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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
鉱山 採掘編

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77 北東の険しい山道 ラーネ③


 フロスト ホーネットは配下の者から報告を受けていた。


「さすがキング ビー殿だ」


(どうすればより多くの人族をクイーン ホーネットに捧げることができるか考えておられる)


 フロスト ホーネットは感心したような顔をした。


 彼はクイーン ホーネットが言った言葉を思い出す。クイーン ホーネットは「人族を食ったからお前が産まれたかもしれぬ」と言ったのだ。


 彼はこの言葉に衝撃を受けたのだ。


「産まれる卵に人族が影響しているなら逃す手はない……」 


(しかし、本当に人族が産まれる卵に影響があるなら、他の種族……特に強い魔物も影響があるかもしれないですね)


 フロスト ホーネットは考え込むような表情を浮かべていたが、すぐに配下たちを率いてキング ビーの援軍に向かったのだった。






















「……な、何なんだこの雀蜂族ばけものは?」


(どこから来たのだ? そして何をしにきたのだ? まさか、我らを滅ぼしにきたのか?)


 キング ビーは怯えたような表情を浮かべている。


「お前がビー種の王なのか?」


「は、はい……」


(なぜ我を知っている? やはり殺しにきたのか……)


 キング ビーは額から汗が噴き出し、恐怖に顔を歪めて後ずさる。


「話は聞いている」


 背を向けていたロード ホーネットがキング ビーに向き直ってキング ビーと対峙する。


 だが、そこに何者かが上空から急降下して、キング ビーとロード ホーネットの間に割って入った。


「これはロード ホーネット様。なぜこのようなところに?」


「何だお前は?」


「私はフロスト ホーネット。この縄張りの雀蜂族の指揮官をしている者です」


「ほう、お前がか? ……だが、お前の姿はおかしくないか? 本当に雀蜂族なのか?」


 ロード ホーネットは怪訝な表情を浮かべている。


「なっ!? 私はクイーン ホーネットから産まれました。お疑いならクイーン ホーネットにお確かめください」


「いや、あまりに我らと違いすぎるから聞いてみただけだ」


「……そ、そうですか」


 フロスト ホーネットは苦笑した。


 彼は水溜りに映った自身の姿を見て、他の個体と姿が違うと不安になったのを思い出す。


 ちなみに、鏡に映った自分の姿を自分だと認識できることを鏡像認知という。


 動物の世界では鏡像認知できる動物は少なく、チンパンジー、イルカ、ゾウが代表的だが、意外にもイヌは鏡像認知できないのだ。


 人間ですら二歳ぐらいまでは鏡像認知できないのである。


「俺がここにきたのはこっちのほうが面白そうだからだ」


「というとロード ホーネット様は本隊から派遣されたということですか?」


「いや、俺は自分の意思でこっちにきたのだ。そもそも俺はお前たちのクイーン ホーネットとペアとして産まれた個体だ」


「……なるほど、では我らの王候補ということですね」


「クイーン ホーネットが認めたならな」


「それなら話は早いですね。クイーン ホーネットは人族を所望しています」


「ほう……」


「この辺りに転がっている人族はキング ビー殿が倒したのでしょう。それをロード ホーネット様が倒したということにすればよいのです」


「俺はやってもいないことを誇るような者ではない」


「ですが、王候補であるロード ホーネット様が現れた」


「何が言いたいのだ?」


 ロード ホーネットは訝しげな目をフロスト ホーネットに向ける。


「キング ビー殿が無理を承知で人族に挑んだのは我ら雀蜂族への忠誠の証なのです。なぜならば、クイーン ホーネットが人族を所望しているからです」


「ほう……」


 ロード ホーネットがキング ビーを一瞥した。 


「ですが、キング ビー殿からすればロード ホーネット様に、忠誠の証である人族の死体を捧げたいのです。なぜならば、王になるのはロード ホーネット様だからです」


(ここはロード ホーネット様がクイーン ホーネットに認められ、忠誠心の厚いキング ビー殿の評価が上がるのがこの場の最良でしょう)


 フロスト ホーネット自信に満ちた表情で言った。


「お前はそれでいいのか?」


「はい。我ら蜜蜂族は雀蜂族に忠誠を誓っておりますゆえ」


(フロスト ホーネット殿が何を言い出すのか分からず肝を冷やしたが、確かにロード ホーネット様に恩を売っておいたほうが蜜蜂族としては都合がいい)


 キング ビーは神妙な面持ちで頷いた。


「クククッ、だが、人族は俺とキング ビーで狩ったとクイーン ホーネットに伝えておけ。俺も少数だが人族を狩ったからな」


「……はっ、了解しました」


(どうやら間違えたようだ……だが面白い……我らの王候補は何よりも誇りに重きをおいているようだ)


 フロスト ホーネットは口角に笑みが浮かんだ。


「……で、では人族の死体を巣に運ぶように指示します」


 キング ビーは『以心伝心』で指示を出し、上空で待機していたビー種たちが地上に飛来して人族の死体を回収していく。


「この縄張りで一番強い蜜蜂族はお前か?」


「は、はい、私です……」


「では、雀蜂族では誰なのだ? 無論、俺とクイーン ホーネットは除いてだ」


「はっ、私だと思います」


「ほう、それではこっちの拠点にはまだ下位種しかいないのだな?」


「いえ、上位種が十匹ほどいます」


「なんだと!? 上位種よりお前のほうが強いというのか?」


 ロード ホーネットは驚いたような顔をした。


「上位種と比べると強さはほぼ同じですが、私はヒールを使えますから戦えば私が勝ちます」


「私はフロスト ホーネット殿の練兵を見学したことがあるのですが、ハイ ウルフが率いる狼族と戦いになり、『威圧』を使われ配下の者たちが動けなくなった時、フロスト ホーネット殿はハイ ウルフとの一騎打ちに転じ、見事勝利したことをここに証言します」


「ほう……」


 ロード ホーネットは軽く目を見張る。


 彼は指揮官タイプと思っていたフロスト ホーネットが、頭同士の一騎打ちに応じたことが意外だったのだ。


「……ならばお前たちを戦士と認めてやろう」


 ロード ホーネットの目が怪しく光る。


「こ、これは!?」


「おっおおおおぉ!? 体中から凄まじい力がみなぎっている!!」


 フロスト ホーネットとキング ビーは驚きのあまりに血相を変える。


「俺の『王の付与』により、お前たちのステータスが二倍になったのだ」


 彼が言うステータス二倍とは、HP、MP、攻撃力、防御力、素早さのことである。


 似た能力に『魔法付与』と『能力付与』がある。


 いずれも能力者が所持する魔法や能力を対象者に与える能力だが、与えるとその魔法や能力は無くなる。


 ちなみに『王の付与』は能力者自身はステータス二倍にはならず、能力者が死ぬと同時に効果も失われる。


「このような能力が存在するのですね……」


(私は今まで能力というものを軽視していたのではないかと思わずにはいられない異常な能力だ……今後は能力についても研究をしなければいけませんね……)


 フロスト ホーネットは難しそうな顔をした。


「あ、ありがとうございます!! こ、このキング ビー、あなた様に絶対の忠誠を誓います!!」


 キング ビーは喜びに打ち震えていたが、気づけば地面に頭を擦りつけて平伏していた。


 彼はそれほど嬉しかったのだ。


 何よりも誰よりも力に飢えていたからだ。


 彼は自分は王だというのに他種の上位種にすら勝てないという現実に絶望し、情けなくて苛立たしくて一日たりとも世界を呪わない日はなかったのである。


「クククッ、気にするな。俺は気に入った者に力を与えただけだ。そんなことより、フロスト ホーネット。お前が考える雀蜂族の今後の戦略を聞かせてみろ」


「はい、何よりもまずは自軍の強化が大事かと。そして、西の蟻族を滅ぼす予定です」


「なっ!? 北の蟋蟀(こおろぎ族か南の大蜘蛛族ではないのですか!?」


 キング ビーは驚きの表情を見せる。


「いや、その二種族はいずれ本隊が滅ぼすだろう。だが、蟻族も滅ぼす必要はない」


「……なぜでしょうか?」


 フロスト ホーネットは不可解そうな顔をした。


「蟻族も本隊が滅ぼすからだ」


「なっ!? 本隊の縄張りと隣接している蟋蟀(こおろぎ族を滅ぼすのは分かりますが、地理的に遠い蟻族をなぜ!?」


「蟻族が地下にも巣を作っているのは知っているか?」


「はい、もちろん知っていますよ」


「だが、奴らの地下の巣は地上の縄張りよりも遥かにでかいのだ。その意味が分かるか?」


「……なっ!? もしかして本隊と蟻族はすでに地下で戦っているということですか!?」


「まぁ、そういうことだ。だからお前が言うように自軍の強化はいいが、いずれ俺たちはここを去る」


挿絵(By みてみん)


いい加減なアント種とホーネット種の地下の勢力図^^



「なっ!? ……しかし、本隊はクイーン ホーネットが羽化しなければ滅ぶのではないのですか?」


「クククッ、本隊の数を舐めるなよ。最早どうにもならんほど膨れ上がっている」


「……なるほど、だから去るしかないということですか」


「そういうことだ。だが、クイーン ホーネットが羽化しなかった場合、クイーン ホーネットを守護するエンシェント ハイ ホーネットが解き放たれる」


「……そんな個体は聞いたことがありません」


「なんだ、知らんのか?」


「……はい。それはカース ホーネットより強いのですか?」


「無論だ。あれは誰も勝てん」


「――なっ!?」


(あれより上が存在するのか)


 フロスト ホーネットは面食らったような顔をした。


「クイーン ホーネット亡き後、あれが巣に残るのか暴れるのか俺にも分からんのだ」


「……確かに暴れられた場合、止めようがないですね」


(そもそも、クイーン ホーネットが羽化しなかった場合、誰が本隊をまとめるのか……? 王か? カース ホーネットか? それともエンシェント ハイ ホーネットか? 最悪、分裂するかもしれない……)


 フロスト ホーネットは考え込むような顔をした。


 一方、ラーネは木の枝から木の枝に跳び移りながら高速移動していると、三匹の蜂族を発見して足を止めた。


「エクスプロージョン!!」


 ラーネはエクスプロージョンの魔法を唱え、光り輝く球体がキング ビーに直撃して、キング ビーは爆砕して吹っ飛んだ。


「ほう……」


 ロード ホーネットはにやりと笑って『威圧』を放つ。


「ぐっ……これほどか……」


 フロスト ホーネットは声と表情を強張らせる。


 しかし、ラーネも『威圧』を放ち、『威圧』の無効に失敗したフロスト ホーネットが動けなくなる。


「なんだと!?」


 ロード ホーネットの顔が驚愕に染まる。


「……馬鹿なっ!?」


 フロスト ホーネットは信じられないといったような表情を浮かべている。


 ラーネは体を急激に膨張させて『毒霧』を吐き、さらに『溶解液』を吐いた。


 ロード ホーネットは緑色の霧に包まれたが効果はなく、飛んできた液体は空に飛んで回避した。


 ラーネはロード ホーネットを追いかけて跳躍し、体当たりを叩き込んで零距離でエクスプロージョンの魔法を唱えて、光り輝く球体がロード ホーネットの胴体で爆発した。


「なっ!? 強い!?」


 フロスト ホーネットは驚愕し、ラーネは地面に着地した。


「クククッ、面白いスライムだな、気に入ったぞ……」


 しかし、ロード ホーネットは無傷だった。


「あら? 意外に強いじゃない?」


 ラーネは凄まじい速さでロード ホーネットに目掛けて突撃する。


「クククッ、それはこっちのセリフだ」


 ロード ホーネットは突撃して一瞬でラーネに肉薄し、両者は凄まじい速さで戦いを繰り広げる。


 ラーネは凄まじい速さで戦いながら『糸』をいたるところに吐きまくり、ロード ホーネットは糸に絡まって動きが止まる。


「エクスプロージョン」


 ラーネは跳躍しながらエクスプロージョンの魔法を唱えて、光り輝く球体がロード ホーネットに直撃し、ロード ホーネットは爆発に包まれたが無傷で糸も切れた。


 ロード ホーネットは凄まじい速さで飛行して前脚の爪を振り下ろし、前脚の爪が直撃したラーネは地面に急降下する。


 だが、ラーネが『瞬間移動』でロード ホーネットの背後に出現し、ラーネは零距離でエクスプロージョンの魔法を唱えて、光り輝く球体が直撃してロード ホーネットの胴体は爆砕した。


 ラーネとロード ホーネットは地面に着地して対峙し、互いに受けたダメージをヒールの魔法で回復する。


 ラーネは『魔法耐性』『能力耐性』を所持。


 ロード ホーネットは『魔法耐性』『能力耐性』『物理耐性』『毒耐性』を所持。


 互いに耐性もちの場合の戦闘は決着がつきにくい。しかも、互いにヒールの魔法まで所持しているのだ。


 だが、何よりもラーネに手足がないのが痛い。


 元々ラーネはアラクネで腕が二本、脚が八本あり、連撃を得意とする物理アタッカーなのだ。


 それなのに今は手足がないのだ。


「クククッ、お前は俺の仲間になる気はないか?」


「……いきなりな話ね」


「俺は強い配下を集めている。そして、そいつらと暴れまわり、そのことごとくを皆殺しにするつもりだ」


「……」


(なんて魅力的な話なの……)


 ラーネは獰猛な笑みを浮かべる。


「お前は俺と同じぐらい強い。だから配下ではなく仲間でいい。どうだ、一緒にやらねぇか?」


「フフッ……私には人族のマスターがいるのよ。だから行けないわ」


 ラーネは残念そうに言った。


「何ぃ!? 人族など弱すぎて話にならん。現に何匹もそこに転がっているだろう」


「私のマスターは強いのよ。私とマスターが組んだらあなたなんか簡単に殺せるわ」


「ふっ、信じられんな」


 ロード ホーネットは失笑を漏らす。


「――っ!? なんですって!?」


 ラーネはヒステリックに叫んだ。


「クククッ、そんなに強いというのなら連れてくればいい。だが、俺に勝てなければお前は俺の仲間になってもらうがな」


「フフッ……後悔するわよ」


(……この場で決着をつけたいけれど、戦えば予定の時間を過ぎてしまう)


 ラーネは忌々しげな表情を浮かべていたが『瞬間移動』でその場から掻き消えたのだった。


「何!? 消えただと!?」


 ロード ホーネットは驚いて辺りを見回す。


「おそらく、テレポートの魔法かと思われます」


 フロスト ホーネットは半壊したキング ビーの治療を終えて、ロード ホーネットに向かって歩きながら答えた。


「……あのスライムはいったい何なんだ? スライムとはあそこまで強くなるものなのか?」


「理由は分かりませんが、蜘蛛族がスライムに化けている可能性が考えられます」


「なるほどな……確かに『糸』を使っていたな」


「はい。ですが、私が驚いたのは蜂族以外の者を迎え入れることです」


「お前は蜂族を率いればいい。俺はそれ以外を率いるだけのことよ」


「はっ」


(確かにその方法なら不安に感じていた命令系統の数も二本で済む)


 フロスト ホーネットはほっとしたような顔をした。


「クククッ、あのスライムとなら楽しい狩りができそうだぜ」


 ロード ホーネットは不敵に笑うのだった。

ロード ホーネット レベル17 全長約6メートル

HP 7600

MP 3300

攻撃力 2100

守備力 1950

素早さ 1600

魔法 ウインド シールド ポイズン スロー マジックシールド ヒール ペトリファイ サイクロン

能力 統率 以心伝心 毒針 毒霧 毒牙 猛毒 強力 堅守 回避 威圧 豪食 毒耐性 風のブレス 魔法耐性 能力耐性 物理耐性 言語 王の付与


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