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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
鉱山 採掘編

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78 北東の険しい山道 ラーネ④


 ラーネは北東の険しい山道の前に出現した。


 シルルンたちの姿はまだなく、上空にはアース ゴーレムたちが待機していた。


 ラーネはしばらく待っていると、シルルンたちが到着したのだった。


「やぁ、おまたせ」


 シルルンは視線を上空で砂になっているアース ゴーレムたちに向けて、満足そうな表情を浮かべた。


 だが、突然ラーネが激しく膨張した。


「ムキーーーーーーッ!!」


 ラーネは吸い込んだ空気を口から吐き出しながら奇声を上げ、地面や岩などにぶち当たりながら反射して跳ねまくっている。


「ひぃいいいいぃ!?」


 シルルンは驚きのあまりに血相を変える。


 プルとプニもびっくりして目が丸くなる。


「面白そうデス!!」


「デシデシ!!」


 プルとプニも激しく空気を吸い込んで巨大化し、吸い込んだ空気を口から吐き出して縦横無尽に跳ねまくる。


 空気を全て吐き出したラーネは元のサイズに戻って、シルルンの胸に飛び込んだ。


「キーーーーーーッ!! 私は悔しいのよマスター!!」


「ひ、ひぃいいぃ!? いったい何があったの?」


(冷静なラーネがこんなに取り乱すなんてよほどのことがあったんだろうね……)


 シルルンは戸惑うような表情を浮かべている。


「……蜂に勝てなかったのよ」


 ラーネは悔しそうに呟いた。


 彼女は溜まっていた怒りと不安が入り混じっており、彼女の根源である強さが揺らいで爆発したのだ。


「ラーネが勝てない蜂って……まさか、エンシェントじゃないよね!?」


(だとしたら勝てるわけがない……)


 シルルンは恐怖で顔が蒼くなる。


「……違うわ。でも、私とマスターなら絶対に勝てるわよ」


 ラーネはキラキラした眼差しでシルルンを見つめる。


「う~ん……」


(ラーネは出会ったときから比べると倍近く強くなってる……これはデス スパイダーに匹敵する強さなのにそれで勝てないって……)


 シルルンは考え込むような表情を浮かべていた。


「ねぇ、お願いよマスター!! 私はあいつをぶちのめしたいのよ!! マスターが援護してくれたら絶対に勝てるからお願いよ!!」


 ラーネは瞳をうるうるさせて訴えた。


「わ、分かったよ。でも、いったん拠点に戻りたいんだよ」


「フフッ……それでいいわ。さすが私のマスターよ」


 ラーネは瞳を輝かせた。


 シルルンは上空にいるアース ゴーレムたちを呼び寄せて、ラーネの『瞬間移動』で掻き消えて拠点前に出現した。


「ハディーネは魔車の中で休んでてよ」


 シルルンは拠点前に置いてある魔車を指差した。


 ハディーネは頷いて魔車の中に入り、それを確認したシルルンはゴーレムたちを連れて拠点から南下する。


「う~ん……だいたいここぐらいが限界だね」


 シルルンは拠点から二キロメートルほど南下した地点で足を止めて、アース ゴーレムに地面に穴をあけるように指示を出した。


 すると、一瞬で地面に三メートルほどの穴があいて、土の塊が空中に浮いている。


「うぉ!? すげぇなオイッ!! 土の塊は後ろにでも置いてよ」


 アース ゴーレムは頷き、土の塊を自身の後方に置いて小さな山ができた。


「じゃあ、アース ゴーレムたちは地面にどんどん穴をあけてみてよ」


 アース ゴーレムたちは頷いて、凄まじい速さで地面に穴があいていき、土の塊がアース ゴーレムたちの後方に置かれて巨大な山になっていく。


「ストーンゴーレムはあの山を材料にして石を作ってよ」


 シルルンは巨大な土の山を指差した。


 ストーンゴーレムは頷いて巨大な土の山の前に移動し、しばらくじっとしていたが巨大な土の山の一部が石に変わって宙に浮いた。


「やっぱできるんだ!!」


 シルルンは満足げな笑みを浮かべた。


 土は砂と分解された生き物の死骸が混ざったものであり、砂は岩が小さくなったものである。


 つまり、土の中にある砂を集めて、ストーン ゴーレムは石を作り出したのだ。


 シルルンはアース ゴーレムたちとストーン ゴーレムに指示を出し、巨大な建造物が作成されていく。


「何をなされているのですかシルルン様」


 シルルンが振り返ると、ゼフドとアキが何事かと驚いていた。


「あはは、いいところにきたよ。僕ちゃんは拠点を守る石の防壁を作ってるんだよ」



挿絵(By みてみん)



「なるほど……確かにこれ以上南下するとタイガー種に出くわす可能性が高いですね」


「うん、だからギリギリを狙ってるんだよ」


「あのゴーレムたちはペットなんですか?」


(テイムするところを見たかったのに……)


 アキは不満そうな顔で尋ねた。


「ううん、僕ちゃんが『魔物契約』で雇ったんだよ。だから、皆にも言っといてほしいんだよ」


「あは、分かりました」


「あと、僕ちゃん用事があるからここを任せるね。ゴーレムたちにはゼフドの指示を聞けって指示をだしているから」


「はっ」


(この防壁が完成すれば注意するのは西の上層から下りてくる魔物だけだな……)


 ゼフドはやる気に満ちた表情で頷いた。


「防壁は採掘ポイントを囲うように作っといてね」

 

 シルルンはそう言って、ラーネの『瞬間移動』で掻き消えたのだった。

















「あらぁ、あいつはいないみたいね……」 


 シルルンたちはラーネがロード ホーネットと戦った場所に出現したが、ロード ホーネットの姿はなかった。


 だが、フロスト ホーネットとキング ビーの姿はあった。


「えっ!? この白いのじゃないんだ」


 シルルンは『魔物解析』で白い魔物を視た。


 すると、フロスト ホーネットと出ていた。


「へぇ、芋虫みたいな姿だけどホーネット種なんだ。たぶん突然変異ぽいから激レア個体だよ」


 シルルンは嬉しそうな顔をした。


「あいつはどこに行ったのかしら?」


「それは分かりません」


 フロスト ホーネットは緊張した面持ちでそう返したが、キング ビーは顔が青ざめてガタガタと震えていた。


「どこかに行ったみたいだわ」


「えっ!? その白いのは話せるの?」


「白いほうは魔族語を話せるみたいで、蜂のほうは魔族語も人族語も話せるみたいよ」


「えっ!? 自我意識があるんだ」


 シルルンは面食らったような顔をした。


「仲間になるデスか?」


「デシか?」


 プルとプニは瞳を輝かせた。


「ペットになる気があるか聞いてみてよ」


「あなた、私のマスターのペットになる気はないかしら? 私のマスターは強いわよ。鷲族のエンシェントを倒せるぐらいにね」


「なっ!?」


 フロスト ホーネットとキング ビーは雷に打たれたように顔色を変える。


「わ、私は指揮官なので群れを離れるわけにはいきません」


(殺されるかもしれませんが仕方がありませんね……)


 フロスト ホーネットはゆっくりと目を閉じた。


「指揮官だから群れを離れられないっ言ってるわ」


「ダメだって……」


「残念デス……」


「デシデシ……」


 プルとプニはしょんぼりした。


「もし、気が変わったら私たちの拠点に来るといいわ。拠点はここから北東にあるから」


 その言葉に、フロスト ホーネットは意外そうな表情で頷いた。


「あっ、そうだわ!! マスターに見せたい子がいるのよ」


 シルルンたちは『瞬間移動』で掻き消えて、残されたフロスト ホーネットとキング ビーは呆然と立ち尽くしたのだった。

















 シルルンたちが草原に出現すると、巨大な蜂の魔物が巨大な金色の狼の魔物を痛めつけていた。


「ちょっと何やってるの!!」


 ラーネはシルルンの腕から跳び出して、凄まじい速さで巨大な蜂の魔物に突撃した。


 シルルンは『魔物解析』で巨大な蜂の魔物を視た。


 すると、巨大な蜂の魔物はロード ホーネットだった。


「なるほど、ロード ホーネットはいろんな耐性を持ってるから厄介そうだね」


 シルルンは『魔物解析』で巨大な金色の狼の魔物を視た。


 すると、巨大な金色の狼の魔物はフェンリルだった。


 ちなみに、ウルフ種はフェンリル以外にも、ダークウルフとケルベロスが存在する。


「綺麗な魔物だけど死に掛けてるね……」


 シルルンは眉を顰めた。


 突撃したラーネは凄まじい速さでロード ホーネットに体当たりを叩き込んだが、ロード ホーネットは平然としている。


「ほう……お前も来たのかスライム。だが、邪魔をするな。俺はこいつと遊んでるんだからな」


「させないわよ!! その子は私が先に目をつけたんだから」


「なら、やってみろ」


 ラーネとロード ホーネットが対峙する。


「マスター、その子とは話がついてるから早くペットにして!! こいつに殺されちゃうわ!!」


 ラーネは思念でシルルンに言った。


「えっ!? マジで!?」


 シルルンは『魔物解析』でフェンリルの近くに倒れているハイ ウルフたちや多数のウルフ種を視た。


(全部死んでる……)


 シルルンは悲しそうな顔をした。


「えい、えっ、あれ?」


(ん? なんかできるの早くない?)


 シルルンは紫の球体を作り出したが、不可解そうな顔をした。


 彼が結界を一瞬で作れたのは、【魔物を統べる者】という魔物使いの最上級職に目覚めているからだが、そんなことはシルルンは知らない。


「あはは、ラッキー」


 シルルンは紫の球体をフェンリルに叩き込み、紫色の結界に包まれたフェンリルは身体を強張らせた。


「なんだこれは!?」 


(――だが、抗えば死ぬ……!?)


 フェンリルは諦めて脱力した。


 すると、彼の意識は一瞬で刈り取られて暗闇に落ちたが、それはほんの一瞬でフェンリルが目を開くと「主人の力になりたい」という想いが濁流のように押し寄せてきたのだった。


 ちなみに、魔物は魔力が〇になると消滅するというのが通説だ。


 だが、上位種以上の魔物は魔力が〇になっても、一時的に弱体化するだけで消滅しない。


 では、なぜ結界に包まれたフェンリルが死を直感したのか? それは紫色の結界に理由があった。


 紫色の結界は全耐性の効果があり、最強であるとされている。


 しかし、紫色の結界にはもうひとつの特性があり、それは死の魔法であるデスを連想させる。


 デスの魔法の風の色は紫だからだ。


 遥か昔の魔物使いたちが魔王や魔族たちを殺しきるために生み出されたのが紫色の結界、すなわち【退魔の結界】なのである。


「仲間になったデスか?」


「デシか?」


「……うん、どうやら成功したみたいだよ」


「やったデス!!」


「デシデシ!!」


 プルとプニはピョンピョン跳ねて大喜びしている。


「あれが我がマスターか」


(どうやら人族でまだ子供のように見える……だが、主従関係を結ぶということがこれほど気持ちが昂ぶるものとは知らなかった……)


 フェンリルは歓喜に顔を輝かせた。


 ちなみに、彼がそう感じるのはシルルンとの親愛度が百パーセントを超えているからだ。


 フェンリルは凄まじい速さでシルルンの元に駆けつける。


「危うきところを助けて頂きありがとうございます」


 フェンリルは頭を下げて伏せの姿勢をとった。


「うん、間に合って良かったよ。僕ちゃんはシルルン。これからよろしくね」


「はっ」


「それで、ピンクのスライムがプル、白いスライムがプニ、僕ちゃんが乗ってるロパロパがブラック。戦ってるスライムがラーネだよ」


「よろしくデス」


「デシデシ」


「ぬう、貴公を歓迎する」


 ブラックは嬉しそうだ。


「こちらこそ、よろしく頼む」


「じゃあ、プニはフェンリルの傷を治してあげて」


「分かったデシ」


 プニはピョンと跳ねてフェンリルの背中に乗り、ヒールとファテーグの魔法を唱え、フェンリルは体力とスタミナが全快した。


「……かたじけない」


(なんという回復力だ……)


 視線をプニ向けたフェンリルは意外そうな顔をする。


 肩に戻ったプニをシルルンは優しく撫でた。


 プニは嬉しそうだ。


「おい!! あれはどういうことだ!?」


 ロード ホーネットは鋭い眼光をフェンリルに向けて声を張り上げた。


「私のマスターとフェンリルが主従関係を結んだのよ」


「なんだと!? 人族ごときが生意気なことをしやがる!!」


 ロード ホーネットは眼に殺気をみなぎらせて、シルルンに目掛けて凄まじい速さで突撃した。


「フフッ……無駄なことを」


 ラーネは見下すような冷笑を洩らした。


 ロード ホーネットは一瞬でシルルンたちに肉薄して前脚の爪をシルルンに振り下ろしたが、ブラックは左に躱してシルルンがミスリルソードで連撃を叩き込んで交差した。


「なっ!?」


(俺より速いだと!?)


 ロード ホーネットは大きく目を見張った。


「効いてない……『物理耐性』は厄介だね……」


 シルルンはむっとしたような顔をした。


「エクスプロージョン!!」


 ラーネはエクスプロージョンの魔法を唱え、光り輝く球体が棒立ちのロード ホーネットに直撃し、ロード ホーネットは爆発に包まれたが『魔法耐性』により無効化される。


「ちぃ!! ありえん!?」


 ロード ホーネットが空に飛び上がる。


 シルルンは雷撃の弓で狙いを定めて稲妻を放ち、青白い稲妻がロード ホーネットに直撃して空から落ちてきた稲妻も直撃してロード ホーネットは感電して墜落した。


「ぐっ、なんだ今のは!? ヒール!!」


 地面に直撃寸前のところで態勢を整えたロード ホーネットは、ヒールの魔法を唱えて体力を回復した。


「やっぱり、耐性持ちでも魔導具は有効みたいだね」


 シルルンは満足げな笑みを浮かべた。


「生意気デス!! アンチマジックデス! アンチマジックデス!!」

「アンチマジックデス! アンチマジックデス!!」


 プルは『並列魔法』と『連続魔法』でアンチマジックの魔法を連続で唱え、灰色の霧がロード ホーネットを包み込んで『魔法耐性』を貫通し、ロード ホーネットは魔法を封じ込まれた。


「そんな馬鹿なっ!?」


 ロード ホーネットは信じられないといったような表情を浮かべている。


 シルルンは薄い青色のミスリルの弓に持ち替えて風の刃を連発し、風の刃がロード ホーネットの羽を破壊した。


「なっ!? 貴様ぁ!!」


 怒りに顔を歪めたロード ホーネットがシルルンに突撃しようとするが、ラーネが体当たりをぶちかましてロード ホーネットは吹っ飛んだ。


「フフッ……あなたの相手は私のはずよ」


「クソがぁ!! 絶対に許さんぞ!!」


 怒りの形相のロード ホーネットとラーネが激突し、凄まじい速さで戦いを繰り広げる。


 ラーネはエクスプロージョンの魔法を唱え、光り輝く球がロード ホーネットに直撃してロード ホーネットは爆発に包まれた。


 だが、ロード ホーネットは一気に間合いをつめて前脚の爪の連撃を繰り出し、ラーネは躱しきれずに吹っ飛んだ。


「う~ん……ラーネは『物理耐性』をもってないから、やっぱり、そこを狙ってくるよね」


 シルルンは複雑そうな顔をした。


「ヒール!! やってくれるわね」


 ラーネはヒールの魔法を唱えて傷を回復し、両者は再び激突する。


「クククッ、お前を戦闘不能にしてその次は人族をぶっ殺してやる」


「……私に勝てないのによく言うわね」


 その言葉に、ラーネは失笑した。


「ねぇ、ロード ホーネットは何を言ってるの?」


 シルルンは訝しげな顔でフェンリルに尋ねた。


「はっ、要約すればラーネ殿の次はマスターを殺すと言っています」


「ふ~ん、そうなんだ。でも、僕ちゃんが待つ理由はないよね」


 シルルンは薄い青色のミスリルの弓で狙いを定めて『集中』し、ロード ホーネットがラーネから離れた瞬間に風の刃を連発した。


 三発の風の刃がロード ホーネットの胴体を貫き、ロード ホーネットは胴体から大量の血が噴出して地面に跪いた。


「エクスプロージョンデス! エクスプロージョンデス!!」

「エクスプロージョンデス! エクスプロージョンデス!!」


「エクスプロージョンデシ! エクスプロージョンデシ!!」

「エクスプロージョンデシ! エクスプロージョンデシ!!」


 プルとプニは『並列魔法』と『連続魔法』でエクスプロージョンの魔法を唱え、八発の光り輝く球がロード ホーネットに直撃して、とんでもない大爆発にロード ホーネットは包まれた。


「な、なんて魔法だ!?」


(い、今のは『魔法耐性』がなければ即死していたのではないのか……?)


 ロード ホーネットは放心状態に陥った。


「エクスプロージョン」


 ラーネはエクスプロージョンの魔法を唱えて、光り輝く球がロード ホーネットに直撃し、ロード ホーネットは爆発に包まれるが『魔法耐性』により無効化にされる。


「ま、待て!! お前に話がある」


「……この期に及んでなんの話があるというのよ」


 ラーネは訝しげな眼差しをロード ホーネットに向けた。


「俺にはお前の強さを倍にする能力がある」


「……嘘くさい話ね。私のマスターはあなたの強さを視れるのよ」


「本当の話だ。だが、俺が死ねばその能力も消える……」


 ロード ホーネットは不敵な笑みを浮かべた。


「要するに私を強くする代わりに見逃せといいたいわけね」


「解釈は任せる」


(ククッ、戦士にとって強さは全てだ。その強さを手中にできるという誘惑に抗える者はいない)


 ロード ホーネットは勝ち誇ったような顔をした。


「……マスター!! この蜂は強さを倍にできる能力を持っているのかしら?」


「うん、『王の付与』っていう能力をもってるよ。効果はステータスを二倍にできるみたいだよ」


「なっ!? 本当にもってるなんて……」 


(……欲しい……なんとしても欲しい……強さが倍になればデス スパイダーにも勝てる……)


 ラーネは我を忘れたような表情で立ち尽くした。


「クククッ、さあ、どうする」


(……迷った時点で答えは決まったも同然だ)


 ロード ホーネットの口角に笑みが浮かんだ。


「ラーネが殺さなくてもロード ホーネットは僕ちゃんが殺すよ。理由はフェンリルの仲間をたくさん殺したからだよ」


「――っ!?」


 その言葉に、放心していたラーネははっとしたような顔をした。


(あの蜂の甘言にまた心が揺れてしまった……あのこを仲間に誘ったのは私なのに……その仇であるあの蜂を自分の欲のために逃がそうとした……)


 ラーネは苦虫を噛み潰したような表情で俯いた。


「じゃあ、僕ちゃんが殺すよ」


 シルルンはロード ホーネットに薄い青色のミスリルの弓で狙いを定めた。


「ごめんなさいマスター。私が殺るわ」


 ラーネは意を決したように顔を上げて、ロード ホーネットに向き直る。


「――っ!?」


(スライムから動揺の色が消えた?)


 ロード ホーネットの頑なだった表情に動揺が現れ、目が揺らぐ。 


「なら、ラーネとフェンリルで殺ればいいよ」


 シルルンは『反逆』を発動した。


「なっ!?」


 ラーネとフェンリルの顔が驚愕に染まる。


「マ、マスター!! この体の底から溢れ出す力はいったい!?」


 ラーネは戸惑うような表情を浮かべている。


「僕ちゃんもできるんだよ。ロード ホーネットと似たようなことがね。ただ、時間制限があるけどね」


「フフッ……フフフフッ……フフフフフフッ!!」 


 ラーネは壊れたように笑い出す。


(さすが、私のマスター。こんな隠し玉をもっているなんて……そうとも知らずに勝手に一人で空回りして馬鹿みたいね……結局、安全な場所も強さも、欲しいものはなんでもマスターが与えてくれるのよ)


 ラーネは歓喜に打ち震えた。


「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォオオオォォ!!」


 フェンリルは猛り狂ったような咆哮を上げた。


(ありがたい……この力があれば仲間たちの仇を討つことができる……マスターは言ってくれた……ラーネが殺さなくてもロード ホーネットは僕ちゃんが殺すよと……重鎮であろうラーネ殿を差し置いて新参者の我の気持ちを汲んでくれたのだ)


 フェンリルは喜びに打ち震え、その心意気に痺れた。


 故に、彼は何事があろうとも、この命と生涯の忠誠を捧げることをここに誓ったのだった。


「ちぃ、失敗か!!」


 ロード ホーネットは後方に跳躍したが、それを追ってラーネとフェンリルも同時に突撃した。


 ラーネは一瞬でロード ホーネットに追いついて体当たりをぶちかますが『物理耐性』により無効にされ、フェンリルが前脚の爪の連撃を繰り出し、ロード ホーネットは前脚の爪で対抗する。


 しかし、側面に回ったラーネがロード ホーネットに凄まじい速さで体当たりを叩き込み、『物理耐性』を貫通して横っ腹をぶち抜き、ロード ホーネットが絶叫する中、フェンリルは前脚の爪の連撃を叩き込み、全て『物理耐性』により無効にされるが、大口をあけて牙を剥き出しにして襲い掛かり『物理耐性』を貫通してロード ホーネットの首が宙に舞った。


 胴体から大量出血するロード ホーネットに、フェンリルは構わず前脚の爪の連撃を叩き込み、ロード ホーネットはバラバラに解体されて即死した。


 フェンリルは空に向かって咆哮し、ラーネは肉片に変わったロード ホーネットを『捕食』していく。


「毒針だけちょうだい」


 シルルンは『反逆』を解いてラーネに言った。


「フフッ……わかったわ」


 一瞬で『捕食』を終えたラーネが毒針をシルルンに渡した。


「あはは、槍みたいだね」


 シルルンは毒針を魔法の袋にしまった。


 毒針の長さは二メートルほどもあり、しかも、片手で掴めないほど針の反対側は太かった。


「あっ、そうそう。この子は盟約があるから一緒に帰れないのよ」


「えっ!? そうなの?」


 シルルンはビックリして目が丸くなった。


「はっ、確かに盟約はあったのですが、鰐族と亀族の族長はロード ホーネットと戦って憤死し、それを見た蛇族は逃走して、最後に我らのところにロード ホーネットが襲ってきたと偵察に出ていた者から聞いています。故に盟約を結んだ三種族はもういないのです」


「そ、そうなんだ……君の仲間は他にいないのかい?」


「いないと思います」


「……そうなんだ。仲間の遺体はどうする? 埋める? 焼く?」


「はっ、特に何もしません」


「えっ!? そうなんだ……」


 シルルンは意外そうな顔をした。


 魔物は時間が経ては消滅するので、遺体を埋めたり焼いたりする習慣はない。


「フフッ……じゃあ、私たちと一緒にくるのね?」


「無論です」


 こうして、フェンリルがシルルンのペットに加わり、シルルンたちは『瞬間移動』で掻き消えた。


 ちなみに、突然力を失ったキング ビーは、ロード ホーネットが敗れたのだと理解して号泣したのだった。

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