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究極の二択⑤

バルト視点

「いったいどうなってるんだ……」


 会議室にて俺はうなだれていた。

 魔王様が遠征中のこの時に、前代未聞の事態が起きているんだ。

 うなだれたくもなる。


「どうなってるんだって言われても、ねえ?」


 サーナトリアが俺のその態度に呆れたような、だがどこか困惑したような声音でため息交じりに漏らし、肩をすくめる。

 この場にはサーナトリア以外の軍団長も集っている。

 とは言え、先の大戦で戦死した軍団長や、魔王様の遠征に同行している軍団長も多い。

 ここにいるのは俺を含めてわずかに四人。

 第二軍軍団長のサーナトリア。

 第三軍軍団長のコゴウ。

 第五軍団長のダラド。

 そして俺の四人だ。


 今回の議題はもちろん、突如聞こえてきたワールドクエストなる文言についてだ。

 邪神を討つか協力しろとは、どういうことなんだ?

 そもそもワールドクエストとはなんだ?

 こんなこと、長い歴史のある魔族の中でも起きたことがないはずだ。


「……皆の意見を聞かせてくれ」


 俺はうなだれながらも、何とかそう絞り出した。


「意見って言ったって、あんまりにも情報がなさすぎるわ。何が何やらなんだか、って感じなんだし、議論をしたって答えなんて出ないでしょ」


 サーナトリアがもっともな意見を言う。

 その通りなのだ。


『ワールドクエスト発動。世界の崩壊を防ぐために人類を生贄に捧げようと画策する邪神の計画を阻止するか、協力せよ』


 突如このような声が聞こえてきたわけだが、はっきり言って何を言っているのか全く理解できない。

 調べた限り、すべての魔族がこれを聞いているようだ。

 もちろん全魔族から調書を取ったわけではないので、この魔王城周辺だけの現象なのかもしれない。

 魔族は聞いたが、人族は聞いてないということも考えられる。

 だが、それを今すぐ調べることはできない。

 調べたからといって前進できるかと言われると、そうでもない気がするが。


 それよりも、邪神とは何者なのか?

 阻止するにしても協力するにしても、どうすればいいのか?

 この文言だけでは全くわからない。

 わからないことだらけでどうするのが正解なのか、見当もつかない。

 魔王様であれば何か知っているのかもしれないが……。

 魔王様が不在の時にこんなことが起きるなんて、タイミングが悪すぎる。


「わからなくても、とにかく何かしら動かなければならないだろう。民衆が混乱している」


 俺でさえ訳がわかっていないのだ。

 一般の民衆も訳がわからず、戸惑っている。

 中には不安を抱いているものも少なくない。

 それはワールドクエストとやらの内容が不穏だからに他ならない。

 つい最近、人族との大戦が終わったばかりでの、この事態だ。

 最悪不安のせいで日頃の鬱憤が爆発し、暴徒となりかねない。

 ただでさえ無理な徴兵やその後の大戦で、政府への反発は強い。

 それが抑えられていたのは、ひとえに魔王様への絶対的な恐怖があったからだ。

 その魔王様が不在の今、些細なきっかけで暴発しかねない。

 それを防ぐためにも、先のワールドクエストの告知について、何かしら政府として発表せねばならない。


「と言ったって、こっちだって何もわかってないのよ? 適当なこと言うわけにもいかないでしょうし。馬鹿正直に何もわかりませーんなんて言うわけにもいかないでしょ?」

「……そうだな」


 それこそ爆発の火種になりかねない。

 政府は無能なのかと言われそうだ。

 だが、実際何もわかっていないのだから、その通りなのかもしれない。


「……コゴウは何かないか?」

「え!? あぅ……。すまん。難しいことはわかんね……」


 期待していなかったが、やはりというかコゴウに妙案はないようだ。


「ダラドは?」

「むう。平時であれば魔王様の指示を仰ぐべき案件だが、そういうわけにもいかんからな」


 腕を組み、悩むダラド。

 ダラドは魔王至上主義者であるが、それを抜かせば文武に優れている。

 そのダラドでも瞬時に判断することはできないようだ。

 それを言ったら俺もなのだが……。


「とは言え、バルト殿の言う通り、何もせぬわけにはいくまい。ひとまず目下調査中である旨を公表し、大きく騒がぬよう言い含めるしかあるまい」

「……それが一番現実的か」


 単なる時間稼ぎにしかならないが、調査はしているという姿勢を見せることはできる。

 それで不満がすべて抑え込めるとは思えないが、ある程度は効果があるだろう。


「市中の警邏を増やし、厳戒態勢をとるか」

「でも、あんまり巡回の兵士を増やしすぎるとそれはそれで刺激しちゃうんじゃない?」

「それもそうだな。……いや、聞き取り調査の名目で各家に兵士を訪問させよう。あの文言をすべての人が聞いているのか、一応確かめねばならないしな」

「たしかに。それなら自然と兵士を街中に増やせるわね」

「ああ。ついでに目下調査中であるということも伝えられる」


 ダラドの出した解決案のおかげで、とりあえずの方針が決まっていく。

 根本的な解決にはならないが、とりあえず街中の混乱を抑えることはできるだろう。


「実行は、第二軍に任せていいか?」

「ええ」

「この周辺はそれでいいとして、他の街はどういたす?」

「そちらもできれば早めに対処したいところだが、今は人手が足りない。できて早馬を一騎、それぞれの街に出すくらいしかできないだろう」

「ふむ。ではその役目は第五軍が担おう」

「助かる」


 トントン拍子でやることが決まっていく。

 会議を始める前はどうすればいいのか全く見当もつかなかったが、何とか喫緊の道筋はたてられたか。

 ……約一名、ほぼ座ってるだけの置物と化しているのもいるが。


「問題は、根本的にこのワールドクエストとやらが何なのかということが全くわからないことか」

「そうね」


 おそらく、あれは神の啓示だ。

 となれば、その重要度は計り知れない。

 このまま何もわからないからと放置することもできないだろう。


「ハア。どうしたものか……」


 思わずため息をつきながら愚痴ってしまう。

 その時だ。


『ワールドクエストシークエンス1。全人類への禁忌インストールを開始します』


「……何!? っ! あ! ぐあっ!?」


 またしても、突如聞こえてきた文言。

 その言葉の意味を理解する前に、襲い掛かってきた頭痛に苛まれ、机に突っ伏してしまう。

 そのまま頭の中に直接熱湯を流し込まれたかのような不快感に堪え切れず、俺は意識を失った。

何も知らない人に親切に真実を教えてくれる優しい神様。

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― 新着の感想 ―
[一言]  じゃ あ 最 初 か ら そ う し ろ (呆 まあ明らかに『ゲーム』として楽しんでるだけ、白織よりは分かりやすいけど。
[良い点] やっちまったよDさん
[良い点] うーわD…最悪(最高)
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