60 制圧
キャンプ村になだれ込んだウェーサたちは、潜入していた手下たちと合流する。
ウェーサはすでに約五千を編成して四つの隊に分けていた。
「目指すのは中央の店よ!! 邪魔する者は皆殺しにしなさい!!」
ウェーサは各隊のリーダーに号令を掛けた。
側近三人は各隊を率いて進軍を開始し、ウェーサも隊を率いてゆっくりと後を追いかける。
その後を百人ほどの隊が追従していた。
この隊はビャクス率いる本営で、ビャクスの女たちの中で戦闘に特化した者だけで編成させていた。
ドMたちはキャンプ村の中を進んでいくと冒険者たちと遭遇した。
「な、なんなんだ、こいつらは!?」
「と、とんでもない数だな……」
「いったい、何が起きてるんだっ!?」
十人ほどの冒険者たちは、驚きのあまり血相を変える。
即座に手下たちが抜刀して襲い掛かるが、冒険者たちも抜刀して手下たちの攻撃を受けと止めた。
「てめえら何者だ!?」
冒険者は険しい表情を浮かべて声を張り上げたが、返答はない。
「――なっ!? いつのまに……」
「チッ……やべぇなこりぁ……」
冒険者たちは苦々しげな表情を浮かべて固唾を呑んだ。
すでに囲まれているからだ。
「俺たちが何したってんだ!?」
冒険者は必死の形相で訴えるが、手下たちは問答無用で斬り掛かった。
「くそがぁ!!」
冒険者たちは円陣を組んで、密集して防御態勢をとった。
彼らは防御するとみせかけて薄くなったところに突撃し、キャンプ村の外に逃げるつもりなのだ。
だが、手下たちはファイヤの魔法を一斉に唱え、無数の激しい炎が冒険者たちに襲い掛かる。
「ぎゃあぁぁあああああああぁぁぁ!!」
「ぐぅわぁあああああぁ!!」
「あぎゃああああぁああああああああぁぁぁ!!」
無数の激しい炎は円陣の中央に直撃して、冒険者たちにの半数が身体を焼かれてのたうち回り、円陣は崩壊した。
手下たちは一斉に突撃し、冒険者一人に対して手下たちは五人以上で囲んで一方的に斬り刻み、冒険者たちは為す術なく全滅した。
すぐに別働隊が現れ、冒険者たちの死体から金品や装備品を剥ぎ取って別働隊は撤収していく。
この別働隊は、元は難民たちのような力のない者たちで編成されていた。
「散れ」
側近は自身の隊に号令を掛けて、手下たちは獰猛な笑みを浮かべて散開した。
ドMたちは進軍を開始して遭遇する冒険者たちを問答無用に斬り殺して中央に到着した。
キャンプ村の中央には様々な店が建ち並んでおり、酒場や宿屋もあるので人の出入りも多い。
「な、なんだ、てめえらは!?」
酒場から出てきた六人ほどの冒険者たちの顔が驚愕に染まる。
ドM二人は突撃して冒険者たちに襲い掛かった。
「ぎゃん!!」
「あぎゃ!!」
ドM二人は鋼のハンマーで冒険者二人の顔面を強打して、冒険者は顔が激しく陥没して即死した。
「ひぃいいいぃ!!」
「うぁあああああああああぁ!!」
「な、何が、どうなってんだ!?」
残りの冒険者たちは真っ青な顔をして逃げ出すが、すぐに手下たちに囲まれて身体をバラバラに斬り刻まれて冒険者たちは肉片に変わった。
「ウェーサ様!! 俺の隊はここで野営の準備にかかります」
「おおっ!! 俺の隊もそうするぜ」
ドM二人は高らかに宣言した。
「あんたたちはほんとに馬鹿ね!! こんなところで野営なんかするわけないでしょ!!」
ドM二人はウェーサに鉄鞭でぶちのめされる。
「あふん!!」
「あはん!!」
ドM二人は恍惚な表情を浮かべており、彼らは頭の芯が痺れるような感覚を覚えていた。
「あんたたち二人は東側と西側に分かれて、出てくる冒険者たちを待ち伏せて殺しなさい!!」
「はっ!!」
ドM二人が隊を率いて東側と西側に向かった。
「あなたの隊は手下がやけに少ないわね?」
ウェーサは探るような眼差しを側近に向ける。
「はっ、私の隊はすでに冒険者や傭兵を狩るために放ってあります」
側近は獰猛な笑みを浮かべる。
「ふ~ん、なるほどね……それなら、あなたの隊はここで待機して逃げ出してくる冒険者たちを殺しなさい」
「はっ!」
「それじゃあ、行くわよ。突撃!!」
千人を超える手下たちが、一斉に店の扉を蹴破って突入していく。
「うぁあああぁぁあああああああああぁぁ!!」
「ぎゃあああああぁぁああああぁぁ!!」
あらゆるところで断末魔の叫びが木霊する。
手下たちは次々に店の扉を蹴破って中に侵入し、全てを殺して金品や物を根こそぎ奪っていく。
「うふふふ……」
ウェーサは店の間をゆっくり歩きながら満足そうに笑う。
だが、店の窓を突き破って、冒険者が外に飛び出してきた。
「い、いったい、何がどうなってやがる!?」
冒険者は警戒しながら辺りを見渡して、ウェーサと目が合った。
「お、お前たちはいったい何なんだ!?」
冒険者は抜刀して剣を構えた。
「ビャクス山賊団よ。私を殺してここを抜けたとしても、その先には大軍が待機しているからどのみち死ぬわよ」
ウェーサは意地の悪い微笑みを口元に浮かべた。
「な、なんだと!?」
「うふふ、北側にはまだ手は回ってないから、運が良ければ生き延びることがことができるかもね」
「なっ!? それは本当なのか!?」
冒険者は大きく目を見張った。
だが、ウェーサの後方から手下たちが接近し、冒険者は一瞬躊躇したが、身を翻して北側へと逃走した。
「……生き残れるといいわねぇ」
冒険者の男を見送ったウェーサは苦笑する。
彼女が冒険者の男を見逃したのは弱いからではない。
むしろ、戦えば魔法戦士であるウェーサが圧勝していたのだ。
そもそも、ウェーサがこのキャンプ村に攻め込んだ目的は、冒険者や傭兵を皆殺しにするためではなく、金品や物資を奪うためだ。
彼女はできれば冒険者や傭兵は殺さずに捕まえて戦力に加えたいと思っていた。
だが、頭の悪い手下たちに複雑な命令が理解できるはずもなく、それは手下たちに躊躇という隙を与え、無駄に手下たちを殺してしまうことにも繋がるとウェーサは考えていた。
そのため、彼女は単純明快に殺せと命令しているのだった。
「なんか外の様子が騒がしいな。何かあったのか?」
ワーゼが軽く眉を顰めて店員に尋ねた。
東に移動したワーゼたちは『屈強な漢亭』で、ポリストン率いる冒険者たちと共に酒を酌み交わしていた。
『鉄壁の盾亭』と『屈強な漢亭』は系列店同士であり、その作りは堅牢だ。
「何者かがこの辺りの店を襲撃しているようです」
「なんだと!? 相手は何人ぐらいいるんだ!?」
「うちの店の前だけで軽く五十人はいます。扉が破られるのも時間の問題かと思われます」
「……なんだ驚かせるなよ。俺たちは百人を超える仲間がいる。そんな連中は叩き潰してやるよ」
そこに席を外していたポリストンが戻って来た。
「無理だな……外を見てきたが軽く千は超えている。戦っても勝ち目はない」
ポリストンは忌々しげな表情を浮かべている。
「なんだと!? じゃあ、どうするつもりだ!?」
ワーゼは探るような眼差しをポリストンに向ける。
「逃げるしかないな」
ポリストンは冷ややかな表情で言った。
「逃げるだと!?」
ワーゼは一瞬呆けたような顔をした。
「そうだ。この酒場の周辺だけでも千はいる。おそらく、全体になると四千以上はいるだろうな」
「四千以上だと!?」
ワーゼは雷に打たれたように顔色を変える。
「幸い『屈強な漢亭』には地下通路があり、その通路を通ればキャンプ村の北の門近くに出るらしい」
「だが、外の連中はまだ戦ってるんだろ!! 見捨てるつもりか!?」
怒りに顔を歪めたワーゼが声を張り上げた。
「ああ、そうだ」
ポリストンは無愛想に言い捨てた。
「馬鹿を言うなっ!! こういうときに戦わないで何が冒険者だ!!」
「勝算はあるのか? 相手は四千以上だぞ」
ポリストンの声には非難の色が混ざっていた。
「周辺にいる冒険者たちと協力して戦えばいい。それにキャンプ場には多数の冒険者がいる。彼らと共闘できれば互角に戦えるはずだ」
ワーゼはポリストンの目を真っ直ぐに見つめて返答を待つ。
「だが、もう手遅れだ。店の九割以上がやられちまってるからな」
「なっ!?」
ワーゼはガツンと頭に衝撃を受けたような顔をした。
「それにだ、店がなくなったらこのキャンプ村はただのキャンプ場だ。守るべきものはないからな」
結局、ワーゼたちは地下通路を通り、当初の予定通り東に向かったのだった。
ほぼ全ての店を襲撃したウェーサたちは、最後の店の前に集結する。
最後に残った店は、このキャンプ村では一番大きい奴隷屋だった。
そのため、店自体も大きく堅牢な作りになっており、周辺で戦っていた冒険者や傭兵、奴隷を連れた奴隷商人たちが逃げ込んで、最後まで抵抗していた。
その数、およそ五百。
その中の五十人ほどが冒険者や傭兵で残りは奴隷だが、その大半が元は冒険者や傭兵だった者たちだ。
仮にワーゼたちがこの存在を知っていたら、ここを拠点に四方にあるキャンプ場にいる冒険者たちと共闘すれば、互角の戦いができていたが後の祭りだ。
ちなみに、キャンプ場には四千名ほどの冒険者や傭兵がいた。
手下たちは奴隷屋の分厚い扉を正面から攻撃しており、ウェーサは奴隷屋を包囲するように手下たちに指示を出した。
包囲は完成し、ウェーサが総攻撃の指示を出そうとした瞬間……
「あぁん? 待て」
「ビャクス様!!」
後方にいたはずのビャクスがいつの間にか前線に現れ、ウェーサは驚いて跪き、手下たちもそれに倣って跪いた。
「あぁん? 奴隷たちよ!! お前たちはそのままでいいのかっ!!」
ビャクスがよく通る声ではあるが、質の悪いガラガラ声で問い掛けた。
「!!」
奴隷たちは面食らったような表情を浮かべた。
「もう一度言うっ!! お前たちは一生そのままでいいのかっ!!」
「――っ!?」
奴隷たちはうろたえたような顔をした。
彼らは自分たちが置かれた状況をどうにかしたいと思っているが、今の状況でできることは少しでもマシな買い手に買われることを望むぐらいしかなかった。
「あえて言おう、何もするな奴隷たちよ!! この戦いは我らビャクス山賊団の揺るぎなき勝利であることは間違いない。もう一度言う、奴隷たちよ何もするなっ!! そうすればお前たちには自由を約束しよう」
「!?」
奴隷たちは困惑したような表情を浮かべている。
彼らは必死に抵抗していれば冒険者や傭兵が駆けつけ、運が良ければキャンプ場からも援軍が駆けつけてくれると信じて抵抗していたが、その援軍も来なかった。
最早、生か死かの二択を突きつけられているに等しい状況だった。
たが、彼らが迷う最大の要因は何もしなかった場合、本当に自由になれるのかが疑問だった。
相手は山賊で、嘘も平気でつくからだ。
しかし、数人の奴隷が前線から後退して戦うのを止めた。
これを皮切りに前線で戦う奴隷たちが次々に後退し始めた。
「戻れ戻れぇ!! 恥ずかしくないのか!! 相手は山賊だぞっ!!」
「そうだ!! 戻って戦うんだっ!!」
奴隷たちの主人たちが激しい怒声を浴びせる。
だが、奴隷たちは動かなかった。
「……ぐうっ」
奴隷たちの主人たちは顔面蒼白になった。
彼らの命令に強制力がないからだ。
ここにきて奴隷証書で契約するのを節約したことが、仇となって返ってきたのだ。
一方、奴隷たちは何もしなかった場合にのみ、希望の光があると気付いたのだ。
五百ほどいた戦力が一気に百ほどに減った。
「待ってくれ!! 俺たちは投降する!!」
前線にいる五人ほどの傭兵たちが両手を挙げた。
「貴様っ!! 恥ずかしくないのか!! この裏切り者がっ!!」
同じく前線にいる冒険者が、切るような鋭い視線を傭兵たちに向けて怒鳴りつけた。
「悪いな。だが、命あっての物種だ。お前たちは正義とやらを全うしてくれ」
傭兵たちは平然と言い放った。
「なっ!?」
冒険者は放心したような顔を晒していた。
「条件があるわ。ビャクス様の奴隷になることよ」
「な、なんだと!? 奴隷だと!?」
傭兵たちは驚きの表情を見せる。
「そうよ、ビャクス様の直属の奴隷になってもらうわ。あなたたちのような見込みがありそうな傭兵は奴隷にして戦力を増強しているのよ」
「ぐっ……」
傭兵たちは険しい表情を浮かべる。
「ここで散るか、奴隷になるか選ぶのよ」
「わ、分かった……死ぬよりマシだ。直属の奴隷なんだから待遇は少しはマシなんだろ?」
「もちろんよ。ビャクス様の直属の奴隷なんだから、あなたたちに命令できるのはビャクス様だけよ」
「……そういうことなら俺たちも奴隷になるぜ」
話を聞いていた冒険者や傭兵も奴隷に落ちることを決意する。
「歓迎するわ」
五十人ほどいた冒険者や傭兵が寝返って、残りは十人ほどになった。
「き、貴様ら……」
冒険者の顔には憤怒の形相が浮かんでいた。
「こういうときは忠誠の証として、こいつらを始末したらいいんだろ?」
傭兵たちは利を掴むときのような狡猾な相を現す。
「なっ!? このクズ共め……」
冒険者は害虫でも見るような目で、吐き捨てるように言った。
「うふふ、あなたたちはこっちで契約よ。残った十人はあなたたちが手出ししなくても、あなたたちと同じ奴隷たちが始末するわよ。うちは実力主義だけど成果主義でもあるから取り合いになるのよねぇ」
ウェーサが奴隷証書をヒラヒラさせながら微笑んだ。
残った十人ほどの冒険者たちの前に、百人ほどの山賊たちが対峙する。
言うまでもなく、元冒険者や元傭兵で現在はビャクスの直属の奴隷たちだ。
「お前ら何をムキなってるんだ。死んだら意味ないだろ?」
抵抗する十人に、ビャクスの直属の奴隷たちが小馬鹿にした様子でニタニタと笑った。
「死んでも山賊の仲間になんぞ絶対にならん!! お前らは知っているのか? この鉱山に軍が向かっていることを」
冒険者は見下すような冷笑を浮かべる。
「な、なんだと!?」
ビャクスの直属の奴隷たちは、雷に打たれたように顔色を変える。
「どのみちお前らは死ぬんだよ!! それまでの短い時間をせいぜい楽しむんだなっ!!」
冒険者は人を馬鹿にしたような顔をした。
「ちっ、殺せ!!」
ビャクスの直属の奴隷たちは一斉に襲い掛かるが、冒険者たちは決死の形相で応戦した。
「神はお前らがやった所業を必ず見ておられるぞっ!!」
そう言い放って冒険者たちは散っていった。
この光景を目の当たりにして、真っ青な顔でガタガタと身を震わせる者たちがいた。
奴隷たちの主人である、金持ちや奴隷商人たちだ。
「こ、殺さないでくれ!! 儂はルビコの街でも商売をしておる。殺さないでくれたらその資産を全て渡す!!」
「わ、儂もルビコの街で奴隷屋をやっている!! 殺さないでくれたら儂も資産を渡す!!」
「た、頼む!! い、命だけは助けてくれっ!!」
奴隷商人たちや金持ちたちは見苦しいほどに泣いて縋った。
「……あなたたちはビャクス様の奴隷に相応しくないのよね」
ウェーサが無愛想に言い捨てて、ウェーサは手下たちに合図した。
「ま、待ってくれ!! 頼むから殺さないでくれ!!」
「ひぃいいいいぃ!! い、嫌だ!!死にたくない!!」
「ぎゃああぁぁああああああああああああぁぁ!!」
奴隷商人たちや金持ちたちは問答無用に首を刎ねられ、四百人ほどの奴隷たちはそんな光景を冷酷な目で眺めていた。
「さぁ、これであなたたちは自由の身よ。但し、この場を去るならうちには今後一切手出し無用よ。もちろん残ってビャクス様の奴隷になるのなら歓迎するわよ」
その言葉に、四百人ほどの奴隷たちは話は本当だったのかと放心状態に陥った。
だが、彼らは心より喜ぶことはできなかった。
主人たちには酷い目に合わされたが、だからといって裏切り、そして見捨てたことが彼らの心に深く突き刺さり、そして何よりも気高く散っていった冒険者たちのことを思うと、最早真っ当には生きれないと彼らはそう考えていた。
結局、三百人ほどがビャクスの奴隷になり、残りの百人ほどがこの場を去った。
しかし、その百人はビャクスの手下に追跡され、殺されたのは言うまでもない。
こうして、中央にある店は占拠され、ウェーサは北東にあるキャンプ場を襲撃した。
突然、大軍に襲撃されて冒険者や傭兵はパニックに陥った。
北東のキャンプ場には千人ほどいるが、それを纏めきれる者はなく、各自で対応しており、連携にかける戦いになった。
ウェーサはキャンプ場をあえて包囲せずに意図的に逃げ道をつくっており、弓や魔法の遠距離攻撃で冒険者や傭兵を追い出しにかかる。
やがて、各自の判断で冒険者や傭兵はキャンプ場から撤退し、ウェーサはキャンプ場の制圧に成功する。
残る三箇所のキャンプ場もウェーサは同じ要領で襲撃し、ビャクスたちはキャンプ村を占領した。
キャンプ場を追われた冒険者や傭兵のほとんどは、東にあるキャンプ村を目指して移動したのだった。
「おい、聞いたか? キャンプ村が襲撃されて人族の山賊に占領されたみたいだぜ」
狼の獣人は小馬鹿にした様子でニタニタと笑った。
「ぼふふ、人族なんか相手にならんぼふ」
白トロールはふんと馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「くくっ、確かにな。ここも人族から奪ったポイントだしな」
ここは獣人と亜人が仕切る採掘ポイントだ。
狼の獣人の名はディーダといい、獣人側の首領なのだ。
白トロールの名はノラロスといい、亜人側の首領なのである。
「ぼふふ、ぼふぼふ……食料はどうするぼふ? 食料は大事ぼふ」
ノラロスは切実な表情で訴える。
「……そうだな、めんどくさいことをしてくれたな。そもそも、キャンプ村を潰さなかったのは人族の商人たちと取引するためだからな」
彼らはこの第二ポイントで採掘された鉱石を、キャンプ村の商人に売り飛ばし、食料や装備品を仕入れていた。
ちなみに、ディーダとノラロスは国から派遣された監査官を全て殺して国に税金は納めていない。
「腹いせに潰すぼふ」
ノラロスの顔は殺気に満ちていた。
「山賊が仕切ってるキャンプ村を襲ったところでメリットはない」
「だから腹いせといってるぼふ」
「だったらお前たち亜人だけでやれ。そんなことよりも新たに取引できる商人を探す必要がある。キャンプ村は西にも東にもあるが近いのは東だ。とりあえず、東に手下をやって交渉する必要があるからな」
「ぼふふ、そういうめんどくさいことは任せるぼふ」
ノラロスはキャンプ村に手下を向かわせたのだった。
ベル将軍率いる三千は、中間ポイントに向かって進軍していた。
「暑いな……」
「あぁ……登れば登るほど暑く感じる」
「もうすぐ中間ポイントだ。そこで、いったん休憩すればいい」
ベル将軍の側近たちが軽く眉を顰めて苦笑する。
「……だが、この暑さは尋常ではない。確認するが中間ポイントは火山地帯のような場所ではないのだな?」
ベル将軍は探るような眼差しを側近に向ける。
「はっ、そのような報告はありません」
「……であれば、やはりこの状況はおかしい」
ベル将軍は険しい表情を浮かべる。
「全軍を停止させよ!!」
「はっ」
ベル将軍は十名ほどの偵察部隊を編成して送り込み、全軍を後退させて待機し、偵察部隊の帰還を待つ。
しかし、戻ってきたのは一人だけで、かなりの深手を負っていた。
「治療しろ!!」
側近が声を張り上げ、司祭がヒールの魔法を唱えて兵士の傷が全快する。
「なぜ貴様しかいない? 他の者たちはどうした?」
「はっ、火や石の魔物にやられました。奴らには物理攻撃が全く効果がありません」
「な、なんだと!?」
側近たちは驚きの表情を見せる。
「火や石の魔物で、物理が効かない……エ、エレメンタルが中間ポイントにいるのか!?」
「……エレメンタルだと!?」
「この鉱山にエレメンタルがいるなど聞いたことはないぞ」
「しかし、条件に合う魔物はエレメンタルが一番近い」
側近たちが血相を変えて騒ぎ立てる。
「中間ポイントはどんな状況なんだ?」
「はっ、中間ポイントは火の海で大地は溶け落ち溶岩が広がり、火や石の魔物が大量発生しています」
「な、なんだと!? 具体的にはどのくらいの数だ」
「はっ、軽く千は超えているかと思います」
「ば、馬鹿な……なぜエレメンタルがそんなにいるのだ……」
「上層から下りてきたのかもしれん。上層に挑んだ者はほとんどおらず、何がいてもおかしくない」
「……他にはないか?」
「はっ、中間ポイントの中央に十メートルを超える火の魔物がいました。おそらく奴らの主だと思われます」
「なっ!? じょ、上位種がいるのか!?」
側近たちは雷に打たれたように顔色を変える。
「……撤退だな」
ベル将軍は深刻な表情で呟いた。
「し、しかし……」
側近たちは戸惑うような表情を浮かべている。
「我らはエレメンタルを討伐しにきたのではないだろう。幸いルートは一本ではなく、戻りさえすれば別のルートから隣の中間ポイントを経て中層にたどり着ける。ここは退く」
「はっ!」
こうして、ベル将軍はエレメンタル種との戦闘を避け、無駄に兵を失うことなくルートを戻り、西の中間ポイントを目指すのだった。
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