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S15 支配者階級

 ユーゴーの俺を見る目が日を追うごとに危険になっていった。

 特に授業などで俺がユーゴーよりもいい成績を出した時などは、背筋に冷たいものが走りそうなほどの眼光を放つ。

 いずれ何かが起きるのは明白だった。

 かと言って、何の対策をすることもできない。

 ユーゴーは俺と違って、大国の長男だ。

 そして、俺と同じ転生者であり、その実力は折り紙つき。

 権力的にも、実力的にも、ユーゴーに意見を言える人間はいなかった。


 そして、事件は起きた。

 それは、初の課外活動となる探索の授業の時だった。


 課外活動の探索は学園からほど近い小さな山で行われる。

 まあ、近いといっても歩きだと往復するだけで半日以上かかる距離なんだけど。

 参加できるのは学園から出された試験を突破した一部の学生だけだ。

 初年度の俺たちの学年の中で、探索の授業に参加する許可が下りたのは、俺を含めて12人。

 学年全体からするとひと握りの成績優秀者しか合格できなかったことになる。

 とはいえ、今回探索の許可が下りなかった生徒も、いずれは力を身につけて参加できるようになる。

 初回の今回は少なかっただけで、次回以降はもっと人数が増えるはずだ。

 むしろ、大抵初回の探索は、班が1つ作れるかどうかくらいの生徒しか許可が下りないそうなので、今年はかなり優秀な部類に入る。


 探索は朝に学園を徒歩で出発し、昼前に山の麓に到着。

 その後、最終確認の説明会を麓の小屋で行い、そこで昼食をとる。

 昼食後は班ごとに分かれて山の中に入っていく。

 あとは山を丸1日かけて探索し、野営を挟んで、また次の日の昼前に山の麓に戻ってくるというスケジュールになる。


 この山は危険度で言えば最低クラスの弱い魔物しか生息していない。

 探索前には事前に学園が雇った人員に調査をしてもらい、強い魔物が発生していないことは確認済みだ。

 弱い魔物でも、時たま進化して強くなることがあるので、この確認は欠かせないらしい。

 

 この探索では、基本的なサバイバル技術を学ぶことが一点。

 実際に魔物が生息している環境を体験するということが一点。

 薬草などを採取して、山の知識を学ぶことが一点。

 それらの経験を積むことが目的となる。

 あくまで無事に過ごし、知識と経験を得ることが目的だ。

 なので、魔物と積極的に戦おうとするのは、逆に減点対象となる。

 襲われた場合は適切に処理すれば加点となるものの、自分からわざわざ魔物に攻撃を加えたりするのは御法度となる。


 探索は班に分かれて行い、各班4人の生徒に1人の教師がつくことになる。

 班の内訳はくじで決められ、あまりにも偏った編成にならない限りは交換などはしない。

 スー、カティア、ユーリとは別々の班になってしまった。

 そして、俺はユーゴーと同じ班になってしまった。

 班の編成は、俺、ユーゴー、岡ちゃん先生ことフィリメス、騎士の息子のパルトンの4人に、魔法系の教師であるオリザ先生を加えた5人だ。


 パルトンとは知人以上、友達未満といった関係だった。

 パルトンの父親は元男爵だったにもかかわらず、数々の武功を立て爵位を上げ、伯爵にまで上り詰めた人だ。

 パルトンはそんな父親から厳しい訓練を施され、物理系に特化したスキル構成をしている。

 強さも学年の中ではなかなか高い。

 本人はそれでも納得していないらしく、日々鍛錬に余念がない真面目な性格の少年だ。

 俺に対しては臣下のように接してくるので、話くらいはするけど、仲良くはない感じだ。


 オリザ先生は中年の魔法系の教師だ。

 教師の中ではあまりやる気がなく、仕事だから付き合うという気持ちが透けて見えるような人だ。

 面倒事は嫌らしく、俺とユーゴーが彼の管轄の班に配属された時は、隠しもせず苦い顔をしていた。

 それくらいには、俺とユーゴーの間にただならぬ気配が漂っていることは知れ渡っていた。

 ただ、そこはさすがに教師といったところか、戦闘能力に関しては充分高い。

 魔法寄りながら、近接戦も多少はできるスキル構成となっており、能力値も学生に比べて高い。

 想定外のことが起きた際は、教師が生徒を守らなければならないし、この探索の授業についてくる教師が弱いということはありえなかった。


 意外だったのは、岡ちゃん先生ことフィリメスがこの授業にちゃんと参加したことだった。

 先生は度々授業を無断欠席する。

 どうにも裏で何やら活動しているようなんだけど、俺たちにはその内容を教えてくれない。

 授業を勝手に休むくらいだし、相当忙しく動いているに違いない。

 その先生が、ほぼ丸2日間拘束されるこの授業に参加するのは意外だった。

 

 とはいえ、ユーゴーとのこともあるし、そばにいてくれるならこれ以上心強い人もいない。

 おそらく、学園の教師を含めても、ユーゴーを止められるのは先生だけだろうから。


「では、一旦解散とします。各々昼食を食べたあと、班ごとに分かれて行動してください」


 まとめ役の教師がそう宣言し、説明会が終わった。

 昼食を食べ終わったら班に分かれて行動だ。


「兄様、しばしお別れです。寂しいです」

「スー、1日くらいで大げさな」

「1日だけでも大問題です。私の見ていないところで兄様に何かあったらと思うと、夜も眠れません」

「大丈夫だから。この山はもう安全も確認されてるし、滅多なことなんか起きないよ」


 スーを安心させるように頭を撫でる。

 実際には山よりも、同じ班員の方が危険なんだけど、それを言って不安にさせるわけにはいかない。


「シュン、ユーゴーにはくれぐれも注意しろよ? あいつ、こっちの世界に来て完全に頭がいかれてるっぽいからな」

「…わかった」


 別れ際のカティアとの小声のやり取りが頭の中をリフレインする。

 いかれている。

 確かにそうだ。

 今のユーゴーは普通じゃない。

 何をしてもおかしくないような、危険な兆候がある。


 そんな俺の心配をよそに、探索は順調に進んでいった。

 魔物に出会うこともなく、無事に野営を予定していたエリアに到着した。


「シュレイン様、ここが野営ポイントですか?」

「そうだね。予定より早く着いたみたいだ」

「男の子たちは体力がありますからねぇー。女の子の先生は付いていくのが大変でしたよぉー」

「下らねぇ。岡ちゃんのステも結構高いんだろ? このくらいで音を上げるわけがねーだろ」

「それを知ってても知らないふりして気遣う言葉をかけられるのがぁー、いい男の条件だと思うのですよぉー」

「いちいち女の顔色見るような男になる気はねーな」

「あぁー、俺様系もありっちゃありですねぇー」


 ユーゴーと先生がそんなやりとりをする中、俺とパルトンが野営の準備を始める。

 オリザ先生はそんな俺たちを無言で眺めるだけだ。


「シュレイン様、そちらを持っていただけないでしょうか?」

「ああ、いいよ。こうかな?」

「はい。あとはここをこうすれば」

「うん。完成っと。ありがとうパルトン」

「いえ。本来だったら僕一人で準備などすべきなんでしょうが、シュレイン様のお手を煩わせてしまいました」

「パルトン。学園の中では身分は関係ない。だから、そこまで気にする必要はないよ?」

「身分のことも、確かにありますが、僕は個人的にシュレイン様を尊敬しております。だから、これは僕が好きでやっていることです。シュレイン様こそ、僕の行動にそこまで申し訳なさそうな顔をしないでください」


 パルトンの真っ直ぐな視線に俺のほうが根負けした。

 妹のスーといい、俺のどこにそこまで尊敬する要素があるだろう?

 不思議だ。


 野営の準備が整ったあと、予定より早く到着したこともあって、少し時間が余った。

 それならばと周りを軽く確認することになった。

 それぞれが別行動をして、あまり離れすぎない範囲で探索すると。

 単独行動をするというのには反対だったけど、お互いに声が届く範囲に必ずいることにした。

 これなら何かあってもすぐに近くの班員が駆けつけることができる。

 

 そして俺は一人、山の中にいた。

 薬草などを自力で採取すれば点数が加点される。

 俺は鑑定を発動させながら、目当ての薬草を探していた。


 そこに、剣戟の音が響き渡った。

 

 それは、近くで探索していたはずのパルトンのところから聞こえた。

 何か、相手の剣に特殊な加工が施されているのか、あるいは無音のスキル持ちなのか、その音は極めて小さかった。

 けど、聴覚強化を持つ俺の耳には、はっきりとその音は聞こえた。


 俺は急いでパルトンのところに駆け出そうとして、目の前に立ちはだかる人物にそれを阻止された。

 ユーゴーだ。


「よお」

「何のつもりだ?ユーゴー、いや、夏目」

「いやな、ここらへんでお前には退場してもらおうと思ってな」


 気さくに話しかけてくるユーゴーに、俺は緊張した声を返す。

 信じられないことを平然と言うユーゴー。

 俺は知らず、唾を飲み込んでいた。


「冗談だろ?」

「冗談に見えるか?目障りなんだよ、お前」


 その瞬間、ヘラヘラ笑っていたユーゴーの顔から笑みが消える。


「この世界は俺のための世界なんだよ。俺が最強になって俺が君臨するための世界。それなのに俺と同じかそれ以上の奴がいちゃ、締まらないだろ?」

「何トチ狂ったこと言ってるんだ? この世界は誰のものでもない。正気に戻れよ」

「正気さ。スキルさえあれば何でもできる夢みたいな世界だぜ? まさに俺のためだけにあるような世界じゃねーか。けどな、その世界にお前みたいな奴はいらねーんだ。だから死ね」


 ユーゴーが剣を抜く。

 俺も、剣を抜かざるを得ない。

 ユーゴーのステータスを見る。


『人族 LV31 名前 ユーゴー・バン・レングザンド 

 ステータス

 HP:628/628(緑)

 MP:566/566(青)

 SP:609/609(黄)

   :502/611(赤)

 平均攻撃能力:608

 平均防御能力:599

 平均魔法能力:546

 平均抵抗能力:522

 平均速度能力:583

 スキル

 「HP自動回復LV4」「MP回復速度LV4」「MP消費緩和LV4」「SP回復速度LV8」「SP消費緩和LV8」「魔力感知LV8」「魔力操作LV5」「魔闘法LV5」「魔力付与LV4」「魔力撃LV2」「破壊強化LV7」「斬撃強化LV7」「打撃強化LV4」「火炎強化LV4」「気闘法LV7」「気力付与LV7」「気力撃LV7」「火炎攻撃LV3」「麻痺攻撃LV2」「剣の才能LV6」「投擲LV5」「立体機動LV6」「集中LV9」「予測LV3」「演算処理LV3」「命中LV8」「回避LV8」「隠密LV3」「無音LV1」「火魔法LV3」「破壊耐性LV2」「打撃耐性LV2」「斬撃耐性LV3」「火耐性LV3」「毒耐性LV2」「麻痺耐性LV1」「苦痛耐性LV1」「視覚強化LV10」「望遠LV1」「聴覚強化LV10」「聴覚領域拡張LV1」「嗅覚強化LV8」「味覚強化LV7」「触覚強化LV8」「身命LV5」「魔蔵LV4」「瞬身LV5」「耐久LV5」「剛力LV5」「堅牢LV5」「道士LV4」「護符LV3」「縮地LV5」「帝王」「n%I=W」

 スキルポイント:350

 称号

 「魔物殺し」』


 強い。

 俺とは逆にやや物理よりのステータスながら、安定した強さだ。

 それに、こいつは俺と違って、スキルポイントを使って積極的にスキルを取得してる。

 何よりも厄介なのが、帝王のスキルだ。


『帝王:スキルの効果を高める。また、威圧により相手に外道属性(恐怖)の効果を与える』


 威圧による恐怖は一応レジストできている。

 けど、スキルの効果を高めるなんて、反則的な効果だ。


 ユーゴーが剣を振りかぶってくる。

 俺の剣がそれを迎え撃つ。

 くっ、重い!


「ふ、知ってるぞ?お前、ろくにスキルポイント使ってスキル取ってないんだろ? それにレベルも上げてない。ポイントっていうのはな、使ってこそのものなんだよ! こういうふうにな!」


 ユーゴーの剣から火炎が迸る。

 俺はそれを間一髪で避ける。


「あんまり派手にやりすぎると、他の班の連中に気付かれるかもしれないからな。とっととくたばれ」

「お前、こんなことしてただで済むと思うのか?」

「大丈夫大丈夫。俺は未来のこの世界の主だぜ? 何しても許されるに決まってんだろ? それに、ちゃんと工作はできてるんだよ。俺の手下が今頃他の連中を始末してるはずだ。お前を始末したあと連れてきた魔物を解き放つ。ここでは普通は発生しないような強力なやつだ。哀れ生徒と教師は突如発生した魔物に食い殺されました、とさ。俺はその魔物を打倒し、生還を果たすってシナリオだ」

「そんな杜撰な計画で、告発されないとでも思ってるのか?」

「誰が? 誰をだ? お前、ここは日本じゃねーんだよ。俺は未来の剣帝だぜ? ちょっとくらい不自然でも、誰が俺に意見を言える? それで国際問題になってもいいのか? いいわけねーよな。そういうことなんだよ。日本みたいに犯罪は全て公にされるとは思わねーことだ」


 唖然とした。

 ユーゴーがあまりにも、日本人離れした発想をしていることに。

 そして、それを当たり前のように受け入れていることに。


「じゃあな。一応お前のことは記憶の片隅に憶えておいてやるよ」


 巨大な火炎を纏いながら振り下ろされる剣。

 しかし、それが俺に届くことはなかった。


 ユーゴーの体が急に吹き飛ぶ。


「夏目くん。君はやりすぎた」


 いつもの間延びした声とは違う、ゾッとするような冷淡な口調。

 小さなエルフの姿に似合わない、圧倒的な存在感。

 そこに、岡ちゃん先生が現れていた。


「君の計画はもう潰れたよ。君の部下はすべて拘束させてもらった。あと、連れてきていた魔物は処分しておいたから」

「な、なん!?」

「シュンくんばかり気にしてたみたいだけど、私のことを甘く見すぎたみたいだね。悪いけど、君の暴走をこれ以上見過ごすわけにはいかない」


 先生が倒れたユーゴーに歩み寄る。

 ユーゴーは近づく先生に奇襲を仕掛けようとして、


「グハッ!?」


 不可視の何かに地面に叩きつけられた。

 あれがさっきユーゴーの体を吹き飛ばしたものに違いない。

 おそらく、風系の魔法だと思われる。


 先生の手がユーゴーの頭を掴む。

 そこに、魔力の流れを感知した。

 何かの魔法がユーゴーにかけられたようだ。


「支配者権限を発動。支配者の要請により、支配者専用スキル発動。発動の合意を」

「合意します」


 ユーゴーの口から、あいつらしくない平坦な声が出る。

 さっきの魔法、あれはまさか、禁断と言われる外道魔法による催眠か!?


 俺の驚きはそこで終わらない。

 むしろ、さらなる驚きが俺を襲う。

 鑑定に表示されたユーゴーのステータスが、みるみる下がっていく。

 さらに、スキルがどんどん消えていく。

 あっという間に、ユーゴーのスキルは、謎の文字化けスキルだけとなった。


「ッ!? 俺に何をした!?」


 ようやく正気に戻ったユーゴーが叫ぶ。


「ステータスを低くし、スキルを剥奪しました」

「な!? そんなことできるはずが!」

「シュンくん、鑑定結果は?」

「…先生の言うとおり、お前のステータスは全部30まで下がってる。おまけに、スキルも残ってない」

「な、な…」

「この世界は君のものじゃありません。これを機に反省して、これからは普通の人として生きることをお勧めします。スキルなんて取って強くなっても、いいことなんてありませんから…」


 茫然自失となるユーゴー。

 混乱する俺。

 

 その後、探索授業は中断された。

 パルトンやオリザ先生は無事だった。

 危ういところだったそうだが、先生が助けに入ったおかげで、大した傷もなかった。

 彼らを襲ったユーゴーの手下は全て捕らえられた。

 が、誰一人としてユーゴーとの関係は自白せず、ユーゴー自身もシラを切り通したため、ユーゴーにお咎めはなかった。

 これも、国際関係を考えての判断なのか。

 本当に、ここと日本では、常識が違うのだと改めて認識させられた。


 ちなみに、帰ったあとの俺は、スーに泣きつかれて困ることになった。

活動報告に独り言を追加しました

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― 新着の感想 ―
逆になんでレベルもスキルも上げてないのか 王族のレベリングを全て学園におまかせ? 15歳になるまで成長補正系のスキルを鍛えるなりしてたようだけど、そこまで実戦経験0というのは成長効率云々の前に王家側の…
[気になる点] ユーゴーがガバいのは本人があたおかなせいってことでもう良いけど、 自国の王子の殺人未遂起こされて不問にするほどザルな学園に存在価値あるんだろうか 送り出す側も迎える側も国際問題のリスク…
[良い点] 面白いです。飽きないです。 [気になる点] 更新を再開してください。 [一言] 面白いです。それにしても、ユーゴーくんやってしまいましたね。こう言う奴って大体主人公にかっこよく倒されておし…
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