82 いろいろな買い物
シルルンたちはラーネの『瞬間移動』で鉱山仙人がいた場所に出現し、そこからルビコの街を目指して疾走していた。
彼らの目的は、ラーネにルビコの街の北門と西門の場所を覚えさせることだ。
シルルンたちはルビコの街の北門に到着し、西門に向かって疾走する。
ルビコの街の北門から外に出れば、十万人を軽く超える難民が生活している。
彼らは北の隣国であるサンポル王国や北西のマジクリーン王国から流れてきた者たちだ。
サンポル王国は悪政により人の流出が止まらず、マジクリーン王国はポラリノール王国が滅んだことにより、危機感から逃げ出す者が増えていた。
シルルンたちは西門に到着し、ラーネの『瞬間移動』で姿が掻き消えた。
シルルンの家の前に出現したシルルンたちは、店がある東に向かって疾走し、武器・防具屋に到着した。
トーナの街は変わった作りになっており、第一区画から第三区画に分かれていた。
シルルンの家から一番近い区画は第二区画で、シルルンたちが訪れた武器・防具屋は、第二区画で一番大きい店だ。
シルルンたちは店の中に入り、防具が置かれている区画に移動した。
「いらっしゃいませ。どのようなものをお探しでしょうか?」
女店員はにっこりと微笑んだ。
「ラーネは何がほしい?」
「フフッ……私は皮がいいわ」
「皮でしたら、こちらの皮の鎧か、あるいは革の鎧はいかがでしょうか?」
「その皮の鎧は貧弱そうだね。革の鎧のほうがまだマシに見えるね」
シルルンは不服そうな表情を浮かべている。
「はい。もちろんです。皮の鎧は皮をそのまま使った鎧ですが、こちらの革の鎧は職人が皮を加工していますので強度は別物です」
「ていうか、もっと良い革の鎧はないの?」
シルルンは不満そうな顔をした。
「これ以上の革となりますと、レッサー ラットの皮を使ったラット革の鎧になります。お値段はぐっと上がって十万円になります」
「えっ!? レッサー ラット!? レッサー ラットなんか弱すぎるからもっと強い魔物の革の鎧はないの?」
シルルンは探るような眼差しを女店員に向ける。
彼はそう言うが、レッサー ラットは村人が数十人掛かりで挑んでも、倒せる確率は低い強力な魔物なのだ。
「もちろんございます。こちらのアリゲーター革の鎧はいかがでしょうか? あとはスネーク革の鎧があります。どちらの皮も通常種のものを使用しております」
「……じゃあ、こっちにするわ」
ラーネは少し迷ったような素振りをみせたが、アリゲーター革の鎧に決めた。
「ありがとうございます。色は黒、白、茶とありますが何色にいたしますか?」
「フフッ……白がいいわ」
「じゃあ、それと同じブーツと中に着る服も五セット買うよ」
「ありがとうございます」
女店員はラーネを連れて試着部屋に移動し、ラーネは試着部屋に入った。
シルルンは魔法の袋から金貨十枚を取り出して、女店員に手渡した。
しばらくするとラーネは試着部屋から出てきて、シルルンの前で歩みを止めた。
「どうかしら」
ラーネは嬉しそうにくるっと一回転した。
「とても、お似合いだと思います」
「うん、ラーネは白が似合うよ」
シルルンがにんまりと笑うと、ラーネはこぼれるような笑みを浮かべた。
「次は武器だね」
シルルンたちは武器が置かれている区画に移動する。
すると、透明のケースの前に人だかりができており、シルルンたちは透明のケースの前に移動した。
客たちは透明のケースの中に飾られた武具や魔導具を羨望の眼差しで見つめており、透明のケースの周りには屈強な男たちが武器を携え静かに睨みをきかしている。
シルルンは視線を氷結の剣に向けた。
「――っ!? 十億って滅茶苦茶高けぇ!?」
シルルンの顔が驚愕に染まる。
氷結の剣の横には鑑定書も置かれていて、シルルンは鑑定書に目を通した。
すると、素材は鋼の吸収型で氷属性。持つ者の魔力を消費して氷攻撃と鑑定書には書かれていた。
「一番安い吸収型で十億か……」
シルルンは複雑そうな顔をした。
吸収型が一番安い理由は、魔力がないと使えないからだ。
シルルンは隣の透明のケースに視線を向けた。
そこに飾られていたのは紅蓮の剣だった。
「う~ん……これも吸収型か……効果は氷結の剣の炎版だね」
シルルンは視線を鑑定書に向けて、難しそうな顔をした。
「フフッ……マスター、私はこれが欲しいわ」
ラーネは瞳を輝かせた。
「あはは、さすがラーネ」
(ラーネはブリザーの魔法を使えるから紅蓮の剣のほうが攻撃手段が増える……それに上位種以上の魔物は軽減系の能力を持ってるから、魔導具である紅蓮の剣で攻撃するのが手っ取り早いからね)
シルルンは感心したような顔をした。
「でも、十億円は大金よ。どうやって稼ごうかしら」
(魔物を何匹倒したら十億円になるのかしら……)
ラーネは考え込むような顔をした。
「まぁ、そうだけど今買うよ。逃したくないからね」
その言葉に、ラーネは大きく目を見張った。
シルルンは店員の傍に移動した。
「紅蓮の剣を買いたいんだけど」
「し、失礼ですがこの紅蓮の剣は十億円になります……現金はお持ちなのでしょうか?」
店員はシルルンを上から下まで見て、困惑した表情を浮かべている。
彼が着目したのはシルルンの服装と持ち物だった。
十億円は金貨で換算すると一万枚だが、シルルンは手ぶらだからだ。
「何かお困りでしょうか?」
別の店員がシルルンに尋ねた。
「うん、紅蓮の剣を買いたいんだよね」
「なるほど……おや? あなたはダブルスライム殿ではありませんか!?」
店員は不審げな表情を浮かべていたが、一変して驚いたような顔をした。
「お、おい、あれがダブルスライムだってよ」
「マジかよ!?」
「ガキにしか見えんぞ……」
客たちが騒ぎ出して、大きなざわめきが生じた。
「うん、そう呼ばれることもあるね。金貨はかさばるからプラチナ金貨でいいかな?」
シルルンは魔法の袋からプラチナ金貨を取り出し、店員に手渡した。
「本物ですね……これをどこで入手されたのでしょうか?」
店員は『アイテム鑑定』でプラチナ金貨を視て、シルルンに尋ねた
「うん、シャダル王に大穴攻略の褒美としてもらったんだよ」
「なんと、シャダル王から……」
店員は納得したような顔をした。
彼が自分からダブルスライムと言っておいて、いまさら納得したのはシルルンの偽者が出没しているからだ。
シルルンの偽者は、レッサー アメーバーの死体を饅頭のように加工して、プルとプニのように見せかけており、シルルンの服装も真似し易いことが原因の一端になっていた。
実際、この店にもシルルンの偽者が何度も出没しており、店員たちは警戒していたのだ。
「で、プラチナ金貨でいいの?」
「も、もちろんです」
店員は満面の笑みを浮かべる。
シルルンは魔法の袋からプラチナ金貨を九十九枚取り出して、店員に手渡した。
「確かに十億円を確認いたしました。それでは紅蓮の剣をお受け取りください」
店員は紅蓮の剣をシルルンに手渡そうとした。
「いや、ラーネに渡して。僕ちゃんは鑑定書だけもらうよ」
「えっ!?」
店員は信じられないといったような表情を浮かべており、ラーネは紅蓮の剣を店員から受け取って鞘から剣を抜き放った。
紅蓮の剣はラーネから魔力を吸収し、剣身が真紅に光輝いた。
「おおっ!!」
「な、なんて美しい輝きなんだ!!」
それを目の当たりにした客たちは感嘆の声を上げた。
「フフッ……いい色ね」
ラーネは紅蓮の剣を鞘に収めて、満足そうな笑みを浮かべた。
シルルンは他の魔導具を物色し始めた。
彼が興味があるのは、装飾品の魔導具だ。
力の指輪、守備の指輪、速さの指輪、体力の指輪、魔力の指輪はステータスの値が上昇するので人気がある。
このような装飾系装飾品にはプラス一のような表記があり、プラス一ならステータスの値が一パーセント上がるという意味だ。
シルルンは回避の指輪、命中の指輪の鑑定書を見たが、プラス一だったので見送り、護りの指輪もプラス一だった。
護り系の魔導具は、毒、睡眠、麻痺などの状態異常に対する耐性が上がり、火の腕輪などの属性に対する耐性が上がるものある。
シルルンは力の腕輪プラス十、速さの指輪プラス十、魔力の首飾りプラス十を六億円で購入した。
彼は速さの指輪プラス十を指にはめて、魔力の首飾りプラス十をラーネに手渡し、力の腕輪プラス十は魔法の袋にしまった。
シルルンはミスリル系の武器、防具が置かれている区画に移動した。
彼は仲間の装備を一新させるため、ミスリルの武具を買いまくり、三十七億円を支払った。
シルルンは店員に奴隷屋の場所を尋ねて、シルルンたちは奴隷屋に移動したのだった。
シルルンたちはすぐに奴隷屋に到着し、長い階段を見上げている。
「これ百段以上あるんじゃね? こんな作りじゃ客は嫌がるだろ……」
シルルンはめんどくさそうな表情を浮かべている。
シルルンたちは階段を上っていき、頂上に到着すると見上げるような高さの建物がそびえ立ち、入り口の前には二人の門番が立っていた。
「おい、小僧!! ここはお前みたいなのが来るところじゃねぇ!! とっとと失せろ!!」
左の門番は苛立たしそうに声を張り上げた。
「えっ!? ここってトーナの街で一番大きい奴隷屋さんでしょ?」
シルルンは戸惑うような表情を浮かべている。
「分かってんなら帰りやがれ!!」
左の門番は怒りの形相で叫んだ。
「でも、僕ちゃん奴隷を買いにきたんだよ?」
シルルンは困惑した表情を浮かべていたが、門番はズンズンと近づいてきてシルルンの胸ぐらを掴み上げた。
「あぁん!? お前みたいなガキが買えるわけないだろがぁ!!」
左の門番は眼に殺気を孕んだ視線で睨みつけた。
「いや、お金はもってるよ」
シルルンは左の門番に掴まれた胸ぐらの手を、強引に外して平然と言った。
「なっ!?」
左の門番は大きく目を見張った。
「プルパ~ンチ!!」
プルは『触手』の先端を拳に変えて、大振りのフックのように放って拳が左の門番の横面に直撃した。
「ほげぇ!?」
左の門番は回転しながら吹っ飛んだ。
「ひぃいいいぃ!? 死んでないよね!?」
シルルンは倒れた左の男門に駆け寄り、心臓に耳を当てた。
すると、心臓が鼓動する音が確認できた。
「ふぅ、どうやら死んでないようだね」
シルルンは安堵したような顔をした。
「おいっ、てめぇ!! 何やったか分かってんだろうなぁ!?」
右の門番が指をバキバキと鳴らしながら、シルルンに向かって歩いてくる。
「プルパ~ンチ!!」
プルは『触手』の先端を拳に変え、拳を大振りのフックのように放った。
「そんな大振り当たるかよ!!」
右の門番は上体を逸らして拳を避けて、一気に距離を詰めた。
「プルパンチデス!!」
プルは体から拳までの触手部分をミリミリと圧縮して拳を放ち、拳が右の門番の顔面に直撃した
「ほげぇ!?」
右の門番は派手に吹っ飛んで壁に叩きつけられた。
「……死んだんじゃね?」
シルルンは恐怖の形相を浮かべていたが、右の門番に駆け寄って心臓に耳を当てた。
すると、心臓が鼓動する音が確認できた。
「ふぅ、今度も死んでないよ……」
シルルンはほっとしたような顔をした。
「なんの騒ぎだ?」
店の中からガチムチの男が現れて、辺りを見回した。
「僕ちゃん奴隷を買いにきたんだけど、いきなり絡まれて僕ちゃんのペットが門番をぶちのめしちゃったんだよ」
シルルンは申し分けなさそうな顔で言った。
「……お客様は会員証か推薦状、あるいは百万円以上のお金をお持ちですか?」
ガチムチの男は切るような鋭い視線をシルルンに向けた。
「うん、持ってるよ」
シルルンはプラチナ金貨を魔法の袋から取り出して、ガチムチの男に見せた。
「これは失礼いたしました」
ガチムチの男は深々と頭を下げた。
「あはは、別にいいよ」
シルルンはプラチナ金貨を魔法の袋にしまった。
「この者たちは会員証の提示やお金の有無などの確認を、お客様にいたしたでしょうか?」
ガチムチの男は探るような眼差しをシルルンに向けた。
「ううん、してないよ。いきなり失せろって言われたから」
「そうですか……ありがとうございます」
ガチムチの男は不愉快そうな顔で倒れている門番たちを無造作に蹴り飛ばし、門番たちは階段から転げ落ちた。
「……」
シルルンは恐怖に怯えたような表情を浮かべている。
「この者たちには会員証の提示や所持金の確認を最初にしろと何度も指導しているのですが、頭が悪いようで本当に申し訳ありません」
「う、うん」
シルルンは引きつった笑みを浮かべている。
「それでは中にお入りください」
シルルンたちはガチムチの男に連れられて、店の中に入った。
店の中は広いホールになっており、壁側には様々な店が建ち並んでいる。
ホールの中央には飲食店が並んでおり、客たちがテーブルを囲んで談笑し、肉が焼ける香ばしい匂いが漂っていた。
「ふ~ん、入ればすぐに奴隷が並んでると思ったけどそうじゃないんだね」
シルルンは意外そうな顔をした。
シルルンたちは建ち並ぶ店を横目に奥へと進んでいって、個室が並ぶ区画に到着するとガチムチの男は部屋の扉の前で止まった。
「この部屋でお待ちください」
ガチムチの男は扉を開けて一礼し、シルルンたちが部屋の中に入ると扉を閉めて去っていった。
部屋の中にはテーブルと四人掛けのソファが置かれていた。
「ふう、あのガチムチにあのまま案内されるかと思ったよ」
シルルンは虚脱したような安堵の表情を浮かべながらソファーに腰掛けた。
ラーネとブラックもソファーに腰掛けて、テーブルの上に置かれている物を物色しており、シルルンはテーブルの上に置いてあるメニューを手に取って目を通した。
「へぇ、テーブルの上に置いてある酒やつまみは無料みたいだよ」
シルルンは嬉しそうにブドウ酒を手に取って栓をあけ、グラスに注いだ。
すると、ブラックも『触手』でブドウ酒を取って栓をあけて、グラスに注ぎだした。
「あはは、かんぱ~い!!」
シルルンとブラックはグラスを掲げて、ブドウ酒を飲み始めた。
プルとプニは綺麗な皿に盛られたナッツ類を『触手』で掴み、一粒ずつ『捕食』しており、ラーネはそれを眺めている。
シルルンとブラックがブドウ酒を一本あけたぐらいに、部屋の扉がノックされた。
「失礼します」
女店員は部屋の扉をあけて、部屋の中に入ってきた。
「お待たせいたしました。お客様の担当のセーナと申します」
セーナは深々と頭を下げた。
彼女は端正な顔立ちで、薄い緑色の髪を後ろで束ねており、服が張り裂けんばかりの巨乳だ。
「うん、待ってたよ」
シルルンはにっこりと笑った。
「――っ!?」
(少年のほうがお客様なのっ!?)
一瞬だがセーナの目が揺らいだ。
「これは、私のリストです」
セーナは神妙な面持ちで自身のリストをシルルンの前に差し出した。
「えっ!?」
シルルンはびっくりしたような顔をしていたが、リストを手に取って目を通した。
彼女の職業はメイドで、年齢は二十九歳。魔法と能力はひとつも所持していないが、スキルはメイドのスキルを筆頭に多数所持していた。
魔法と能力は自分の力ではどうにもならないが、スキルは習得できるので、いわばスキルは努力の証ともいえる。
「私の値段は四百万円になっております。いかがでしょうか?」
セーナは縋るような眼差しでシルルンを見つめた。
「えっ!? 僕ちゃん君を買いにきたわけじゃないよ?」
シルルンは戸惑うような表情を浮かべている。
「……そ、そうですか」
セーナの瞳は魚が死んだように光をなくした。
「て、ていうか珍しい店だよね。奴隷に奴隷を売らせるなんて」
シルルンは意外そうな顔をした。
この奴隷屋には、有能な奴隷に店の奴隷を売らせるシステムがある。
これは両者にメリットがあり、奴隷側は奴隷を売れば売るほど待遇がよくなり、何よりも自分を売る交渉も許可されていた。
これにより、自分の目で主人を選ぶことができるのだ。
店側からすれば店員の数を減らせる上に、モチベーションの極めて高い店員が手に入るのである。
だが、このような店員の枠は限られていて、結果を残すことができなければ簡単に入れ替えられてしまうのだ。
奴隷は腐るほどいるからだ。
今のセーナの状況は崖っぷちで、今日中にポイントを稼がなければ入れ替えられて、娼館に売られることが決まっていた。
彼女の年齢が二十九歳で、もうすぐ三十歳になるからだ。
「はい、この店にはそういうシステムがあるんです。それではどの様な奴隷をお探しでしょうか」
セーナの顔は笑ってはいるが、瞳の光は消え失せており、涙が頬をつたっていた。
「ひぃいいいぃ!? 君を買うよ!! 買うから泣かないで!?」
(ま、まるで壊れた人形みたいだよ!?)
シルルンはうろたえて叫んだ。
「えっ!? 私を買っていただけるんですか!?」
セーナの顔が驚愕に染まった。
「うん、僕ちゃんが買わないから泣いているんでしょ?」
シルルンは困惑した表情でセーナに尋ねた。
「……私は泣いていたのですね」
セーナは目を指で拭い、指に付着した涙を目にして初めて気づいたような顔をした。
「……」
(えっ!? 気づいてなかったの?)
シルルンは不可解そうな顔をした。
「私を買っていただきありがとうございます。本当に……本当に心から感謝しています」
セーナは床に這い蹲り、頭を地面に擦りつけて号泣した。
「ひぃいいぃ!? 買うって言ってるのになんで泣くんだよ!?」
シルルンは怯えたような表情を浮かべている。
セーナは後がない状況の中、張りつめた緊張の中にあり、ルールが彼女を縛っていた。
それは自分をアピールするのは許されているが、強引に自分を買わせる売り方は認めないというものだ。
だが、要領のいい者からすれば勝負ができるルールでもある。
買ってもらえる自信があれば、強引に口説いても買ってもらえるのだからOKなのだ。
しかし、失敗すれば客からクレームが入り、二度と交渉するチャンスを奪われる。
セーナは勝負に勝利した者たちを横目に、もう後がない状態でも勝負をしなかった。
彼女は真面目過ぎる性格故に、溜まり溜まったものが堰を切ったように一気に溢れ出して号泣したのだが、そんなことはシルルンは知らない。
「す、すみません……これはうれし涙です」
セーナははにかんだような笑みを浮かべている。
「そ、そうなんだ……」
シルルンは安堵したような顔をした。
「……も、もう、大丈夫です。取り乱してしまってすみませんでした」
セーナは申し訳なさそうに頭を下げた。
「うん、いいよ」
「それで、ご主人様はどのような奴隷をお探しなのでしょうか?」
「うん。僕ちゃんは採掘ができる奴隷を探しにきたんだよ」
(アミラたちだけに採掘させていたら負担になるからね……それにメイたちも無茶をするし……)
シルルンは難しそうな表情を浮かべている。
「分かりました。それではこちらです」
セーナに連れられてシルルンたちは部屋から出て歩いていくと、店員に連れられて歩く一行に何度もすれ違った。
「ご主人様、この辺りが採掘関係の奴隷がいるエリアです」
セーナの隣には立て札看板が立てられており、そこには採掘と書かれていた。
「とんでもない規模だね……さすが第二区画で一番大きい奴隷屋だよ」
シルルンは感心したような表情を浮かべている。
奴隷たちは部屋の幅が一メートルほどしかない部屋に一人ずつ入れられており、部屋の正面は鉄格子で遮られていて、そのような部屋が永遠と並んでいた。
鉄格子には奴隷のリストが掛けられており、セーナがそのリストを取ると部屋の中で座っていた奴隷が立ち上がる。
「この男奴隷の職業は炭鉱夫でレベルは三十三。お値段は永久奴隷証書つきで二百五十万円です。魔法や能力は所持していませんが、採掘のスキルがレベル三十六、選鉱のスキルがレベル四十と高レベルです。年齢は四十二歳と高齢ですが、高いスキルを所持していますので熟練炭鉱夫であるのは間違いないです。このような熟練炭鉱夫が一人いれば他の炭鉱夫たちのスキル向上や坑道内での安全意識が高まると思い最初にご紹介いたしました」
セーナは自信の滲む表情を浮かべており、部屋の中からガチムチの奴隷が腕を組みながら鋭い眼光でシルルンを睨んでいた。
「ふ~ん……とりあえず保留で。保留はできるの?」
「はい。リストを返さない限り、商談中になるため保留になります」
「じゃあ、保留で」
シルルンは即答した。
「……あのぉ、私は鉱山を掘り当てる人材を捜しているのではないかと考えていたんですが、保留になるということは違うのでしょうか?」
(もしかするとすでにリーダー格になりうる炭鉱夫がいるか、単純に鉱山で働かせる奴隷を探しているだけか……それとも前提が間違えているのかもしれませんね……)
セーナは考え込むような顔をした。
「うん、鉱山は僕ちゃんが所有してるからね」
シルルンはフフ~ンと胸を張った。
「そうなんですね。では炭鉱夫がすでにいるということですね。炭鉱夫は何人ぐらいいるんでしょうか?」
「三人だよ」
「えっ!? 崩落事故でもあったんでしょうか?」
セーナは心配そうな顔でシルルンに尋ねた。
「ううん、人数が少ないのは僕ちゃんがちょっと前に採掘ポイントを掘り当てたからだよ」
「えっ!?」
(ご両親から鉱山を譲り受けたのではなかったんですね……)
セーナは信じられないといったような表情を浮かべており、ガチムチの奴隷は大きく目を見張った。
「うん、これが三人のリストだよ」
シルルンは魔法の袋から、アミラたちのリストを取り出してセーナに手渡すと、セーナはすぐにリストに目を通した。
「こ、これはご主人様は良い奴隷をおもちですね。このクラスの奴隷をこの店で購入すると一千万円が相場だと思います。何より採掘は力がいります。その力が上がりやすい職業である重戦士であることと、力が上がる『強力』を所持しているのは評価が高いです」
「へぇ、そうなんだ」
(奴隷市場のガチムチの店は優良店だったみたいだね)
シルルンは満足げな笑みを浮かべた。
「では、同じような奴隷を捜せばいいのでしょうか?」
「うん」
「分かりました。少しお待ちください」
セーナは鉄格子に掛けられているリストを、素早く確認しながら奥に進んでいく。
しばらくするとセーナが、リストを抱えて走って戻ってきた。
「十人いました。お値段は先ほど申し上げたように一人あたり、一千万円ですが私のお勧めはこの三人です」
「いや、全員買うよ」
シルルンはしたり顔で即答した。
「えっ!? 全員買うのですか!? 合計一億円になりますが……」
セーナは緊張した面持ちで言った。
「うん、それでこのおっちゃんみたいにリーダー格になれそうな人は何人ぐらいいる?」
「はい、最初の奴隷を含めて十人いますね」
セーナは自信ありげな表情で答えた。
彼女は聞かれるかもしれないことを前もって調べていたのだ。
「へぇ、早いね。さすができるメイドって感じだね」
シルルンは上機嫌に目を細めた。
「そ、そんなことはありません」
セーナは謙遜しているが、照れて頬が赤く染まっている。
「じゃあ、その十人も買うよ」
「は、はい」
「あと、え~っとそうそう、永久奴隷証書を二十枚欲しいんだよ。それで精算してくれないかな」
「分かりました。しばらくお待ちください」
セーナはリストを戻しながら、奥へと消えていった。
シルルンはしばらく待っていると、セーナが奴隷たちを引き連れて戻ってきた。
「おまたせ致しました。それではご清算に行きましょう」
「うん」
シルルンたちはセーナに連れられ、奴隷区画を抜けて出入り口近くの部屋に入った。
部屋にはカウンターテーブルと女店員がいたが、多数の移動式の檻が並んでおり、中には多数の奴隷が入れられていた。
シルルンたちはカウンターテーブルの前に移動し、セーナが女店員に奴隷たちのリストを手渡した。
「この度は奴隷をお買いあげ頂きありがとうございます。合計金額は一億三千九百万円になります」
女店員はにっこりと笑った。
「うん」
シルルンは魔法の袋からプラチナ金貨を十四枚取り出して、店員に手渡した。
「ありがとうございます。それではこれはおつりの百万円です。こちらはお買い上げくださった二十枚の永久奴隷証書と奴隷たちのリストでございます。お確かめください」
「うん、合ってるよね?」
シルルンはセーナの目を見て問いかけた。
「はい、もちろんです」
セーナはにこやかに微笑んだ。
「ご主人様、奴隷契約をお願いします」
セーナは永久奴隷証書をシルルンの掌の上において、自身の手を重ね「あなたの奴隷になります」と宣言し、永久奴隷証書は二枚に分かれて、互いの体に入って消えた。
奴隷たちも次々に奴隷になることを宣言して、シルルンの奴隷になった。
「お客様、当店は奴隷を差し上げるサービスをおこなっています。お客様の場合ですと十四人をお選びいただけます。安い奴隷ですが小間使いにでもお使いいただければ幸いです」
シルルンは女店員に連れられて、移動式の檻の前に案内される。
「この部屋にある檻に入っている奴隷でしたら、どの奴隷を選んでもらっても結構です」
女店員は深々と頭を下げ、カウンターに戻っていった。
「ご主人様、良さそうな奴隷を私も探してもよろしいでしょうか?」
「うん、任せるよ」
「それでは檻を移動させるのに、奴隷たちをお借りしてもよろしいでしょうか?」
「うん」
「ありがとうございます」
セーナは奴隷たちを引き連れて奥へと消えていった。
シルルンは視線を目の前の檻に向けた。
檻の中には、激しく痩せこけた人族の女が十人入れられていた。
年齢は二十代から四十代ぐらいで、奴隷たちは首からリストぶら下げていた。
シルルンは視線を他の檻に転じた。
「……」
(どれも人族の女だね……)
シルルンは奴隷たちを見ながら進んでいく。
この部屋には移動式の檻が何百台も並んでいた。
「ん?」
シルルンは足を止めて、奴隷の頭に視線を向けた。
「獣人だね……耳の形から鼠かな?」
シルルンは興味深そうな顔した。
獣人は大きく分けて、容姿が人族寄りと獣寄りの二種に分かれる。
人族寄りは知能が高く、獣寄りはステータスが高いとされている。
「う~ん……獣人にしようかな」
(獣人はヴァルラしかいないからね……まぁ、セーナ次第だけど……)
シルルンはさらに進んでいくと今度は亜人を見つけた。
豚鼻がトレードマークの白オークである。
「……亜人って性別が分からないよね」
(今までの流れからして女なんだとは思うけど……)
シルルンは白オークを見送り、次の檻を見てみると白ゴブリンだった。
「う~ん、うちに亜人はいないから白ゴブリンはいいかもしれない。白ノームはいないのかな?」
シルルンは白ノームを捜しながら進んでいく。
白ゴブリンと白ノームの身長は一メートルほどで、瞳がくりくりして可愛いらしい種族だ。
「えっ!?」
シルルンは檻の中の奴隷を見て、面食らったようなような顔した。
「ご主人様、あちらに牛の獣人が四人もいました。この中では一番値段が高い奴隷だと思います」
「……うん」
シルルンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
「あ、あの……どうかされましたか?」
セーナは不安そうな顔をした。
「うん、獣人の子供がいるんだよ」
シルルンは獣人の子供たちに視線を向けて、顔を強張らせた。
獣人の子供たちは恐怖の形相で、身を寄せ合ってガタガタと震えている。
「はい、おそらく魔物に襲われた村の戦災孤児でしょう」
セーナは悲痛な表情を浮かべている。
「そうなんだ……でも、子供は教会や孤児院に引き取られるんでしょ?」
「ご主人様、それは人族の子供だけです」
セーナは悲しそうな表情で言った。
「えっ!? マジで!? ポラリノールでは獣人や亜人も保護されてたんだよ」
シルルンは驚きのあまり血相を変える。
「えっ!? ご主人様はポラリノールのご出身なのですか?」
「うん、僕ちゃんはポラリノールから逃げてきた難民なんだよ」
「えっ!? そ、そうだったんですね」
セーナは軽く目を見張った。
「うん。じゃあ、子供が他にいないか探してくれる?」
「は、はい、すぐに」
セーナと奴隷たちは手分けして、子供たちを探し始めた。
シルルンはしばらく待っていると、セーナたちが戻ってきた。
「お待たせしました。この部屋には二十人いました」
「うん、ありがとう。店員を呼んでくれるかな」
「わ、分かりました」
セーナは頷いて、女店員の元まで駆けていき、すぐに女店員を連れて戻ってきた。
「お決まりになりましたか?」
「その前に聞きたいんだけど、子供の獣人を買うとしたら一人いくらなの?」
「……あの、ここにいる奴隷はサービス品で無料だとお話したはずですが?」
「いや、それは分かってるけど、買うとしたらいくらなのか聞いてるんだよ」
「子供の奴隷をお買いになられるのでしたら、こちらのサービス品ではなく、正規の奴隷をお買いになられたほうがよろしいかと」
女店員はほんの一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに取り繕った。
彼女は子供の奴隷が欲しいのなら、質の良い子供の奴隷がいくらでもいるのでそれを買えばいいと考えていた。
つまり、奴隷を買いにくるような者が子供を助けたいと考えているなど微塵も思っていなかったのだ。
「……」
(なんで話が通じないんだよ……)
シルルンは唖然として言葉を失った。
「ご主人様、私にお任せ下さい」
セーナは女店員と話し始めて、しばらくするとセーナが戻ってきた。
「ご主人様、子供は無料らしいのですが、永久奴隷証書で契約しているので一人あたり、五十万円とのことです」
「えっ!? そうなんだ。よく話が通じたね。さすができるメイドだね」
シルルンは感嘆の声を上げた。
「そ、そんなことはありません」
セーナは両手で頬を覆って顔を紅潮させた。
「じゃあ、子供の獣人二十人と牛の獣人が四人だっけ? まとめると五百万円払えばいいんだよね」
「はい、そのようになります」
シルルンは五百万円をセーナに手渡し、セーナは支払いを済ませた。
奴隷たちと奴隷契約を済ませたシルルンは、奴隷屋を後にしたのだった。
面白いと思った方はブックマークや評価をよろしくお願いします。
アリゲーター革の鎧 60万円
アリゲーター革のブーツ 30万円
中に着込む服 1セット2万円で、5セットで10万円
力の腕輪+10 2億円
速さの指輪+10 2億円
魔力の首飾り+10 2億円
ミスリルソード×7 2億1000万円
ブラックミスリルグレートソード×1 1億円
ブラックミスリルレイピア×2 8000万円
ミスリルナックル×3 6000万円
ミスリルクロー×1 2000万円
ミスリルアックス×3 1億2000万円
ミスリルランス×3 1億2000万円
ミスリルダガー×12 1億6000万円
ミスリルロッド×1 2000万円
ミスリルマトック×3 9000万円
鋼の剣×100 5000万円
ミスリルアーマー×7 5億6000万円
ブラックミスリルアーマー×2 3億2000万円
ミスリルソードマンドレス×5 1億5000万円
ミスリルファイタードレス×4 1億2000万円
ミスリルシーフドレス×1 3000万円
ミスリルシーフスーツ×5 1億5000万円
ミスリルローブ×1 3000万円
ミスリルドレス×6 1億8000万円
ミスリルブーツ×19 3億8000万円
ブラックミスリルブーツ×2 8000万円
ミスリルシューズ×11 1億1000万円
ミスリルシールド×1 6000万円
ミスリルタワーシールド×6 5億円
セーナ 400万円
『強力』の能力を所持している奴隷×10人 1億円
リーダー格の炭鉱夫×10人 2500万円
永久契約奴隷証書×20枚 1000万円
牛の獣人×4 無料
子供の獣人×10 無料
子供の獣人×10 500万円




