114 蜘蛛VS火龍②
こうなったからには腹を括るしかない。
並列意思の意識同調レベルを最大にする。
その上で魔法担当に魔法を発動させる。
私が隠れた影が、その形を変えて、槍のように火龍の体に迫る。
影魔法LV4変影とLV5固影とLV6操影の合わせ技、名付けて影槍。
変影で影の形を槍状に変え、固影で固めて物質的な要素を持たせ、操影で操って動かす。
びっくりしたことに、影魔法はレベル6までの魔法を複合させないと、まともに攻撃することさえできないという、扱いにくい魔法だった。
燃費も悪いし効率が悪い。
使いどころがあんまりない残念な魔法だ。
けど、今はその魔法のおかげで助かった。
迫る影槍を火龍は難なく躱す。
その隙に私は影の中から脱出。
火龍と距離を取る。
対峙する火龍と私。
正直、勝てる気がしない。
能力値は向こうの方が断然上。
おまけに属性の相性も良くない。
何より辛いのが、火龍の持つ状態異常耐性のスキル。
このスキルはその名前のとおり、状態異常系の攻撃属性の耐性を高める効果がある。
もともと高い抵抗の値にこの状態異常耐性のスキルが加われば、かなりその防御力は高いと思ったほうがいい。
私は状態異常に特化している。
その意味でも相性が悪いと言えた。
加えて、スキルにも隙がない。
今までステータスが格上の魔物と戦い続けてきたけど、スキルでは上回っていたと思う。
けど、数こそ私のほうが多いけど、火龍のスキルは私と同じか、それ以上の性能をしている。
いくつか私と同じスキルで、レベルが上だったり、スキル進化しているものさえある。
ステータスもスキルでも格上。
おまけに相性も悪い。
勝てる要素がなかった。
けど、やらなければならない。
勝てなければ、死ぬ。
覚悟を決める。
勝算がまったくないわけでもない。
けど、敗北の可能性のほうがやっぱり高い。
死ぬかもしれない。
死ぬのは怖い。
けど、死なない命なんてない。
なら、前にも言ったとおり、燃え盛るように生きて、華々しく散ってやろうじゃないか。
死ぬつもりは毛頭ないけど、死ぬにしても無様な最期だけは迎えない。
火龍、私を殺すか?
なら、相応の覚悟でかかってこい。
私は、無傷で殺されてやるほど、甘くはないぞ?
私は覚悟を決めると同時にオフにしていた威圧を再度オンにする。
邪眼を全開放。
魔闘法と気闘法と竜力を同時発動。
魔法構築開始。
私の覚悟を見てとったのか、火龍がその身に火炎を纏う。
『火龍』のスキルは『火竜』のスキルの進化系らしい。
当然『火竜』のスキルの効果も使うことができる。
そのうちの一つ、火竜レベル8で習得する火炎纏だ。
火竜レベル2で習得する熱纏の上位互換の技で、文字通り激しい火炎をその身に纏う。
さらに、その熱によって運動能力が向上するという技だ。
どうやら、火龍も私のことを油断できない強敵と認識したようだ。
お互い油断も慢心もない。
真剣勝負が幕を開ける。
火龍が火球を吐き出す。
本気の一撃とは思えない、様子見の一撃。
それでも私の火耐性の弱さを考えれば、直撃すれば一撃で消し炭になりかねない威力。
なんせ、そんな戯れの一撃ですら、この前の火竜の全力の火球と同等なのだから。
全力で回避。
命中と確率大補正のコンボのせいで、軽く避けるということもできない。
戯れの一撃すら三重の強化を重ねがけして、さらに回避のスキルの力を借りてようやく躱すことができるレベル。
思考加速と予見を駆使する。
火龍は火球を吐くと同時に、距離を詰めてきていた。
火球を目眩ましにしての本命の攻撃が来る。
その蛇のように長い体をしならせ、巨大な尻尾を叩きつけてくる。
ただでさえ強力な物理攻撃に、火炎という私にとって致命の効果がプラスされた一撃。
これもギリギリで躱す。
纏った炎が私の体をかすっていく。
HPがそれだけで僅かに減る。
思考加速で近付く火龍を認識し、予見でその行動を見切っていなかったら危なかった。
今のところ、私の回避コンボは、火龍の命中と確率大補正のコンボをわずかに上回ってくれているようだ。
けど、状況はよくない。
いつまでたっても火龍が麻痺する様子はない。
呪いの方は、HPなどは少しだけ削ってるけど、ステータスの方はほとんど影響が出てない。
両方とも、高い抵抗でレジストされているんだろう。
時間をかければそれでも邪眼の効果は効いてくると思うけど、そこまでの時間、火龍が黙って待っていてくれるわけがない。
火龍の体当たりからの流れるような爪の攻撃を、かろうじて回避する。
火龍はそれさえも回避した私のことを警戒して、一旦距離を取る。
火龍が吼えた。
私の心に、焦りが生じる。
火龍のスキルはほぼ火竜の上位互換。
当然、火竜が持っていたスキルを使うことができる。
すなわち、火竜が私を追い詰めた、数の暴力を体現するスキルを。
指揮。
火竜が持っていた統率の上位スキル。
配下をより強い統制力で従えるスキル。
私の探知に、続々と集結し始める魔物の姿が引っかかる。
私に慢心はなかった。
火龍を格上の強敵と認識し、死さえ覚悟した。
けど、火龍にもまた、慢心はなかった。
格下である私を倒すために、全力を出してきていた。
そこに、卑怯も何もない。
私の生存の可能性は、さらに低くなった。




