究極の二択①
更新再開
三行でわかるこれまでのあらすじ!
転生者に説明会じゃ!
Dさんのおちゃめな告知発動!
白黒大戦勃発!
櫛谷麻香視点
「え!?」
突如現れた黒い甲冑のような鎧を着こんだ男に、若葉さんが首を折られた。
それだけでは飽き足らず、男は若葉さんごと姿を消してしまった。
一瞬だけ、男が消える瞬間、その背後に別の景色が見えた。
噂に聞く空間魔法の転移だと思う。
空間魔法は希少で、あたしも見たことはないから憶測でしかないけど。
っと、そんなことはどうでもいい。
今は若葉さんの安否の心配をしなくちゃ。
「え? え?」
あたしの横では先生が目を白黒させている。
あたしだって第三者から見たらその先生と似たり寄ったりの反応をしてることだろう。
それだけ今起きた出来事は唐突過ぎた。
なぜ若葉さんが?
あの男は何者?
若葉さんとあの男はどこに行ったのか?
若葉さんは無事なのか?
考えることが多すぎて思考がまとまらない。
ただでさえ、直前に聞こえてきていた神言のせいで軽く混乱していたんだから。
と、とにかく、何か行動を起こさないと。
……でも、何をすればいいの?
「……先生、その本」
視線をさ迷わせて真っ先に目についたのは、さっき若葉さんが先生に手渡した本の存在。
神言が聞こえてきて、その直後にあの男が若葉さんを襲った。
タイミングから考えて、無関係とは思えない。
そして、あの神言についてどういうことなのかと、先生が若葉さんに質問して、その回答の代わりに渡されたのがその本だ。
きっとその本に何かこの状況を打破するヒントがあるに違いない。
希望的観測だけど、突然の事態にそれ以上の対処方法があたしにはとっさに思い浮かばなかった。
「貸してください」
「あ、はい」
先生はあたしよりも立ち直りが遅いらしく、まだ呆然としている。
だからかあっさりとあたしの言う通りに本を渡してくれた。
すぐさま本を開いて中身に目を通す。
速読ができるわけじゃないけど、スキルの思考加速を最大限に活用すれば、同じようなことができる。
あたしは割と本なんかはじっくり読むタイプだけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない。
この本を読めば、状況を変えることができる。
「……嘘でしょ」
しかし、あたしの希望とは裏腹に、その本には現状を打破するようなことは何も書かれていなかった。
むしろ、もっととんでもない問題を突きつけられる結果となってしまった。
ただ、若葉さんがどうしてあの男に襲われたのか、その理由は判明した。
「先生。とりあえず、下に。みんなを集めて、それで……」
これは、あたし一人で抱え込める問題じゃない。
他の転生者、みんなを集めて意見を募らないと。
意見を募って、どうにかなる問題でもないけど……。
だって、世界が滅びるだとか、その世界を救うための二択だとか。
その二択がどっちも多大な犠牲を出さなければならないだとか。
世界を救う方法は二つに一つ。
片方は人類の半分を犠牲にする方法。
片方は神を犠牲にする方法。
こんな重い事実、あたしだけで抱えられるわけないじゃない。
なんて厄ネタを置き土産にしていってくれてんのよ、若葉さん。
この世界が滅びかけてることに若葉さんの責任は一切ないけど、それでも恨み言の一つも言いたくなる。
若葉さんは人類の半分を犠牲にする方法を選ぶようだ。
だとしたら、あの襲ってきた男はそれに反対する立場の人間。
神を犠牲にする方法を選んだ人間だということだと思う。
さっきの神言を聞きつけ、行動に移した。
すでにあたしたちの知らないところで二派に分かれていて、それぞれが水面下で世界を救うために暗躍してきていたってことね。
そういえばと、あたしと先生の他にこの部屋にいるはずの人物を探して視線を動かす。
フェルミナという若葉さんの部下っぽい少女だ。
しかし、さっきまでいたそこにいたはずなのに、部屋を見回してみてもフェルミナの姿はない。
若葉さんが攻撃を受けたことを、同じ派閥の人間に知らせに行ったのかもしれない。
だとすれば、二派の争いはもう始まってしまったと考えていい。
……あたしたちに何ができる?
エルフと若葉さんたちとの戦いにおいて、あたしたちは蚊帳の外だった。
あたしはこれでも冒険者としてそこそこ優秀だって自負がある。
それでも、あの戦いにおいてあたしができたことは何もない。
エルフの里に帝国軍が攻めてくるという、本命の目くらましをそのまま鵜呑みにしていただけ。
そのあたしたちが、世界の命運を分けた戦いで、何ができる?
……答えは出ない。
そもそも、その戦いに参加しなきゃいけない義務もない。
あたしとしては、そんな大それた戦いからはしっぽまいて逃げたい。
でも、逃げたとして、戦いの結末はそのままこの世界の命運にかかわってくる。
どっちが勝つかで、未来は大きく変わる。
それで、かかわらずにいるということが、果たしてできるんだろうか?
わからない。
どっちにしろ、あたし一人じゃ答えが出せそうにない。
みんなにこの話を共有して、相談しなきゃ。
あたしは先生の手を引いて、部屋を後にする。
手にしっかりと、若葉さんが残した本を握り締めながら。




