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4.捕縛

・・・すいません。

コロナに感染してました。今は熱も下がり、接触禁止期間が開けるのを

大人しくなっている所です。

一日遅れになりましたが今週分の投稿を致します。



 ヴァラスタがフェールに魔物討伐許可を与えた翌日…。二人のF級冒険者はギルドに姿を現さなかった。カウンターで依頼受付業務を行っていたカーナは昨日の夜にヴァラスタに言われた言葉を思い出す。


「明日は迷宮探索系の依頼は出さないで下さい。そしてグライガ殿、フェール殿がギルドに来ない場合は、これでドゥメラに連絡して下さい。」


 カーナは手に持ったイヤリングを見つめた。ヴァラスタが作成した。簡易通信ができる魔装具で、二個一対のアイテムだ。使い切りの魔装具だが、遠方の相手と会話ができる。イヤリングのもう片方を持っているのは迷宮入口の監視員を務めているドゥメラと呼ばれている少女で、ヴァラスタが使役している奴隷であった。カーナはため息をついてイヤリングを耳に付ける。


「……ドゥメラさん、聞こえますか?」


 耳の近くて魔力を練り込み、その魔力に自分の声を乗せてイヤリングに流し込んだ。


(……聞こえる。要件を伺う。)


 そっけない物言いの少女の声がイヤリングから聞こえる。


「F級冒険者のグライガとフェールの二人が朝から姿を見せていません。…迷宮へは来ていますか?」


(まだ来ていない。他の冒険者が迷宮に来る予定は?)


「ヴァラスの指示で今日は迷宮探索は出していません。他の冒険者は別の野外探索、魔物討伐に言っています。」


(…承知した。通信を切らせて頂く。)


 プツと魔力の伝播が切れ、同時に耳に付けていたイヤリングが砕け落ちた。カーナはもう一度ため息をついてカウンターに肘をつき、その上に顎を乗せた。ヅメラの口ぶりからヴァラスタからは何かを知らされているようで、彼は確実に迷宮を使ってグライガに何かを仕掛けようとしていると理解できた。そしてそれにフェールが巻き込まれているのだと考え、悲しそうな表情をした。



 ウッズ村が管理する低級迷宮。森林狼(ウッドウルフ)の巣食う森の奥にそびえる崖に入口があり、側には小屋が立てられている。グライガが森の木に隠れながらその小屋を注意深く観察した。

 グライガとフェールの二人は、ギルドに未申請で此処まで来ていた。道中では何度か森林狼(ウッドウルフ)と遭遇したが、二人はがたがたの連携で何とか倒し、此処まで到達していた。


「…誰か見えるか?」


 グライガの声に彼の後ろから覗いていたフェールが答える。


「誰もいないようです。」


 彼女は人よりも目が良く、遠くを鮮明に見る事が出来た。その目で小屋を見ても人がいるようには見えなかった。


「…本当に行くの?」


 不安そうにフェールは幼馴染に問いかける。


「お前が魔物討伐できるようになったんだ。俺様なんて低級の魔物くらいどうってことねぇ。現に森林狼(ウッドウルフ)は倒せたであろうが。」


「そう言う事じゃなくって…勝手に迷宮に行こうとしてる事よ。」


「へ!生きて帰ってくりゃあ問題ねえ!…そうすればアイツだって俺様を認めざるを得ねえ。」


 グライガは拳を握り締めた。その様子にフェールは悲しい顔をした。そもそも論点が合っていなかった。彼女は冒険者としてのルールを破る事に対し心配しているのであって、魔物を倒せるか倒せないかではない。だが、グライガにとってはそれが全てであり、自分は倒せると信じていた。彼にはこれ以上言っても仕方なく、せめて生きて帰れる努力をしようと決意を固める。


「行くぞ!」


 グライガの合図で二人は森を抜けて一気に走り、迷宮の入り口に辿り着いた。二人は入り口の両側に背中を付けて周囲と入口の奥の様子を窺った。


「…誰もいないな。…入るぞ!」


 そう言ってグライガは長剣を抜いて中に入って行った。フェールはもう一度周囲を確認してから槍を握り締めて幼馴染の後を追って入って行った。二人が迷宮の奥に消えると、小屋の屋根上からゆっくりと少女が顔を出した。長く先の垂れた耳を動かし、足音が奥へと消えて行った事を確認すると、屋根から飛び降りて服の埃を払った。少女は子供の様に身長が低く、足先まで覆った衣装の凝ったコートを纏っており、背中には両手で扱う柄の長い槌を背負っていた。垂れ長の耳に赤茶色の巻き髪といった風貌、衣服に拵えられた意匠からして亜人種の一種であるドワーフだと一目で判る姿をしていた。


「あれが、勇者適正を持つ若者か……確かに魔力も多い。…されどヴァラスタ殿の足元にも及ばぬ。如何にも粗暴で仕草にも洗練さが見当たらぬ。…勇者の器にはなり得ぬであろう。…まあどうなさるかはヴァラスタ殿が決める事。私は命じられた事をするまで。」


 少女はそう呟くとこめかみに指二本を当てて念じた。


(ヴァラスタ殿、冒険者二人が無許可で迷宮に入った。私の見知らぬ顔なので、件の二人と思う。)


 少ししてヴァラスタからの返事が直接脳に響く。少女は「わかった」と返事してこめかみから指を離した。そして迷宮入口の前に立つと両手を上げて魔力を込めた。緑色の膜が薄っすらと現れて彼女の周囲を包み、それが迷宮入口を覆った。膜が完全に実体化すると、少女は両手を下ろし、背中の土を持って自身の足元に立て掛けた。それは明らかに何人も迷宮に入られぬ様結界を張り、自身がそれを守る姿であった。



 ウッズ村の低級迷宮内に出現する魔物分類は、大きく3つに分かれる。低層では攻撃力は低いものの硬いからに覆われた甲虫系統の魔物が現れる。甲殻は矢じりやナイフなどの原材料になり、村の貴重な収入資源でもある。中層になると獣類の魔物となり、肉皮が収穫でき、村人の貴重な栄養源として食料不足を補っている。そして深層まで行くと武具や魔法を使う魔物が複数で出現する。連係動作を上手くこなして攻撃を仕掛けて来る為、グライガ達にとっては強敵である事は間違いない。だが二人は迷宮に対して詳しく知らない。グライガは迷宮踏破にしか興味がなく、フェールは彼に押し切られる形で此処に来ている。そして、低層の甲虫類を危なげなく倒してグライガは調子づいていた。


「フェール!俺様に掛かればこれくらいどうってことねえぞ!ほれ!もっとさきへ進むぞ!」


「グライガ、余り無理をしないで!」


 グライガは後衛から火球魔法を放ちつつ前線を押し上げていく。フェールはグライガが魔法に集中できる様に同じだけ前進して距離を取りながら、敵の攻撃をいなして隙を作っていた。結果的に彼らは戦闘を繰り返しながら低層から中層へと足を踏み入れていた。

 中層に入り出現する怪物が変化してから二人の前進は遅くなる。戦闘ごとに休憩が必要になり、一回の戦闘も時間が伸びて来た。だがグライガはまだ余力を残しており、状況を楽観視している。逆にフェールの方は槍でいなすのが辛くなってきており、既に何度か獣類の魔物に傷を負わされていた。それを見ていたグライガは嬉しそうに笑った。彼女が手傷を負っているのに対して自分は無傷である。即ち自分の方が強いと考え彼女をあざ笑っていた。

 既に遭遇する敵は四体を超える場合もあり、グライガが魔法を放つまでフェールがその攻撃を一身に受ける形となっている。それでも彼女は槍を巧みに扱い、どうにか深手を負わずに対処できていた。此処に他の冒険者がいれば、この戦闘をコントロールしているのはフェールであり、フェールの実力はグライガ以上であると断定するであろう。それほど彼女の動きは複数の獣類を相手できるほど急激に技量を高めていた。


 二人は中層の魔物を何とか倒して深層に辿り着いた。既にフェールは満身創痍で、粗末な軽甲冑は傷だらけになっていた。グライガも何度か化猪(ワーボア)の突進を受けて身体を痛めていた。


「くくくっ……深層まで来たぞ。この先には迷宮核(コア)が俺を待っている。行くぞフェール!」


 グライガは揚々として進もうとした。だがフェールは彼の腕を掴んで引き留めた。


「グライガ、一旦戻りましょう。お互いダメージが蓄積しているし、此処から先は敵も強くなるのよ。」


「は?お前が引き付けて、俺様が魔法を撃てば奴らは息絶えるんだぞ!行くぞ!」


 グライガは陶酔するように叫ぶとフェールの手を振りほどいて深層へと進みだした。フェールは慌てて彼の前に立った。


「…わかったわ。でも慎重に行動して。私が先頭を進むから貴方は私の後ろで魔法を練ってついてきて。」


「俺様に指図するな。先頭を歩くのはお前の役目だから構わんが、俺様が戦闘の準備などは不要だ!」


 そう言ってまた歩き出す。フェールは仕方なく彼の前を歩いた。

 遭遇した敵は二体。二足歩行で槍を持った山羊の顔をした偉業の魔物だった。


下位の山羊魔人(レッサーカクリコン)です。一体は引き付けます。」


 そう言ってフェールは前に躍り出てやるを構えた。一体の山羊魔人がフェールに対して槍を構える。だがもう一体はグライガに向かって走り出した。グライガも長剣を抜き山羊魔人に向かって構える。互いに一対一の戦闘が始まった。山羊魔人は醜い笑みを浮かべて襲い掛かり、二人は槍と長剣で一合目を受け止める。


「おい!二体とも引き付けろよ!魔法が撃てねえじゃねえか!」


「だから事前に練って準備してって言ったじゃない!私も二体相手なんて無理よ!」


「ちっ……」


 グライガは舌打ちして長剣を振り回した。だが槍で距離を取って構える山羊魔人には届かず、下がれば近寄って突きを放ってきた。グライガは辛うじて避けるも衣服に少し切れ目が入った。

 フェールの方は槍でのいなし合いに突入し、グライガの救援に等行ける状態ではなかった。お互いの戦闘は一進一退が続く。だが山羊魔人は連携との取れた動きを見せ、瞬時に戦う相手を入れ替えて、此方の隙を誘った。案の定、グライガが山羊魔人の動きに釣られ、二人の間に入ってしまう。すかさず山羊魔人が一斉に槍で襲い掛かる。フェールはとっさの判断でグライガに体当たりし、二体の攻撃を躱した。しかし、彼女は山羊魔人の攻撃が足を掠め、痛みでその場に倒れ込んだ。山羊魔人にとってはチャンス到来であった。二体が同時に槍を振りかざす。この時グライガは無様に倒れ込んだままであった。


 振り上げた山羊魔人の両腕と頭が一瞬にして飛び跳ねた。しかも二体ほぼ同時に跳ね上がり、首と両腕を失った山羊魔人がふらふらと立ち竦んでどっと倒れた。一瞬の出来事にフェールは目を疑った。やがて倒れた山羊魔人の後ろの暗闇から見覚えのある男の顔が浮かび上がった。


「…ヴァラスタさん!」


 フェールの声に驚き、グライガも振り返る。そこには血の付いた剣を振り払う冒険者ギルド職員、ヴァラスタの姿があった。


 ヴァラスタはゆっくりとフェールに近づき、彼女を抱きかかえた。安全な場所に降ろして傷の具合を確認する。そして治癒の魔法をゆっくりと掛け始めた。痛みを堪えながらもフェールは魔法に身をゆだねる。内心ではほっとしていた。これでグライガの暴走を止める事ができる。二人ではこれ以上の探索は無理だと考えていた。


「傷は多いですが、致命傷は防いでいましたね。槍さばきは上達していますよ。よく頑張りました。」


 ヴァラスタは彼女を労った。その言葉を聞く限り、彼はずっとフェールの戦いを見ている様であった。


「てめぇ!何俺様の邪魔してんだ!」


 グライガがヴァラスタに近寄り殴りつけようとした。ヴァラスタはフェールごとさっと身を躱してグライガから距離をとった。グライガの拳が空を切る。彼は舌打ちして今度は長剣を構えた。ヴァラスタは再びフェールを安産な場所に降ろしてグライガと対峙した。


「…貴方はやはりF級冒険者です。今すぐ引き返しなさい。」


 ヴァラスタの言葉にグライガは顔を真っ赤にした。


「貴様が勝手に決めるな!せっかく此処まで来たんだ!絶対に迷宮核を取って帰る!」


「無理です。貴方も判っているでしょう。自分の魔力が尽きている事に。」


 グライガは唸った。フェールはハッとなった。彼には練るだけの魔力が無かった。虚勢を張って魔法を撃つ準備など不要だとほざいていたのだ。ヴァラスタの両目の瞳が白く輝く。


「…鑑定眼!」


 ヴァラスタの呟きに反応してグライガの周囲に彼だけが見えるウィンドウが開く。そこには彼のステータスが数値化されて羅列していた。そしてグライガの魔力が一桁にまで落ちている事を確認した。次に彼の持つ技能(スキル)に目をやる。


「…ほう、「魔力再燃」を持っているのですか…珍しい。では、それを使って魔力の再充填ができますね。」


 グライガは驚きの声を上げた。


「私の技能(スキル)です。鑑定眼(アプレイザルアイ)と言って、相手の能力、技能を見る事ができるのです。…別に珍しい技能ではありませんよ。」


 グライガは咄嗟に身構えた。初めてヴァラスタに対して恐怖を感じたのだ。それもそのはず、ヴァラスタはグライガに対して殺気を放っていた。それはF級冒険者が耐えられるものではない気の大きさであった。その殺気に当てられてフェールも身体を震わせる。グライガは思わず後ろに身を引いた。


「判ったでしょう。貴方は私に勝つ事などできません。ましてやこの迷宮の踏破もできません。」


 グライガは全身を震わせた。ヴァラスタに対する恐怖とそれ以上に彼に対する憎しみが彼を震わせた。そしてそれは自身の技能(スキル)発動のスイッチを押す。


「うるせぇ!」


 彼の中で急激に何かが燃え上がり、魔力が沸き上がった。その量は自身の心玉に貯め込み切れず、全身から赤い炎となって吹き上がった。ヴァラスタは再び眼を白く輝かせる。するとグライガの体の中に赤い球が四つ浮かび上がった。それは彼の持つ「心玉」であった。3つ以上で勇者候補。それよりも1つ多い…真っ当な指導を受けていれば良い冒険者になれる魔力量であった。それだけにヴァラスタは残念そうにため息をついた。そんな態度がグライガの癇に触った。


「俺様は強い!貴様如きに、低級迷宮ごときに負けるはずがない!」


 グライガは吹き上がった炎を腕に集約し火球魔法を放った。今までのどの火球魔法よりもその威力は強大である。その火の玉は真っ直ぐにヴァラスタに向かって飛んで行った。


 だがヴァラスタは一歩も動かずに手で火球を払いのけた。軌道の変わった火球ははるか後方の壁に激突して爆発した。グライガは怒りに任せて次々と火球を撃ち放った。だがその全てがヴァラスタの水の魔力が込められた腕によって払いのけられた。何十発と打ち込んでグライガは肩で息をする。ヴァラスタは汗一つ掻いていなかった。


「無駄です。貴方がどれだけ魔力を有して、どれだけそれを放っても私を傷つける事は出来ません。貴方の魔法は稚拙で脆弱で消費が激しすぎます。」


 ヴァラスタはゆっくりと彼に近づく。グライガは恐怖に怯え長剣を構えた。一瞬にしてヴァラスタはグライガに近寄り、右手で長剣を払落し、左手で水の魔法を練り上げ、巨大な水球を作り上げ、その中にグライガを放り込んだ。水球内に充満したヴァラスタの魔力でグライガはあっという間に気を失い、四肢をだらんとさせた。


「…貴方をギルド規約違反の罪で捕縛します。」


 ヴァラスタは魔法を練ってリングを作り、グライガの両手を後ろで縛り上げた。



ヴァラスタ

 ウッズ村のギルド職員…だが並の冒険者以上の実力を持つ。彼の持つ技能(スキル)に「鑑定眼」がある。基本的に相手の得意属性に相対する属性で対峙するが、四属性全て扱える。


グライガ・エントール

 「心玉」を4つ持つ「勇者適正」のF級冒険者。ウッズ村の低級迷宮に挑戦するも深層で魔力を使い果たす。「魔力再燃(リチャージ)」の技能で魔力を回復させヴァラスタに戦いを挑むもあっけなく捕縛される。


フェール

 グライガの幼馴染で、彼に付いて低級迷宮を探索する。彼女の上達した槍さばきで何とか中層を突破するも、既に満身創痍であり、ヴァラスタに助けられる。

ドゥメラ

 この名は通称。ヴァラスタが使役する奴隷で、その風貌はドワーフの少女を連想する。普段は低級迷宮の門番をしている。



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