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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
鉱山 採掘編

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86 ゼフドたち対奴隷屋


 シルルンたちは元娼婦たちとスライム店員たち、千人の女雑用を連れて『瞬間移動』で掻き消えた。


 彼は全員で一気に『瞬間移動』してもよかったが、混乱が生じるだろうと判断して二回に分けることにしたのだ。


「……ほ、ほんとに移動してる」


「こ、ここはどこなのかしら……」


 シルルンたちは拠点前に出現すると、女たちは驚愕してきょろきょろと辺りを見渡している。


「セーナを呼んできてよ」


 シルルンの言葉に元娼婦たちの一人が頷き、洞穴の中に走っていく。


 しばらくすると、元娼婦がセーナを連れてシルルンの傍まで歩いてきて、セーナは多数の女たちを目の当たりにして目を丸くした。


「ここにいる千人は日に一食という契約で雑用をやってもらうことになったんだよ。とりあえず、順番にお風呂でも入ってもらって軽く食事も食べさせてあげてよ。仕事内容はメイが戻ってきたら話し合って決めてね」


 シルルンはセーナに丸投げした。


「えっ!? お、お風呂があるんだ!!」


「すごく久しぶりだわ!!」


 雑用の女たちは瞳を輝かせて大はしゃぎだ。


「分かりました。では、皆さん私についてきてください」


 セーナはシルルンに軽く一礼した後、雑用の女たちを連れて洞穴の中に入っていって元娼婦たちも後を追いかけた。


 その場には、シルルンとスライム店員たちが残り、シルルンたちは『瞬間移動』で掻き消えた。


 シルルンたちはトーナの街にあるシルルンの家の前に出現し、スライム小屋に入った。


 すると、大量のスライムに囲まれたイネリアが、シルルンに気づいて歩いてきた。


「わぁ、こんなにスライムがいるんだ」


「か、可愛いわね……」


 女店員たちは感嘆の声を上げた。


「とりあえず店員を二人連れてきたよ」


「分かりました。どのような条件で雇われたんですか?」


 イネリアはキラーンとメガネを光らせた。


「うん、パプルが動いたから適性はあると思うんだよ。条件は日当五千円で能力があるならもっとあげてもいいと思ってるから、そのへんはイネリアに任せるよ」


「わかりました」


 シルルンは魔法の袋から金貨袋を取り出して、イネリアに手渡した。


「で、東のお店に広告を貼って宣伝してるんだけど客は来た?」


「はい、数はまだまだ少ないですが来てますよ。お一人ですがすでに常連がいます」


 イネリアはしたり顔で言った。


「えっ!? マジで!? もう常連がいるんだ」


「はい、来られると三時間はいます。ですが、やはりここまでの距離がネックになっているようですね」


 イネリアは苦虫を噛み潰したような顔をした。


「……だろうね。大工に建ててもらってる二軒の家は完成したのかな?」


「えぇ、完成していますよ」


「そうなんだ。その二軒は宿屋と飲食店にするつもりだから、それも急がなくちゃいけないね」


「……シルルン様、採掘のほうはどうなっているのですか?」


「あぁ、イネリアは知らないんだよね。僕ちゃん採掘ポイントを発見して今はそこに拠点を作成してるんだよ」


 シルルンはフフ~ンと胸を張る。


「えっ!? 採掘ポイントを発見したんですか!? ど、どのような規模のポイントなのですか!?」


 イネリアは一瞬面食らったような顔をしたが、すぐに探るような眼差しをシルルンに向けた。


「うん、他のポイントと比べても遜色ないポイントらしいよ。こんなのが取れるぐらいにね」


 シルルンは魔法の袋から巨大な金の塊を取り出して、地面に置いた。


「こ、これは……き、金の塊ですよね……」


 イネリアは金の塊を凝視して息を呑んだ。


「うん、こんなのがガンガン取れるポイントなんだよ」


 シルルンは魔法の袋に金の塊をしまった。


「シルルン様……あなたは本当に凄い人ですね……」


 イネリアはひどく神妙な顔つきでシルルンの目を真っ直ぐ覗き込んだ。


「あはは、まぁ、僕ちゃんは運はいいからねぇ」


「でしたら、しばらくは鉱山にかかりきりになりますね」


「まぁ、そうだけど、今みたいにこっちも平行してやるつもりだよ」


「……分かりました」


 イネリアは満足そうに頷いた。


「うん、じゃあ、後は任せたよ」


 シルルンたちは『瞬間移動』で掻き消えたのだった。





















 シルルンたちは拠点前に出現した。


 シルルンは思念でグレイを呼び、シルルンたちはしばらく待っていると洞穴の中からグレイが出てきた。


 シルルンたちは拠点から東の方角に、一キロメートルほど進んだ場所に移動した。


 シルルンは思念で「家畜小屋と同じ建物を作ってくれ」とグレイに頼んだ。


 グレイは頷いて、プルとプニが口から吐き出した巨大な石を材料に、家畜小屋を作成していく。


 シルルンは家畜小屋が十軒建った時点で、グレイに作業の中止を指示した。


「あはは、これで掘り手の人たちや雑用の人たちがここで寝ることができるよ」


 シルルンはグレイに鉄の塊を手渡し、プルとプニの頭を撫でた。


 プルたちは嬉しそうだ。


 この家は二階建てなので、一軒で寝るだけなら五千人が収容できるのだ。


「あとは雑用さんたちの食費が月に千五百万ぐらい掛かるのと、その食料をどこで仕入れるかが問題だね」


 (まぁ、ガダンに聞いてみるのが早いかもしれないね)


 シルルンは複雑そうな顔をした。


 彼は一日の食費を五百円で計算しており、三十日で千五百万ぐらいになると考えていた。


 そして、シルルンたちは『瞬間移動』で掻き消えたのだった。


















 シルルンたちがいなくなった難民キャンプでは、ゼフドとガダンが対峙していた。


「お前はなぜシルルン様の配下になったんだ?」


 ゼフドは訝しさを禁じ得なかった。


「……強大だからだ」


 ガダンは至極当然といった感じで答えた。


「ほう、だが俺にはお前が信じられんがな……」


 ゼフドは無愛想に言い捨てた。


「だろうな……故に儂は奴隷証書を持参して王の奴隷にしてもらうつもりだ」


「――っ!?」


 その言葉に、ゼフドは面食らったような顔をした。


 だが、そこに五十人ほどの集団が現れた。


「おい、ガダン!! 助けにきてやったぞ」


 五十人ほどの集団の先頭に立っている眼光が鋭いデブの男がしたり顔で言った。


「……トンチャックか、だが、いらぬ世話だな」


 ガダンが突き放すような口調で言い捨てた。


「……あいつらはお前の仲間なのか?」 


 ゼフドは不審げな眼差しをガダンに向けた。


「一言で言うならば同業者というやつだ」


「何ぃ? どういうことだ!! 俺が聞いた話ではお前は拠点に攻め込まれて攫われたのではないのか?」


 トンチャックは怪訝な表情を浮かべている。


「……そうだとしてもすでに話はついた。さっきも言ったがいらぬ世話だな」


 ガダンは鼻で笑い飛ばした。


「な、なんだと……」


 トンチャックは不愉快そうな表情を浮かべていたが、手下がトンチャックの耳元で何かを囁くとトンチャックの顔色が変わった。


「おい、ガダン!! お前がガキの配下に落ちたというのは本当か?」


 トンチャックは探るような眼差しをガダンに向ける。


「……お前には関係のない話だ。ついでに言っておくが儂は奴隷屋を廃業するつもりだ」


「ぐぬぬ……どうやらガキの配下に落ちたという話は本当らしいな。だが、そうはさせん」


「どういうことだ?」


 ガダンは不可解そうな顔をした。


「しれたことよ。そのガキを潰す」


 トンチャックは嘲うようにニヤニヤした。


「なんだと!? お前は関係ないのだから引っ込んでろ!!」


 ガダンは怒りの形相で声を張り上げた。


「俺が関係ないというのなら、俺がどう動こうとお前も関係ないということだ!! そもそも、ガキを潰さんと奴隷屋としての示しがつかんからな」


 トンチャックは恐ろしく真剣な面持ちで言った。


「……ぐっ」


 ガダンは戸惑うような表情を浮かべている。


「ガダンよ、俺は優しいからガキを潰しても、お前の財産の半分程度は残しておいてやるよ」


 トンチャックは利を掴むときのような狡猾な相を現した。


「ちっ……」


 (今から儂の私兵を呼んでも間に合わん……)


 ガダンは苦悩の表情を露にした。


「ガキを捜せ!!」


 トンチャックは手下に命令し、二十人ほどの手下たちが即座に動き出した。


「……めんどくさい展開になったな」


 ゼフドの顔には言葉とは裏腹に微笑が浮かんでいた。


「シルルン様が戻られる前に片付けないとね」


 アキは嬉しそうにゼフドの横に並んだ。


「ウインド!!」


 ゼフドはウインドの魔法を唱えて、風の刃がトンチャックに襲い掛かる。


「マジックシールド!!」


 全身鎧で身を包んでいる手下がトンチャックの前に庇うように立ち、マジックシールドの魔法を唱えて、透明の盾が出現して風の刃を防いだ。


「なっ!?」


 (マジックシールドだと? まさか奴の職業は重装魔戦士……)


 ゼフドの顔が驚愕に染まる。


 戦闘職でマジックシールドの魔法を使える職業は、最上級職の重装魔戦士だけだ。


 重装魔戦士は『鉄壁』を所持しており、その守備力は極めて高く、弱点の一つである魔法攻撃をマジックシールドの魔法で克服していた。


「残念だったな」


 トンチャックは小馬鹿にした様子でニタニタと笑った。


「ちっ」


 ゼフドとアキは凄まじい速さで重装魔戦士に突撃して剣の連撃を放ったが、重装魔戦士にダメージは皆無だった。


「がはは、潰せ!!」


 トンチャックは手下に命令し、十五人ほどの手下たちがゼフドたちに襲い掛かった。


「ポイズン!!」


「アース!!」


 ゼフドとアキは後退しながらポイズンとアースの魔法を唱え、緑色の風が手下の体を突き抜けて、手下は毒に体を侵されて地面をのたうち回り、無数の岩や石が手下たちに直撃して、二人の手下がズタボロになって倒れた。


「ガダン様!!」


 男騎士と女剣豪は庇うようにガダンの前に立って警戒を強める。


「お前たちはあいつらの加勢に行ってやれ」


「し、しかし、それではガダン様が……」


 男騎士は困惑した表情を浮かべている。


「トンチャックが儂を殺すつもりなら最初からやっておるわ」


「……はっ」


 男騎士は得心がいかないような表情を浮かべながらも、男騎士たちはゼフドたちの元に駆け出した。


 ゼフドたちはトンチャックの手下たちに囲まれているが、ゼフドは透明の盾を前面に展開しており、二人は背中合わせになって互いの背後を守りながら、突っ込んでくるトンチャックの手下たちを迎撃して数を減らしていく。


 そこに男騎士たちが囲いを突破して、ゼフドたちに合流した。


「ガダン様の命令で助太刀にきた。シールド!!」


 男騎士はそう言うと同時にシールドの魔法を唱えて、自身の前面に透明の盾を展開した。


「……余計な真似を」


 (主人の命令で動く奴隷に何を言っても無駄か……)


 ゼフドは苛立たしそうな顔をした。


 トンチャックの手下たちは半数ほどが下級職で、ゼフドたちの敵ではなかったが、トンチャックはさらに十人の増援を出した。


 だが、ゼフドたちはトンチャックの想定よりも遥かに強く、手下たちは次々と倒されていき、トンチャックは捜索に出していた二十人を呼び戻し、五人のヒーラーと共に送り出して総力戦になった。


 ゼフドと男騎士は常に透明の盾を展開して遠距離攻撃を防いでおり、ゼフドたちは突撃してくる手下たちを迎え討って手下たちを次々に倒していく。


 しかし、ヒーラーたちは倒れた手下たちに駆け寄り、回復魔法を唱えて手下たちの傷を回復していく。


 ゼフドとアキは攻撃魔法を唱えて手下たちを攻撃していたが攻撃魔法をヒーラーたちに集中し、ヒーラーたちは倒された。


 やがて、トンチャクの傍には手下が三人しかいなくなった。


「ぐぬぬ……まさかこれほどとは……」


 トンチャックは深刻な表情を浮かべている。


「……おいおい、マジかよ……相手は五十人はいたんだぞ」


 ゴツイ男と痩せこけた男は信じられないといったような表情を浮かべている。


 だが、ゼフドたちは全身傷だらけで満身創痍だった。


「トンチャック……ここらが潮時ではないか? 王がお戻りになられるとお前は全てを失うぞ」


 ガダンは真剣な硬い表情で言った。


「……お前がここで仲裁に入るということはガキは弱いとみた」


 トンチャックは勝ち誇ったような顔をした。


「馬鹿なことを……最早何をいっても無駄なようだな……」


 ガダンは苦笑いを浮かべて小さく頭を振った。


「ガダンよ……切り札は最後まで隠しておくものだ」


 トンチャックの表情は大博打を打つときの商人そのもので、彼の後ろに控えていた男が凄まじい速さでゼフドたちに突撃し、男はアキに剣を振り下ろしが、アキは左に避けて剣を躱した。


 しかし、男はなぎ払うように剣を振るい、アキは斜め後方に跳躍してゼフドが展開している透明の盾の後ろに避難して剣を回避したが、男が放ったなぎ払いの一撃は風の刃も同時に飛ばしており、風の刃は透明の盾を貫いてアキを切り裂いた。


 アキは体を斜めに斬り裂かれて地面に突っ伏し、地面が血の海に染まった。


「ア、アキっ!?」


 ゼフドは大きく目を見張った。


「ざ、斬撃衝……」


 女剣豪は驚きのあまりに血相を変える。


「わはは、先生、謝礼は弾みますのでよろしくお願いします」


 トンチャックは満足げな笑みを浮かべている。


 男の職業は大剣豪で、トンチャックに雇われた用心棒だ。


 セフドたちは一斉に突撃して大剣豪に斬り掛かるが、ゼフドたちの攻撃は空を切り、逆に女剣豪の胸に大剣豪の剣が突き刺さり、女剣豪は痛みに顔を歪めて地面に突っ伏した。


「……は、速い!?」


 男騎士は顔を強張らせて自身の前に透明の盾を展開して剣を構えた。


 大剣豪は男騎士の正面から剣を突き出し、透明の盾ごと男騎士の胸を貫いた。


「し、信じられん……」

 

 男騎士は目を大きく見開き、口から吐血して崩れ落ちた。


「残るは貴様だけだ。覚悟はできたか?」


 大剣豪は鋭利で容赦のない視線をゼフドに向ける。


「……ぐっ」


 ゼフドは額から汗が噴き出し戦慄を覚えた。


「……な、なんなんだあいつは……動きが全く見えやしねぇ」


 ゴツイ男は全身が凍りつくような衝撃をうけた。


 大剣豪は凄まじい速さで突撃して一瞬でゼフドに肉薄し、上段から剣を振り下ろした。


 ゼフドは大剣で剣を受けたが、大剣豪は剣を真横に振るった。


「――っ!?」


 (速すぎる!! 防御が間に合わん!!


 ゼフドは防御を捨てて、相打ち覚悟で大剣を上段から振り下ろす。


 だが、剣はゼフドに直撃せず、大剣豪は体を逸らして大剣を躱した。


「むふぅ、あんた強そうね」


 ヴァルラは鋼の爪で大剣豪の剣を受け止めていた。


「ちぃ……まだ仲間がいたのか」


 大剣豪は後方に跳躍して距離を取ろうとするが、ヴァルラは離れずに追いかけて爪の連撃を放った。


 ヴァルラと大剣豪は凄まじい速さで動きながら、互いに連撃を放って激しい戦いを繰り広げている。


 シルルンとラーネを除き、一番素早さが高いのはヴァルラで、その数値は五百を超えていた。


 ヴァルラと大剣豪は互いに当たらない攻防が続くが、ヴァルラは『発勁』を込めた攻撃を爪の連撃の中に混ぜていた。


 それを知る由もない大剣豪は爪を剣で受けて、後方に大きく吹っ飛んだ。


 ヴァルラと大剣豪は互いに距離を取って対峙する。


「……なかなかやるではないか獣人」


 大剣豪の発する声に殺気が帯びた。


「むふぅ、あんたもね……キュア」


 ヴァルラはキュアの魔法を唱え、自身の体から完全に酒を消し去り、その瞳は肉食獣特有の縦型に変わった。


「あの速度に対応できるのか……」


 (ヴァルラだけであの男を押さえ込めるなら、俺のやることはひとつだ)


 ゼフドは重装魔戦士に目掛けて突撃した。


 トンチャックの傍には重装魔戦士と司祭だけで、ゼフドは重装魔戦士に大剣の連撃を放った。


 重装魔戦士は背後にいるトンチャックを護りながら、鋼の斧でゼフドを攻撃して牽制する。


「ウインド!!」


 ゼフドはウインドの魔法を唱え、風の刃が放たれるのと同時にゼフドも凄まじい速さで突撃した。


「ぐっ、マジックシールド」


 重装魔戦士はマジックシールドの魔法を唱え、自身の前に透明の盾が出現して風の刃を防いだ。


 だが、ゼフドはその隙に重装魔戦士の背後に回り込んでおり、大剣をトンチャックの脳天に目掛けて振り下ろした。


「うわぁあああああぁぁ!?」


 トンチャックは恐怖に顔を歪めて絶叫し、目の中に絶望の色がうつろう。


 しかし、ゼフドが放った一撃はトンチャックの脳天から外れて肩口をかすめただけで、逆にゼフドの左腕が風の刃に切り裂かれて宙に舞った。


 大剣豪がヴァルラと戦いながら、ゼフドに『斬撃衝』を放ったからだ。


 だが、『斬撃衝』を放った大剣豪の隙は大きかった。


 ヴァルラは凄まじい速さで大剣豪に突っ込んで一瞬で肉薄した。


 大剣豪は剣をヴァルラに振るったが、ヴァルラは剣を避けながらカウンターで『発勁』を込めた爪の一撃を大剣豪の顔面に叩き込んだ。


 しかし、斬り裂かれたのはヴァルラだった。


 ヴァルラは膝からストンと崩れ落ちて、面食らったような表情で斬り裂かれた腹から流れる血を見つめながら、地面に突っ伏した。


 彼女が腹を斬り裂かれたのは、大剣豪が所持する『並列斬り』のせいだった。


 『並列斬り』は武器使用時という条件があるが、発動すると自身が放った攻撃と同時に任意箇所を攻撃できるのだ。


 無論、任意の個所といっても、その場から攻撃できる範囲に限られる。


 つまり、ヴァルラは大剣豪自身が放った剣一撃は躱していたが、同時に放たれた刃に腹を斬られたのだ。


 大剣豪は凄まじい速さでゼフドに目掛けて突き進みながら『斬撃衝』を放ち、風の刃がゼフドに襲い掛かる。


 ゼフドは痛みに顔を顰めながら大剣をトンチャックに目掛けて振るったが、重装魔戦士の斧に大剣は受け止められた。


 そこに、風の刃がゼフドに迫り、ゼフドは後方に跳躍して風の刃を避けた。


「……ちっ、小賢しいことをしてくれる……おかげで肝が冷えたわ。だが、今度こそ貴様だけだ」


 大剣豪は忌々しそうに、刺々しい口調で言った。


「ぐっ……ヴァルラまで殺られたのか」


 ゼフド憤怒の形相で大剣豪に目掛けて突撃し、大剣を振り下ろした。


「……遅い!」


 大剣豪は凄まじい速さで剣の連撃を放ち、ゼフドは右腕と胸と腹を斬り裂かれて右腕は宙に飛び、地面に倒れこんだ。


 空からゼフドの腕と共に大剣が降ってきて大剣豪は大剣を受け止めて、地面に突っ伏したゼフドの背中に鋼の大剣を突き刺した。


「がぁあああああああああぁぁぁ!!」


 ゼフドの絶叫が周辺に響き渡り、ゼフドたちは全滅したのだった。
















 シルルンたちは難民キャンプから少し離れた場所に出現した。


 すると、すぐにメイがシルルンに向かって走ってきた。


「シルルン様、大変なことが起こりました。ゼフドたちが奴隷商人が率いる五十人ほどの手下と戦い全滅しました」


 メイは悲痛な表情で訴えた。


「えっ!? ぜ、全滅ってマジで!?」


 シルルンは放心状態に陥った。


「……は、はい」


 メイは深刻な表情を浮かべている。


「と、とにかくゼフドたちのところにいくよ」


 シルルンは我に返って、真剣な硬い表情で言った。


「……行ってどうするんだよ? 確かにあんたが言ったようにあんたの仲間は強かった。だが、行ってみたところでそこにいるのは化け物なんだぜ」


 ゴツイ男は不服そうな顔をした。


「だとしても、僕ちゃんはリーダーだから行かなくちゃならないんだよ」


 シルルンは思いつめたような表情で歩きだすと、難民たちは無言で道を譲って左右に分かれた。


 シルルンたちが通りに出ると、そこにはガダンが立っていた。


「王よ!! 申し訳ありません……儂には私兵が二人しかおらず、奴らの暴挙を止められませんでした」


 ガダンはシルルンの前で跪いて、張り詰めた表情で報告した。


「……まさかそのみすぼらしいガキの配下にお前は落ちたのか!?」


 トンチャックは驚きのあまりに血相を変える。


 シルルンは辺りを見渡しながら『魔物探知』を発動した。


 すると、アキが地面に突っ伏しており、その近くに男騎士と女剣豪も倒れていて、『魔物探知』により、ヴァルラが倒れているのが視えた。


 シルルンは思念で「アキと男騎士たちとヴァルラを回復して」とプル、プニ、ブラックに指示を出した。


 プルたちは頷いて、プルとプニは『浮遊』でふわふわとアキと男騎士たちに向かって飛んでいき、ブラックはヴァルラに向かって疾走した。


 シルルンは視線を転じて、ゼフドを捜していた。


 すると、ゼフドは両腕を斬り落とされ、大剣が背中に突き刺さった状態で地面に倒れていた。


「――っ!?」


 それを目の当たりにしたシルルンは、呆然として身じろぎもしない。


 シルルンの肩にのっているラーネは顔を顰めており、『瞬間移動』で掻き消えてゼフドの傍に出現した。


 シルルンは我に返って、数瞬遅れて体がわなわなと震え出した。


「何してくれてんだよこのボケがぁ!!」


 シルルンは憤怒の表情で叫んだ。


「お前のようなみすぼらしいガキが一人でどうするつもりだ?」


 トンチャックは人を馬鹿にしたような薄笑いを浮かべる。


「……状況が分かっておらんようだな」


 大剣豪は凄まじい速さで突撃し、一瞬でシルルンに肉薄して剣を振るった。


 だが、シルルンは魔法の袋からミスリルソードを取り出し、大剣豪の剣をミスリルソードで受け止めた。


「なんだと!?」


 大剣豪は大きく目を見張り、すぐに後方に跳躍して距離をとった。


「……なっ!? そ、そんな馬鹿なっ!?」


 大剣豪は面食らったような顔した。


 シルルンに腹を斬られていたからだ。

 

 大剣豪はさらに後退して、トンチャックの手下の司祭に腹の傷を回復させる。


「せ、先生……」


 (お、俺は読み違えたのか……)


 トンチャックは沈痛な面持ちで、ガダンに視線を転じた。


「……傷を回復するまで私が時間を稼ぐ」


 重装魔戦士はシルルンに目掛けて突撃した。


「雑魚はすっこんでろ!!」


 シルルンは魔法の袋から薄い青色のミスリルの弓を取り出し、重装魔戦士に狙いを定めて風の刃を放った。


 風の刃は重装魔戦士の腹を易々と貫通し、重装魔戦士は口から血を吐き、腹から血が噴出して激しく地面に突っ伏した。


「ば、馬鹿なっ!?」


 トンチャックは雷に打たれたように顔色を変える。


「……ちぃ」


 大剣豪は腹の傷を回復して、再びシルルンに向かって凄まじい速さで突進する。


 シルルンは魔法の袋に薄い青色のミスリルの弓をしまって、ミスリルソードを手に取った。


 大剣豪はシルルンに肉薄して『並列斬り』を放った。


 その刹那、同時に放たれた二筋の線を、シルルンは剣で受け止めた。


「……なっ!?」


 (ありえん!!)


 大剣豪はガツンと頭に衝撃を受けたような顔をした。


 シルルンは剣を横一線に払い、大剣豪は上体を後ろにそらして回避し、決死の表情で『並列斬り』を連続で放った。


 しかし、無数の剣筋はシルルンに全て剣で受け止められ、シルルンは『並列斬り』を放ち、大剣豪は左腕と腹を斬り裂かれながらも後方に大きく跳躍した。


「ば、化け物め……」


 大剣豪は真っ青な顔をして、思わず額に汗がにじみ出る。


 激昂しているシルルンは無意識に『反逆』を発動しており、『並列斬り』を奪ったのだ。


「シルルン様」


 シルルンは声が聞こえた方に振り向くと、そこにはゼフドが立っていた。


「ゼ、ゼフド!? い、生きてたの!?」


 シルルンは呆けたような顔をした。


「あの程度の傷はただのかすり傷です」


 ゼフドは不敵に笑った。


「……なら、自分で倒すといいよ」


 シルルンは『反逆』をゼフドに発動した。


「……こ、この力は!?」


 ゼフドは不可解そうな顔した。


「一時的にだけど強さが二倍になる能力を使ったんだよ」


 シルルンは自信に満ちた表情で言った。


「そ、そんな能力が……さすがはシルルン様だ……」


 (この力があればあの男に勝てる!!)


 ゼフドは喜びに打ち震えた。


「ウインド!!」


 ゼフドはウインドの魔法を唱えて、風の刃が重装魔戦士と司祭もろとも切り裂いて、司祭と重装魔戦士は体から血飛沫を上げて即死した。


 重装魔戦士が一発の魔法で即死したのは、『反逆』の効果でウインドの魔法の威力も二倍になっているからだ。


 ゼフドは凄まじい速さで大剣豪に突っ込み、大剣豪は距離を取ろうと後退した。


 だが、瞬く間にゼフドに追いつかれた。


「な、なぜ、貴様が俺より速い!?」


 大剣豪は信じられないといったような表情を浮かべている。


「お前に説明する義理はない」


 ゼフドは大剣の連撃を放ち、大剣豪は必死の形相で防御に徹したが、防戦虚しくゼフドに体中を斬り裂かれ、最後に首を刎ねられた。


「後はお前だけだな」 


 ゼフドが切るような鋭い視線をトンチャックに向ける。


「た、頼む!! い、命だけは助けてくれ!!」


 トンチャックは腰を抜かして地面に尻餅をついて、真っ青な顔でガタガタと震えている。


「シルルン様、こう言っておりますが、こいつの処遇はどういたしますか?」


 ゼフドは探るような眼差しをシルルンに向けた。


「……う~ん、アキもヴァルラも生きてるから、ゼフドの判断に任せるよ」


「はっ」


 ゼフドは殺気に満ちた目でトンチャックを睨んだ。


「な、なっ!? ちょ、ちょっと待ってくれ!? そ、そいつに判断されたら殺されるだけだろ!?」


 トンチャックは激しく狼狽し、四つんばいで逃げ出した。


 だが、ゼフドは迷うことなく大剣をトンチャックの脳天に振り下ろし、トンチャックは体を縦に真っ二つに斬り裂かれて絶命したのだった。


 トンチャックが死んだことにより、多数の奴隷が解放されたことは言うまでもない。

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重装魔戦士 レベル1

HP 1500~

MP 150~

攻撃力 700+武器

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