45 合流 修
シルルンが冒険者ギルドにシルルンガールズ隊の捜索依頼を出してから三日が経過して、冒険者ギルドから連絡があり、シルルンガールズ隊の所在が判明した。
シルルンガールズ隊はなんとシルルンたちが潜っていた大穴で発見されたのだ。
現在、ブラたちは魔車でこちらに向かっているとのことなのだ。
シルルンは宿泊している『冒険の宴亭』のベッドの上でゴロゴロしていた。
プルとプニもベッドの上で遊んでおり、ブラックは椅子に座って絵本を読んでいる。
彼は人族のような行動をとるようになってきたのだ。
シルルンは大量に買い込んだ食料や酒、お菓子などを魔法の袋から取り出しながら食べており、ベッドの上で絵本を読んでいた。
絵本は子供用と大人用があり、様々なジャンルの絵本が売られている。
そんなシルルンをメイたちは困惑した表情で見つめていた。
シルルンは訓練などは一切せずにベッドの上でゴロゴロしているだけで、ポラリノールで暮らしていたときと何も変わらないからだ。
つまり、シルルンの強さがあまりに謎でメイたちはその理由を探っていたが何も分からなかった。
すると、元娼婦たちがヘロヘロになって帰ってきて地面に倒れ込む。
元娼婦たちはこの三日間鉱山に行くための体力をつけるために外を歩き回っていた。
だが、長い難民生活で酷く痩せこけていたために元娼婦たちの筋肉量は著しく減少しており、なかなか体力が戻らなかった。
そのため、彼女らは部屋に戻ると大量の飯を食べて眠るのだ。
さらに、アミラたちとヴァルラが大量の食料を買い込んで帰ってくる。
魔法の袋にはいくらでも入るので、シルルンが食料の買出しを頼んでいるのである。
アミラたちは買い込んだ大量の食料を部屋に置いてからまた外に買出しに行く。
だが、ヴァルラは食料ではなく酒しか買ってなかったのだった。
そして、次の日の朝になる。
「シルルン様、起きて下さい。シルルンガールズ隊という者たちがこの部屋に尋ねてきています。どう致しますか?」
メイは緊張した面持ちでシルルンに尋ねた。
ドアの前にはラフィーネ、アキ、ゼフドが警戒態勢をとっている。
「ん~、入ってもらってよ」
寝ぼけた顔のシルルンがムクリと上体を起こす。
彼はシルルンガールズ隊のことを皆に話していなかったのだ。
そのため、皆は宿屋に宿泊しているのは、元娼婦たちの体力の回復のためだと思っていた。
「どうぞ、お入り下さい」
メイが扉をあけて女たちを部屋の中に招き入れた。
「緊急のお呼び出しとのことで参上致しました」
ブラは真剣な面持ちでシルルンの前で跪いた。
「うん、おはよう」
「あ、あの……魔車を使ってもよいとのことでしたので、二台での魔車の料金が六百万円になったのですが……」
ブラは不安そうに躊躇いがちに言った。
「ふ~ん、そうなんだ。じゃあ、これで払ってきてよ」
シルルンは魔法の袋から金貨を六十枚を取り出してブラに手渡した。
「はっ、ありがとうございます」
ブラの顔にはうっすらとした笑みが浮かびあがり、ブラは立ち上がって部屋から出て行った。
「あの、シルルン様。彼女はお知り合いなのですか?」
「あぁ、言ってなかったね。ブラたちは僕ちゃんの奴隷で修行の旅に出てたんだけど呼び戻したんだよ」
「……そ、そうなのですね」
メイたちは不可解そうな顔をした。
しばらくすると、ブラたちが部屋に入ってきた。
「あらためて、シルルンガールズ隊参上致しました。それで、どのようなご用件なのでしょうか?」
ベッドの上で酒を飲んでいるシルルンを前に、ブラたちは跪いて神妙な顔でシルルンの返答を待つ。
「僕ちゃん、鉱山に穴掘りに行こうと思ってるんだけど、鉱山は魔物も出るから君たちにも一緒に来てもらおうと思ったんだよ」
「なるほど。それなら私たちも力になれると思います」
「うん、出発は明日だから今日はゆっくりしてていいからね」
「はっ!」
ブラたちは立ち上がり辺りを見渡した。
「ここにいるのは僕ちゃんの奴隷だから、気兼ねなく仲良くしてよ」
「はっ、お気遣いありがとうございます」
こうして、ブラたちが合流し、次の日の早朝にシルルンたちは鉱山に向けて出発したのだった。
リザは不機嫌そうにリビングの中を行ったり来たり歩いていた。
シルルンが帰ってこないからである。
彼女はシルルンがスライム屋の店員を探しに行くと聞いており、人の多い東の方角に探しに出てみたがシルルンは見つからなかった。
シルルンがスライム屋の店員を探しに出てから十日は経っており、リザは不安とイライラで爆発しそうになっていた。
そんな中、イネリアがリビングに入ってくる。
「そんなところで何をウロウロしているのですか?」
イネリアは厨房に立って料理を作り始める。
「べ、別に何もないわよ」
その言葉に、リザははっとしたような顔をして椅子に腰掛ける。
イネリアは出来上がった料理を、次々とテーブルに並べていく。
今は、昼時なのだ。
「それにしても、シルルン様は帰ってきませんね。どこまで店員を探しにいったのでしょうか?」
「そ、そうね……ここまで長いと何かのトラブルに巻き込まれているかもしれないわね」
「そうかもしれませんが、シルルン様なら大丈夫でしょう」
「まぁ、そうよね……」
リザは不満げな顔で頷いた。
彼女はシルルンが自分より強いことを知っているがそれでも心配なのだ。
「フフッ……マスターの体に異常はみられないから大丈夫よ」
いつの間にかラーネが椅子に腰掛けて話を聞いており、リザとイネリアはビクッと身体を強張らせる。
「あんた、ほんとに心臓に悪いわね……それで、何でシルルンが無事だと分かるのよ?」
「私はマスターのペットだから、マスターの状態が離れていても分かるのよ」
ちなみに、魔物使いのペットが主人の所在を知ることは普通はあり得ない。
だが、ラーネは『瞬間移動』を所持している上にペットで奴隷なので、シルルンとの繋がりが強いのでシルルンの所在や状態を視ることができるのだ。
しかし、シルルンはラーネの所在や状態を視ることはできなかった。
「じゃあ、シルルンがどこにいるのか分かるのあんた?」
「フフッ……そうね、だいぶ遠いわね……方角は北西だけど、マスターの体に異変があれば私がすぐ飛んで守るから、あなたは心配しなくてもいいわ」
「ちょっと!! シルルンに異変があったら私も連れていきなさいよ!!」
「ただいまぁ!! おなか減った!!」
ビビィはタマの背中に乗ったまま、風呂に突撃して水風呂に飛び込んだ。
体中についた砂を落としたビビィたちはびしょびしょのままでリビングに戻り、ビビィが椅子に腰掛ける。
「おなか減った!! シルルンは?」
ビビィはテーブルの上に置かれているリンゴやミカンをむしゃむしゃと食べ始めた。
彼女はここ数日の間、シルルンの所在を尋ねていた。
タマたちもシルルンという言葉に、ピクッと反応してどこか寂しそうにしている。
「フフッ……仕方ないわね。ご飯を食べ終わったら装備を整えてマスターがいるところに行ってみましょう」
ラーネの言葉に、リザたちの表情がパーッと明るくなった。
「残念ですが、私は行けません。スライムちゃんたちの世話をシルルン様に任されていますので」
「フフッ……それは仕方ないわね。あなたにはここの留守を任せるわ」
昼食を終えたリザたちは嬉しそうに装備を整えるのだった。
シルルンたちはルビコの街から南にある鉱山を目指していた。
距離は二百キロメートルほどある。
シルルンたちはその道中で魔物たちに遭遇するが、ブラックの移動速度があまりにも速く戦闘にならずに鉱山に到着した。
「えっ? もう到着したんですか?」
あまりの速度に座席にへばりついていたシルルンの仲間たちは呆けたような表情を浮かべている。
シルルンたちは魔車から降りて周辺を見渡すと、キャンプ村を発見した。
シルルンが魔法の袋に三台の魔車を入れると、シルルンたちはキャンプ村に入った。
村の中を歩く男たちは冒険者や傭兵が最も多いが、上半身が裸でガチムチな男たちもちらほらと見られ、あちこちで金属を叩く轟音が響き渡っている。
「まぁ、とりあえず、情報収集だね。どこかお店に入って休みながら情報を集めるよ」
シルルンたちは近場の酒場に入った。
「じゃあ、好きなのを頼んでいいけどお酒は酔わない程度にほどほどにね」
皆が頷いてテーブル席についたが、ブラたちやアミラたちは食事をしながら、酒場の店員や客たちに鉱山についての情報を収集をしていた。
「僕ちゃんはここで待ってるから、ブラたちはキャンプ村の西側をラフィーネ、アキ、ゼフド、ヴァルラ、アミラたちは東側を情報収集してきてほしいんだよ」
「はっ!!」
名前を呼ばれた者たちが一斉に立ち上がる。
「むふぅ、私はここに残ってお酒飲む!!」
そう宣言したヴァルラが酒を一気に飲んだ。
「はぁ!?」
皆が訝しげな眼差しをヴァルラに向ける。
「そうなの!? じゃあ、ヴァルラは待機でいいよ」
「なっ!?」
皆は面食らったような表情を浮かべた。
「むふぅ、さすが、私のマスター!!」
ヴァルラはシルルンに抱きついて、シルルンの頬をペロペロと舐めている。
それを目の当たりにした女たちは、苛立たしげな表情を浮かべていた。
彼女らの心にはドス黒い感情が渦巻いていたが、彼女らは少し冷静になって考えてみると同じような真似はとてもできそうにないと思っていた。
シルルンの機嫌を損ねると転売される可能性があるからだ。
女たちはこれが種族の差なのかと考えながら酒場から出て行ったのだった。
数時間後、情報収集に出ていた者たちが帰還する。
その情報をまとめると、こういう話になった。
現在、シルルンたちがいるのは鉱山の北側のキャンプ村で、反対側の南側にもキャンプ村があり、北側同様に賑わっている。
しかし、西側と東側にキャンプ村はないらしい。
鉱山北側の下層
鉄が取れるが少量で、ポイントというほどではなく、主に鍛冶師や採掘師が個人で掘っている。魔物の数が多く、冒険者たちや傭兵たちの狩場にもなっている。
鉱山北側の中層
過去に採掘師たちが採掘ポイントを探したが、採掘ポイントは発見できなかった。現在、大量の魔物が生息しており、中層に辿り着くには激しく困難な状況で、冒険者たちも近寄れない。
鉱山北側の上層
詳細不明らしい。
鉱山南側の下層
鉄や銅が取れるが少量で、ポイントというほどではなく、主に鍛冶師や採掘師が個人で掘っている。魔物の数が多く、冒険者たちや傭兵たちの狩場にもなっている。
鉱山南側の中層
鉄、銅、銀、金が取れるポイントが二箇所発見されており、大規模な採掘が行われている。魔物が大量発生しており、冒険者たちや傭兵たちの狩場にもなっているが、テイマーたちのテイムの修行の場でもあるらしい。
鉱山南側の上層
詳細不明らしい。
「う~ん……ポイントが発見されているのが南側なら南側がいいよね」
「はっ、私もそう思います」
アミラは満足そうに頷いた。
「じゃあ、南側に移動しよう」
シルルンたちは再び魔車に乗り、鉱山の西側の道を疾走して南側を目指す。
距離は六百キロメートルほどだ。
シルルンたちは半分ほど進んだところで休憩する。
ちょうど鉱山の西側になるが、キャンプ村はなかった。
皆は鉱山を見ながら飲み物を飲んでおり、シルルンとヴァルラはブドウ酒だ。
「ほんとに西側には何もないのかしら……」
誰かがボソッと呟いた。
「あはは、じゃあ掘ってみてよ」
シルルンは魔法の袋から鉄のツルハシを三本取り出して、アミラたちに手渡した。
「はっ!!」
「ナイトビジョンデス!!」
プルはナイトビジョンの魔法をアミラたちに唱えていく。
アミラたちは一瞬で山の中に消えていった。
「は、速ぇ……」
シルルンは驚きのあまりに血相を変える。
「ん~~!? こんなとこに人がおるとはビックリじゃい。こんなポイントを選ぶからには採掘の駆け出しか?」
声が聞こえた方向にシルルンたちは一斉に振り向いた。
そこには、ジジイと若い男が立っていた。
二人は見慣れないローブを着ており、怪しい雰囲気を醸し出していた。
「うん、駆け出しというか、僕ちゃん鉱山での穴掘りは初めてなんだよ。ていうか、そっちこそ誰?」
「儂か? 儂は何を隠そう鉱山仙人じゃ!!」
鉱山仙人は高らかに宣言した。
「え~~~っ!? マジで!? この辺に住んでるの?」
シルルンは興味津々そうなに鉱山仙人に尋ねる。
「ん? 家はそこの穴の中じゃ」
鉱山仙人が指差す方向にシルルンが視線を向けると、岩場の後ろに穴が掘られていた。
「へ~~~っ!! こんなとこに住んでるんだ!!」
シルルンは瞳を輝かせているが、皆の目はジト目になっていた。
「お前は採掘は初めてじゃと言うとったが、採掘は命懸けじゃと知っとるか?」
「えっ!? なんで!? 掘るだけでしょ?」
「例えば、今お前の仲間が穴を掘っとるじゃろ。何が危険じゃと思う?」
「ん~、魔物?」
「確かにそれもある。掘ってる背後から魔物に襲われることもあるからのう。じゃから規模がでかくなれば冒険者や傭兵を雇うのじゃ。じゃが一番危険なのは崩落じゃ」
「えっ!? 崩れるの!?」
「そうじゃ、だからこそ、崩れそうな所は支保という支柱で支えるのじゃ。これができなくては奥深く掘ることは難しいじゃろうなぁ」
「へ~~~っ!! そうなんだ!!」
シルルンは感心したような表情を浮かべている。
「じゃが、どんなに腕が良くても、運が悪ければ気候の変化などで内部の環境が変化したり、大量の水が流れ込んだりして崩落してしまうことはあるものじゃ。じゃがのこの護符を持っておれば崩落してもこの護符が結界を張って命は助かるのじゃ」
「え~~~っ!? マジで!? 超欲しい!! どこで売ってるの?」
シルルンは探るような眼差し鉱山仙人に向けた。
「えっ!? その護符にそんな効果があったんですか!?」
若い助手の男は訝しげな眼差しを鉱山仙人に向けた。
「えっ!? ないの?」
鉱山仙人は面食らったような表情を浮かべている。
「ないのかよ!! ちゃんとしろよジジイ!!」
シルルンは怒りの形相を浮かべている。
「マスター、こんな怪しい者たちは相手にしないほうがよろしいかと」
ブラは鋭い眼光でジジイたちを睨みつけた。
「うひぃいいぃ!!」
ジジイたちは慌てて岩場の後ろの穴に逃げていった。
「あっ!? そうだ!! アミラたちを呼び戻してよ」
「はっ!!」
ゼフドは洞穴に突入し、しばらくするとアミラたちが帰還した。
「やはり、鉱石などはありませんでした」
「あはは、そうなんだ。じゃあ、やっぱり、南側に行くしかないね」
シルルンは納得して頷いた。
だが、唐突にシルルンの前に何者かが出現した。
皆の中で最初に反応したのがラフィーネで、ラフィーネは抜刀して何者かに斬り掛かる。
しかし、ラフィーネが振り下ろした剣の一撃は相手の剣に弾かれて剣は宙に舞い、地面に突き刺さった。
「な、何者だ!?」
ラフィーネは声と表情を強張らせる。
「フフッ……あなたこそ誰? いきなり斬りつけてくるなんて危ないじゃない」
「ん? あれ!? ラーネ!? なんでここにいるの?」
シルルンは意外そうな顔をした。
「フフッ……マスターの帰りが遅いから私が来てみたのよ」
「そ、そうなんだ」
「あ、あの……マスターのお知り合いなんでしょうか?」
「うん、ラーネは僕ちゃんのペットなんだよ」
皆は困惑したような表情を浮かべている。
「それで、マスターは何をしているの?」
「うん、僕ちゃん鉱山に穴掘りに行く途中なんだよ。だから、しばらく帰れそうにないね」
「分かったわ。皆にはそう伝えておくわ。それでこの子たちと組んで鉱山にいくのね?」
「まぁ、そうなんだけど、組むっていうより、ここにいるのは全員僕ちゃんの奴隷なんだよね。あっ!? あとピクルスとキュリーにしばらく帰れないから、悪いけど馬の世話とスライムの世話をお願いって言っといてくれないかな」
「フフッ……分かったわ。伝えておくわ」
そういうと、ラーネはフッと掻き消えたのだった。
しかし、数分後……
「シ~ル~ル~ン!! これはどういうことなのかしら!!」
ラーネがリザたちを連れて出現し、リザは怒りの形相でシルルンに元に詰め寄った。
「ひぃいいいいぃ!」
シルルンは恐怖に顔を歪めて後ずさるのだった。
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