最終決戦②
魔王アリエル視点
「クイーンが交戦を始めたね」
万里眼を発動し、戦況を眺める。
弱っていてもこのくらいのスキルならば使用するのに負担はない。
「もう一体のクイーンをこっちに呼び寄せます?」
「イヤ。しばらくは様子を見て、適度なタイミングで召喚しよう」
「大丈夫なんですか?」
「ま、なんとかね」
召喚のスキルは万里眼なんかと違って負担が大きい。
一回召喚を使ってしまうと、その後は休息を必要とする。
クイーンやパペットなどの主だった配下はすでに召喚し終わっているからいいけど、すでに交戦が始まっている現状、緊急措置的に召喚で配下を呼び寄せることができるのはおそらく一回だけ。
切りどころは慎重に判断しないといけない。
「便利ですよね。召喚」
「ソフィアちゃんもメラゾフィスくんとか呼び戻せるからねえ」
メラゾフィスくんと、ついでにワルドくん。
この二人はソフィアちゃんの眷属扱いであるため、いつでも召喚で呼び出すことができる。
私と違ってソフィアちゃんは弱体化もしてないので、制限もほぼない。
MPは消費されるけどね。
「召喚された配下がさらにその配下を召喚するって、反則臭いですよね」
「まあね」
今、地上で戦っているタラテクト群のほとんどはクイーンが新たに召喚して呼び寄せたものたちだ。
召喚した配下がさらにその配下を呼び、その配下もまた配下を持っていたら召喚することさえできる。
そうやって呼び寄せられた群団。
私はクイーンを召喚するだけで、群団を呼び出すことができるということだ。
もちろん、召喚に伴うMP消費はあるので、クイーンのMPを代償にしなければならないけど。
そして、おそらくこちらにクイーンを召喚する場合、クイーンにさらに召喚をやらせるよりかは、そのMPでクイーン本人に戦ってもらったほうがいい。
有象無象を召喚で呼ぶより、クイーン単体のほうが戦力としては上なのだから。
「まあ、反則って意味じゃ、私なんかよりも吸血鬼のほうがずっと反則なんだけどね」
吸血鬼は配下を無限に補充することができる。
血を吸ってしまえば、敵だろうが味方だろうがお構いなしに吸血鬼にしてしまえるのだ。
初代魔王であるフォドゥーイがその方法で吸血鬼を大量生産し、あわや人類は絶滅寸前まで追い込まれたのだから。
数の暴力という意味では吸血鬼のほうが何倍も恐ろしい。
「ソフィアちゃんもやろうと思えばできるよ?」
「嫌よ。私の眷属はメラゾフィスだけで間に合ってるわ」
……ワルドくん、さらりと忘れ去られてる。
まあ、ソフィアちゃん的にはメラゾフィスくんとその他の有象無象を同列に扱いたくないっていうこだわりがあるんだろう。
気持ちはわからなくもない。
手段を選ばないのならば吸血鬼を量産したほうがいいんだろうけど、それを強要するのもなんか違うしねー。
「ふむ。それにしても、クイーンの相手をしてるのはこの前の風雷コンビか」
万里眼で戦況を確認すれば、クイーンが二体の古龍とやり合っていた。
この前、ラース君に撃退された風龍と雷龍のコンビだ。
見たところ、ラース君につけられた傷はもう癒えているようだ。
風龍は屋外、空でこそ本領を発揮するタイプであるため、この場でクイーンにぶつけるのはわかる。
雷龍は猪突猛進だからしょっぱなで全力を出させて、ここで使いきっちゃう戦略なのかな?
下手にエルロー大迷宮内部に同行させても、途中でガス欠になりかねないし。
この二体、ノリはバカっぽいし実際雷龍のほうは正真正銘バカだけど、その実力は本物だ。
「……古龍二体はさすがに厳しいな」
クイーンがやられるのは、時間の問題か。
もともと古龍二体がかりはさすがのクイーンでもてこずる。
さらに、今のクイーンは全盛期よりも弱体化している。
白ちゃんのせいでね!
白ちゃんが並列意思を送り込んで侵食してた影響でね!
古龍相手でも一対一なら勝てただろうけど、二体相手だと厳しい。
それはしょうがない。
しょうがないけど……。
「他の古龍どもはどこに行ったんだ?」
気になるのは他の古龍連中の姿がどこにも見えないこと。
クイーンを突破するだけなら、古龍どもが一斉にかかったほうが手っ取り早い。
それなのに、風雷コンビだけに任せて姿を現さない。
「もうエルロー大迷宮内に侵入してるとか?」
「ないとは言い切れないけど、そんな報告は上がってきてないしなぁ」
エルロー大迷宮内にもいたるところにすでに眷属を配置している。
転移や思わぬ抜け道を使ってエルロー大迷宮内部に入り込んだとしても、どこかで警戒網に引っかかるはずだ。
今のところそれに引っかかっていない。
敵に転移が使える人物がいたとしても、転移で行けるのはその術者が行ったことのある場所のみ。
私が知る限り、古龍連中はこの最下層を守っていた地龍ガキア以外、この地に足を踏み入れたことはない。
そして、人類がこの地に足を踏み入れたこともまたない。
人類は下層はおろか、中層にもほとんど寄り付かないのだから。
もし転移で侵入されるとしても、上層まで。
そして上層には、白ちゃんが残した強力な援軍がいる。
あの子らを退けるほどの猛者が侵入してるのなら、気づかないというのはおかしい。
「でも、なーんか不気味だなー」
なんか企んでるな、これ。
こういうのって、よくないことが起きる前兆だ。
その予感を肯定するように、眷属から念話が届く。
「どした? え? 水?」
念話の思念を受け取ると、そこから伝えられたのは、水、という思念。
なんのこっちゃと首をひねっているうちに、念話はぷっつりと途切れた。
「どうかしたんですか?」
「よくわからないけど、何かが起きたのは間違いない」
念話を送ってきた眷属が配置されていたのは、エルロー大迷宮の上層。
そこに向かって万里眼を発動。
何が起きたのかを見極める。
「あ」
そして、私は間抜けにも声を漏らしてしまった。
「な、なんてことしてくれてんじゃあの野郎!?」
そこには、私の想像を絶する光景が広がっていた。
エルロー大迷宮上層に、大量の水が押し寄せてきていた。
「水攻めとかバカじゃないの!?」
それは、エルロー大迷宮の上に広がる、海からなだれ込む海水だった。




