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第二十二話 誰が相応しいのか


 わたしが国を治めるなんて大層なことなど全く考えていないが、コンラディンを初めとする現存する王族たちの立場を考えるとより腰が引ける。わたしはラピスの子孫ではなく、その辺にいるただの小娘だ。ラピスと同じ特殊な精霊力の持ち主ということだけだ。


『だがラピスの子たちは私を起こしにも来なかったぞ』

「それはこの場所がわからなかったのです。ベバイオン様がかの出来事で亡くなられたため、この場所を知る者がいなくなったのです。それにこの国を守っていたのはラピス様の子孫の方々です。わたしは偶々この場所を見つけたので……」

『それならば、何故其方はラピスの子にそれを伝えずここに来た? 王にならず、私と契約するのは矛盾しておる』

「それはそうなのですが……」


 わたしはどのように精霊王に自分の考えを述べるべきか改めて考える。

 ここに来て、精霊王を目覚めさせるために精霊力を瑠璃色の玉に注いだのは、わたしがわたしらしくあるためだ。伝えなかったのは、わたしの今後が不利になりかねないからだ。コンラディンたちが精霊王と契約できればわたしは不必要な存在になる。有利な状態ではなくなってしまうのだ。


 精霊王の言う通り下剋上を考えてこのプロヴァンス王国の新国王になれば、儀式も復活でき、精霊たちと人間が手を取り合う世界を作ることができるかもしれない。しかし、コンラディンたち王族から恨みを買うことは間違いないし、わたしがコンラディンに言ったことも嘘になる。彼らは下剋上を恐れている。全てを失った人間は何をしてくるのかわからないというのもある。それは平和的なのだろうか?


 わたしがやりたいことの半分は、儀式の復活とともに土地の精霊力を満たすことだ。眠っている精霊たちを起こすことも。残りの半分は、まだ見ぬ未解読文字に全力を注いでいきたいのだ。そのための自由と時間を得るためにはある程度の苦労は厭わない。

 わたしは足に力を入れ、真っ直ぐに立った。


「正直に申し上げると、わたしはラピス様の子孫ではないので立場が弱いのです。先に伝えてしまえば、自由にやりたいことができなくなる可能性が高いのです。ですので、わたしがわたしらしくいられるようにプローヴァ様のお力を借りたいと思いまして、先に起こさせていただきました」

『……ああ、人間の世界は難しいな。上下関係がしっかりとし過ぎている。其方は私を盾にして、交渉を図る気だな? そこまでして、其方がやりたいこととは何なのだ?』


 とてもオブラートに包んだつもりなのに、わたしの思惑がバレている。精霊王は思い当たる節があるのか、とてつもなく面倒臭そうな顔をしている。

 そして、わたしは精霊王の問いに反射的に答える。


「それは、この世界の未解読文字を解読することですわ!」

『……はあ?』


 精霊王は固まった。けれど、そんなことではわたしは止まれない。


「この世界はとても素晴らしいですわ! 同じ言語の中に多くの文字を使っています。わたしが前世の記憶を取り戻した時は、プロヴァンス文字が主流でした。……あ、プロヴァンス文字と言ってもプローヴァ様が知っておられる文字からかなり簡略化されておりますわ。ですので、プローヴァ様から見たら新プロヴァンス文字ですね! この身体の元の持ち主であるオフィーリアは訳あって孤児院……ではなく精霊殿で暮らしていたのですが、そこで初めて精霊殿文字を見つけました。精霊を表す独特の形、とイディから聞きましたが、成り立ちや構成など全てが素晴らしかったですわ! そして色々ありまして、プローヴァ文字も発見し、拝見させていただきましたが、それも素晴らしかった! 機能的で分かりやすいですし、精霊殿文字のようにたくさん組み合わせることなく、簡単に音を表すことができます。形も素敵ですし、もう言うことはありません! 統一後でこんなに多種類の文字を使っていたのならば、統一前はさらに様々な文字を使っていたのだろうと想像すると、この身は震えてしまいます!」


 旧プロヴァンス文字、精霊殿文字、プローヴァ文字のことを想像すると、興奮してずっとべらべらと語ってしまった。合間合間で精霊王が『落ち着きなさい』『情報が多い』と口を挟んできた気がするが、話を聞きながらわたしの眼を見たのか、口を半開きにして黙って聞くようになっていた。もしかして文字の素晴らしさに目覚めてくれたのだろうか? それならば万々歳だ! なかなかわかってもらえなかったので嬉しすぎる。布教活動は大切だとひしひしと感じる。


『……其方が文字が好きなのはわかった……。では一人ひっそりとやっておけば良かったのではないか? ここまで首を突っ込んでしまうこともなかっただろうに……』


 あれ? かなり呆れた声だ。しかも疲れている? 素晴らしさに気が付いたのではないのか……。残念過ぎるが、これからのアプローチも大切なのでわたしは諦めないだろう。

 精霊王の問いかけには至極納得だが、まあそういうわけにもいかなかったので反論しておこう。


「おっしゃることは至極真っ当なのですが、ここまで首を突っ込んだのはシヴァルディたちとの約束があったからです」

『何? シヴァルディが先に目覚めているのか? ……そうか、其方のその色を見れば分かることだ。……ああ、森の精霊シヴァルディ、そして時の精霊クロネフォルトゥーナとも契約したな? しかし別の知らぬ精霊の色も見える……』

「ああ、それはイディの色だと思います。その精霊たちと約束を……」


 さらりと(ことば)の精霊イディファッロータのことを言ったのだが、精霊王はそこに引っ掛かったらしい。精霊王は怪訝な表情に変わる。


『イディ……? そんな精霊は知らぬが……、其方自身の精霊か?』

「ええっと……、(ことば)の精霊イディファッロータです。イディ曰く、わたしの魂から派生したと言っていました。姿形は前世のわたしを小さくしたような感じです」

『そうか、なるほどな。其方から派生した特別な精霊か』


 やけに納得が早いな。精霊の王だからもっと不思議がるのかと思ったがそうではなさそうだ。とりあえず話を進めてしまおうとわたしは咳ばらいを一つした。


「初めはイディと二人でしたが、後々お二人とも契約を交わしたのですが、その精霊たちと約束をしたのです。この枯渇しかけたプロヴァンスの地を精霊力で満たしてほしいと。ですが王族の人間でもないわたしが動くには事が大きすぎたので……」

『動き過ぎると目を付けられ、消される可能性もあると考えたのか。だが、もう目を付けられてはいるではないか。交渉をするということはそういうことだろう?』


 う……、痛いところをついてくるが、わたしは首を横に振った。


「これは不可抗力ですわ。抜けた情報を補うためにどうしても必要でしたから……。わたしとしては今の王族の方とプローヴァ様が契約されることが一番ですが、それまでにわたしの身の自由の保障を勝ち取らなければいけません。ですので、プローヴァ様がいらっしゃるこの場所を教える代わりに、わたしの願いを聞き入れてもらおうかと考えています」

『身の自由? そこまでなのか?』

「はい。今のままでは成人とともに生まれ育ったジャルダンの地を離れ、この王都で働きながら暮らさねばならなくなります。おそらく監視も入るでしょう」


 その生活を想像すると少しげんなりとしてしまう。誰だってそんな生活は息が詰まると思う。


「仕事も住まいも自身の伴侶もレールが敷かれた生活になるのは真っ平ごめんです」


 わたしは田舎でひっそりと解読作業ができれば良いのだ。煌びやかな生活や高いキャリアなんて望んではいない。いっそ平民リアとして生きても良いくらいだ。

 わたしのため息混じりの言葉に精霊王は小さく『そうか』と呟くと、瑠璃色の瞳を覗かせるその眼を細めた。


『其方の願いは理解した。そしてラピスの子が今までこの地を守ってきたことも加味して、其方に少しの猶予を与えよう。では、交渉次第そのラピスの子を連れてきなさい。もしそのラピスの子と契約できなければ、其方にこの国の王になってもらう』

「良いのですか?」

『私はこの地に精霊力を注いでくれる者がいるならばそれで良い。だが其方の話だと刻限は近い。だから早く連れてきなさい。……この国の王は誰が相応しいのか、すぐにわかる』


 精霊王の言葉にこくりと頷くと、彼はふうと一息ついた。

 一応話はまとまったのだろうか? 精霊王はそのまま黙っている。それならば、もう一つ聞かなければならないことがある。


「プローヴァ様、もう一つ……聞いてもよろしいですか?」

『ああ、何だ?』


 プローヴァは長い白髪を耳にかけながら質問することを了承してくれた。男性なのに女性らしい美しさに少しドキドキしてしまう。

 わたしは一瞬唇に力を入れて、きゅっと気合を入れた。


「わたしの精霊力の色が無色であることについてです」


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― 新着の感想 ―
[一言] 王族と契約していただけに面倒な柵とかはある程度理解してくれますね精霊王 オタク特有の早口だ! 精霊王が勢いに負けてるじゃないですかw
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