エルフの里攻防戦⑦
ポティマス視点
タイプΩを使う。
その決断に迷いがなかったかと言えば、そうではない。
タイプΩは対ギュリエディストディエスに特化した戦闘機。
はっきりと言えば、アリエルとの相性はよくない。
魔術妨害結界の中で使用可能かどうかはわからないが、奴には暴食がある。
タイプΩの内在エネルギー量は膨大。
しかし、無限ではない。
戦い続ければいずれは尽きるし、外部から干渉されればその減りも増すのは道理。
暴食はその内在エネルギーをも吸収しかねない。
私とて、スキルの全てを解析できているわけではない。
魔術妨害結界があるからといって、安心することはできぬ。
無論、相性が悪い程度でタイプΩがアリエルに敗北することはあり得ない。
タイプΩの戦闘能力は、理論値でステータスに換算すれば物理攻撃力15万、物理防御力10万、速度15万。
アリエルの正確なステータスは支配者権限の鑑定妨害で正確には把握できないが、10万を超えることはないはずだ。
であれば、単純な力量の差で押し切れる。
現に、アリエルはタイプΩにいいようにやられている。
「ハアアア!」
モニタの向こうで、アリエルが叫びながら拳を繰り出す。
が、タイプΩはそれを悠々と回避。
カウンターで、アリエルの体にその腕を突き刺す。
ただの腕ではない。
タイプΩの腕はドリルのように回転し、アリエルの体を削りとる。
肉と血がグチャグチャにされ、アリエルの小さな体をさらに軽量にしていく。
たまらず距離をとったアリエルの腹は、その半分ほどが消失していた。
神を相手にしたときに、最も効率の良い攻撃手段は何かを考えた結果が、このドリルだった。
切断ではすぐに切断面をくっつけて終わりだ。
打撃では潰れた体組織を修復して終わり。
刺突ではそもそも傷つけられる範囲が狭すぎる。
一瞬で体を粉々の状態からすら再生させてしまうような化物に、これらの物理的な方法で傷をつけてもあまり意味がない。
それこそ体を粉々にしてしまうほどの破壊力を持たせなければ。
しかし、過剰な破壊力はエネルギーを損する。
攻撃にしろ防御にしろ、エネルギーを消費する。
攻撃にエネルギーを100消費するならば、それを防ぐには防御側も同様に100のエネルギーを消費して防御しなければならない。
もともとの物質的な強度を計算に入れればそれほど単純な図式が成り立つわけではないが。
ともあれ、相手の攻撃力が高ければ高いほど、防御に費やされるエネルギーも比例して高くなる。
しかし、これはある地点で変化する。
防御するよりも、攻撃を食らって、その傷を回復してしまったほうがエネルギーの安上がりとなる地点だ。
考えてみれば当たり前だ。
粉々の状態からですら復活するような化物だ。
つまりは粉々になっても問題ないほどのエネルギーを身の内に蓄えているということでもある。
粉々の状態から復活するのに必要なエネルギーが仮に10000だとすれば、それを上回る10001のエネルギーで攻撃された場合、馬鹿正直に10001のエネルギーを支払って防御するよりも回復してしまったほうが1エネルギー分消費が少なくて済む。
対して、相手の攻撃側は、防御側のエネルギーを10000減らすために、10001のエネルギーを支払うことになる。
攻撃したはずが、逆に多くのエネルギーの支出をしてしまったというわけだ。
このような現象が起きるため、神に対して攻撃にあまり多くのエネルギーを費やすのは下策。
低コストで、それでいて相手にエネルギーを支払わせる攻撃方法が望ましい。
ドリルはその点で素晴らしい効率を叩きだす。
相手の防御力に合わせてエネルギーの量を調節することもでき、加えて防御を貫くことができれば大怪我を負わせることができる。
傷が大きくなればなるほど回復するためのエネルギーもまた大きくなる。
粉々の状態からすら復活する神に対しては効果が薄いように感じられるが、そんな支出でも積もれば大量となる。
ローコストローリターン。
しかし、確実にリターンの方が大きい。
そして、アリエルは神ではない。
神を想定したこの舞台で、神ならざるアリエルでは、たとえタイプΩとの相性がよかろうと、どうしようもない。
私が懸念することは、タイプΩの内在エネルギーを浪費してしまうこと。
せっかく集めたエネルギーが、アリエル相手に想定以上に減らされるのは癪に障る。
が、アリエルに言ったように、私はアリエルのことを評価している。
手向けに私の手札最強の駒を使ってもいいと思うくらいには。
「ポティマス様。外の迎撃態勢はいかがいたしましょうか?」
「任せる」
だから、通信で部下が指示を仰いできた時、私はそれを丸投げした。
アリエルの映るモニターから目を離すつもりはなかった。
外の雑事など部下に任せておけばいい。
どうせ警戒すべきはクイーンタラテクトと白とか言うのだけ。
両者ともアリエルには到底及ばないと考えれば、私が直々に対応するまでもない。
今は、長年の宿敵の最期を見届けることに集中したい。
アリエルは失った腹部に手を当て、荒い息遣いをしていた。
二酸化炭素が充満する空気を吸っても、体調が悪くなるだけだというのに。
魔術妨害結界のせいで怪我の治療すらおぼついていない。
当たり前だ。
そのための魔術妨害。
そのための二酸化炭素。
魔術妨害で神としての戦闘能力と再生力に制限をかけ、二酸化炭素でじわじわとエネルギーを浪費させ、タイプΩでそれを加速させる。
神を殺すために、神ならぬこの身で考え抜いた布陣。
神でもないアリエルに打ち破られることはあり得ない。
「ああああああ!」
再びアリエルに襲い掛かったタイプΩ。
そのドリルがアリエルの胸を貫き、そこに大穴を開ける。
だが、アリエルはそんな怪我を覚悟でタイプΩの腕を左手で掴み、拘束する。
「捕まえ、た」
それまでアリエルの攻撃はタイプΩのスピードに翻弄され、一度たりとも当たっていなかった。
アリエルはタイプΩに攻撃を当てるため、あえてタイプΩの攻撃を受けたのか。
アリエルの右手がきつく握られる。
繰り出されたのは強烈な右ストレート。
左手で掴まれたタイプΩに、避ける暇などない。
渾身の一撃がタイプΩに襲い掛かる。
タイプΩの顔面に相当する部分に拳が叩き込まれ、金属のそれが風船のように破裂する。
だけにとどまらず、その衝撃は体にまで伝動し、爆発するようにタイプΩの全身が飛散した。
「どうだ。見たか」
アリエルが勝ち誇ったように笑みを浮かべる。
腹と胸に大穴を開けられ、生物としては致命傷を負っているにもかかわらず。
しかし、残念だ。
「残念だが、まだ終わっていないぞ?」
アリエルの目の前で、タイプΩの砕け散った体が再生していく。
一秒にも満たない時間でその体は先ほどまでと同じ、無傷の状態に元通りとなった。
神にできるのであれば、それに匹敵するだけのエネルギーをつぎ込んだ存在にできない道理はない。
ましてや、タイプΩは生物とは違い、単純な構造の金属の塊。
それを魔術で遠隔操作しているに過ぎない。
複雑な構造の生物の体と、単純な金属の塊。
再生させるのに必要なエネルギーの量が多くいるのは、前者に決まっている。
相手のエネルギーを効率よく消費させ、こちらの損失は少なく。
それでいて長時間の運用が可能。
それがタイプΩの真髄。
「第二ラウンド開始だな」
その言葉とともに、タイプΩが再びアリエルに襲い掛かる。
第二ラウンドで終わるかもしれんな。
最終ラウンドまで持ちそうもない。
尤も、これは最終ラウンドなど訪れない、無限にラウンドが続く地獄なのだがな。




