75 キング ビー②
キング ビーは無事に拠点に辿り着いたが、クイーン ホーネットの卵を抱えてうろうろと歩き回っていた。
「やはり、縄張りの中央に置くべきか、それともここで護るか……」
キング ビーは考え込むような表情を浮かべている。
しかし、失敗は滅亡を意味する。
すると、クイーン ホーネットの卵に亀裂が入って殻が割れ、中から幼虫が姿を現した。
「なっ!? もう孵化したのか!!」
キング ビーは驚きの表情を見せる。
「ぐっ、もうここで護り育てるしかない……」
キング ビーは意を決してクイーン ホーネットの幼虫を抱えて食料庫に移動し、大量に積み上げられた肉団子を見て満足そうな顔をした。
「しかし、なにゆえ肉団子にするのか……?」
(狩った魔物はそのまま食えばいいではないか……)
キング ビーは不可解そうな顔をする。
彼はハイ ホーネットに狩った魔物を肉団子にして、クイーン ホーネットに与えろと指示を受けていた。
これはホーネット種が虫だった頃の習性なので、ビー種である彼には理解できるはずもなかった。
虫の世界での大雀蜂の成虫は、ボディが極端に細くなっており、固形物が体を通らない。
そのため、成虫は狩った魔物を肉団子にして食べ易いように幼虫に与えるが、その代わりに幼虫が出す分泌液を飲んで栄養にしているのだ。
蜜蜂はそもそも花蜜や花粉を食べているので、肉団子を作る習性はない。
キング ビーは肉団子の前に、クイーン ホーネットの幼虫を丁重に置くと、クイーン ホーネットの幼虫がムシャムシャと肉団子を食べ始める。
キング ビーの顔に虚脱したような安堵の色が浮かんだ。
だが、クイーン ホーネットの幼虫は食べる速度が異常に早かった。
「これではすぐに無くなってしまう……」
キング ビーは食料庫から出て配下の者たちに肉団子の追加を指示して、再び食料庫に戻ると、積み上げられた肉団子は全て無くなっており、クイーン ホーネットはすでに蛹の形態に変わっていた。
「……な、なんて早さなんだ」
(我らとはまるで違う……これが雀蜂族か……)
キング ビーは戦慄を覚えて思わず息を呑む。
しかし、蛹に亀裂が走る。
「そ、そんな馬鹿なっ!?」
キング ビーは放心状態に陥った。
クイーン ホーネットは蛹の殻を破壊し、完全変態を終えて起き上がる。
「餌はどうした?」
その言葉に、キング ビーは硬直していた体が電撃をくらったように動き出し、頭を地面にこすりつけて平伏した。
「はっ! い、今、集めさせているところです、もう少し時間を頂ければ用意できます」
「そうか」
そう短く返したクイーン ホーネットは食料庫から出て行った。
「で、でかい……羽化した直後でこれか……だが、美しい……」
恐る恐る頭を上げたキング ビーは感嘆の声を漏らしたが、はっとしたような顔をして慌ててクイーン ホーネットを追いかける。
クイーン ホーネットの全長は六メートルを超えており、体はモフモフではないが銀色に輝やいて美しさも備えていた。
キング ビーが解体部屋に直行すると、クイーン ホーネットの姿があった。
彼女は魔物の死体を肉団子に変える作業を眺めており、ビー種たちは怯えていた。
「これだけしかないのか?」
「はっ、申し訳ありません。急がせてはいるのですが……」
キング ビーは気まずそうな顔をする。
肉団子が出来上がるとクイーン ホーネットは瞬く間に食いつくし、積み上げられた魔物の死体もバリバリと食い散らかしていく。
そのあまりの勢いに、キング ビーは顔面蒼白になっていた。
(このまま我らも食われるのではないか……?)
キング ビーは不安そうな表情を浮かべていたが、クイーン ホーネットは部屋を後にして、そのまま巣から出て行った。
クイーン ホーネットは空に飛び上がり、上空から地上をしばらく眺めたいたが凄まじい速さで南に移動し、キング ビーは慌てて追いかける。
だが、クイーン ホーネットはみるみるうちに遠ざかっていき、キング ビーの視界から消えた。
キング ビーは必死の形相でクイーン ホーネットを捜すが見当たらず、さらに南に向かって移動して彼ははっとしたような顔をした。
「しまった!? ここは大蜘蛛族の縄張りではないか!!」
キング ビーの顔は恐怖に歪んでいた。
彼がジャイアント スパイダー種を恐れている理由は、彼らが使う『強糸』にあった。
空を翔るビー種に対し、ジャイアント スパイダー種は『強糸』でビー種を捕まえて、地上に引きずりおろして食らうのだ。
さらに、ジャイアント スパイダー種は下位種の時点で、その全長は五メートルを超えており、非力なビー種では太刀打ちできない天敵だった。
「早くここから離脱しなければ我とて命はない……」
キング ビーは高度を上げて全速で南に進んでいくと、地上でクイーン ホーネットがジャイアント スパイダー種の群れと戦いを繰り広げていた。
「ぐっ、無茶苦茶だ……二十匹はいるではないか!?」
キング ビーは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていたが、一変して意を決したような表情を浮かべて戦場に目掛けて突撃したが、途中で急停止する。
「……あの恐ろしく強い大蜘蛛族が一方的に食われている!?」
(さきほど羽化したばかりだろ……)
キング ビーは信じられないといったような表情を浮かべている。
クイーン ホーネットは半壊したジャイアント スパイダーを生きたままバリバリと食っていたが、他のジャイアント スパイダーが怒りの形相で前脚の爪をクイーン ホーネットに振り下ろす。
だが、振り下ろされた前脚はクイーン ホーネットに食い千切られて、ジャイアント スパイダーの前脚はバリバリと食われて胃袋の中に消えた。
彼らの前脚の爪の攻撃は、全てクイーン ホーネットの巨大な大顎に切断されて食われているのだ。
ジャイアント スパイダーの群れは一斉に『強酸』を吐き、多量の液体がクイーン ホーネットに襲い掛かる。
だが、クイーン ホーネットは空に飛行して難なく躱し、密集していたジャイアント スパイダーの群れは多量の液体を浴びて身体が溶け落ちた。
ジャイアント スパイダーの群れは混乱したが、強酸を浴びていないジャイアント スパイダーたちが『強糸』を放ち、複数の糸がクイーン ホーネットの身体に絡みつく。
ジャイアント スパイダーたちは糸を引っ張って、クイーン ホーネットを引き寄せようとするがビクともしなかった。
逆にクイーン ホーネットが糸を引っ張り、引き寄せらたジャイアント スパイダーたちは頭からバリバリと食われる。
「強い……強すぎる……」
(わ、我らもいつかはこうなるのではないのか……)
キング ビーは顔が青ざめており、その身体はガタガタと震えていた。
「あのハイ ホーネットは盟約は成ったといっていたが本当なのだろうか? そもそも、こんな化け物を護る必要などあるのか……」
(護る必要のない魔物を渡されたということは最初から我らは餌ではないのか? 我は取り返しがつかないことをしてしまったのではないか……? だが、最早、後戻りはできはしない……)
キング ビーはジャイアント スパイダーの群れがクイーン ホーネットに次々に食われていくのを震えながら眺めていたのだった。
クイーン ホーネットは縄張りに戻ると、地面に穴を掘り地中へと消えていった。
巣を作るためだ。
しかし、クイーン ホーネットが選んだ場所は、森のエリアとビー種の縄張りの境目だった。
キング ビーは場所が悪いとクイーン ホーネットに説明したが、彼女は手出し無用と耳を貸さなかった。
彼は仕方ないので、クイーン ホーネットの巣を配下に遠巻きに見張らせている状況だ。
それから十日ほどが経過し、地下の巣からホーネット種が出てきた。
「どうやら卵が孵ったようだな。これで我も楽になる」
キング ビーは安堵の溜息を吐いた。
彼は魔物の死体をクイーン ホーネットの巣に運び込んでおり、彼だけが巣に入ることを許されていた。
だが、クイーン ホーネットは巣から離れて、単独で狩りに出るようになった。
これにはキング ビーも驚きを隠せなかった。
ビー種で言えば巣を作り卵を産んだクイーンは巣から動かないものだ。
そのため、攻め込まれないような場所に巣をつくるのである。
しかし、クイーン ホーネットは卵を放置して狩りに出る、それも何度もだ。
その間に巣を狙われたことは幾度もあり、キング ビーはそれを必死に阻止していた。
そんなクイーン ホーネットも北に狩りに行って一度だけだが、ボロボロになって帰ってきたことがあった。
北はクリケット種の縄張りだが、キリギリス系最強のハイ クリケット ヤブキリと戦い、戦闘はクイーン ホーネットが優勢だったが、そこにコオロギ系最強のハイ クリケット リオックが現れたのだ。
ハイ クリケット リオックの全長は十五メートルを超える巨体で、クイーン ホーネットは防御に徹するしかなく、半壊した体をヒールの魔法で回復しながら攻撃をしのぐしかなかった。
だが、そこにハイ ホーネットが率いる攻撃部隊が十隊ほど現れ、クイーン ホーネットはズタボロの体をヒールの魔法で回復させて戦場から離脱したのだった。
キング ビーはボロボロになって帰ってきたクイーン ホーネットを目の当たりにして、その理由を聞いて納得したのだった。
相手がクリケット種、しかも、最強のハイ クリケット リオックだからだ。
しかし、クイーン ホーネットは再び北に狩りに出かけた。
キング ビーはホーネット種というのは頭がおかしいのではないのかと絶句し、この種に絶対に逆らってはいけないと心から思ったのだった。
クイーン ホーネットが狩りを続けている間も、キング ビーは狩った魔物の死体を巣の前に供給し続けていた。
その献身的行為は、食い殺されたくないからという理由なのは言うまでもない。
キング ビーはあまりに必死だったため、普通は狩りの対象外である人族にも攻撃を仕掛け、大半は逃げられたが十人ほどは仕留めることができた。
彼は仕留めた人族をクイーン ホーネットに捧げたのだが、これが失敗で彼女は「美味い」と人族を所望するようになったのだ。
クイーン ホーネットは配下の数が百を超えても、自ら狩りに赴いていた。
彼女が単独で狩りに出る場合、北か南に狩りに出るのだが、配下を率いる場合は西の森のエリアで全軍で狩りをしていた。
その度にキング ビーは巣にある卵を必死に守らねばならなかった。
そして、さらに二十日が経過する。
ホーネット種の総数は五百を超え、その内百匹ほどが通常種に進化していた。
巣は十部屋に拡張されており、丸見えだった巣の出入り口は塞がれて丸型に変わっていた。
「あれほど狩りに出ていたクイーン ホーネットが巣から出てきていない……何かあったのか?」
キング ビーは訝しげな目でクイーン ホーネットの巣を眺めていた。
さらに二日が経過し、キング ビーはクイーン ホーネットの巣の前にいた。
巣の前には五十匹ほどの下位種が守りについており、彼は勝手に入ることもできずに途方に暮れていた。
すると、巣から通常種が続々と姿を現し、最後に出てきた魔物は氷細工のような美しいホーネット種だった。
突然変異で産まれたフロスト ホーネットである。
全長は二メートルほどで、氷のようなボディに真っ白な毛が生えてモフモフなのだ。
ステータスはハイ ホーネットと同じぐらいだが、魔法に特化した個体だ。
「う、美しい……なんてキレイな魔物なのだ」
キング ビーは感嘆の声を漏らす。
「なるほどな……あの個体が産まれたから、クイーン ホーネットが姿を現さなくなったのだな」
フロスト ホーネットは百匹ほどのホーネットを従えて狩りに出て行った。
更に二十日が経過していた。
「西の魔物を攻撃せよ」
キング ビーが命令を発すると、ロード ビーたちは手下を率いて西の方角に進軍した。
現在、フロスト ホーネットたちが森のエリアに頻繁に狩りに出るので、森のエリアからの進行は止まり、逆に押し返している状況だ。
そのため、今までは縄張りに進入してきた魔物を迎撃するだけで手一杯だったビー種が、攻撃に転ずる余力ができていた。
「クイーン ホーネットはこうなることを想定し、エリアの境目に巣を作ったのだな……」
キング ビーは感心したような表情を浮かべている。
「……こうなると、フロスト ホーネットたちの練兵が終われば、彼らは北か南に進行する可能性が高い」
(近い将来、あの凶悪な上位種が誕生するのか……)
キング ビーは恐怖に顔を歪めて震えだす。
すでに四メートルほどまで巨大化している個体も存在し、現在、フロスト ホーネットが率いている数は五百を超えるのだ。
これだけの数が狩りに出ているにもかかわらず、ホーネット種の巣から多数のレッサー ホーネットが出入りを繰り返しており、フロスト ホーネットたちが狩った魔物を巣へ運び込んでいるのである。
最早、巣の規模も兵の数もキング ビーにも分からなかった。
キング ビーはフロスト ホーネットの練兵がどのようなものか興味があり、一度だけ狩りに同行したことがあるが、その練兵は効率的で一方的な虐殺だった。
フロスト ホーネットが率いている数は、通常種が三百、下位種が二百だが、その二百は四方に飛び回って索敵に終始する。
その索敵情報を元に彼らは移動し、空からターゲットに対し『毒針』の一斉攻撃を放ち、ほぼこの一撃でターゲットは壊滅する。
フロスト ホーネットは敵の数が少なければ育てている百ほどの通常種だけに攻撃させて、彼らのレベルを上げていた。
殺した魔物の死体は『以心伝心』で巣に伝わり、回収のためにレッサー ホーネットが巣から飛び立つのだ。
「見事なものですな……」
(だが、通常種が三百もいるのであれば、百の部隊を三つ編成したほうがもっと効率がいいのではないのか?)
キング ビーは考え込むような表情を浮かべていたが、結局、何も言わなかった。
だが、ウルフ種との戦いで彼は考えを改めることになる。
ハイ ウルフが率いるウルフ種二百匹ほどの群れと、フロスト ホーネットたちが戦闘になり、ハイ ウルフは『威圧』を放ち、ホーネット種は萎縮して動きが止まる。
これに対してフロスト ホーネットは瞬時に対応して『威圧』を返し、ウルフ種も萎縮して動きが止まり、群れを率いる頭同士の戦いに移行する。
ハイ ウルフはシールドの魔法を唱えて、自身の前に透明の盾が展開して防御を上げるが、フロスト ホーネットはエナジー ドレインの魔法を唱えた。
抵抗に失敗したハイ ウルフはレベルが下がって弱体化し、逆に経験値を吸収したフロスト ホーネットはレベルが上がる。
ハイ ウルフは力を奪われたことに気付いておらず、ウインドの魔法を唱えて、風の刃がフロスト ホーネットに直撃するが『魔法耐性』により、無効化される。
フロスト ホーネットはさらにエナジー ドレインの魔法を唱え、抵抗に失敗したハイ ウルフはレベルが下がって弱体化してウルフに退化した。
それを目の当たりにしたウルフ種の群れの顔が驚愕に染まる。
フロスト ホーネットは満足げな笑みを浮かべており、空に飛び上がると同時にホーネット種の『毒針』の一斉攻撃が降り注ぎ、ウルフに退化した元ハイ ウルフは、ウルフ種と共に力尽きたのだった。
「頭同士の戦いに引きずり込まれたはずなのに、終わってみれば無傷な上に一方的な勝利か……」
(分隊しないのはこういうケースが生じることも想定しているのだろうな……)
キング ビーは戦慄を覚えていた。
(フロスト ホーネット殿の戦術は兵を一兵も落とすつもりがないように思える……仮にこれが成り立つのであれば今までの常識は根本から覆るのではないか?)
キング ビーは難しそうな表情を浮かべていた。
実際、キング ビーもクイーン ホーネットも、戦闘自体を配下に任せて強い者だけが生き残ればいいと考えており、クイーン ホーネットが産んだ卵を放置して狩りに出ていたのもそのためだ。
「下位種から通常種に至るまでの割合を考えたことはおありか?」
キング ビーは神妙な面持ちでフロスト ホーネットに尋ねる。
「……これは私の見解ですが、一割を切ると思いますよ」
「なっ!?」
(やはり理解しているのか!?)
キング ビーは雷に打たれたように顔色を変える。
「ですが、通常種から上位種に至るほうが遥かに酷い。千匹に対して一匹いるかどうかなのですよ。けれども、今後は違う。私が変えますから」
フロスト ホーネットは瞳に強い決意を滲ませている。
「……」
(そこまで見据えているのか……)
キング ビーは大きく目を見張って絶句したのだった。
さらにに二十日が経過する。
森のエリアの上空では、ハイ ホーネットが率いる通常種三百匹と下位種二百匹が一方的な殺戮を繰り返していた。
ホーネット種は森のエリアを抜け、アント種の縄張りにまで進出しているのだ。
一方、フロスト ホーネットは上位種五匹、通常種八百匹、下位種二百匹を率いて、北のクリケット種の縄張りの上空にいた。
彼はグラスホッパー種、クリケット種に攻撃を絞っており、下位種たちに周辺を索敵させ、最強であるヤブキリ種とリオック種との戦いを避けていた。
すると、下位種から『以心伝心』により、警戒を伝える思念がフロスト ホーネットに飛んできた。
しかし、フロスト ホーネットは動かない。
前方から接近する大群も空を飛行しており、その数は五千匹を超える大群だ。
その正体は雀蜂族の部隊で、百匹を超える上位種と五千匹を超える通常種の攻撃部隊である。
千対五千が正面から対峙する構図になる。
「偽者は壮健か?」
「はい、今は拠点から動いておりません」
百を超える上位種の一番前にいるハイ ホーネットは、フロスト ホーネットの前まで飛行して、射抜くような鋭い眼光をフロスト ホーネットに向ける。
「ぐっ……」
(なんて威圧感だ……上位種はこれほど高みまで登れるものなのか……)
フロスト ホーネットは顔を顰めた。
だが、何よりも圧倒的な存在感を醸し出しているのが、この部隊を率いている者の存在だった。
漆黒色のカース ホーネットである。
その姿はまるで闇そのものの様な存在で、フロスト ホーネットはその洗練された美しい姿に感嘆の声を上げそうになって慌てて押し留める。
ちなみに、これは雀蜂族の感想であり、他の魔物ならなんて凶悪で禍々しい存在なんだと震え上がるだろう。
「よくこの短期間でそれほどの兵を育てたものだ。だが、線が細い……」
「!?」
フロスト ホーネットは不可解そうな顔をした。
(いや、私のことを言っているのではない……彼の目は私の配下である上位種たちに向けられている)
フロスト ホーネットは目の前にいるハイ ホーネットと、自身の配下である上位種を見比べると根本的な大きさが違った。
(つまり、己の力だけでのし上がってきた者たちと安全な手段で上位種に至った者たちの違いを言っているのか? だとすれば、自分のやり方では目の前の上位種のような規格外な存在は育たないということなのか?)
フロスト ホーネットは考え込むような顔をした。
(少なくとも、魔法や能力に絞っていえば資質を除けば状況や感情で目覚めることもあるらしく、そう考えると私のやり方は感情の起伏は少なく状況も安定している場合が多く、新たな魔法や能力の目覚めには不向きかもしれない……だが、結局はクイーン ホーネットが最高戦力であるカース ホーネットを産めば変わらないのではないか? しかし、そもそもカーズ ホーネットは産まれるのか? いや、それは分からない……産まれる条件があると仮定すると、目の前のような規格外な存在が呼び水になるのではないか? それでは兵を二つに分けてみるか? 私が指揮する部隊と従来どおりのやり方の部隊にだ……しかし、それでは命令系統が二本になり、それはゆくゆく混乱の元になるのではないか?)
フロスト ホーネットは幾重にも思考が巡り、迷いが生じていたが、クイーン ホーネットに最強の部隊を作ると明言したことを思い出す。
(ここでブレてしまえば、そもそも自分を信じられなくなるのではないのか……? ならば自分が想い描く最強を目指す!!)
フロスト ホーネットは瞳に強い決意を滲ませた。
「ほう……我を通すか」
「はっ」
フロスト ホーネットの返答にハイ ホーネットはうすく笑みを浮かべた。
「ここへはクリケット種を滅ぼしにこられたのでしょうか?」
「いや、女王が不穏な気配を感じると言っていたので見回りだ」
「……なるほど」
「だが、その女王は今は蛹だがな」
「なっ!?」
フロスト ホーネットは目を見張る。
だが、彼は自分たちのクイーンが予備であることは知っており、そこから推測すると三匹目のクイーンが蛹というのは考え難く、蛹に逆変態したのだという考えに至った。
「本来、お前たちの偽者は我々の拠点で育つはずだったのだ」
「しかし、クイーン ホーネットが逆変態したので二分することにしたということですね」
「ほう……理解が早いな」
「ですが、逆変態は可能なのですか?」
「女王はできるといっていたが確証はない。しかし、羽化しなくてもお前たちと合流するつもりはない」
「……なるほど、結局は本隊のクイーン ホーネット次第ということですね」
つまり、本隊のクイーン ホーネットが羽化しなければ本隊はいずれは滅ぶが、本隊のクイーン ホーネットが羽化した場合、フロスト ホーネットたちは新天地を探さねばならないのだ。
本隊と戦って勝てるわけがないからだ。
「女王の予感は外れたことがない。お前たちも警戒は怠るなよ」
「はっ」
本隊は南下し、フロスト ホーネットたちはそれを見送ったのだった。
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フロスト ホーネット レベル1 全長約2メートル
HP 2000~
MP 1000
攻撃力 650
守備力 400
素早さ 300
魔法 ウインド シールド ポイズン スロー マジックシールド ヒール
ブリザー ウォーター マジックドレイン エナジードレイン
能力 統率 以心伝心 毒針 毒霧 毒牙 威圧 豪食 強力 猛毒 風のブレス
毒耐性 物理耐性 魔法耐性 能力耐性 氷のブレス 水のブレス




