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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
鉱山 採掘編

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37/310

37 難民キャンプ 修

挿絵(By みてみん)


 いい加減な地図。



 シルルンたちはトーナの街から北西にあるルビコの街に向かって疾走していた。


 同行しているペットたちはプル、プニ、ブラック、パプルで、ルビコの街までの距離は二千キロメートルほどもあるので、ブラックに乗れないタマたちは留守番である。


 パプルというのは、シルルンがテイムした百匹のスライムたちの中にいた紫色のレアスライムの名前だ。


 シルルンはパプルが人に懐きやすいので、スライム屋の店員を雇用する指標のために連れてきたのである。


 道中では魔物に遭遇しても上位種以上でなければ彼らの敵ではなかったが、シルルンはテイムを断念した魔物がいたのだ。


 それはレッサー アメーバである。


 レッサー アメーバの全長は一メートルほどで、ドロドロした液体のような姿をしており、下位種の魔物の中では強い部類に位置する魔物なのだ。


 その攻撃手段は対象に覆い被さり、窒息させて『捕食』するというもので、彼らの体内にはコアがあり、そのコアを破壊するまで倒せない厄介な魔物なのである。


 シルルンがレッサー アメーバのテイムを断念した理由は、ルビコの街にアメーバ種を連れていくとその見た目から騒がれることを考慮したからだった。


 シルルンたちは難なくルビコの街に到着し、シルルンが学生証を提示して街の中へと入る。


 街に入るには身分証が必要であり、奴隷やペットは主人の所有物扱いになるので基本的には奴隷やペットに身分証は発行されない。


 しかし、主人が奴隷やペットを所有物として、主人の身分証に登録した場合は身分証を発行できるのだ。


 その場合、奴隷やペットは単独行動を許されるが、全責任を主人が負うことになる。


 ちなみに、王から褒美として与えられた【シルルンガールズ隊】は、その場でシルルンの学生証に所有物として登録されている。


 そのため、彼女らは身分証を発行されているので、メローズン王国内であればどの街でも入ることが可能なのだ。


「ちょっとだけ懐かしいねぇ……」


 シルルンは独り言のように呟いた。


 ポラリノール王国が魔物に滅ぼされた時に、彼が逃げ込んだ街がこのルビコの街であり、シルルンはルビコの街の外に多数の難民が暮らしていることを知っていたのである。


 ルビコの街は首都トーナの街と同様に直径が二百キロメートルほどあり広大だが、メローズン王国内の主要都市の大きさはさほど変わりないのだ。


 シルルンたちは西の門を目指して疾走し、何事もなく西の門に到着すると、西の門の前には百人ほどの守衛たちが守りについていた。


「僕ちゃん、外に出るよ」


 シルルンは学生証を守衛に提示する。


「何の用だ? この先には滅びたポラリノール王国があるだけだぞ」


「僕ちゃん、門の外にいる難民さんを雇おうと思ってるんだよ」


「ほう、それは感心なことだ。難民たちを閉め出している俺がいうのもなんだがな……まぁ、この街の領主の命令だから俺も逆らえんのだ」


 頭を掻きながら守衛が決まりの悪そうな顔をした。


 門の外には十万人を超える難民たちが暮らしており、北の門の外にも同様の数の難民が生活しているのだ。


 この街の領主は難民たちにスープなどの配給を行っているが、全ての難民たちに供給できておらず、弱者を優先せざるを得ない状況だ。


 そんな難民たちの中で、街の中に最優先で入場を許されているのが冒険者や傭兵、魔法や能力を所持する者たちと若者であり、その次に優先される者は魔物と戦う意志がある者である。


 言うまでもなく、魔物と戦える者はいくらいても足りず、街の経済にもあまり影響がないからだ。


 だが、難民たちは閉め出されてはいるが街の中に全く入れないというわけではない。


 決められた期間の間だけ、街の中で仕事を探すことも許されており、期間が過ぎれば街の外に出されることになる。


 全ての難民たちを街の中に受け入れない理由は、住民たちの反感があるからである。


 その反感の内容は、治安が悪くなるということも挙げられるが、安い賃金でも労働を望む難民たちに対して、住民たちが仕事を奪われる可能性を危惧していることにある。


 しかし、難民たちの受け入れを一番阻害しているのは奴隷の存在だ。


 人を雇う側からすれば人を雇い続けるより、奴隷を買ったほうが最終的には安いからである。


 シルルンたちは西の門の外に出ると、西の方角には滅んだポラリノール王国へと続く道が一本伸びており、その道を五十キロメートルほど進んだところには砦がある。


 この砦は滅んだポラリノール王国から進軍してくる魔物を、メローズン王国軍が阻んでいるのである。


 この砦は重要拠点であり、一万五千もの兵士が守りを固めているのだ。


 難民たちは西の門から西に五キロメートルほど進んだ場所でキャンプ生活を強いられており、そこから北に進むと森が広がっているのだ。


 南には岩場しかなく、そこが彼らの住居になっている。


 難民たちは森の中に入って動物などを狩って食料にしていたが、十万を超える難民たちに動物たちは狩りつくされて激減しており、現在は木の実や草などを食料にしているがそれも希少になっていた。


 森の奥に進んで探索すれば食料にできる動物はいるかもしれないが、同時に魔物も存在するので難民たちには荷が重いのだ。


 シルルンたちは難民たちがキャンプ生活をしている岩場に移動した。


 岩場には多数のテントが張られており、キャンプを南の方角に進んでいくと生きることを諦めた人たちや、病気などで死にゆく人の集まりがある。


 そこから東に進むと女たちの集団があった。


 彼女らは生きるために、少量の食べ物と引き換えに体を売っているのだ。


 シルルンたちはキャンプエリアを通り抜けて奥に進んでいくと、そこには腐敗した死体や白骨化した死体が大量に転がっており、腐敗した死体は腐臭を放っていた。


 吐きそうになったシルルンは逃走しようと思ったが、オーガキャンプの経験があるのでなんとか踏み止まることができた。


 シルルンは口で息を吸いながら奥に進んでいくと、生きている人は皆無で死体が散乱していた。


 奥に進むのを諦めて引き返そうとしたシルルンは話し声を耳にして振り返る。


「いい加減諦めて決心しろよ」


「奴隷には絶対にはならんと言っているだろっ!!」


「その様子じゃ、もってあと一日ってところだぞ」


「消えろ!! 私は死んでも貴様の奴隷にはならん!!」


「……ちっ、だが、またくるぜ」


「もう来るな!!」


 男とシルルンがすれ違い、シルルンはへたり込んでいる女冒険者に向かって歩いていく。


「体の調子が悪そうだね?」


 シルルンは心配そうに女冒険者に話し掛ける。


 俯いていた顔を上げた女冒険者はシルルンを鋭い眼光で睨みつけたが、シルルンが少年だと認識すると女冒険者の眼光が和らいだ。


「……なんだ少年か……食べ物はないぞ」


「毒をくらったんでしょ?」


「なぜ、そう思う!?」


 女冒険者は目を見張った。


「だって、左腕が酷い色してるじゃん」


 シルルンはしたり顔で言った。


 彼はヒール屋を営業していたので毒にも詳しくなっていた。


「……なるほどな。私は冒険者なんだがアント種に毒をくらってこの様だ。この毒は毒消しが効かないから私の仲間がキュアポーションを買いに街に行ってから二日が過ぎている。おそらく街にはキュアポーションが無いのだろう。大穴の攻略で冒険者や傭兵がポーションやキュアポーションを買い漁っていると聞いているからな」


 女冒険者は弱りきった表情を浮かべている。


 だが、ポーションやキュアポーションが在庫切れになっている元凶は、商人たちが転売するために買い占めを行っていることにあった。


 ルビコの街でも商人たちの買占めは行われており、さらに悪質なのが奴隷商人たちである。


 商人たちは店頭に並ぶ前の仕入れの段階で買占めを行っているが、全てを買い占めているわけではない。


 しかし、奴隷商人たちは店頭に並ぶポーションやキュアポーションを率先して買い占めているのだ。


 つまり、この街にやってくる冒険者、傭兵、難民たちに回復手段を与えないためなのである。


 回復手段がなくなった者たちは、奴隷商人たちに命を盾に取られて奴隷になるように迫られるのだ。


 この女冒険者もその犠牲者の一人だった。


「ふ~ん、そうなんだ」


「そうだ、この剣を君にやろう。鋼の剣だ。売ればかなりの額になるだろう。私が持っていても死体を漁られて奪われるだけだからな」


「いらないよ。それより毒を治してあげようか?」


「――なに!? 毒を治せるのか!?」


 女冒険者は血相を変える。


「うん。治せるよ」


 シルルンはフフ~ンと胸を張る。


 プニがキュアの魔法を唱えて、女冒険者の体から毒が浄化するとシルルンはプニの頭を撫でる。


 プニは嬉しそうだ。


「なっ!? 本当に毒が消えた……」


 女冒険者は雷に打たれたように顔色を変える。


「じゃあね~~~!!」


「……ま、待ってくれ!! 君には返しきれない恩がある!!」


 女冒険者の顔に戸惑うような表情が浮かんだが、シルルンたちは瞬く間に彼女の視界から消え去ったのだった。




















 シルルンたちは難民キャンプには戻らずに、東の方角に進んでいた。


 そこには娼婦たちの集団が生活しているのだが、そんなことはシルルンは知らないのである。


 シルルンたちが先に進んでいくと、二十人ほどの女たちが地面に座り込んでおり、女たちの後方には入り組んだ岩場が広がっていた。


 五人の女たちが立ち上がり、ふらふらとした足取りでシルルンに近づいてくる。


「ねぇ、何か食べ物持ってない? くれるならいいことしてあげるからさぁ……」


 酷く痩せこけた女が探るような眼差しをシルルンに向ける。


 彼女らの体は酷く痩せこけており、毎日が奴隷に落ちるか、あるいは死を受け入れるかというギリギリの戦いだった。


「リンゴならあるよ。食べる?」


 シルルンは魔法の袋からリンゴ五個を取り出した。


 彼はビビィのためにリンゴとミカンを大量に買い込んでおり、パンなどの食料も大量に買い込んでいるのだ。


「……も、もちろん食べたいさ!!」


 女たちの視線はシルルンを見ておらず、リンゴに釘付けだ。


 シルルンがリンゴを一個ずつ女たちに渡すと、女たちは獣のようにリンゴに食らいつく。


「……」


 そのあまりの食べっぷりにシルルンは面食らったような顔をした。


「……あ、ありがとう。さぁ、こっちにきてよ。いいことしてあげるからさ……」


「ミカンもあるけど食べる?」


 シルルンは魔法の袋からミカンを十個を取り出した。


「もちろん食べるさ!!」


 シルルンはミカンを二個ずつ女たちに渡すとは、女たちは皮ごとミカンに食らいついた。


「……さぁ、こっちにきてよ」


「パンもあるけど食べる?」


 シルルンは魔法の袋からパンを十個取り出すと、これまで食べ物しか見ていなかった女たちが訝しげな目をシルルンに向けた。


「……い、いいのかい?」


 シルルンはパンを二個ずつ女たち渡すと、女たちはシルルンを見つめながらパンを食べている。


「……あ、ありがとう。こんなに食べたのは久しぶりだよ。さぁ、こっちにきて私たち五人で相手するからさぁ」


 だが、その光景を目の当たりにした十五人ほどの女が立ち上がり、シルルンに向かって歩いてきた。


「わ、私たちにも食べ物を分けてよ。分けてくれたら私たちもいいことしてあげるからさ」


「ちょっと何いってるの!! 今は私たちの順番でしょ!! 割り込まないでよ!!」


 女たちは口論になり、シルルンはビックリして目が丸くなる。


 しかし、唐突に女の叫び声が上がる。


「狼よっ!! 皆逃げて!!」


「うわぁあああああぁぁああああぁぁぁ!!」


「どっから来やがったんだっ!?」


 入り組んだ岩場の方角から大勢の女たちが血相を変えてシルルンたちの横を駆け抜けていき、ちらほらと下半身を曝け出している男たちも交ざっていた。


 口論になっていた女たちも蜘蛛の子を散らすように逃げていったが、シルルンが食料を分け与えた女たちはその場に残っていた。


「あ、あなたも早く逃げないと!!」


「ん? 君たちは逃げたらいいよ」


「わ、私たちはあなたに食べ物をもらったお礼をしてないから、あなたが逃げないなら私たちも逃げないわ!」


 女たちの一人が意を決してそう言い放ったが、女たちの顔は蒼ざめて体はガタガタと震えている。


「ふ~ん、別にいいのに……じゃあ、あそこの岩陰に隠れてればいいよ」


 シルルンが後方にある巨大な岩を指差すと、女たちは何度も頷いて岩の後ろに身を隠した。


 しばらくすると、三人の女が狼の群れと戦いながら後退してきた。


 彼女らは女だけだと舐められるという理由で娼婦たちに雇われた用心棒である。


 だが、女用心棒たちは防戦一方で苦戦していた。


「えっ~~~~!? マジで!? なんで狼が倒せないんだよ……」


 シルルンは呆れ顔で溜息をついた。


 戦闘職ならば狼ごときに遅れをとることはあり得ないからである。


 シルルンは鋼のクロスボウで狙いを定めて矢を放ち、矢は女用心棒たちの間を通り抜けて三匹の狼を貫いた。


「なっ!?」


 女用心棒たちは驚きの表情を見せる。


 シルルンは次々に矢を放ち、矢は易々と狼たちを貫いて百匹ほどの狼を倒した。


 彼が薄い青色のミスリルの弓を使用しない訳は、狼が消し飛んで食料にできなくなることを懸念しているからである。


 シルルンが狼の群れを全滅させると、女用心棒たちの前に最後の一匹が姿を現し、女用心棒たちと狼が対峙する。


 その狼の体の大きさは他の狼たちよりもふた回りほど大きく、狼たちのボスだった。


 狼のボスは女用心棒たちに襲い掛かり、その動きは狼たちより数段速く、女用心棒たちは三人がかりでも苦戦を強いられていた。


「……」


 苦笑したシルルンは無造作に歩き出して一瞬で狼のボスに肉薄し、剣を振り下ろして狼のボスの首が宙を舞う。


 狼のボスは体から大量の血を噴出させて即死したのだった。


 この光景を岩陰から目の当たりにした女たちは信じられないといったような表情を浮かべている。


「……す、すまない……助かった。君は強いんだな……」


 女用心棒の一人が申し訳なさそうな顔で頭を下げた。


「……」


(ていうか、あんたらが弱すぎるんだよ……)


 シルルンは不審げな眼差しを女用心棒たちを向けている。


「私たちが倒した狼は三匹だから、三匹分の死体を私たちがもらっていいか?


「ん? 別に僕ちゃんいらないし、君たちが皆で食べればいいじゃん」


「ほ、ほんとにいいのか!?」


 女用心棒たちは歓喜に顔を輝かせる。


 彼女らは百匹ほどの狼の死体を集めて解体し、その日の夜は娼婦たちだけでの大宴会になった。


 強制的にシルルンも参加させられて、当然のように五人の娼婦たちがシルルンに纏わりついて離れない。


「狼にはよく襲われるのかい?」


「最近は狼だけじゃなく、野犬や熊なんかも襲ってきます……」


「……ふ~ん、そうなんだ」


 シルルンは難しそうな表情を浮かべている。


 つまり、十万人を超える難民たちが森の動物を絶滅寸前まで狩りつくしたことにより、森の食物連鎖の上位を占める動物たちの獲物が急激に不足したために起こった人災だった。


 そのため、生き残った動物たちは、難民たちを襲うことでしか生き残る術が残されていなかったのだ。


 夜が明けると、シルルンはその場から立ち去ろうとしたが、娼婦たちがシルルンから離れずになんでもするから奴隷にしてくれと哀願される。


 シルルンは試しにパプルを娼婦たちに近づけてみるが、パプルはピクリともしなかった。


 これにより、娼婦たちにスライム屋の店員の適性がないことが確定したシルルンは思い悩んでいたが、元娼婦たちが泣いてすがるのでそのまま押し切られたのだった。


 シルルンは娼婦たちを宿に預けてからスライム店員を探そうと考えて宿を探したが、きれいな宿屋には薄汚れた難民の宿泊は許可されなかった。


 そのため、シルルンたちは宿屋を何軒も回って交渉し、なんとか娼婦たちを宿泊させることができたのだった。


 ちなみに、宿屋は酷く老朽していたが、一泊一人につき六千円という高めの値段で話が纏まった。


 娼婦たちはそんな宿屋でも嬉しそうに久しぶりの風呂やベット、食事が取れることに感動し、シルルンに涙を浮かべて感謝した。


 シルルンは五日分の宿賃の十五万円を支払い、娼婦たちに見送られて宿を後にしたのだった。




















 シルルンたちはキャンプエリアの中央で難民たちを観察していた。


「俺のとこは一日二食は保障する!!」


「うちは三食を保障する!!」


「儂は腕に自信のある奴隷を求めている!! 派遣先は金持ちの護衛だ!!」


 奴隷商人たちがズラリと並んで声を張り上げている。


「性交渉不可はつけてくれるのかい!?」


「ほんとに三食つくのかよ!?」


「信じられるかよ!!」


 奴隷商人たちを全く信用できない難民たちは、訝しげな眼差しを奴隷商人たちに向けている。


 つまり、奴隷商人たちの大半が大手の奴隷屋と繋がっており、転売が目的の勧誘なのである。


 だが、難民たちもそれを理解しており、彼らの狙いは奴隷商人たちではなく、条件などを交渉可能な個人的に奴隷を購入するために足を運んだ者たちにあった。


 しかし、それも体力がある場合の話であり、体力が失われると嫌でも選択を迫られることになる。


 死か奴隷に落ちるかを……


「俺は結婚相手を探している!! 二十歳から三十歳ぐらいの女性で結婚してもいいと思う女性は俺の元にきてくれ!!」


 冴えない男が声を張り上げる。


「……なるほど」


(上手い手だね……)


 冴えない男の顔がブサイクだと思ったシルルンは感心したような表情を浮かべている。


 天の救いだと目を血走らせた女たちが一斉に男の元に押し寄せる。


「仕事は何をしているの!?」


「収入は!?」


「家の大きさはどのくらい!? 何人で住んでるの!?」


「親や兄弟は何人!?」


 女たちは一斉に男に質問した。


「俺は小さな鍛冶屋をやっている。収入はそこそこだ。家の大きさはそんなに広くないが二階建てだ。親や兄弟もいないし家には俺一人で住んでいる。だが、今ここに集まっている女たちには用はない。そんなのと結婚しても到底うまくいきっこないからだ」


 男はしたり顔で言い放つ。


「そ、そんな……」


「そんなのこの状況じゃ仕方ないじゃない!!」


 女たちは反論するが、男は全く意に返さない。


「そこの遠巻きに俺を見ている君と君と君!! もし、良かったら俺と街の中で食事でもどうだろうか?」


「よ、喜んで!!」


 指名された三人の女たちは、男と一緒にほくほく顔で街がある方角に歩いていった。


「へぇ、あんなふうに話を纏めるんだ……」


 だが、女の押しに弱いシルルンは不安げな表情を浮かべていた。


「大工を十人ほど募集しておる!! 見習いはいらん!!」 


 屈強な爺が大声を張り上げたが、誰も集まらない。


 そもそも大工のような力仕事に就いていた者は、大穴を塞ぐ作業に出向いているのでほとんど残っていないのだ。


 屈強な爺は地面に座り込み、立て札看板を地面に突き刺した。


 その立て札看板には【大工を十人ほど募集!! 見習いはいらん!!】と書かれていた。


「へぇ、ああいうやり方もあるんだ」


(長期戦になるようなら立て札看板は良さそうだね)


 シルルンは感嘆の声を上げる。


 端に移動したシルルンは意を決して声を張り上げた。


「僕ちゃんはスライムの世話する人を十人ぐらい募集するよ!!」


 すると、難民たちが一斉に押し寄せてシルルンは一瞬の内に囲まれた。


「年齢はいくつまでだ!?」


「性別は!?」


「食事はでるの!? 給料は!?」


「勤務地はここなのか!?」


「え~とね、年齢も性別も不問で食事も三食だすし、給料は一日五千円ぐらいで勤務地はトーナの街だよ。適性があるか調べるから並んでよ」


 シルルンは戸惑いながらも返答した。


「俺はどうだ!?」


「どけっ!! 俺が先だ!!」


「何言ってるの!? 私が先よ!!」


 難民たちは我先にとシルルンに目掛けて殺到し、周辺は大混乱に陥った。


「ひぃいいいぃ!! こんな状況じゃ適性を調べられないよ!!」


 困惑するシルルンはその場から逃走した。


「どこいった!?」


「あっちだ!! 逃げたぞ!!」


「何っ!! 冷やかしかっ!!」


「絶対に逃がすなっ!! 追え追えっ!!」


 憤怒の形相を浮かべる難民たちはシルルンを執拗に捜しまわるのだった。

面白いと思った方はブックマークや評価をよろしくお願いします。


レッサー アメーバ レベル1 全長約1メートル

HP 300

MP 20

攻撃力 20

守備力 50

素早さ 30

魔法 無し

能力 捕食 溶解液 酸




アメーバ レベル1 全長約2メートル

HP 700

MP 100

攻撃力 60

守備力 100

素早さ 65

魔法 シールド

能力 捕食 溶解液 強酸







 魔法や能力、スキルについて


 魔法と能力は目覚めるものであり、習得できるものではない。


 スキルは剣をもって振り回せば剣術レベル1が所持できる。一部例外を除いて、基本的に習得できるのがスキルなのだ。




 転職の神殿について


 職業に就くことができる神殿のことである。


 ある程度の規模の街ならば転職の神殿はあり、もちろん、トーナの街やルビコの街にもある。


 基本的に職業に就くには転職の神殿にて行うのだが、シルルンのように自力で目覚める場合も稀にだがあるのだ。


 元々、職業は自力で目覚めるものだったが、適性はあるのに目覚めることができない者が多く、それを少しでも軽減させる為に国が転職の神殿を建てたのだ。


 そうしなければ魔物に対抗できなかったからだ。


 いうまでもないが、全く適性のない者は転職の神殿をもってしても、なりたい職業に就けるわけではない。


 さらに下級職の【剣士】に就けたとしても、上級職の【剣豪】に必ず転職できるわけでもないのだ。


 転職した場合、レベルは1に戻るが、魔法や能力、スキルは継承される。


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[一言] 難民、こわっ( ̄▽ ̄;)!!
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