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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
鉱山 採掘編

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89 アイテムやマジックアイテムの確認


 鉱山の拠点の中ではメイ、セーナ、元娼婦たちは慌ただしく日々を過ごしていた。


 千人もの女雑用に仕事の振り分けをしなければならないからだ。


 仕事の振り分けは、そのほとんどが拠点の中央に集められた鉱石の選鉱に振り分けられているが、料理の経験がある者には料理を作らせてみて腕がよければ料理の仕事に就かせていた。


 その理由は、女雑用たちと掘り手たちを合わせると千五百人分もの食事を作る必要があるからだ。


 他にも糸車と織機を活用して羊の毛から羊毛ボルトを作成し、裁縫のスキルを所持する者には服などの衣類を作成させたりもしていた。


 だが、シルルンが倉庫に置いた金床や溶鉱炉は使える者がおらず、眠ったままになっていた。


 特に拠点の全体責任者のメイは家畜の管理や採掘の進捗管理、掘り手の給料の査定、ガダンたちとの交渉もメイがこなしているので多忙だった。


 家畜の餌やりや家畜小屋の掃除、乳搾りや卵の回収は牛の女獣人たちと子供の獣人たちが行っているが、家畜たちを放牧するには戦闘職の者たちと一緒に行かなければ、もしも魔物に襲われたときに対応できないので、手の空いている戦闘職の者たちとメイが交渉して手配しているが、ほとんどヴァルラに頼んでいた。


 理由はヴァルラが獣人で常に酒を飲んでいるので暇であり、キュアの魔法を所持していることが挙げられる。


 家畜たちは放牧すると毒草を食べてしまうことがあるので、キュアの魔法を所持するヴァルラは適任だった。


「ふぅ、やっと飯だな。俺たち奴隷は飯だけが楽しみだぜ」


 シャットは疲れた表情を浮かべて様々な料理が並ぶテーブルの前に移動して、トレーと皿を取って料理を皿によそっていく。


 食堂では好きな料理を自身でよそう形式だ。


「お疲れ様です。たくさん召し上がって下さいね」


 セーナはにっこりと微笑んで、少なくなった料理を補充している。


「……お、おう」


 シャットはぶっきらぼうにそう答えるも、照れ笑いを浮かべながら空いている席に座った。


「シャットさんよ、顔が緩んでるぜ」


 シャットの隣に、にやけた顔をしたゴツイ男と痩せこけた男が座る。


「う、うるさい!! ここは女が多すぎるんだよ!!」


「くくく、だが、いないよりはいたほうがいい。むさい男連中ばかりだと気が滅入る」


「……ぐっ、確かにそうかもしれんが男より女の数が多いのはどうも落ち着かん」


 シャットは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。


「それは分かる気がしますよ。常に見られてる気がして私も落ち着かないですよ」


 痩せこけた男は決まりの悪い顔をする。


「はっ、そうかぁ? この状況は女が欲しい奴には好条件だろ。女の数は男の倍でその女たちは日に一食で雑用の仕事らしいじゃねぇか。俺たちには掘り手の仕事がある。ここで気合入れて仕事を頑張ってやれば女もついてくるってもんだろ」


 ゴツイ男は自信満々に自身の持論を展開した。


「……うぅ、そうかもしれませんが、私は選鉱だけでもいっぱいいっぱいですよ」


 痩せこけた男は悲痛な表情を浮かべており、スプーンを持つ手は急激な筋肉疲労で震えが止まらなかった。


 熟練炭鉱夫はシャットを含め十人いるが、五百人ほどいる掘り手たちを五十人ずつに振り分けて熟練炭鉱夫たちが指導していた。


 ゴツイ男と痩せこけた男はシャットの班なのである。


「がっははっ!! お前ら素人はそれでいいんだよ。まずは体を作って鉱石に慣れろ」


 シャットは当たり前のように言った。


「で、ですが、他の班の人たちはすでに採掘をやっているのが大半で焦りますよ」


「なら、他の班にいけばいい」


「そ、そんな……」


 痩せこけた男は弱りきった表情を浮かべている。


「今のお前が採掘をやったとしても五分も掘れやしないと思うぜ。採掘は掘るだけじゃねぇし、掘った鉱石や土を台車に積んで運搬するんだぜ? 今のお前にそれができるとは俺は思わんけどな……採掘をやらされてる他の班の連中は地獄だと思うぜ」


 ゴツイ男は真面目な硬い表情を浮かべている。


「えっ!? そ、そうなんですか……」


 痩せこけた男は軽く目を見張った。


「でだ、お前は今、いくらもらってるんだ?」


 シャットは探るような眼差しをゴツイ男に向ける。


「そうだな、今は日当一万だ」


「……ほう、悪くないな。今の段階で一万もらってる奴は極わずかだからな」


「だろうな、俺は口利きをしてもらってるのが大きいだろう」


 シャットの班で採掘に出ている者はシャットとゴツイ男だけで、残りの四十九人は選鉱をしていた。


「ふぅ……はっきりいってお前らが羨ましいぜ。俺たち奴隷はいくら働いても給料は〇だからな」


「まぁ、それについては返す言葉もないが、ここでは金を稼いでも使うとこがないけどな」


 掘り手の男たちは選鉱の仕事をすれば一食五百円の食事が日に一度だけ支給される。


 だが、採掘の仕事に出れば一人前とみなされて、初回だけ鉄のツルハシと鉄のスコップが支給されるが、その後は給料制に変わるので腕で給料が変わる。


 そのため、一度採掘に出ると給料でやりくりしなくてはいけなくなり、消耗品の鉄のツルハシや鉄のスコップも自身で買わなければならないのだ。


 しかし、この拠点には一食五百円の食事と鉄のツルハシや鉄のスコップを買うぐらいしか金の使い道がなく、熟練炭鉱夫たちや『強力』所持する女重戦士たちはシルルンの奴隷なので、日に三度の飯と消耗品は支給されるので現段階ではそれほど違いはないともいえるのだった。


「よぉ、シャット。調子はどうだ? 俺のところは調子はいいぜ」


 熟練炭鉱夫がしたり顔で言った。


「……鉄鉱石二十といったところか」


「はぁ!? マ、マジかよ……鉄鉱石二十ってお前たちは何人で採掘に出てるんだ?」

 

「二人だ」


「なっ!? なんで二人しかいないんだ!? お前、売り飛ばされるぞ……」


 熟練炭鉱夫は信じられないといったような表情を浮かべている。


 鉄鉱石二十とは略語で、鉄鉱石一は台車一台分に鉄鉱石を積んだ量であり、要するに鉄鉱石二十とは台車二十台分の鉄鉱石のことを指すのだ。


 二人で鉄鉱石二十なら多くも少なくもない普通の量だが、シャットを除く他の班の者たちは鉄鋼石二百ぐらいが平均の採掘量だった。


「……俺は俺のやりたいようにやるだけだ」


 シャットは大きなあくびを吐いた。


「おいおい、俺たちの存在意義を分かってるのか? それは鉱石をできるだけ多く採掘することだ。お前はそれでよく作業日報に記入できるな」


 熟練炭鉱夫は呆れ顔だ。


 作業日報には採掘に出た人数や採掘した鉱石の種類や量、選鉱している人数などの数字を記入するだけなのだが、アミラとメイが掘り手の能力を知るために作成したものだ。


「……あのなぁ、現段階の俺たちは戦力外なんだよ」


「なんだと……? ど、どういうことだ?」


 熟練炭鉱夫は不可解そうな顔をした。


「俺たちは五十人の掘り手を任されてから採掘のミーティングに呼ばれなくなっただろ。その前までは呼ばれてたのにだ」


「それは掘る場所を俺たちは指定されているから、ミーティングに出る必要がないからじゃないのか?」


 熟練炭鉱夫は軽く眉を顰めている。


「だから鉄鉱石しか出ないだろ。このポイントには金が大量にあるにもかかわらずだ」


「……た、確かに鉄鉱石しか出てないな……アミラ採掘長は俺たちに鉄を掘らせて自分たちは金を掘って手柄を独り占めするつもりなのか!?」


 熟練炭鉱夫は険しい表情を浮かべている。


「解釈は任せるが、俺は掘り手をしっかり育てろってことだと思っているがな」


「な、なんだと!?」


「それにだ……希少価値の高い鉱石を採掘していると魔物が沸くからな……現段階の俺たちが魔物に遭遇すると逃げ切れればいいが最悪、死人がでるだろう」


「ま、まさか、アミラ採掘長がそこまで考えているとは俺は思わないがな……」


 熟練炭鉱夫は訝しげな目をシャットに向ける。


「だから、さっきもいったろ。解釈は任せると……」


「ふぅ~、疲れたよ……もうフラフラだよ……もう、少しも動きたくないレベルだよ……」


「……それにしても、ダダ副長の採掘の速さは異常だな……ついていくだけでも必死だよ……」


 シャットたちと同じテーブルの対面の席に『強力』を所持する二人の女重戦士が腰掛けて、一人はテーブルに脚を投げ出して椅子に座った。


 なぜかシャットの周りには人が集まってくるのだった。


「おいおい……女が脚を投げ出して座るなよ」


 シャットが決まりの悪い顔を浮かべた。熟練炭鉱夫は苦々しげな表情を浮かべて去っていった。


「なら、あんたが私をもらってくれるのか?」


 『強力』を所持する女重戦士がシャットの目を真っ直ぐに覗き込んだ。


「……お、俺は細い女が好みなんだよ」


 戸惑うような表情がシャットの顔に浮かんだ。


「けっ!! だったら気もないのに構うなよ」


「……ぐっ」


 シャットは言い返すことができずに視線を逸らした。


「ダダ副長ってのはそんなに凄いのか? お前らも『強力』をもってるんだろ」


 ゴツイ男は怪訝な表情を浮かべる。


「こっちは必死だがダダ副長は息すら切れてない、そんな感じだ」


「ほぉ、そりゃすごいな」


 ゴツイ男は感心したような表情を浮かべている。


 すると、スコップ二本を杖代わりにフラフラした足取りの女二人が、『強力』を所持する女重戦士たちの隣に腰掛けた。


「……アミラ採掘長はもっとすごい」


「私ら二人掛かりで掘ってもアミラ採掘長には全く追いつけないんだ……」


「なっ!? お前らが二人掛かりで追いつけないのか!?」


 脚を投げ出して座る女が驚きのあまりに血相を変える。


 この二人も『強力』を所持する女重戦士で、実力的には一番と二番の実力だからだ。


「初めてだよ……スタミナ無視して本気で掘ったのに……」


「……だな、無様にへたり込んでるところにアミラ採掘長に戻って休めと言われたよ……」


 『強力』を所持する女重戦士二人は悔しそうに固く唇を噛みしめている。


「ど、どういうレベルだよ……」


 ゴツイ男は絶句したのだった。


「おかえりなさい、オーナー!!」


「おかえりなさい!!」


 シルルンが拠点に戻ってきてたので辺りがざわつき始める。


 女の雑用たちはシルルンを笑顔で迎えるが、男の掘り手たちは萎縮していた。


 男の掘り手たちはシルルンの凄まじい強さを目の当たりにして、どう接していいのか分からずにいるのだが、女の雑用たちは『瞬間移動』で拠点に移動しており、シルルンの強さを見ておらず、金持ちの坊ちゃんぐらいにしか思っていなかった。 


「シルルン様、おかえりなさいませ」


 メイがシルルンを出迎える。


「うん。丁度良かったよ。ガダンが武器、防具屋とポーション屋と雑貨屋と酒場を出店したんだよ」


「はい」


「それでね、僕ちゃんも宿屋を五軒作ってもらったんだけど、経営をどうしょうかと思ってるんだよ」


「よろしければ私が人の手配をしますがどうでしょうか?」


 シルルンの後ろに控えていたホフマイスターが提案する。


 シルルンは拠点の仕事のほとんどをメイに丸投げしているので、これ以上仕事を増やすのはさすがにダメだと思ってホフマイスターを連れてきたのだ。


 すでにメイとホフマイスターは顔合わせを済ませており、拠点防衛の話し合いも行われていて、ホフマイスターが指揮する六隊の採取隊が拠点を護っているのだ。


「私に任せてもらって問題ありません」


 メイは涼しげな表情を浮かべている。


「えっ!? 大丈夫なの?」


 シルルンは面食らってぽかんとする。


「はい、セーナさんもいますし、雑用の方々の中には宿屋の仕事に携わっていた方もいますので」


「そ、そうなんだ……けど、きつくなったらいつでもいってよね。人を雇うから」


「はい」


 メイは満足げに頷いた。


「よぉ、旦那。店ができたらしいが俺たち奴隷には小遣い程度ももらえないのか?」


 シャットは物怖じせずにシルルンに尋ねた。


 それを目の当たりにした『強力』を所持する女重戦士たちは大きく目を見張った。


 彼女らは運良く優しいお金持ち坊ちゃんの奴隷になれたのに、それを手放すような発言は真似できない行為だと思っていた。


 シャットの元に人が集まるのは、こういう行為をシャットは平然とするからかもしれなかった。


「あはは、そうだね。ガダンもせっかく店を出したのにお客がこなければ潰れちゃうかもしれないからね」


 シルルンは魔法の袋から金を取り出して指で弾いて飛ばし、シャットはそれを片手で受け止める。


「おおっ、金貨(十万円)じゃねぇか!? さすが旦那だぜ、話が分かる」


 シャットは満面の笑みを浮かべる。


 それを見ていた『強力』を所持する女重戦士たちの顔が驚愕に染まる。


 労働奴隷に小遣いをあげるマスターなど聞いたことも見たこともないからだ。


 シルルンは『強力』を所持する女重戦士たちの視線に気づいて、女重戦士たちに向かって手招きした。


 『強力』を所持する女重戦士たちは激しい疲労も忘れて、シルルンの元に駆け寄って跪いた。


「君たちは『強力』もってる掘り手だったよね。君たちにもお小遣いをあげるよ」


 シルルンは女重戦士たちに金貨を渡していく。


「はっ、あ、ありがとうございます!!」


 女重戦士たちは呆けたような表情を晒している。


「うん、確か君たちは十人いたよね……残りの六人にも渡しておいてね」


 シルルンは追加で六枚の金貨を女重戦士に手渡した。


「はっ」


「そういえば、熟練炭鉱夫も十人いたよね」


「旦那、俺が責任を持って預かっとくぜ」


「うん、よろしくね」


 シルルンは魔法の袋から金貨袋を取り出し、金貨九枚をシャットに手渡した。


「あっ、そうだ。メイにもお小遣いをあげるよ。今まで頑張ってくれたからね」


 シルルンは金貨十枚をメイに手渡した。


「よろしいのですか?」


 メイは戸惑うような表情を浮かべている。


 シルルンから預かっている一千万円という金はリザやビビィが魔物の素材を持ってくる度に減っており、更には掘り手の給料にも使っているので残り少ないかった。


 しかも、採掘した鉱石は拠点の中央に置いているが、いつの間にか消えていてシルルンが魔法の袋に入れているのだとメイは理解しているが、鉱石を売った話を聞いていないのでシルルンの所持金をメイは心配しているのだ。


「うん、金を売ったお金が入ったからね。だから、全然大丈夫だよ」


「えっ、金を売ったのですか?」


 メイは面食らったような顔をした。


 彼女は金をどのような形で売ったのかが気になっており、金鉱石のまま売ったと考えて安く買い叩かれているのではないかと心配になった。


「うん、試しに純金にして売ってみたんだよ」


「じゅ、純金に精錬したのですね……」


 メイはほっと安堵の胸をなでおろす。


「いくらで売れたんでしょうか?」


 メイはシルルンにそっと近づいて耳打ちした。


「うん、六千億ぐらいになったよ」


「ろ、六千……」


 メイはガツンと頭に衝撃を受けたような顔をした。


「だから、お金のことは全然、気にしなくていいからね。仲間たちにも一人百万円ずつ渡しておいてね」


 シルルンは魔法の袋から金貨袋を次々に取り出し、テーブルの上に置いていく。


 金貨袋は一袋に金貨百枚が入っているので、一袋一千万円であり、シルルンはテーブルに二十袋ほど置いたので二億円ほどになる。


「余ったお金は拠点の運営に使ってね」


「は、はい」


 メイは嬉しそうに微笑んだ。


 すると、唐突に突風が駆け抜けた。


「ボス!! いてよかったわ!! アイアンゴーレムが沸いたのよ。今、アミラさんがこっちにこないように足止めしてるわ」


 突風の正体は凄まじい速さで移動するリジルだった。


「えっ!? アイアンが沸いたの!? こっちに連れてきてよ」


「分かったわ」


 リジルは風のように消えていく。


 シルルンはアミラたちにアイアンゴーレムが湧いたら倒さずに連れてきてほしいと伝えており、アミラは坑内を掘ったり埋めたりして迷路を作り、アイアン ゴーレムを足止めしていた。


「もうすぐアイアンゴーレムがやってくるから皆は離れててね」


 シルルンはリジルが消えた洞穴のほうに歩いていく。


「アイアンゴーレムか……俺も何度か出くわしてはいるが足が遅いからなんとか逃げ切れるが、足を止めて戦ったら戦闘職の上級職ぐらいの強さはあるそうだ」


 シャットは表情を強張らせた。


「まぁ、大丈夫だろ。ああ見えてオーナーは恐ろしく強いからな」


 ゴツイ男が言い放ち、痩せこけた男も頷いている。


「えっ!? オーナーって強いの!?」


 『強力』を所持する女重戦士たちは驚きの表情を見せる。


「あぁ、おそらくこの拠点の中で一番強いんじゃないか?」


「……」


 これには『強力』を所持する女重戦士たちはもとより、シャットも不審げな表情を浮かべていた。


 しばらくするとリジルが洞穴から飛び出してくる。


「ボス、もうそこまで来ているわ」


 リジルはシルルンの後ろに移動して、洞穴から後ろ向きに歩くアミラが姿を現した。


「こっちだ!! こっちに来い!!」


 アミラが洞穴の中にいるアイアンゴーレムを挑発した後、一気にシルルンの元のまで駆けてくる。


「シルルン様、アイアンゴーレムを連れてきました」


「うん、ご苦労様。下がってていいよ」


「はっ」 


「ペットにするおつもりでしたら、私がアイアンゴーレムを弱らしましょうか?」


 シルルンの後ろに控えていたホフマイスターが進言した。


 ホフマイスターの職業は最上級職の弓神だ。


「ううん、雇うつもりだから何もしなくていいよ」


「……はっ」


 ホフマイスターは返事はしたものの、雇うとはどういうことだと表情を曇らせた。


 やがて、地響きのような足音が響き渡り、洞穴からぬうっとアイアンゴーレムが姿を現して辺りを見渡した後、アミラを視認してアイアンゴーレムは怒り狂ってアミラ目掛けて突撃した。


「へぇ、アイアンゴーレムって大きいんだね。だけど、動きは遅いね」


 アースゴーレムやストーンゴーレムは三メートルほどの大きさだが、このアイアンゴーレムは四メートルを超えていた。


 アイアンゴーレムは真っ直ぐにアミラ目掛けて突き進み、アイアンゴーレムとアミラの間には石の柱があり、アイアンゴーレムは石の柱を避けずに右のパンチで石の柱をぶっ叩き、石の柱を一撃で破壊する。


「うぉおおっ!? なんて破壊力だ!?」


「やべぇだろ!? あのパンチは!?」


「そ、それより、く、崩れるんじゃないのか!?」 


 遠巻きに成り行きを見守る者たちが不安そうに天井を見つめる。


「慌てるな!! 柱が一本壊れたぐらいで崩れはしない!!」


 アミラがそう叫ぶと皆は落ち着きを取り戻したのだった。


 石の柱を破壊して怒り狂って突っ込んでくるアイアンゴーレムを前に、シルルンは歩き出してアイアンゴーレムとの距離をつめる。


 アイアンゴーレムはシルルンを邪魔だと判断し避けずに右のパンチを繰り出すが、シルルンは左手でアイアンゴーレムのパンチを受け止める。


「なっ!? マジかよ!? あのパンチを平然と受けるのかよ……」


 シャットは驚きのあまりに血相を変える。


「なっ、化け物みたいにオーナーは強いだろ?」


 ゴツイ男の言葉に、『強力』を所持する女重戦士はたちは目を剥きながらこくこくと頷いている。


「プルスクリューパ~ンチ!!」


「プニスクリューパンチデシ!!」


 プルとプニのパンチがアイアンゴーレムに突き刺さり、弾けるような甲高い音が鳴り響くが、アイアンゴーレムには全くダメージがなかった。


「倒れないデス!! おかしいデス!!」


「デシデシ!!」


 プルとプニは不満そうな表情を浮かべている。


「う~ん、さすがにおかしいね」

 

 シルルンは左手でアイアンゴーレムを軽く押すと、アイアンゴーレムはバランスを崩して尻餅をついた。


 アイアンゴーレムは放心したような顔でシルルンを見つめている。


 シルルンは『魔物解析』でアイアンゴーレムを視た。


「あれ? アイアンゴーレムじゃないね。メタルゴーレムだよ」


「えっ!? アイアンゴーレムじゃなかったんだ……」


「……どうりで前に出くわした個体よりも大きい訳だ」


 リジルの言葉に、アミラは納得したような顔をした。

 

 シルルンは『魔物契約』でメタルゴーレムにコンタクトを取ってみるが、伝わってくるイメージは真っ赤だった。


「どうやらまだ怒っているようだね……」


 メタルゴーレムは起き上がってシルルンに目掛けて左のパンチを繰り出した。


 だが、シルルンは右手でパンチを受け止めると、メタルゴーレムは苦し紛れに右のを繰り出すがそれもシルルンに受け止められた。


 メタルゴーレムは全力で振りほどこうと両手に力を込めたがビクともしなかった。


 シルルンは『魔物契約』で再びコンタクトを試みた。


 すると、真っ赤なイメージは消えていた。


 シルルンは「鉄の塊をあげるから働かないか?」と伝えてみると、メタルゴーレムは少し迷った素振りを見せたが了承したのだった。


 ちなみに、三十日で鉄の塊二千個の契約だ。


「ふぅ、メタルゴーレムを雇ったから安心していいよ」


「おおっ、すげぇぜ!! あのヤベェゴーレムもあっさり仲間にしちまったぜ」


「やっぱり、オーナーは化け物じみてるな……」


「オ、オーナーって強いんだね……」


 皆がシルルンを賞賛する中、ホフマイスターは考え込むような表情を浮かべて「雇ったとはどういうことなんだろうか……」と思わず、口に出していた。


「ボスは『魔物契約』という能力をもっているのよ。その能力で雇ったのよ」


「なっ!? そんな能力は聞いたこともないな……」


 ホフマイスターは大きく目を見張った。


 その後、シルルンは石で補強した拠点内部の地面をメタルゴーレムに命令して、大量の鉄で更に補強したのだった。




















 シルルンは拠点内部の自身の部屋でごろごろしながらお菓子を食べていた。


 ビビィは防衛の仕事を休みにしたので、タマたちが久しぶりにシルルンの部屋に訪れていた。


 シルルンは魔法の袋から巨木を取り出して地面に置くと、タマたちは嬉しそうに葉っぱをムシャムシャと食べている。


 レッドは獲物を求めて単独で狩りに出ており、採取隊の一隊が拠点前や家畜小屋を守っているので、グレイたちは暇になり、スカーレットたちと交互でメイたちを護っているので、スカーレットやバイオレット、マーニャ、エメラリーはシルルンの部屋でプルとプニと遊んでいた。


 プルとプニは自慢の絵本である『ぶちのめしてやる』をスカーレットたちに読み聞かせていた。


 ブラックは椅子に腰掛けて酒を飲んでいるが、ラーネはガダンに頼み込まれて『瞬間移動』でガダンが集めた食料や資材を拠点やガダンの店に運んでいるので部屋にはいない。


 シルルンはお菓子を食べながら酒を飲んでいるとはっとしたような顔をした。


 リジルたちに鑑定屋で鑑定させたお宝の存在を思い出したのだ。


 シルルンは魔法の袋からお宝が入った袋を取り出した。


 リジルは几帳面に宝石類などが入った袋とアイテムやマジックアイテムが入った袋に分けていた。


「う~ん……どんなのがあるんだろ?」


 シルルンは宝石類などが入った袋を無視し、アイテムやマジックアイテムが入った袋に手を突っ込んで袋を取り出して中身を出した。


 すると、二十センチメートルほどの真っ白な玉が入っていた。


 シルルンは鑑定書を見てみると『癒しの宝玉』と書かれていた。


 『癒しの宝玉』は制限型の魔導具で、効果は体力を五百ほど回復し、日に三回まで使用可能と書かれており、値段は不明だ。


「あはは、いきなりすごいのが出たね。けど、プルたちは回復手段をもってるからブラ隊に持たせるのがいいかもしないね」


 シルルンは癒しの宝玉を魔法の袋にしまって次の袋を取り出して中身を出した。


 すると、透明な素材で作られた手のひらサイズの容器の中に真っ赤な液体が入っていた。


 シルルンは鑑定書を探すが入っておらず、代わりにメモが入っていたのでそれを見てみると『真祖の血液』と書かれており、効果はヴァンパイヤになると書かれていた。


「ひぃいいいぃ!? ヤ、ヤベェ……これ飲むとヴァンパイヤになっちゃうよ」


 値段は不明と書かれてあり、鑑定書の変わりにメモが入っていたのは『真祖の血液』はマジックアイテムではないからだ。


「ていうか、これ売ったら捕まるんじゃね?」


 シルルンは複雑そうな表情を浮かべて『真祖の血液』を魔法の袋に入れて、次の袋を取り出して中身を出した。


 すると、トゲトゲの腕輪だった。


 シルルンは鑑定書に目を通すと『オーガの腕輪』と書かれてあり、効果は『強力』の能力が付加されていると書かれていた。


「えっ!? マジで!? 能力が使えるマジックアイテムもあるんだ!?」


 シルルンは驚いて『オーガの腕輪』を腕にはめてみたが力が上がったような感覚はなかった。


「……プル!! ちょっと来て」


「どうしたんデスかマスター?」


 プルはシルルンを見上げている。


 シルルンは『魔物解析』でプルを視た。


 すると、プルの攻撃力は百二十だった。


「うん、これをつけてみて」


 しかし、プルの『触手』には『オーガの腕輪』はぶかぶかだった。


 シルルンは仕方ないのでプルの頭に『オーガの腕輪』をのせて、再びプルを『魔物解析』で視た。


 すると、攻撃力が百八十に上がっていて能力に『強力』が追加されていた。


「なんデスかこれは?」


 プルは不満そうな顔をしている。


 プルとプニは頭装備を嫌がるのだ。


「うん、それをつけると能力が増えるんだよ。で、それを食べないで体内にしまってみてよ」


「分かったデス!!」


 プルは『オーガの腕輪』を口の中に入れた。


 シルルンは『魔物解析』でプルを視てみると、攻撃力は百八十のままだった。


「へぇ、口の中に入れてても持ってることになるんだね。その『オーガの腕輪』はしばらく預かっててよ」


「分かったデス!!」


 プルは頷いて、ペットたちのほうに移動した。


 シルルンは難しそうな表情を浮かべていた。


 彼は『オーガの腕輪』を誰に持たせるべきか考えたが一つしかないので、誰に渡してもケンカになると思っていた。


 そして、シルルンはアイテムを確認していく。 


 シルルンが確認したアイテム


 癒しの宝玉

 真祖の血液

 オーガの腕輪

 ハイパーポーション HPが五百回復する

 ハイマジックポーション MPが五百回復する

 ハイファテーグポーション スタミナが五百回復する

 ハイキュアポーション 猛毒を浄化できる。

 転移の腕輪 任意の場所に転移する。

 魔笛プラス一 下位の魔物をランダムで召喚し使役できる

 ヒドラの毒粉×二 周辺が猛毒に包まれる

 亡者の首飾りプラス一 下位のアンデットになる

 転移の水晶 片方の水晶に触るともう片方の水晶に転移する

 防御の指輪プラス五

 防御の腕輪プラス十

 護りの指輪(魅了)プラス十



 鑑定したアイテムはまだまだ袋に入っており、シルルンは急にめんどくさくなって確認を中断した。


 シルルンは確認したアイテムの中で気になった『転移の腕輪』を手に取った。


「う~ん、これ便利そうだけど吸収型の上に鑑定書に書いてある内容がややこしいなぁ……」


 シルルンはめんどくさそうな顔をした。


 『転移の腕輪』には三つの小さな宝玉が装着されていて、その宝玉の色に意味があり、吸収型の魔導具だ。


 宝玉の色の種類


 青色 転移可能

 青色と赤色の点滅 転移先は登録済みだが魔力切れ

 白色 転移先未登録だが、魔力は満タン

 黒色 転移先未登録で魔力切れ


 『転移の腕輪』の宝玉の状態は、青色と赤色の点滅が一つと黒色が二つだ。


 操作方法は宝玉を押すと転移先の登録、あるいは転移し、宝玉を外すと転移先の情報が消失する仕組みだ。


「プニ!! ちょっと来て」


「なんデシかマスター!!」


 プニはピョンピョンと跳ねてシルルンの傍にやってきた。


 シルルンは『魔物解析』でプニのMPを視ながらプニの頭に『転移の腕輪』をおいた。


 すると、プニのMPが三千五百から二千まで一気に減り、黒色だった宝玉二つが白色に変化した。


「……ふぅ~、一気にMPが減ってちょっと焦ったけどプニは大丈夫かい?」


「大丈夫デシ!!」


 シルルンはプニの頭を撫でる。


 プニは嬉しそうに『瞑想』発動して、一分ほど動かなくなったがMPを大幅に回復させて動き出した。


 すると、部屋の前から声を掛けられた。


「シルルンいるの?」


「うん、いるよ」


 シルルンがそう答えると、リザとリジルが部屋の中に入ってきた。珍しい組み合わせだ。


「メイの周りに猫ちゃんたちがいないから探してたのよボス」


「ふ~ん、そうなんだ」


 リジルはバイオレットをモフモフしている。


「シルルンは何してたのよ?」


 リザはスカーレットをモフモフしながらシルルンに尋ねた。。


「ん? 僕ちゃんはごろごろしながら『転移の腕輪』を調べてたんだよ」


「なっ!? 『転移の腕輪』って瞬間移動できるってことじゃないの!?」


「まぁ、そうなんだとは思うけど吸収型で僕ちゃんには扱えない上に扱いがややこしいんだよね」


 シルルンは『転移の腕輪』の白色の宝玉を押してみると、青色に変わった。


「たぶん、これでここが転移先に登録されたと思うんだよね」


「やるデス!! やるデス!!」


 プルがいつの間にかシルルンの傍にきていて、シルルンが宝玉を押すのを見ており、プルは『触手』で青い宝玉を押した。


 すると突如、地面に白く輝く文字で書かれた魔法陣が部屋いっぱいに展開する。


「も、もしかして範囲転移するのかよ!?」


 シルルンたちは一瞬で掻き消えたのだった。


















 シルルンたちは目の前に広がる幻想的な光に見とれていた。


 目の前には金色に輝く火の玉のような姿をした生物が無数に浮かんでゆっくりと動いていた。


「き、綺麗ね、こんなの見たことないわ」


 リジルはあまりの美しさに興奮してうっとりしている。


「『魔物解析』で視てみたらホーリーウィスプって出てるよ。ステータス的には弱いけど物理無効だからエレメンタルみたいな存在かもしれないね」


 プルとプニは『浮遊』で浮き上がって楽しそうにホーリーウィスプを追いかけている。


「……ていうか、安全そうだからいいけどここはいったいどこなんだよ」


 シルルンは不可解そうな表情を浮かべている。


「……ここはダンジョン都市アダック……私の生まれ故郷よ」


 リザは真剣な表情で告げたのだった。


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メタルゴーレム レベル1 全長約4メートル

HP 1500~

MP 400~

攻撃力 400

守備力 400

素早さ 25

魔法 無し

能力 HP回復 スタミナ回復 砂鉄化



ホーリーウィスプ レベル1 全長20cm

HP 15~

MP 220

攻撃力 15

守備力 物理無効

素早さ 20

魔法 ヒール キュア ホーリー

能力 HP回復 MP回復 瞑想 超個体

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― 新着の感想 ―
[良い点] >シルルンはそんな事は知らないのだった。 この一文に主人公キャラの全てが表現されてる。 「ひぃいいいい!」や「フフ~ン」や「白々しい口笛」やらで、主人公のイメージがしやすい。 [気にな…
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