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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
鉱山 採掘編

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65/310

65 ハーヴェン


 シルルンたちは険しい山道を抜けて、東のエリアに到着した。


 東のエリアの直径は、他のエリアと同様に五十キロメートルほどだが、身の丈を超える草が鬱蒼と茂って視界が悪かった。


「ボス!! このエリアの北の方角に上層に繋がるルートがあるぜ」


 偵察に出ていた男盗賊たちがシルルンに報告した。


「へぇ、そうなんだ」


 (北に上層があるなら採掘しに来た人たちは避けるだろうから掘るなら北東一択だね)


 シルルンは自信ありげな表情を浮かべている。


 そこに単独で偵察に出ていたリジルが戻ってきた。


「ボス……前に出くわしたハイ ライオンが、タイガー種の群れと交戦してるのよ……」


 リジルは嫌そうな顔で言った。


「ええ~~~~~~~っ!! マジで!? やっとホーネット種の巣の前を通過できたのに、今度はタイガー種と出くわすなんて最悪だよ!!」


 シルルンはうんざりしたような顔をしながら『魔物探知』で周辺を探った。


 すると、ハイ ライオンとタイガー種の群れを捉えると同時に、彼の『危険探知』が激しい警鐘を鳴らしていた。


「う~ん……ヤバ過ぎるから遠回りして回避するよ」


 しかし、三匹の魔物が凄まじい速さで戦いを繰り広げながら、シルルンたちの方に向かって突っ込んできた。


「ひ、ひぃいいいいいぃ!? なんでだよ!?」


 シルルンは驚きのあまり血相を変える。


 仲間たちも恐怖に顔を歪めて、金縛りにあったように動くことすらできなかった。



 


















 二匹のハイ タイガーは攻撃を止めて、ハイ ライオンと対峙した。


「いつも群れているお前らがたった一匹で何しにきたんだ」


「群れに見捨てられたのか?」


 ハイ タイガーたちが小馬鹿にした様子でニタニタと笑った。


「今群れているお前らに言われても説得力がないな……」


 ハイ ライオンは失笑した。


「な、なんだと!? いつも群れているのはお前らのほうだろが!!」


「ちっ、挑発に乗るな」


「ほう、一匹は頭が悪いが、もう一匹はまともなようだな」


 ハイ ライオンは意外そうな顔をした。


 実際、動物の世界での獅子はプライドという群れを形成しているが、虎は単独行動が基本だ。


 彼らの行動が逆になっているのには、それぞれに理由がある。


 タイガー種はこのエリアの大半を支配しているが、縄張りを持つことができるのは上位種のみだ。


 すでに縄張りは、多数の上位種が支配している状態で、新たに上位種に進化した個体たちには縄張りがなかった。


 そのため、縄張りを持つには奪うしかなかったが、それは容易なことではない。


 だが、一匹の上位種が西のエリアに進出し、遭遇した魔物たちや冒険者たちを皆殺しにしたのだ。


 誰もハイ タイガーを止めることはできなかったのだ。


 調子に乗ったハイ タイガーは上層に繋がるルートを登り、上層に到着したがそこはライオン種の縄張りだった。


 ハイ タイガーはライオン種の群れに襲われ、命からがら逃げ出した。


 これを知った縄張りを持つことができないハイ タイガーたちは面白がり、腕試しも兼ねて一時的に群れをなし、ライオン種の縄張りに攻め込むようになったのが始まりだった。


 一方、群れで行動するライオン種が単独で、上層から中層に下りてきた理由は二つあった。


 このハイ ライオンの名前はハーヴェンという。


 ハーヴェンはここから北西にある上層から中層に下りてきた。


 ライオン種が支配する上層のエリアの広さは直径百キロメートルほどで、彼はその三分の一ほどを支配していた群れのリーダーだった。


 しかし、そんな彼にとって思いもよらぬ事態が発生する。


 敵対関係だったハイ ライオンが殺されたのだ。


 長きに渡って彼と争っていた唯一のハイ ライオンであり、ある意味、彼の戦友ともいえる存在だった。


 名前はベホルソン。


 ベホルソンの首をくわえたハイ ライオンのメスが、ハーヴェンの元に現れたことで事態が発覚した。


 ハーヴェンはベホルソンが誰にられたのか、ハイ ライオンのメスに聞いてみると意外な答えが返ってきた。


 ベホルソンを殺したのはタイガー種だったのだ。


 ベホルソンの死体の近くに、タイガー種たちの死体が転がっていたからだ。


 ベホルソンが殺されて数日が経過し、ハーヴェンはベホルソンを殺したハイ タイガーを殺すため、支配していた縄張りを自身の子供に譲り渡した。


 本来なら、プライドに似た群れを形成するライオン種の縄張りには上位種の子供はいない。


 だが、ハーヴェンは子供が上位種に進化しても縄張りから追い出さず、それどころか子供たちを可愛がり鍛え上げていた。


 そのため、彼の縄張りには多数の上位種が存在していた。


 そして、もう一つの理由は、彼が遥か昔に覚えがある嫌な気配を感じたからだ。


 ハーヴェンは『気配探知』を所持しており、全ての気配を感じ取れるのだ。


 その探知範囲は異常で、四百キロメートルにも及ぶ。


 彼は嫌な気配の正体は、遥か昔に戦ったハイ ファイヤー エレメンタルに似ていると考えていた。


 数百年前にエレメンタル種同士の上層エリアの奪い合いによる戦争が勃発し、戦いは中層、上層を巻き込む全面戦争になってハーヴェンも戦ったのだ。


 戦いに敗れたハイ ファイヤー エレメンタルは中層から姿を消したが、力を蓄えて戻ってきたとハーヴェンは睨んでおり、中層に下りて確かめなければならないと考えていた。


「あぁ? どうした?」


 頭の悪いハイ タイガーは怪訝な顔をした。


 タイガー種の群れがハイ タイガーたちの後ろまで移動しており、頭の悪いハイ タイガーに話し掛けている。


「何? 人族がいるから食いたいだと?」


 頭の悪いハイ タイガーは周辺を見渡した。


 すると、人族たちを発見し、彼らは戦いに夢中で人族の存在に気づいていなかったのだ。


「……好きにしろ」


 頭の悪いハイ タイガーは不機嫌そうに言った。


 ハイ タイガーたちは凄まじい速さでハーヴェンに目掛けて突撃し、再び二対一の戦いが始まったのだった。
















 タイガー種の群れがシルルンたちに向きを変えて、ゆっくりと近づいてくる。


 そして、四匹のタイガー種がシルルンたちに目掛けて突撃した。


「ひぃいいいいぃ!? 通常種だけど強い上位種クラスのステータスだよ!!」


 シルルンは『魔物解析』で四匹のタイガー種を視て、驚きの表情を見せた。


 タイガーの攻撃力は九百を超えており、『強力』を反映させると千三百を超えるのだ。


「なっ!?」


 仲間たちは驚きのあまり血相を変える。


「これは僕ちゃんとラーネしか無理だよ……」


 シルルンは意を決してタイガーたちに向かって突撃し、薄い青色のミスリルの弓で狙いを定めて風の刃を連発した。


 無数の風の刃が二匹のタイガーの頭と胴体を貫通し、二匹のタイガーは血飛沫を上げて地面に転がり、動かなくなった。


 ラーネも『瞬間移動』でタイガーたちの傍に出現しており、タイガーたちは虚を衝かれたような顔をした。


 ラーネは瞬く間に鉄の剣でタイガーたちの首を斬り落とし、タイガーたちは胴体から血を噴出させて即死した。


「……」


 この光景を目の当たりにした仲間たちは、呆然として身じろぎもしない。


 だが、彼らの士気は著しく向上していた。


 通常種の死に様に、タイガー種の群れは一瞬だけ怯んだが、すぐに冷静さを取り戻してシルルンたちに目掛けて突撃した。


 タイガー種は全てが下位種で、数は十匹だ。


 レッサー タイガーの攻撃力は『強力』を反映させると六百を超えており、数値的には上位種並だ。


 レッサー タイガーたちはシルルンとラーネの横を通り抜けて、仲間たちに向かって突っ込んでいく。


「望むところよ!! 一番左は私がやるわ!!」


 リザは一番左のレッサー タイガーに向かって突進した。


「それでは私はその隣を狙います」


 ラフィーネがリザの後を追いかけて突撃した。


「むふぅ、じゃあ、私はその隣をやるぅ」


 ヴァルラは空になった酒の容器を勢い良く空に投げ捨てて、ラフィーネの後を追いかけた。


「私たちもいくわよ」


「無論だ」


 アキとゼフドも走り出す。


「私も迎撃に出ます」


 ブラが隊の仲間たちに宣言し、副リーダーのソニアは頷いて、ブラは駆け出した。


 指揮を任されたソニアは、ブラとは対照的で攻撃的な指揮を執る。


「隊を三つに分けて私たちも突撃するわよ!」


「残る一匹はどうすんだ?」


 格闘家のジルが訝しげな眼差しをソニアに向ける


「私が差しで戦ってる間はあなたたちに任せるわ」


「マジかよ……しゃあねぇなぁ!!」


 ジルは不敵に笑った。


 ソニアたちは瞬時に三つに分かれて、レッサー タイガーたちに突撃した。


「三隊に分かれたようね。残りの一匹はどうするんだろう……」


 リジルは不安そうな表情を浮かべている。


「……こっちにくるかもな」


 アミラは顔を顰めて、メイや元娼婦たちを庇うように前に出た。


「えっ!? こっちにくるの?」


 元娼婦たちの顔が恐怖で蒼くなる。


「タマ、マル、キュウ、突撃よ」 


「えっ!? 行くのか嬢ちゃん?」


 男盗賊は面食らったような顔をした。


「むっ、だって一匹余るじゃない」


「そ、そうだな……」


 男盗賊は複雑そうな表情を浮かべている。


 ビビィが状況を把握していることもそうだが、何よりもレッサー コックローチに瀕死な目に遭わされたにもかかわらず、平然と戦えるビビィの不屈な心に彼は動揺を隠しきれなかった。


 ビビィはタマたちを率いて、レッサー タイガーに目がけて突撃した。


 リザは一番左のレッサー タイガーに凄まじい速さで突っ込んで、一瞬でレッサー タイガーに肉薄した。


 レッサー タイガーは前脚の爪を振り下ろしたが、リザは前脚の爪を紙一重で左に避けると同時に二段回転斬りを放ち、レッサー タイガーの首と胴体が切断され、レッサー タイガーは血飛沫を上げて即死した。


「……まずまずね」


 リザは強く拳を握り締めた。


 基本的に通常種と互角に戦えるのは、戦士系上級職以上と言われている。


 だが、彼女は下級職なのにもかかわらず、上位種と遜色ない強さのレッサー タイガーを圧倒した。


 これはリザの資質の高さとレベル三十を超えていることが合わさった結果だった。


 彼女は大穴攻略戦後に上級職の剣豪に転職しようと、トーナの街の転職の神殿を訪れたが、剣豪に転職することができなかった。


 転職は能力と同様に資質が大きく関係しており、リザは一生転職できない可能性もある。


 下級職でもレベルが上がれば強くはなるが、レベル三十以上からはステータスがほとんど上がらないというのが通説だ。


 そのため、彼女は急激な速度で強くなるシルルンを意識して焦りを覚えていた。


 リザは隣で戦っているラフィーネに視線を向けた。


 すると、ラフィーネは凄まじい速さでレッサー タイガーに突っ込んで、レッサー タイガーと交差した。


 ラフィーネが振り返ると、レッサー タイガーの首がズレ落ちて、レッサー タイガーは胴体から血を噴出させて即死した。


「やっぱり、ラフィーネは強いわね……」


 (レベルが上がればもっと強くなるでしょうね)


 リザは難しそうな顔をした。


 酒を飲んでいたヴェルラはふらふらした足取りでレッサー タイガーに向かって歩いており、レッサー タイガーは凄まじい速さでヴェルラに飛び掛った。


 だが、ヴェルラの右のパンチが一閃。


 レッサー タイガーの顔面にヴァルラの右の拳がカウンターで突き刺さり、レッサー タイガーの顔面は砕け散ってレッサー タイガーは胴体から血を噴出して力尽きた。


「むふぅ、いいのが入ったぁ」


 ヴァルラは満足そうな表情で、仲間たちの元に千鳥足で戻っていく。


 アキとゼフド、少し遅れてブラがレッサー タイガーたちに突撃する。


 レッサー タイガーは凄まじい速さでアキに目掛けて突っ込んで前脚の爪を振り下ろしたが、アキは前脚の爪を躱しながら二本の剣で連撃を叩き込んで両者は突き抜けた。


 振り返ったアキはウォーターの魔法を唱えて、水の刃がレッサー タイガーの胴体を切り裂いて、レッサー タイガーの身体中から血飛沫が上がる。


 レッサー タイガーはブリザーの魔法を唱えて、冷気がアキに襲い掛かるが、アキはウォーターの魔法を唱え、水の刃が冷気に衝突して魔法は相殺される。


 アキは身を翻して逃走し、レッサー タイガーはアキを追いかけるが、アキが振り返ってウォーターの魔法を唱えて、水の刃がレッサー タイガーに襲い掛かる。


 レッサー タイガーは横に跳躍して水の刃を回避したが、アキはすでに遠くに逃げていた。


 怒りの形相のレッサー タイガーは、凄まじい速さでアキを追いかけて距離はどんどん縮まっていく。


 これまでの六人の中でアキのステータスは一番低く、レッサー タイガーにも劣っていた。


 だが、アキはレッサー タイガーに追いつかれる瞬間に反転し、狙い澄ました剣の一撃を放って完全に虚をつかれたレッサー タイガーは、首を刎ねられて胴体から大量の血を噴出して即死した。


 ゼフドは凄まじい速さで突っ込んでくるレッサー タイガーを待ち構えており、レッサー タイガーはゼフドに目掛けて飛び掛かった。


「……遅い!!」


 ゼフドは鋼の大剣を振り下ろし、レッサー タイガーは一刀両断され、体が二つに分かれて血飛沫を上げて即死した。


「……俺もまだまだだな」


 ゼフドは胸から血が滴り落ちており、レッサー タイガーの前脚の爪をくらいながらの一撃だったのだ。


 ブラは襲い掛かってきたレッサー タイガーの前脚の爪を躱しながら『斬撃』を放ち、風を纏った剣に右の前脚を斬り落とされたレッサー タイガーは胴体から血を垂れ流しているが全く怯んでいなかった。


 レッサー タイガーは左の前脚の爪で攻撃するが、ブラは『斬撃』を放ち、風を纏った剣で左の前脚を斬り落とした。


 この時点で『回避』を所持する剣豪に攻撃を当てるのは難しく勝機はないのだが、レッサー タイガーはブリザーの魔法を唱えて、冷気がブラに襲い掛かる。


 ブラは冷気を難なく躱したが、レッサー タイガーは顔と体で地面を這ってブラに接近する。


「……」


 恐怖に顔を歪めるブラは剣でレッサー タイガーの首を刎ねたのだった。


 三つに分かれたブラ隊に対して、レッサー タイガーたちが襲い掛かる。


 しかし、重戦士たちが盾でレッサー タイガーたちの攻撃を受け止めた。


 レッサー タイガーの攻撃力は六百を軽く超えているが、『堅守』を所持するブラ隊の重戦士たちの守備力も六百を超えていた。


 そのため、重戦士たちがレッサー タイガーたちの攻撃で、大きなダメージを受けることはなかった。


 剣豪たちや格闘家たちはレッサー タイガーの攻撃後の隙を見逃さず、一斉に襲い掛かってレッサー タイガーは防戦一方だ。


 これを見届けたソニアは踵を返して、メイたちの方に向かったレッサー タイガーに視線を向けた。


 すると、ビビィ隊がレッサー タイガーに向かって突撃しており、ソニアは大きく目を見張った。


 彼女は遊撃であるビビィ隊に加わってもいいのか判断がつかず、まずはレッサー タイガーたちを倒すことに専念しようと決めたのだった。


 マルとキュウはレッサー タイガーに向かって突撃しており、レッサー タイガーは凄まじい速さで突っ込んで前脚の爪をマルに振り下ろした。


 だが、レッサー タイガーの攻撃力をもってしてもマルにダメージを与えることはできなった。


 マルたちは『鉄壁』を所持しており、その守備力は八百を超えているからだ。


「ウォーター!」


 タマに乗ったビビィが遠距離からウォーターの魔法を唱え、水の刃がレッサー タイガーに直撃し、レッサー タイガーは胴体を切り裂かれて血飛沫が上がる。


 怒りの形相のレッサー タイガーは凄まじい速さでビビィに目掛けて突撃した。


「むっ、スリープ!!」


 ビビィはスリープの魔法を唱え、黄色の風がレッサー タイガーを突き抜けたが、レッサー タイガーは魔法の抵抗に成功してそのままの勢いで突撃する。


 彼女のスリープの魔法の成功率は五十パーセントほどしかなく、タマは唐突に背中に乗っているビビィを地面に落とした。


「むっ!? なんで?」


 ビビィは困惑したような表情を浮かべている。


 すると、タマはビビィに覆いかぶさり、ビビィを包み込んで丸くなった。


 彼はマスターであるシルルンに、ビビィを守ってくれと言われていたにもかかわらず、レッサー コックローチにビビィが瀕死にさせられたことを忘れていなかった。


 そのため、彼は考えに考えてビビィを包み込むことで守るという答えに至ったのだ。


 レッサー タイガーは前脚の爪を振り下ろし、前脚の爪がタマに直撃するがタマは無傷でビビィも無事だ。


 その結果にタマは満足そうな笑みを浮かべた。


 レッサー タイガーは前脚の爪の連撃を放つが、タマに有効なダメージを与えることはできなかった。


「えっ!? ビビィが戦ってる……」


 レッサー タイガーたちを倒して、メイたちの元に向かう途中のブラたちが驚きの表情を見せた。


「あれ? なんでビビィが戦ってるのよ?」


 リザたちも集まってきて、リザは顔を顰めた。


「あのレッサー タイガーは私が倒すつもりだったんだが、ビビィに先を越されてどうしたらいいのか分からなくなった……」


 ソニアはバツが悪そうに目をそらした。


「……」


 仲間たちの視線がソニアに集中したが、誰も何も発することはなく、仲間たちはビビィの戦いを静観するのだった。

 

 レッサー タイガーはタマを攻撃することに夢中だが、二手に分かれたマルとキュウは丸くなって、左右からレッサー タイガーに体当たりを叩き込んだ。


 挟み込まれて力の逃げ場がない攻撃を受けたレッサー タイガーはふらついていたが、反転してマルに襲い掛かった。


 レッサー タイガーは牙でマルに噛み付いたが、マルにダメージはなく、マルたちも反撃するが互いにダメージを与えられない攻防が続く。


 タマはこの様子を冷静に観察しており、後方に転がってレッサー タイガーから距離を取った。


 しかし、マルたちを攻撃するレッサー タイガーは訝しげな表情を浮かべていた。


 彼はどんな敵でも自分が攻撃すれば死ぬはずだと思っていた。


 これまでがそうだったからだ。


 だが、目の前の敵はどんなに攻撃しても死ぬ気配がなく、それが彼に冷静さを取り戻させた。


 タイガー種は単独行動を好むが、それでも生き抜いていけるということは学習能力が高い証なのだ。


 レッサー タイガーはブリザーの魔法を唱え、冷気がマルに直撃し、マルは凍りついて動きが止まる。


 ピルパグ種は物理攻撃には異常に強いが、魔法攻撃には脆かった。


 キュウは突撃してレッサー タイガーに体当たりを叩き込むが、レッサー タイガーは構わずにブリザーの魔法を唱え、冷気がマルに直撃して凍りついている箇所がさらに広がる。


 タマは丸い形から通常の形に戻り、ビビィを地面に下ろしたが、ビビィは目が回ってふらふらしながらタマの背に乗った。


「むっ、ウォーター!!」


 ビビィはウォーターの魔法を唱え、水の刃がレッサー タイガーを切り裂き、ビビィがタマから降りてタマの中に隠れようとした。


「えっ!? なんで!?」


 ビビィは驚きのあまりに血相を変える。


 レッサー タイガーが動かないからだ。


 レッサー タイガーはブリザーの魔法を唱えて、冷気がマルに直撃してマルがさらに凍りつく。


「……」


 (い、痛いの……でも、頑張るの頑張るの……)


 マルは苦痛に顔を歪めて必死に耐えていた。


 キュウは何度もレッサー タイガーに体当たりを叩き込むが、レッサー タイガーは一向に構わない様子だ。


「こ、こっちよ!! ウォーター!!」


 ビビィはウォーターの魔法を唱え、水の刃がレッサー タイガーを切り裂くが、レッサー タイガーはブリザーの魔法を唱えて、冷気がマルに直撃する。


「ウォーター!!」


 ビビィはウォーターの魔法を唱え、水の刃がレッサー タイガーの胴体を切り裂いて血飛沫が上がるが、レッサー タイガーは反転しない。


 レッサー タイガーはブリザーの魔法を唱えて、冷気がマルに直撃し、マルは身体全体が凍りついた。


「……なぁ、ヤバくないかこれ?」


 格闘家のジルは不安そうな表情で呟いた。


「……」


 (あれだけ魔法を受ければ、あのダンゴムシの魔物はすでに死んでいるのではないか……)


 ソニアは押し黙って固く唇を噛みしめた。


 彼女はこの期に及んでも、どうすればいいのか判断できないでいた。


「何やってるのよビビィ!!」


 リザは怒りの形相で叫んだ。


 彼女はビビィがタマたちを指揮をしているわけではないことを知っているが、このままではマルが死んでしまうので怒りを爆発させて走り出した。

 

 その様子をソニアは驚いたような顔で見つめていた。


「なんでよ!? アンチマジック!」


 ビビィはアンチマジックの魔法を唱え、灰色の霧がレッサー タイガーを包んだが、レッサー タイガーは魔法の抵抗に成功する。


 焦りの表情を浮かべたビビィは、タマから降りてレッサー タイガーに目掛けて走り出した。


 レッサー タイガーはマルとの距離を一気につめて前脚の爪を振るい、直撃したマルの凍りついた装甲は砕け散り、体内部も破壊されてマルは目から光が消えた。


「……」


 (マ、マスター……わ、わたし、がんばったの……)


 マルの意識が途絶え、レッサー タイガーがマルに止めを刺そうと前脚の爪を振り下ろす。


「このぉ!! スリープ!!」


 猛然と走るビビィは近距離からスリープの魔法を唱え、黄色の風がレッサー タイガーを貫いたが、レッサー タイガーは魔法の抵抗に成功する。


 ビビィは再びスリープの魔法を唱えようとするが、今までどんなに魔法を放っても気にもとめなかったレッサー タイガーが反転した。


 彼はこの時を待っていたのだ。


 虫の魔物を攻撃し続ければ、人族の女が近づいてくると彼は直感で感じとり、今まで耐えに耐えていたのだ。


 怒りを爆発させたレッサー タイガーは凄まじい速さでビビィに突撃する。


 しかし、タマはビビィを追いかけており、ビビィに覆いかぶさろうとするが、レッサー タイガーに体当たりされてタマは吹っ飛んだ。


 キュウはレッサー タイガーに突撃するが鈍足なので間に合わず、リザも凄まじい速さで駆けているが間に合わない。


 レッサー タイガーは凶悪な牙を剥き出しにして凄まじい速さでビビィに飛び掛かり、ビビィは怯まずにスリープの魔法を唱えようとするが、レッサー タイガーのほうが早く、ビビィの首元にレッサー タイガーの凶悪な牙が迫る。


 だが、レッサー タイガーは唐突に爆発に巻き込まれた。


 上空から白い物体が落下してきて、地面から二メートルほどのところでピタッと止まり、そのまま浮いている。


「プ、プニ!?」


 ビビィの顔が驚愕に染まる。


 プニが上空からエクスプロージョンの魔法を唱えて、ビビィの窮地を救ったのだ。


 シルルンはタイガーたちを倒した後、ビビィが動いたことを『魔物探知』で知っていたのだ。


 そのため、彼はプルを応援に出そうとしたが、プルは「痛いの嫌デス」とハイ スコーピオンから受けた『毒のブレス』で死にかけたのを怖がっていた。


 彼はラーネを応援に出そうかと迷っていたら、普段はシルルンから離れないプニが「行くデシ」と言い出した。


 これにより、プニが今、ここにいるのだった。


「マルを助けて!!」 


 ビビィは目に涙を浮かべてプニに駆け寄って金切り声を上げた。


 プニは『浮遊』でふわふわと飛びながら、風前の灯のマルの傍に移動した。


「ヒールデシ!!」


 プニはヒールの魔法を唱え、半壊したマルの装甲が一瞬で復元し、体力も全快したがマルの意識はない。


 ビビィはマルに駆け寄って抱きつき、ビビィの顔に虚脱したような安堵の色が浮かんだ。


 瀕死のレッサー タイガーは起き上がり、その足取りはフラフラとしていた。


 彼は何が起こったのか分からずに、辺りを見回して困惑していた。


 プニはレッサー タイガーに向き直る。


「エクスプロージョンデシ!!」


 プニはエクスプロージョンの魔法を唱え、光り輝く球体がレッサー タイガーに直撃し、先ほど上空から放ったエクスプロージョンの魔法とは比較にならない規模の爆発が起こり、レッサー タイガーは一瞬で蒸発して消滅した。


 プニが上空から放ったエクスプロージョンの魔法は、近くにビビィがいたのでプニは加減していたのだ。


「な、なんて威力なのよ……」


 リザは雷に打たれたように顔色を変える。


 彼女は走るのを止めて、これを目の当たりにしたブラたちも放心したような表情を浮かべていたが、ラフィーネだけはうっとりと顔を高潮させてプニを見つめていた。


「戻るデシ」


 プニは『浮遊』で上昇し、シルルンの元に戻って行ったのだった。


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レッサー タイガー レベル1 全長約2メートル

HP 400~

MP 100

攻撃力 350

守備力 120

素早さ 230

魔法 ブリザー

能力 統率 威圧 強力



レッサー タイガー レベル15 全長約2メートル

HP 600~

MP 200

攻撃力 450

守備力 210

素早さ 290

魔法 ブリザー

能力 統率 威圧 強力



タイガー レベル1 全長約4メートル

HP 800~

MP 200

攻撃力 610

守備力 250

素早さ 320

魔法 ブリザー ウインド

能力 統率 威圧 強力



タイガー レベル15 全長約4メートル

HP 1100~

MP 400

攻撃力 910

守備力 350

素早さ 470

魔法 ブリザー ウインド

能力 統率 威圧 強力



レッサー タイガーの牙 50万円

タイガーの牙 300万円


レッサー タイガーの毛皮 10万円

タイガーの毛皮 300万円


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