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第三十六話 勝負の時 前編


 そして、三日後。

 ヴィルヘルムが段取りをつけてコンラディンに謁見の申し込みを行っていたお陰で、予定通りに交渉の場を整えることができた。会議終了直後ということもあって、名目は今までの報告と今後の相談としていて、交渉のことなどは匂わせていない。不意打ちの方が準備もしにくい。


『王城にも慣れたものだね』

「静かにしてて。ここ、たくさんの人がいるんだから」


 横にいるイディが何の気なしにさらっと言うので、わたしは横目で注意した。王城なので文官や武官などが彷徨いている。イディたち精霊は見えないのでそこは心配していないが、独り言を言うわたしは異様に映るだろう。

 こんな短期間に王城に出入りすることになるとは思わなかったが、初回の頃と比べると格段に緊張はしていない。今日は決戦のようなものだからそっちでは緊張しているが。


「静かにしなさい。オフィーリア、準備は良いか?」

「はい。聞いてもらえるように力は込めてあります」


 ヴィルヘルムの確認に対して、わたしは小声で肯定する。念のため自分の中を確認すると、わたしの精霊力に混じって精霊王の力を感じた。精霊石は安全のためにここでは取り出せないが、ここに来る前に精霊力を多めに込めておいた。これでわたしたちの会話を傍聴することができるだろう。

 わたしの返答を確認して、ヴィルヘルムは歩みを早めた。もうすぐ謁見の間に到着する。


「ジャルダン領より、領主ヴィルヘルム様とその婚約者オフィーリア様です」


 謁見の間に入る前に名前を呼ばれ、緊張が最高潮に達する。自然とピンと背筋が伸びた。

 ゴテゴテに装飾が施された重厚な扉がゆっくりと開かれ、わたしは目線を下にする。王族の象徴色である真っ白な床が見えてくると、ヴィルヘルムは前へ歩き出す。わたしも数歩後ろでぴったりとくっついて歩けるようにやや早足気味でついていく。


 コツコツコツ……と二人分の靴音が響く。

 少し歩いてコンラディンたちがいる場所から少し離れたところに到着すると、わたしが彼らより身分が下であることを体現するために胸の前に手を置き、サッと片足をついた。


「顔を上げなさい。許す」


 目線を合わすことを許可するコンラディンの声が聞こえたので、わたしはゆっくりと顔を上げた。

 いつも通り、国王コンラディンと王子ブルクハルトの二人だ。コンラディンはわたしたちを確認すると、武官たちが控えている方向へ視線を送る。すると武官たちは扉の外へ出て行った。事前に命令しておいたのだろう。少し落ち着いて、ヴィルヘルムが口を開いた。


「急な申し出だったのにも関わらず、お時間をいただきありがとうございます」

「うむ。会議も終了したこともあって、こちらも今後のことで相談したかったのもある。気にするでない」

「お気遣いありがとうございます」


 ヴィルヘルムが今回の謁見を行なってくれたことに対して礼を述べると、コンラディンはそう言ってのけた。基本ヴィルヘルムが対応するとのことなので、わたしは求められない限りは静観することにしている。


「それで今後のことなのですが……」

「はい。会議も終わりましたので、私は領主の仕事もあるのでそろそろジャルダンへ帰領しなければなりません。オフィーリアも未成年であるので保護者なくしてはここに留まれませんので連れ帰ることになります。……私の婚約者でもありますし、成人後に婚姻できるように教育もしなければなりませんし」

「ですが何の成果も出せていないのに帰るなんて……」


 ブルクハルトは大袈裟に眉を下げてそう言った。本当のことなので仕方がないが本音を漏らすのはどうかと思ってしまう。ヴィルヘルムはちらりとわたしを見ると、嗜めるような視線を送ってきた。顔に出ていたようだ。ハッとしてすぐに笑顔の仮面を貼り付けた。

 ヴィルヘルムは懐から数枚の書類を取り出し、コンラディンに差し出した。


「コンラディン様、ブルクハルト様。こちらはオフィーリアが会議中に文献を解読した結果を詳細にまとめています」

「これが何だと言うのです。今までに報告書は貰っていましたが、特に大きな成果は得られていないでしょう?」

「確かにそうですね。昨日までの報告書では、ね」


 ヴィルヘルムが含みを持たせながら言うと、コンラディンとブルクハルトの表情が一瞬で変わる。


「精霊王の手がかりが見つかったと!? そんな気配などなかったはずですが!」

「お伝えするには不確定の要素が多かったので、昨夜きちんと整理したのですよ」


 わたしはしれっと嘘を吐いた。精霊王の居場所に関する資料は本来ないはずだ。秘密を守るためにも口伝のみを徹底していたはずだ。まあこの場では不要な情報なので伏せておくけれど。

 ブルクハルトはすぐにでもその書類を手に入れたいのか、一歩ヴィルヘルムへと近づいたが、ヴィルヘルムはサッと書類を自分の胸元へと引き寄せた。


「な……!? 何の真似ですか!?」


 ブルクハルトが恨めしそうな目付きヴィルヘルムを睨む。地位の高い人から睨まれるなんてあまり考えたくないが、ヴィルヘルムは涼しげな顔をしている。


「お渡しするつもりですが、大切なお話が終わってからです。どうしても譲れないことがありまして」

「……交渉の道具として利用するか」

「そうでもしませんと、私の大切なものは守れませんので」

「……オフィーリアか」

「ええ、そうですね」


 さらりとそう言ってヴィルヘルムはわたしの方をちらりと見る。大切なものと言われ、少し照れてしまうが、彼にとってこの場をうまく乗り切るための言葉なのできっと本心ではないだろう。わたしは内心で否定して、にこりとお上品スマイルを返しておいた。

 ヴィルヘルムは少し困ったような表情を一瞬見せたが、すぐにコンラディンの方に顔を向けてしまった。何故だ。


「この内容はコンラディン様方にとって重要なものだと思っています。ですので、私たちの願いを聴いていただけたらすぐにでもお渡しします」


 ヴィルヘルムが礼をしながら言うと、コンラディンはしばらく考えた後、重々しく口を開いた。


「……ヴィルヘルムのことだろう、そこまで野心に塗れた願いではないはずだ」

「父上!」

「……信じていただきありがとうございます。確かに上昇志向の願いではないので、問題ないかと」


 ブルクハルトはコンラディンの言葉に反論するが、ヴィルヘルムは口角を上げて礼を述べた。コンラディンの言う通り、出世したいとかそういう願いではないので、下剋上や乱れを嫌うコンラディンからしたら些細な願いだと思う。承諾してもらえたらこちらのものだ。


「それで、願いとは何なのだ? 申してみよ」

「はい。この情報と引き換えに、オフィーリアの身をジャルダンにて預からせていただきたい。幸いオフィーリアは私の婚約者なので他領に出ることはありません。ですので他領に王族の皆様、および精霊の秘密は漏れることはないでしょう。そして私たちもジャルダン、王都などでこの秘密を漏らさないと誓います」

「つまりは……」

「現在のオフィーリアの王家の文官登用を止めること、婚姻、就職などで王都にオフィーリアを縛らないことを願います」


 ヴィルヘルムはきっぱりと言い切った。わたしの身の自由を約束さえしてもらえたら、わたしは大腕を振ってジャルダンで生活をすることができる。


「こんな願い、おかしい! ヴィルヘルムはオフィーリアを……」

「ブルクハルト、其方は少し黙っておけ」


 ぴしゃりとコンラディンに言われて、ブルクハルトはぐっと言葉を飲み込み、それ以上言葉を発さなくなった。ブルクハルトはわたしが子どもだからヴィルヘルムの言いなりだと考えている節があるのでこの願いには反対なのだろう。だが、わたしはずっと違うと否定しているのでそろそろわかってほしいところなのだが。


「だが、オフィーリアのような能力持ちをそのままにしておくのは、こちらとしても惜しいと考えているが、ヴィルヘルムはこの契約を結んだ後は自領で飼い殺す気か?」

「そのようなつもりはありません。オフィーリア自身がジャルダンでの暮らしを望んでいるのです」

「……オフィーリア、その言葉は本当か?」


 コンラディンに話を振られ、わたしは視線を上げ、ゆっくりと確実に頷いた。


「わたしはジャルダンでの暮らしを望みます。王都で暮らすつもりはないです」

「……そうか。本当にそのような願いで良いのか? 上手くいけば王族と縁が結べるのだぞ?」

「わたしなどが王族と縁を結ぶなど勿体無いですわ。それよりもこの国を良くするための相手を優先してくださいませ」

「ふむ……」


 そう言ってコンラディンは考え込む。人材を諦めてもらう代わりに、コンラディンが恐れているであろうことはしないと言っているので、呑むかどうか考えているのだろう。



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― 新着の感想 ―
[一言] ブルクハルトにはヴィルヘルムが随分と悪者に見えているようですねえ 子供に働かせて手柄も身柄も独占しているように 誰よりもオフィーリアを案じてくれているんですが事情が事情ですからなあ
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