S14 学園生活
学園生活は順調だった。
授業の内容はもう既に学び終わっていたものがほとんどだったけど、復習のつもりでしっかりと聞いた。
どうしても退屈になったときは、バレないようにスキル上げの練習をして時間を潰した。
というふうに、授業だけを切り取ってみると平和そうに見えるが、人間関係で結構いろいろな問題が出ていた。
まずは教師。
やたら俺にへりくだるか、なるべく関わらないように避けるか、逆に熱血風味に絡んでくるか、その3パターンに分かれる。
俺が王族ということもあるだろうけど、俺の能力値が既に教師のほとんどを超えてしまっているのが原因だろう。
へりくだられても俺はそんな権力を持っているわけじゃないし、あからさまに避けられれば傷つくし、かと言ってしつこく絡まれるとウザったい。
普通に接してくれるのが一番なんだけど、そういう先生はほとんどいない。
次に生徒。
これもやっぱり3パターンに分かれる。
媚びへつらうタイプと、遠巻きにするタイプと、やたら敵意を向けてくるタイプ。
まともなタイプがいない。
そういうわけで結局のところ、俺はスーとカティアと居ることが多い。
そこに長谷部が加わって、だいたいその4人で過ごしている。
媚びへつらうやつは、だいたいカティアが追っ払ってくれた。
俺だとなんだかんだ愛想笑いを浮かべて付き合ってしまうのが目に見えていたので、何の迷いもなくバッサリと切り捨ててくれる友人の姿にいっそ感動したものだ。
遠巻きにするタイプは、その中でもいくつかのパターンに分かれる。
憧れの視線を向けてくる生徒、関わらないように冷めた視線を向けてくる生徒、なんとかお近づきになろうと機会を窺っている生徒、などなど。
一番厄介なのが、敵意を向けてくる生徒だ。
敵意を向けてくる生徒の大半は他国の王族か、それに準ずる高い位を持った貴族だ。
時たま平民出身で成り上がってきた子もいる。
彼らに共通しているのは、自尊心が高いということだ。
身分も高く、能力も高いものが多い。
だから、同じかそれ以上の身分と能力を持った俺が目障りで仕方ないらしい。
時には決闘を申し込まれることすらあった。
他国の人間と俺がそんなことをすれば、国際問題にもなりかねない。
もちろん全て断った。
そうしたらそうしたで、「天才王子は決闘も受けない腰抜け」という噂が学園中にばらまかれるのだ。
勘弁してほしい。
とはいえ、所詮は子供のすること。
前世と合わせればもう大人と言える俺は、笑ってごまかした。
その度にスーがブチ切れて相手を粛清しに行こうとするのを止める羽目になったけど。
そのスーもこの頃様子がおかしい。
俺に対して何か聞きたいことがあるのに、なかなか切り出せない。
そんな感じだ。
まあ、その聞きたい何かというのには心当たりがあるんだけど。
というか、カティアから聞いた。
「スー、あの子俺たちの関係を聞きたがってたぞ」
「え? 関係って?」
「だから、俺とお前の前世の話だよ。先生とかと接する態度で何かあるって察したんだろ」
「あー。そういえば俺たちスーの前で普通に日本語で話してたな」
「そういうこと。生まれてから今までずっと一緒にいたはずの兄が、急に見知らぬ人間と自分の知らない言語で親しげに話し始めたら、そりゃ変に思うだろ」
「そっかー。しまったな」
「まあ、あの子に聞かれたらお前の判断で真実を話すか、誤魔化すかしておけ」
「え? そこは誤魔化すんじゃないの?」
「それを決めるのはお前だって。今後も実の妹を騙し続けるか、真実をきちんと話してやるか。どっちにしても少しは覚悟を決めて、しっかりと対応してやれ。でないとあの子に失礼だろ?」
「うっ、わかった」
そういうわけで、スーは俺にみんなとの関係を聞きたがっているらしい。
正直言うと、覚悟なんか全くできてない。
スーに真実を伝える?
実の兄だと思っていた俺が、実はどこの誰とも知れない男の生まれ変わりだと?
それを伝えて、スーに嫌われるのが、怖い。
俺は今まで、スーのことを実の妹として可愛がってきたつもりだ。
けど、それは俺から見た視点で、スーから見た俺はどう写っているんだろう?
懐かれているという自覚はある。
けど、その懐いていた兄が、見ず知らずの他人だったとしたら、どう思うだろう?
俺は少なからず前世の記憶と経験をもとに成長してきた。
スーが自力で俺と並んでいるのに対して、俺はズルをしているとも言える。
それを知った時、スーは俺を軽蔑しないだろうか?
スーに限ってそれはない、とは思うものの、そういう想像が出てしまう時点でダメだった。
じゃあ誤魔化すのかというと、それはそれで不誠実なんじゃないかと思える。
実の妹が、こんなにも思い悩んで、聞くことを躊躇っているのに、その質問に俺が軽く誤魔化していいとはどうしても思えない。
誤魔化すのなら、それこそ一生隠し通すつもりで覚悟を決めるべきだろう。
まだどうするのか、俺も答えが出ていない。
けど、スーにもしそのことを聞かれたら、真剣に答えなきゃならない。
カティアに言われなかったら、そこまで深く考えずに誤魔化してしまっていたかもしれない。
事前に助言をくれたカティアに感謝しなきゃな。
そういうわけで、学園の中での人間関係は内も外もなかなかうまくいかない。
その中でも頭を抱えさせられるのが、残り3人の転生者だ。
先生は相変わらず謎だ。
授業にも出ないでどこかに行ったかと思いきや、ひょっこり現れて授業を受けたりする。
会った時にいろいろ質問してみても、のらりくらりと躱されることが多い。
特に、京也の所在の話になると、その傾向が強い気がする。
京也は俺とカティアが前世で特に仲の良かった友人だ。
けど、先生はその所在をなかなか教えてくれない。
どうにもある程度の情報は把握しているっぽいけど、保護はしていないようだ。
今京也がどこでどうしているのか、気になるが、先生がこの調子じゃ教えてもらうことはできそうにない。
長谷部も問題児だ。
長谷部の今の名前は、ユーリーン・ウレンという。
苗字のウレンというのは、孤児院代わりの教会の名前だそうだ。
長谷部、ユーリは捨て子だったそうだ。
この世界では捨て子が多い。
前世の世界ですら捨て子は結構いたし、文明の発達してない厳しいこの世界では、捨て子の数がかなり多い。
普通だったら良くはないけど、そのまま教会で育てられて、物心ついた時には教会で暮らしていたとなったはずだった。
けど、ユーリは違う。
生まれて間もない頃には前世の記憶を持って、しっかりとした自意識があった。
自分が気がついたらいきなり赤ん坊になっていた。
俺も経験したけど、これはかなりショックだ。
混乱するし、何より不安になる。
この先自分がどうなるのか。
前の自分は死んでしまったのか。
それなら、前の人生はどうなってしまったのか。
俺がそうだったように、不安は尽きなかったはずだ。
ましてや、ユーリはそんな状態で捨てられた。
ショックは俺の比じゃなかっただろう。
正直、俺にはその時のユーリの気持ちを想像することはできない。
ユーリはその極大の不安の中、あるものに縋った。
それが、神言教。
ユーリを拾った教会が信仰する宗教であり、人族全体に深く浸透している教義だ。
その教えを大雑把に訳すると、「神言を聞くためにスキルを伸ばしていきましょう」というものだ。
神言。
これがなんなのか、俺にはわからない。
ゲーム的に言うならシステムメッセージみたいなもんなんだろうけど、この世界ではそれが聞こえるのが当たり前だった。
この声が聞こえるのに違和感を覚えるのは、俺たち転生者だけだろう。
この声は聞こえて当たり前。
スキルがあるのも当然。
それがこの世界の常識だ。
神言教はそんな声こそが神の声だと説き、神の声をより多く聞くためにスキルやレベルを上げていこうという宗教だ。
俺からしてみると、何だそのデタラメな教義はと思うんだが、何故かこの世界ではそれが受け入れられている。
そして、俺と同じ感覚を持つはずのユーリもまた、この宗教にドップリとはまっていた。
「シュン君はスキルをいっぱい上げてるんだね。素晴らしいことだと思うよ。これからもドンドンスキルを上げて、神様の声をいっぱい聞こう」
「シュン君はレベルは上げてないの? ダメだよ! レベルを上げると神様の声がいっぱい聞けるんだよ? 神様の声を聞くためにもレベルを上げなきゃ」
「シュン君は鑑定が使えるんだよね? じゃあ言っておくけど、禁忌という名前のスキルがある人がいたら教えて。神様が禁忌と定めるようなスキルを持っているなんて、許されないことだからね。絶対に許しちゃいけないの。絶対にね。だから、絶対に教えてね?約束だよ?」
「シュン君、今日スキルが上がって神様の声が聞けたの! ああ、神様の神々しい声が聞けた。今日はきっと幸せに過ごせるわ」
引いた。
ドン引きだった。
神様のことを話しているユーリの目が濁って見えてしまっても仕方ないと思う。
けど、ユーリはもともとこんな子じゃなかったはずだ。
どこにでもいる、普通の女子高生だったはずだ。
それをここまで変えてしまったのは、きっと彼女の環境なのだ。
転生してしまった恐怖。
親に捨てられた絶望。
異世界で暮らしていかなければならない不安。
そんなところに、懐かしい日本語で聞こえてくる神言は、彼女の心の支えになってもおかしくない。
しかも周りはその神言を崇め奉る人間ばかり。
少し流されやすい気質だったユーリが、その宗教にはまってしまうのも、仕方なかったのかもしれない。
流された挙句、転生という恩恵を最大限に利用して聖女候補にまでなってしまうのは、どうかと思うけどな。
そして、最後の一人が最大の問題だった。
夏目、現ユーゴーは、俺を目の敵にしている。
それも、尋常じゃないくらいに。
他の子供たちの敵意など、比べ物にならない。
なぜなら、その視線には殺意さえ混じることがあるのだから。
なぜ、奴が俺のことをそこまで敵視するのかわからない。
わからないけど、このまま何も起こらないはずがない。
あいつは近いうちに必ず何かをしでかす。
そんな予感があった。
S編の長さを今後倍、もしくは2話連続投稿にしようかと思います。




