32 大穴のボス ☆ 修
注、無理矢理、側面図に描いてるので実際の位置とは異なる。
セルドが露出させた洞穴の中を討伐武隊は進軍していた。
洞穴内の道幅、高さは五十メートルほどもあり、これまでの洞穴の中では最大規模の広さを有している。
討伐武隊の先頭を進むのはセルドなので、ハイ センチピードたちやハイ モールたちが襲い掛かってきてもセルドが一撃で屠り、彼らの進軍速度は落ちることはない。
討伐武隊が五十キロメートルほど進軍したところで、直径五キロメートルほどの部屋に到着する。
部屋には凄まじい数の魔物が存在すると推測されていたが、巨大な魔物が部屋の中央に一匹いるだけだった。
その魔物の全長は二十メートルを超える巨体で、体は土色の鱗で覆われていた。
ハイ モールから突然変異したアース ドラゴンである。
「あれがこの大穴の主なのか?」
ヒーリー将軍は探るような眼差しをセルドに向ける。
「ああ、アース ドラゴンだ。奴を倒さない限りこの大穴は拡張され続けて近い将来、街に危険が及ぶだろう」
セルドは表情を強張らせる。
「な、なんて大きさなんだ……」
「こんな化け物に勝てるのか……」
軍の者たちや冒険者たちはアース ドラゴンを見上げて固唾を呑んだ。
「我々は主を倒すために今まで戦ってきた。主を倒さねば我々の国に平和は訪れない。主を倒すために皆の力を私に貸してくれ!! 出撃せよ!!」
意を決したヒーリー将軍は号令を掛ける。
ベル大尉が聖騎士たちを率いて出撃し、その後を上級兵士たちが追従する。
それを見届けたラーグ隊はゆっくりと進軍を開始し、両翼にはホフター隊とリック隊が進軍しており、その後方にアウザーとセルドが続く。
「一応マジックシールドの魔法とシールドの魔法を掛けとくね」
シルルンは思念でプニに指示を出し、プニはマジックシールドの魔法とシールドの魔法をベータたちに唱えて、ベータたちの前に透明の盾が二つずつ展開した。
「ありがてぇが俺たちはここで見学させてもらう。足手まといになるだけだからな」
ベータたちは洞穴の出入口前で待機し、シルルンたちは進軍を開始した。
先頭を進軍するベル大尉たちとアース ドラゴンとの距離が十メートルほどまで接近すると、アース ドラゴンは『威圧』を放つ。
上級兵士たちの顔は恐怖に歪んでおり、体が萎縮して動けなくなる。
「コォオオオオオオオオオオオオオオォ!!」
『咆哮』を発動したアース ドラゴンは耳をつんざくような声で吠えた。
ドラゴンの『咆哮』には意思を挫く力があり、『威圧』と併用されるとその威力は計り知れない。
完全に動けなくなった上級兵士たちは険しい表情を浮かべている。
アース ドラゴンは口を大きく膨らませて『炎のブレス』を吐き、灼熱の炎がベル大尉たちに襲い掛かる。
「ぎぃやああああああああああぁ!!」
「あぁがぁああああぁあああぁぁぁぁ!!」
「ぐぅあああぁぁあぁあああぁぁ!!」
灼熱の炎に焼かれた上級兵士たちは断末魔の絶叫を上げると同時に一瞬で炭になったが、ベル大尉と聖騎士たちは後方に跳躍して難を逃れていた。
憤怒の形相のベル大尉たちはアース ドラゴンに目掛けて疾風の如く駆け出したが、その速度が急速に低下する。
「なっ!? なぜ体が重い!? いったん下がれっ!!」
不可解そうに叫んだベル大尉は後退し、聖騎士たちも後退しようとしたが、アース ドラゴンが『炎のブレス』を吐いて、紅蓮の炎に包まれた聖騎士たちが瞬時に炭になって崩れ落ちた。
「ぐっ、後退だ!!」
振り返って仲間たちの状態を確認したラーグが声を張り上げた。
その声と時を同じくしてホフター隊とリック隊も下がり始める。
「……な、なんで身体がこんなに重いのよっ!!」
リザとエベゼレアは苛立たしそうに後退し、タマたちも一緒に下がったが、ラーネとシェルリングは歩みを止めただけで後退せずに様子を窺っている。
彼らの動きが鈍くなった理由は、アース ドラゴンが『重圧』を発動したからである。
そのため、周辺の重力が十倍に変わっていたが、十倍の重力の中を悠然と歩く男たちの姿があった。
アウザーとセルドである。
だが、その後方にはまるで気にした様子もなく進む男がいた。
シルルンである。
彼は気づいていないがラーネとシェルリングのペット化に成功して急激にレベルが上昇しており、『魔物能力耐性』によって『威圧』『咆哮』『重圧』を無効化していた。
「フハハッ!! 相手にとって不足なし!!」
「ん? 何か言った?」
シルルンは怪訝な眼差しをブラックに向ける。
「ダークネス!!」
ブラックはダークネスの魔法を唱えて、黒い風がシルルンの体を突き抜けた。
「うがぁあああぁああああああああぁぁぁ!!」
絶叫したシルルンは理性の箍が外れて剣を振り回す。
プルとプニは不審げな眼差しをブラックに向ける。
「またこの魔法デシ!! でもキュアの魔法で治せるデシ」
「待たれい!! 分からんのか!! 奴を倒さねば主君は死ぬぞ? いいのか?」
ブラックは恐ろしく真剣な表情を浮かべている。
「嫌デス!!」
「デシデシ!!」
ふるふると体を振るわせたプルとプニはアース ドラゴンを睨みつけた。
「ならば我らが力を合わせて倒すしかあるまい……とはいえ、すでに主君は我の速さを超えておられる……故に我は修羅に入る。一騎駆けこそ戦の花よ……ダークネス!!」
ブラックはダークネスの魔法を唱えて、黒い風がブラックの体を突き抜ける。
彼は正気を失ったが標的だけは認識していた。
ブラックは全速力でアース ドラゴンに目掛けて突き進んでいたが、唐突に白い光に包まれて輝いた。
格上の相手に挑む気概と、勝つためには手段を選ばないその暴挙が、ブラックを上位種へと導いたのだ。
進化は一瞬で完了して、ブラックは上位種のハイ ロパロパへと進化したのである。
ブラックの全長は百五十センチメートルほどに大きくなっており、進化したことによってダークネスによる状態異常も掻き消されていた。
「フハハッ!! やりましたぞ主君!!」
ブラックは歓喜に打ち震える。
彼は『威圧』と『咆哮』は、『能力軽減』で無効にしていたが、『重圧』は効いており、その速度は著しく低下していたのだ。
しかし、ブラックは進化したことで『能力耐性』に目覚めており、『重圧』を無効化することに成功する。
「これで主君と共に往ける……スピード!! ダークネス!!」
『疾走』で駆けるブラックはスピードの魔法とダークネスの魔法を唱えて、赤い風と黒い風がブラックの体を突き抜けた。
彼はスピードの魔法によって素早さが二倍に上昇し、ダークネスの魔法でさらに素早さが三倍まで上昇しており、この瞬間の彼の素早さは七千二百という驚異的な数値を叩き出していた。
ブラックは超加速してアース ドラゴンに目掛けて突き進む。
「がぁああああぁぁあああああぁぁ!!」
閃光になったシルルンたちはアース ドラゴンの腹を突き抜けた。
「速ぇえ!! シルルンか!? マジかよ……」
ホフターは驚愕に目を見開いた。
「キィギャァアアアアアアアアァァアアアアアァァ!!!!」
腹から大量出血して暴れ狂うアース ドラゴンは凄まじい形相で吼えた。
不敵な笑みを浮かべるアウザーは槍を突き出すように構えると、閃光がアース ドラゴンの体を突き抜けて、アース ドラゴンの背後にアウザーが出現した。
体を真横に斬られたアース ドラゴンは体が横にずれ始める。
シルルンたちはあまりの速度に壁に激突したが、その凄まじい衝撃をブラックが柔らかい体で受け止めると同時に、その反動でさらに加速してアース ドラゴンに襲い掛かる。
「がぁぁああああぁぁぁあああああああぁぁぁぁ!!」
シルルンたちは閃光と化し、剣を突き出したシルルンはアース ドラゴンの首を突き破る。
首が宙に舞ったアース ドラゴンは胴体から血を噴出させて体が横にずれ落ち、断末魔の声を上げることなく絶命した。
この光景を目の当たりにした軍の者たちや冒険者たちは放心して立ち尽くすだけだった。
「勝ったデス!!」
「やったデシ!!」
プルとプニはピョンピョンと跳ねて大喜びしており、プニがキュアの魔法とヒールの魔法を唱えて、シルルンとブラックの状態異常と体力が回復する。
我に返って辺りを見回したシルルンの目前にアース ドラゴンの首が転がっており、それを目の当たりにしたシルルンの顔が驚愕に染まる。
「ひぃいいいいいいいいぃ!?」
(あれ? アウザー教官がいる……なんだ、アウザー教官が倒したのか)
納得したシルルンは安堵の表情を浮かべる。
「ん?」
(なんかブラックが大きくなってる気がするね……)
シルルンは『魔物解析』でブラックを視ると、ブラックはハイ ロパロパに進化していた。
(えっ? いつ進化したんだよ?)
シルルンは驚きを禁じ得なかった。
この戦闘により、上級兵士二十名と聖騎士二名が戦死しており、シルルンたちは哀悼の意を表したのだった。
ちなみに、アース ドラゴンの討伐金は二億円で、素材の買い取り価格が二億円だったので、アウザー教官とシルルンで二億円ずつ分配されたのだ。
だが、分配金が得られる理由が理解できないシルルンは、二億円をリザとエベゼレアと分配しようとしたが拒否される。
こうして、アース ドラゴンは倒されて大穴の主は討伐されたのだった。
討伐部隊はA3ポイントまで帰還し、ヒーリー将軍が主を倒したことをロレン将軍に報告して、A3ポイントは勝利のムードに包まれていた。
軍は引き続き大穴に留まって魔物の討伐を行うが、規模は縮小される予定なのだ。
そのため、軍はA1ポイントまで後退して、首都トーナの街の方角に伸びるCルートの魔物を殲滅して、部屋を一つずつ埋めていく手法へと変更される。
これにより、Aルートに生息する魔物の討伐は冒険者ギルドが行うことになり、大穴への入り口付近には立て札看板を設置されるだけに留まり、森への入場制限が解かれることになったのだった。
一方、シルルンは学園に帰還するが、エベゼレアがホフター隊に入隊することが決定した。
エベゼレアとゼミナは激しい言い争いを展開したが、ホフター隊は四名もの戦死者が出ており、最終的にはゼミナが折れた形になったのだ。
イネリアはスラッグの奴隷秘書を辞職して、シルルンに同行したいと願い出たがシルルンは即座に断った。
だが、彼女は同行の許可が得られないのならばプルに抱きつくと駄々をこねたのだ。
そのため、シルルンは仕方なくイネリアの同行を了承したのだった。
エベゼレアに別れを告げたシルルンたちはAポイントに移動する。
Aポイントに到着するまでの道程で、シェルリングを目の当たりにした冒険者たちは震え上がっており、シルルンたちはAポイントから地上に踏み出した。
久しぶりに太陽の日差しを体に受けたシルルンたちは口角に笑みが浮かぶ。
「じゃあ、約束通りに君のペット化を解くね」
「いや、世話になった礼に渡したい物がある……しばらくこの辺りで待っていてくれ」
そう言い残してシェルリングは飛び立って行った。
「……スライムを探そうかな」
暇を持て余したシルルンはスライムをテイムするために周辺を探索し始める。
「呼んでみるデスか?」
「えっ? できるんならやってみてよ」
「分ったデス」
「デシデシ」
プルとプニはシルルンの肩の上でふるふると震えている。
シルルンたちは地面に座り込んでしばらく待っていると、多数のスライムたちがぞろぞろとシルルンたちの周りに集まり、シルルンは即座にスライムたちをテイムした。
これにより、五十匹ほどのスライムがシルルンのペットになったのだ。
だが、木の後ろに身を隠しながら悲しそうにシルルンの様子を窺う魔物の姿があった。
レッサー ラビットである。
レッサー ラビットは地面に穴を掘って穴の中で暮らしている魔物だが、穴を掘るときに岩などが邪魔な場合にスライムに助けを求めることもあるのだ。
そのため、レッサー ラビットとスライムは仲良しで、彼らは一緒に暮らしていることも少なくない。
「ん? レッサー ラビットじゃん……」
(スライムたちと一緒に暮らしていたのかな?)
見兼ねたシルルンがレッサー ラビットに手招きすると、レッサー ラビットはシルルンの傍に寄ってきた。
シルルンは透明の球体を作り出して、透明の結界でレッサー ラビットを包み込んで一瞬でテイムに成功する。
レッサー ラビットは嬉しそうに黄色いスライムに向かって歩き出したのだった。
「遅いねシェルリング……」
シルルンが退屈そうに森を眺めていると、唐突に森の中から葉っぱの魔物が姿を現したのだ。
目を見張ったシルルンは瞬時に『魔物解析』で葉っぱの魔物を視てみると、葉っぱの魔物の正体は青髪のマーメイドだった。
彼女は巨大な葉っぱで身を隠しながらシルルンを追ってきたのである。
「……下半身が人の脚になってるじゃん」
シルルンは驚きを隠せなかった。
「私はビビィ。果物がもっと食べたいからあんたについていくわ」
「えっ? やだよ」
「……えっ!? 絶対一緒についていくから!!」
愕然としていたビビィは我に返ってタマにしがみついて離れない。
「……しょうがないね」
シルルンは大きな溜息を吐いた。
そして、およそ四時間が経過した頃、シェルリングがシルルンたちの元に帰還する。
シェルリングは小さな袋をシルルンに手渡し、シルルンはシェルリングのペット化を解いた。
「世話になったな」
シルルンたちはシェルリングと別れの挨拶を交わすと、シェルリングは空へと羽ばたいて行った。
だが、シェルリングの身を案じるシルルンは複雑そうな表情を浮かべていた。
近い将来、マンテイス種とスパイダー種の間に大規模な戦争が勃発するからである。
こうして、シルルンたちは学園に帰還したのだった。
一方、メローズン王国全土に対して、大穴攻略の経緯や大穴の主が討伐されたことが国から大々的に発せられた。
その最大功績者の一覧に名を連ねているのは、勇者セルド、ヒーリー将軍、アウザー教官、英雄ラーグ、英雄ホフター、英雄リック、そしてシルルンである。
「すげぇなマジで!! だが、このシルルンというのは知らねぇな」
「聞いた話じゃ、武学の生徒で魔物使いらしいぜ」
「なんだお前ら【ダブルスライム】を知らねぇのか?」
「【ダブルスライム】? なんだそりゃ?」
「ハイ スパイダーを瞬殺したことでついた二つ名よ。なんでも、両肩に可愛らしいスライムをのせてるらしい」
この様な会話が冒険者たちや傭兵たちの間で噂されており、シルルンは有名人の仲間入りを果たしたのだが、そんなことは彼は知る由もなかった。
ビビィのイメージ^^
シルルンたちが学園の男子寮に到着した時点ですでに深夜になっており、シルルンは学園の前でリザたちに別れを告げた。
だが、彼女らは問答無用でシルルンの部屋に同行したのだ。
「部屋は二つあるから一つは僕ちゃんたちが使うから、もう一つはリザたちが使えばいいよ」
「その分け方じゃシルルンのほうが狭くなるから部屋を分ける必要はないわよ」
リザの言葉に、イネリアは頷いているが、ビビィがペットたちと一緒に暴れ回って部屋は無茶苦茶に散らかった。
「……」
(できるだけ早く学園の近くで部屋を借りないといけないね……)
苦笑する以外にないシルルンはベットに横たわって眠りについたのだった。
翌朝、シルルンが目を覚ますと彼の両隣にリザとラーネが寝息を立てており、すでに昼を過ぎていた。
「ていうか、まず風呂だね」
風呂部屋に移動したシルルンは壁に設置されているレバーを右に回すと、配管から水が流れ出て浴槽に溜まっていく。
服を脱いだシルルンは桶の中に水を入れて服を洗い始めると、桶の中の水がドス黒く変色した。
「やべぇ……どんだけ汚れてるんだよ……」
唖然として言葉を失ったシルルンは桶の中の水を何度も入れ換えて洗っていると、シャツと半ズボンはそれなりに綺麗になる。
「……」
(けどビショビショだよ……さすがに裸で出れないよね……)
リザたちの存在を思い出したシルルンは風呂から退出不能に陥った。
シルルンはシャツと半ズボンを激しく振り回すと、部屋の中に暴風が吹き荒れてシャツと半ズボンは瞬時に乾いたのだった。
一般人が同じ事を行っても暴風が発生することはないが、急激にレベルが上昇していることを彼は知りもしないのである。
シルルンは体を伸ばして水風呂に浸かっていると、プルたちが風呂部屋に入ってきた。
「ふろデスふろデス!!」
「デシデシ!!」
「フハハ!!」
プルたちは水風呂の中に飛び込んだ。
彼らの体は汚れたとしても時間経過と共に綺麗になっているのだが、彼らは風呂好きなのだ。
だが、風呂の知識がないタマたち戸惑うような表情を浮かべており、水風呂から出たシルルンは泥だらけのタマたちの体を洗う。
タマたちは嬉しそうだ。
風呂から上がったシルルンたちは学園のスライム小屋に向かって歩き出した。
タマたちの背にはスライムたちとレッサー ラビットが乗っており、不用意に目立つことを避けたシルルンはブラックに乗っていなかった。
「うわっ!! 何あれ!?」
「すげぇ!!」
多数のスライムたちを目の当たりにした動物使い科の生徒たちが驚きの声を上げる。
スライム小屋から姿を見せたピクルスが厩舎に向かって歩を進めようとすると、シルルンの姿を目にしたピクルスは思わず声を張り上げる。
「……シ、シルルン!! おい!! シルルンが帰ってきたぞ!!」
「おかえり!!」
声を弾ませたキュリーやスラッ子たちスライム小屋から躍り出てくる。
「ただいま。スライムや馬の世話を任せて悪かったね」
「そんな全然問題ないわよ。こっちからお願いしたいくらいなんだから。それよりこの子たちは新しい仲間なの?」
タマたちの背に乗っているスライムたちを見つめるキュリーとスラッ子たちは、期待の眼差しをシルルンに向ける。
「うん、まぁね。とりあえず、中に入って話そうよ」
シルルンたちはスライム小屋の中に入り、シルルンは「ここが新しい家だよ」と思念でスライムたちとレッサー ラビットに説明すると、彼らは一斉に小屋の中で遊び始める。
「うわぁ!! すごく賑やかになるわ!!」
キュリーとスラッ子たちの顔がパーッと明るくなる。
シルルンは「スライム小屋の周辺に生えている草を食べていいよ」と思念でタマたちに伝えると、タマたちは嬉しそうにスライム小屋から飛び出して行った。
本来なら、オリベーラ教官の下に赴いてペットたちの登録をする決まりがあるが、シルルンは登録を行うのはブラックとタマたちだけでいいと考えていた。
スライムだけは部屋を借りて別で育てようと彼は思っているからである。
シルルンが岩場に腰掛けると、初期の頃にテイムした五匹のスライムが纏わりついてきた。
シルルンはスライムたちの頭を撫でる。
スライムたちは嬉しそうだ。
「きゃあああぁぁ!!」
唐突にスライム小屋の外から金切り声が上がり、悲鳴を耳にしたシルルンたちは不審げな表情を浮かべる。
慌ててシルルンたちはスライム小屋の外に出ると、二十人ほどの生徒たちの姿があった。
「なんでこんなところに魔物がいるんだよ!!」
「こいつ、硬いな!!」
「ああ、全く刃が通らん……」
タマたちを剣で斬りつけた生徒二人が意外そうな表情を浮かべている。
彼らは戦士科の生徒たちであり、森への入場制限が解かれたことにより、動物使い科の生徒たちが戦士科に動物捕獲を依頼したのだ。
そのため、依頼内容を協議するために、動物使い科に訪れた戦士科の生徒たちがタマたちに遭遇したのだ。
「何の騒ぎ?」
スライム小屋を訪れたハズキたちは人だかりを見つめて訝しげな表情を浮かべており、ハズキがスライム小屋の前で佇むピクルスに尋ねる。
「シルルンのペットを魔物だと思った戦士科の奴らが騒いでいるんだよ」
「えっ!? シルルン帰ってきたの?」
驚きの声を上げたパールは人だかりに向かって歩いていく。
「タマたちは僕ちゃんのペットだからやめてよ。よく我慢したね」
憤怒の形相を浮かべるシルルンは、丸くなって防御体勢をとっているタマたちを優しく撫でる。
「なんだよ……お前のペットかよ!!」
「まぎらわしいんだよ!!」
二人の戦士科の生徒たちは怒りの形相を露にした。
「ていうか、タマたちに謝ってよ」
「あぁ!? それ俺たちに言ってんのか?」
「そもそも、なんで謝らなきゃいけねぇんだよ!!」
戦士科の生徒たちは忌々しげな表情を浮かべている。
「それは君たちがペットを飼ってるとして、そのペットが何もしていないのにいきなり剣で斬りつけられてたらどう思う?」
「そもそも、ペット飼ってねぇから知らねぇよ!!」
「ぎゃはははは!! それいったら終わりだろ!!」
戦士科の生徒たちは人を馬鹿にしたような薄笑いを浮かべている。
「……」
ペットたちに危害を加える者を許せないシルルンは怒りに身体を打ち振るわせている。
だが、彼が何よりも腹立たしかったことは、ペットたちに人族を攻撃するなと命令していたことだった。
「おいっ!! 何か言ってみろよコラッ!!」
戦士科の生徒が激しい怒声をシルルンに浴びせる。
それを目の当たりにしたパールは苛立しげな顔をして、シルルンたちに向かって歩き出した。
戦士科の生徒が剣をタマに目掛けて振り下ろすが、シルルンは剣で戦士科の生徒の剣を弾き返す。
「おっ? 面白れぇ!! やる気か!!」
一瞬意外そうな顔をした戦士科の生徒は一転して獰猛な笑みを浮かべる。
貧弱なシルルンが戦うことを選択したことに、パールは面食らったような表情を浮かべている。
「ていうか、お前ら戦士科はクソだな……お前ら二十人全てが敵だという認識でいいんだな?」
「ぎゃははは!! そういうことは俺たちに勝ってから言えよ!!」
戦士科の生徒は呆れた表情を浮かべている。
「もちろん、そのつもりだよ」
シルルンは自信に満ちた表情で言った。
「くくく、口ではなんとでも言える」
「動物使い科が俺たち戦士科に勝てるわけがないことをはっきり分らせてやるぜ」
余裕の笑みを浮かべる二人の戦士科の生徒は剣を構える。
「僕ちゃんはマスターとしてお前たちを許すわけにはいかない。全員きっちり報復するよ」
「フハハッ!!」
後方に控えていたブラックがシルルンの傍らに並んで、戦士科の生徒たちと対峙する。
「ぷっ!? なんだその黒いのは!? それもお前のペットかよ!?」
「ぎゃはははは!! 笑わせてくれるぜ!!」
戦士科の生徒たちは小馬鹿にした様子でニタニタと笑った。
「ペッペッ!!」
ブラックは『溶解液』を連続で吐いて液体が地面を溶かし、戦士科の生徒たちの前に二つの大穴があいた。
その大穴の大きさは直径と深さが三メートルほどあった。
「――っ!?」
戦士科の生徒たちは雷に打たれたように顔色を変える。
「あはは、いまさら何をビビってるんだよ。その二つの大穴はお前たちの棺桶だとブラックは言ってるんだよ」
その言葉に、辺りに静寂が訪れて戦士科の生徒たちは息を呑んだ。
「ちょ、ちょっと待――」
動揺を隠し切れない戦士科の生徒たちに対して、一瞬で戦士科の生徒たちの目前に移動したシルルンは剣を二度振るう。
胸を斬り裂かれた戦士科の生徒二人が血反吐を吐いて地面に突っ伏すと、後方で成り行きを静観していた戦士科の生徒たちが目を見張った。
瞬く間に戦士科の生徒たちの背後に回り込んだブラックがアースの魔法を唱えて、無数の岩や石が戦士科の生徒たちに襲い掛かる。
「ぎゃぁああああああああああぁっ!!」
「うぎゃあああぁぁあああぁぁ!!」
「うわぁああああああぁぁ!?」
数知れない岩や石に打ちのめされた戦士科の生徒たちは吹っ飛んで地面を転がり、全員が意識を消失した。
シルルンに斬られた二人の生徒は必死の形相で、胸から流れ出る血液を腕で押さえつけて止血している。
「……戦士科の生徒たちはこの程度の魔法も回避できないのかよ。そんなんじゃ大穴では一日ももたないよ」
シルルンは失笑した。
「大穴!? まさかお前がシルルンか!?」
「うん、そうだよ。けどそれを知ってもお前たちには意味がない。ここで死ぬんだから」
躊躇なく戦士科の生徒たちを大穴に蹴り落としたシルルンは、片方の生徒の頭に向けて鋼のクロスボウを突きつけた。
「ひゃあああぁ!! た、助けてぇ!!」
「ひぃい!! し、死にたくない!!」
取り乱した戦士科の生徒たちは顔をぐちゃぐちゃにして泣き叫ぶ。
「そもそも、なんでお前たちを助けないといけないんだよ。ほら何か言ってみなよ」
戦士科の生徒が言った論調でシルルンは言い返し、絶句した二人の戦士科の生徒は目の中に絶望の色がうつろう。
「その辺でやめないかっ!!」
鋼のクロスボウを掴んで生徒から射線を外したオリベーラ教官が、平手打ちをシルルンに繰り出した。
「そんなの当たるわけないじゃん」
平手打ちを難なく避けたシルルンが鼻で笑う。
「ミーラが言ってたことは本当だったんだ……」
地面に転がる戦士科の生徒たちを目の当たりにしたキュリーはショック状態に陥った。
シルルンと戦士科の生徒たちが揉め始めてからすぐに、彼女がオリベーラ教官を呼びに行ったのだ。
「ていうか、あんたはどんな理屈で止めるんだよ?」
(弱いペットなら死んでいたんだぞ……)
シルルンは殺気に満ちた目でオリベーラ教官を睨んだ。
「が、学園ではケンカは認めているが、さ、殺人は認めていない」
オリベーラ教官は震える声で言った。
「こいつらはタマたちを殺すつもりだったんだぞっ!!」
憎悪と怒りに顔を歪めたシルルンは声を張り上げる。
「だが、過程はどうあれ、死んではいないだろっ!!」
「――っ!? ぐっ、分かったよ……ヒーラーを呼んであげてよ」
はっとしたような顔をしたシルルンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
だが、硬く握られた彼の拳からは血が滴り落ちていた。
「おおっ!! そうか!! 分かってくれたかっ!!」
恐怖に身体を震わせるオリベーラ教官は目に涙を浮かべて鼻水を垂らしている。
「次はないよ? そのときは戦士科全員を潰すと伝えておいてよ」
鋭利で容赦のない視線をシルルンは大穴の底で死の恐怖に怯える二人の生徒に向けた。
「わ、分かりました……」
そう返答した二人の生徒は気絶して地面に突っ伏し、思念でペットたちを呼び寄せたシルルンは踵を返して歩き出した。
あまりのシルルンの変わりようにパールはただならぬ表情を浮かべるのだった。
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ハイ ロパロパ レベル1 全長約150センチ
HP 1500
MP 500
攻撃力 250
守備力 250
素早さ 600
魔法 アース ダークネス ポイズン ファテーグ
能力 捕食 強酸 疾走 HP回復 触手 治癒 溶解液 痺れのブレス
アース ドラゴン レベル1 全長約20メートル
HP 5000~
MP 1000
攻撃力 1500
守備力 800
素早さ 400
魔法 アース スリープ パラライズ
能力 統率 威圧 重圧 咆哮 毒霧 毒牙 毒爪 麻痺牙 豪食 剛力 炎のブレス
アース ドラゴンの鱗(約30枚) 100万円
アース ドラゴンの牙(1本) 500万円
アース ドラゴンの爪(1本) 500万円
アース ドラゴンドラゴンの瞳(1個) 1000万円
ブラック ハイ ロパロパ レベル5 全長約150センチ
HP 1600
MP 500
攻撃力 350
守備力 250
素早さ 850
魔法 アース ダークネス スピード ポイズン ファテーグ
能力 捕食 強酸 疾走 HP回復 触手 治癒 溶解液 痺れのブレス 能力耐性
プル スライムメイジ レベル15 全長約20センチ
HP 550
MP 850
攻撃力 30
守備力 40
素早さ 105
魔法 ファイヤ ファイヤボール サンダー エクスプロージョン アンチマジック マジックリフレクト マジックドレイン ポイズン ナイトビジョン
能力 捕食 統率 HP回復 MP回復 ビリビリ 魔法耐性 浮遊 触手 火のブレス
プニ スライムメイジ レベル15 全長約20センチ
HP 600
MP 900
攻撃力 40
守備力 50
素早さ 100
魔法 ヒール キュア ファテーグ パラライズ シールド マジックシールド ブリザー エクスプロージョン マジックドレイン ウォーター ライト
能力 捕食 統率 HP回復 MP回復 魔法耐性 浮遊 触手 瞑想 水のブレス
シルルン 魔物使い レベル90
HP 1500
MP 0
攻撃力 450+ミスリルダガー 鉄の剣 鋼のクロスボウ
守備力 400+白ぽいシャツと黒っぽい半ズボン
素早さ 760+サンダル
魔法 無し
能力 逃走癖 集中 危険探知 魔物探知 魔物解析 魔物能力耐性
ラーネ レベル5
HP 6500
MP 1200
攻撃力 2300+鉄の剣 漆黒の包丁
守備力 1600+白い皮の鎧
素早さ 1500+白い皮のブーツ
魔法 ヒール キュア ブリザー パラライズ シールド アース アンチマジック エクスプロージョン
能力 統率 威圧 魔法耐性 魅了 氷結 瞬間移動
レッサー ラビット レベル1 全長約50センチ
HP 10
MP 5
攻撃力 10
守備力 5
素早さ 20
魔法 無し
能力 無し




