第四十二話 力の底上げ
「みっともないところを見せてしまい、申し訳なかった」
気まずさにムズムズとしていたところに、コンラディンは玉座からではあるが丁寧に頭を下げ、謝罪してきた。一国の王がそのようなことをするとは思わず、わたしは焦る。ヴィルヘルムは彼の謝罪に対して、首を横に振った。
「コンラディン様が謝ることでは……」
「いや、ブルクハルトの暴走をきちんと制しきれていない父親である私の責任だ。息子だという情が捨てきれなかったのだ。だがブルクハルトをそのまま王にしても、臣下の心は少しずつ離れていくだろう。そうなると国は荒れ、腐敗する原因になってしまう。それを止めるのも父親の役目だ」
今から教育してどうにかならないだろうかと考えるが、コンラディンが次の王にしないと決めたのならばそう決断する確固たる理由があるのだろう。わたしはそれを尊重するしかできない。
「わたくしはコンラディン様のご決断に従います」
「……そう言ってくれると助かる」
わたしは深々と頭を下げて言うと、コンラディンはとても寂しそうな笑顔でそう返してきた。自分の判断に間違いはないって背中を押してほしかったみたいだ。そう見ると、コンラディンも一人の人なのだな、とつくづく思う。
「次の王をもう一度決めねばな。まあ、息子らには任せられんから、孫の中から魔力が高い者を選ぶしか選択肢は残されていないのだが」
コンラディンは困った表情で溜息をついた。なかなか選考は難航するらしい。
──実権を早くあちらに戻したければ、すぐにブルクハルトの子どもの精霊力を伸ばすように伝えなさい。彼の子どもが成人を迎えてしまうと、一気に伸びず、さらに次世代に託すしかなくなるからな。
ふと精霊王が言っていたことが頭に浮かぶ。どうやって伝えたらいいのかと悩んでいたことを思い出す。……今ならどさくさに紛れて言えるんじゃないか? 精霊王に会って伝えてもらう方が面倒ごとは少ないが、このことは一刻を争う。それなら今伝えて実践してもらう方がいいに決まってる!
わたしは意を決して伝えることにした。
「……コンラディン様、一つよろしいでしょうか?」
「何だ? 言ってみなさい」
隣からジーッと見られる視線を感じるが、できるだけ気にしないようにする。コンラディンはこちらを見て発言の許可を出した。
「本当は今日お伝えしようと思っていたのですが、魔力を伸ばす方法があるとわかれば知りたいですか?」
わたしの言葉にコンラディンの目は見開かれた。それと隣でフッと安堵の息を吐く音が聞こえたので、わたしが言った話題はヴィルヘルム的に問題ない内容なのだろう。良かった。でも実権をあっちにしておくための下地だから早めに言いたかったんだよね。言うタイミングが難しいなーっと思ってたんだけど。
「そのような方法が……? もしやそれも記されていたのか?」
「あ、え、はい!」
額に手を当てながらコンラディンは動揺している。それほど精霊力の問題は大きなことだと知らされる。
「きちんと最後まで考えてから発言しなさい」と言いたげなヴィルヘルムの何とも言えない表情を見たような気もするが、そこは軽く咳払いして取り繕う。うん、スルーさせてもらおう。あとでちゃんと反省するから!
「王家に関する文献に書いてあったのですが、魔力は枯渇寸前まで使うのを繰り返すことで強くなる……と。ですが……」
「何だ? 申してみよ」
希望に満ちた目を向けられて、わたしは言葉を濁してしまった。そんなキラキラした目を向けられてしまっては、現王の精霊力が伸びないというどうしようもない事実が言いにくい。でも言わないと……ね。意を決した。
「ですが……、それが可能なのは十歳から成人前の子どもだとありました。あの、ブルクハルト様、またはフリードリーン様のお子様はおいくつでしょうか?」
わたしの言葉にあからさまにコンラディンはがっかりとした表情をした。しかしそれは一瞬で、すぐにヴィルヘルムをじっと見て何かに気付いたようにハッとした顔になる。もしかすると成人前のヴィルヘルムがどのように過ごしていたのか知っていたのかもしれない。
「……ブルクハルトの子は上から十二、十、六、二歳の四人。フリードリーンはまだ子はおらん。彼奴は研究にしか興味がない」
「では今のところ全員が対象ですね。ですが十歳のお子様が結果的に一番早く魔力が伸びるやもしれません」
物心つくあたりから精霊力を使うことを繰り返せば素地がある王族は量も膨大になるだろう。確実にコンラディンやブルクハルトより保有量、回復量を超えられると思う。
コンラディンの孫がそれなりにいて良かった。もう成人していたらひ孫に期待しなければならなかったから。あともう一つ付け足しておかなきゃいけないことがあったのでわたしは続けた。
「……あと、この内容は直系のみ知ることができる内容だと思います。これは一般の貴族は知らないことです。わたくしや領主様はこの内容を口外しませんが、公表されるか、されないか、そしてどこまでか、またお決めください。わたくしたちはコンラディン様のご判断に従います。もちろん精霊王に相談してから決められても結構です」
わたしの言葉にコンラディンはしっかり頷いた。
孤児院…ではなく精霊殿の壁画にも領主の文献にも書かれていなかったことだ。もしかするとまだ見ていない王家の資料に書いてあるかもしれないが、今は違うことで精一杯である。いつかは解読してまとめるつもりだけど。
「今は情報が少なすぎる。だからある程度出揃ってから検討させてもらう。すまないが、この秘伝は其方らで止めておいてほしい」
「わかりました」
コンラディンの言葉にヴィルヘルムとわたしはこくりと頷いた。わたしは特殊な立場だが、ヴィルヘルムは環境のせいで伸びざる得なかったので、故意ではない。
でも、コンラディン主導でここまで落ち込んでしまった貴族の精霊力量の底上げをしていがなければならない。そうしないといつか出てくる精霊たちを心通わすことも、新たな精霊道具を生み出すこともできないのだ。
「それで、魔力を伸ばす方法は、子どもに魔力を使わせるでいいのだろうか? どのような方法でも良いのだろうか?」
コンラディンの問いかけにわたしはこくりと頷いた。
「できるだけ多く使うことで、その能力を伸ばすことができると思われます。……実際、わたくしは何度か熱を出して倒れるくらい使いました。ですが徐々にですが、魔力を注ぐ時に楽になってきたので」
「私の場合もそうだったかと。熱や倦怠感、吐き気などが酷かったですが、仕事をこなす度に楽になったような記憶があります」
わたしが話したことを後押しするようにヴィルヘルムは自身の実体験を話す。彼は彼で苦労していたのだろうと思っていたが、彼の体験もなかなかである。このような経験を十歳そこらの子どもにさせて良いものなのかと不安になる。
わたしの不安はコンラディンも感じていたようで、口を開けて青い顔をしている。それをフォローするようにヴィルヘルムは口を開いた。
「ですがそれは極限の話です。保護者がきちんと管理してやれば、そこまでの副作用は出ないと思われます。ですのでコンラディン様がきちんと見てやれば問題はないかと」
具体例が副作用強すぎるものばかりで当てにならなかったので、ヴィルヘルムの言葉はコンラディンにとって希望になるものだったようだ。ホッとした表情に変わっていた。
「ギリギリを見極めることになりそうだな。難しそうではあるが、やってみよう」
「コンラディン様なら問題ないかと。顔色を見ながらご指導されれば酷くならないと思われますので」
「そうか」
コンラディンは少し安心したのか、柔らかい笑顔を見せ、頷いた。
「こちらの問題で迷惑をかける。何か進展や問題があれば逐一報告はさせてもらおうと思うが……。ヴィルヘルムよ、其方はいつ領地に戻る予定だ? 会議も終えた今、帰らねばならないことは理解しているが……」
その後に続く言葉はとても言いにくいことなのかコンラディンは言葉を濁した。




