前哨戦 鬼VS風雷③
これは、参った……。
天候を操る。
それがこれほどまでに厄介だなんて。
強烈な風が僕の体に叩きつけられる。
前世、台風なんかのニュースを見ると、風にあおられて身動きができなくなった人の映像がよく放映されていたのを思い出す。
風の魔法と聞いて、真っ先に思い浮かべるのはかまいたちか竜巻だと思う。
風の力で切り裂くかまいたち。
竜巻はわかりやすく自然災害としてイメージしやすい。
しかし、そんなものなくとも、風というのは本来強い。
それを身をもって体験しているところだ。
叩きつけられる風の勢いは、気を抜くと体ごと吹き飛ばされてしまいそうになる。
ステータスの高い僕でこのありさまなのだから、普通の人間ではとっくの昔に吹き飛ばされていることだろう。
そして、行きつく先は地面かどこかにその勢いのまま叩きつけられる未来だ。
これが風速何メートルなのか、それはわからないけれど、少なくとも体に感じる衝撃から、前世の超大型台風と同等かそれ以上だろう。
前世の台風でも大きいものであれば車や家の屋根が吹き飛ぶ。
その威力の衝撃で吹き飛ばされ、そのままの勢いで叩きつけられればどうなるか、考えるまでもない。
幸いなことに僕は吹き飛ばされるに至っていないし、仮に吹き飛ばされたとしてもステータスの高さのおかげで叩きつけられても致命傷にはならないだろう。
しかし、常に叩きつけられてくるこの風によって、身動きの大半を封じられている。
しかもこの風、吹いてくる方角が変わったりする。
気を抜くと吹いてくる向きが変わった瞬間に吹き飛ばされてしまう。
そして、風によって足止めされた僕に向かって、雷が降り注ぐ。
文字通り、雨のような勢いで雷が断続的に降ってきている。
それを、予備と合わせて片手の指と指で挟んだ四本の雷刀で受ける。
一本だけでは、すでに受け止めきれなくなってしまっていたからだ。
直接豹龍が雷をその体から撃つよりも、雲を介して雷を落とした方が効率がいいのか、その攻勢はすさまじい。
雨で体が濡れてしまっているのも地味に効く。
おかげで、じわじわとHPが減ってきている。
雷刀で全て防ぎきることができておらず、少しずつ感電している証左だ。
避雷針代わりに適当な魔剣を空納から取り出して放る。
その魔剣に雷が吸い寄せられる。
その隙に、雷刀とは反対の手に持つ炎刀で炎を放つ。
しかし、炎の勢いは滝のように降り注ぐ雨によって瞬く間に勢いを失い、豹龍には届かない。
そうこうしているうちに避雷針として放り投げた魔剣が雷で破壊されてしまい、再び僕に向かって雷の雨が降り注ぐ。
完全に手詰まりだ。
吹き付ける風で完全に足止めされ、ただでさえ回避困難な雷の攻撃をもろに受け止める羽目になっている。
加えて、こちらの攻撃は雨でかき消されてしまう。
豹龍もプテラ龍も、僕との接近戦は危険だと思っているのか、空を舞いながら近づいてこない。
こちらのHPやMPはじりじりと減っていっている。
これだけの規模の天候操作と断続する落雷。
向こうだって決して消費が軽いとは思えない。
が、それでもこうして攻め続けているということは、自分たちのMPが尽きるよりも前に、僕が力尽きるという自信があるのだろう。
ということは、このままだとまずい。
何かこちらから動いて、この布陣を打ち崩さないといけない。
転移。
残念ながら僕の空間魔法のスキルレベルはさほど高くない。
空納こそ頻繁に使っているけれど、それでもスキルレベルの上がりは微々たるもの。
魔法の中でも空間魔法のスキルレベルを鍛えるのは難しい。
だてに希少なスキルと言われていない。
そういうわけで、実戦で僕が使えるのはほぼ空納だけだと言える。
その空納に入れられている魔剣の中で、この状況を打破できるものがあるかと言えば、否。
そもそも今持っている炎刀と雷刀こそが僕の最高傑作だ。
その最高傑作が通用していない以上、残りの魔剣も通用しないと考えたほうがいい。
活路があるとすれば、やはり接近戦を仕掛けることなんだが、そのためにはこの状況を打破しないといけない。
しかし、そのための手札がない。
……危険な賭けになるけど、このままだとじり貧だ。
やるしかないか。
風の向きが変わるのを待つ。
今のままだと、風の行きつく先はアリエルさんたちのいる方向だ。
それだといけない。
そして、風の向きが変わった。
その瞬間、僕は体の力を抜いた。
途端、風に乗って僕の体は吹き飛ばされていく。
敵の攻撃にあえて乗るなんて、そんなことありえない。
下手をすればさっき以上に不利な状況に追い込まれるだろう。
けど、そうでもしないと状況を動かすのは難しかった。
おそらくここからプテラ龍の攻勢が待っているはずだ。
それをしのいで、何とかこちらに流れを引き寄せる!
『あ!?』
『ちょ!? おま!? 逃げられてんじゃねーか!?』
『いやだって! これは、その……。さーせん……』
……吹き飛ばされた先には、何もなかった。
覚悟していた攻勢も、何も……。
もしや、こいつら、僕が思っている以上に馬鹿なのでは?
『あ、やべ』
『え?』
『MPそろそろ尽きそう』
『おいぃぃぃ!? どうすんだよ!?』
『うるせえな! あんだけ雷落としゃ普通死ぬだろ!? 死なねえあいつが悪い!』
『景気よくぶっ放してんなーと思ったら、そういうことだったんかよ!?』
『黙れ。じゃねえとその口強制的に閉ざすぞおら』
『あ、はい』
……馬鹿だ。
こいつら馬鹿だった。
ということは、あのまま耐えてるだけでもMP切れで有利になっていたってことか?
焦っていた僕の気持ちは、いったい何だったんだ……。
がっくりとした気持ちと同時に、沸々とそこはかとない怒りが沸き上がってくる。
こんな連中に僕は押されていたのか。
……よし。
潰そう。
完膚なきまでに。
そう心に決めて、豹龍とプテラ龍に向けて駆け出す。
『ハア。まあいいや』
プテラ龍が盛大な溜息を吐く。
『俺だけでも十分勝てるからよ』
次の瞬間、風が叩きつけられた。
真上から。
「ぐっ!?」
頭をハンマーで殴られたかのような衝撃。
首が嫌な音を立て、全身にしびれるような衝撃が走る。
そのまま圧力に屈し、地面に倒れこむ。
抜かった!
態度から、豹龍のほうが格上なんだと勘違いしていた。
けど、違う。
これは、違う!
豹龍よりもプテラ龍のほうが、はるかに厄介だった。
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