歌う事に多少の抵抗があり、今までそういった大人数の場では他の人達の歌を聴くだけにしていた。
なので今日、このように木村以外の人達に自分の歌声を聴かたのは実は初めてだったりする。
「そ、そうなの?あんまり自分が上手いのか分からないんだけど...........」
「90点越える時点で結構凄いよ!」
中条は興奮した様子で言う。
「うわ、ここまで信が上手いと思ってなかったわ。次から歌うとかプレッシャー半端ないんだけど」
そのように言うのは近藤だ。
どうやら信介の次に歌おうと曲を機械に入れたらしい。
点数が表示された画面は次に入れられた曲の題名が大きく表示されメロディーが流れ始めた。
「よっしゃ!考えても仕方ない!歌ってやるぜ!!!」
近藤のその掛け声と共にカラオケでの打ち上げは盛り上がり始めた。
このメンバーが揃ったのは2年生になってからで、今は体育祭が終わった5月中旬と仲良くなった期間は一月ちょい。
本来ならまだ仲良くなれていない人がいてもおかしくないが、このメンバーは誰もそのような雰囲気はなかった。
まるで昔から仲良しの幼馴染のような雰囲気が部屋中に漂っている。
それだけこの6人は側から見て仲良しに見える。
1人1人が必ず歌い、そこからは男女比が3:3で男女ペアでデュエットを歌うなどと楽しげに過ごした。
適当に作ったくじを引き、信介・宮野、近藤・中条、木村・新城と変わったペアになったが誰もそれに文句は言わなかった。
順番に歌い最後の近藤・中条ペアが終わった所でどのペアが1番得点が高かったのか比べていく。
「あー、俺と中条は86点か〜」
「俺と宮野が89で、木村と新城が85。俺と宮野の勝ちか」
「イェーイ!」
ペアになった宮野と信介はハイタッチをする。
普通なら彼女に馴れ馴れしくする信介に嫉妬したりしそうな場面だが、そこは近藤祐樹の人柄で友人である信介と彼女である宮野を信頼しているのだろう。
そういった感情は一切今の近藤にはなかった。
ここで、ここまでノンストップだったカラオケを休憩する。
気付けば信介の歌い初めから始まったカラオケは既に来店してから1時間程経ち夜の7時半だった。
夕食の時間に丁度良いとカラオケのメニュー表を手に持ち女性陣は何を食べるか話し始めた。
「じゃあ俺ら飲み物注いでくるわ」
「私達のもお願い!」
「何入れてた?」
「私コーラ!」
「私がカルピスで葵はオレンジ」
「りょ〜かい」
女性陣の分も一階の店入り口近くにあるドリンクバーに飲み物を入れに行く信介達男性陣。
その間に女性陣は食べれるものを注文しようとする。
信介達は両方の手にコップを持ちながらドリンクバーへ行く。
「中条何飲んでたんだっけ?」
自分のコップに飲み物を入れ終わった木村が頼まれて逆の手に持っている中条のコップを見ながら信介と近藤の2人に問いかけた。
「あいつはコーラ」
「新城は?」
「オレンジ」
信介はオレンジが出る場所へ新城のコップを置いてオレンジの出るボタンを押す。
「それにしても、信歌うますぎ」
「ん〜、俺としては全く分からん」
「自分の歌が上手いかなんて分かんないもんでしょ?音痴の人が自分は下手じゃないって思ってるのと一緒だよ」
「でも、流石にちょっと歌い過ぎた。喉痛い」
信介は店に入ってからと今の自分の声が明らかに違う事に気付いていて、このままでは明日は声がガラガラかもと考える。
「なあ、信。あれから田中の奴にちょっかいとか掛けられてんのか?」
何を思ったのか近藤は信介に田中の事を聞いてきた。
信介は最近の田中の行動を思い出してみる。
信介と新城が廊下でばったり会い少し話をしていると必ずと言っていいほど信介の視界には田中が新城には気付かれない位置にいたり、今日あった体育祭では色々と信介と重なる競技ばかりでその度に「自分の方が俺よりも優秀なのを新城に見せつけたいんだな」と信介は思いながら競技をやっていた。
しかし、別に信介からしたら嫌な事をされた訳ではないのでそれが信介にちょっかいを掛けているのかは信介自身分かっていない。
「俺に直接的に何かした事はないよ。自分が不利と思う事では勝負したくないんだと思う。まあ、勉学と運動でも田中に勝てる部分は無いんだけど」
唯一勝っていると言えるは性格の良し悪しぐらいかと信介は思う。
「なら良いけどよ」
「何かされたら直ぐに言いなよ」
「言うよ。その時は頼みます」
全員分の飲み物を入れ終えた信介達は女性陣が待つ部屋へ戻る。
「はあ、カラオケが終わると今度は中間試験が待ってんのか」
「急に現実に戻す話するのやめろよ」
「...............数B」
「やめろって!」




