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現実恋愛

膨れっ面のひまわり

作者: 猫じゃらし
掲載日:2022/12/05


 自宅にほど近く。

 広がるひまわり畑は、僕と彼女のお気に入り。


 朝には首をもたげる花を眺め、昼には昼食を持って共に陽の光を浴び、夕方には寂しげに遠くの太陽を見送る。

 夜には、眠る花に惜しみながらさよならをして帰ってくる。


 それが彼女のルーティン。

 けれど、今日は帰ってこない。


 ひまわりが終わる頃には、種を落とした花を眺めて帰ってこない日もある。

 あるけれど、まだ花は盛りを迎えたばかりだ。


 僕はテーブルに夕食を用意したまま、エプロンを椅子の背に掛けて自宅を出た。



 僕にしたってこんな日もある。

 広がるひまわり畑を前に、今日の失敗や反省点を嘆くこともある。

 彼女に対する不満をぶつけることだってある。


 それはお互い様で、どちらが悪いということはなくて。

 だから僕もひまわりに嘆く。少しの緊張と気まずさを手に握りしめて、ひまわりに向けて嘆く。


 彼女が帰ってこない理由を、静かな夜のひまわりに聞いてもらう。



「今朝、彼女とケンカしたんだ。ほんの些細なことだと僕は思ったけど、彼女にとっては違ったんだ」

「……ふぅん」



 ひまわりから素っ気ない返事。

 驚くこともなく、僕は続ける。



「それで彼女を怒らせちゃったんだ。だから、まだ家に帰ってこなくて」

「……ふぅん」

「僕に足りなかったのは気遣い。彼女に足りなかったのは言葉。僕は、そう思う」

「……ふぅん」



 ひまわりは調子を変えずに返事をする。

 緊張が緩んだ僕の手は、自然と口元を隠した。



「僕はもう仲直りしたいんだけど、彼女が帰ってきてくれないと仲直りできないんだ」

「……ふぅん」



 そして、とうとう笑みを漏らしてしまう。

 素っ気ない返事は、少しの迷いを含ませていた。



「ねぇ、出ておいでよ。仲直りしようよ」

「……」



 返事のなくなったひまわりの足元を覗き込む。

 しゃがみこんだ彼女が、膨れっ面で地面を睨んでいた。



「今朝はごめんね。僕を許してくれる?」

「……私も悪いから」

「こっち向いてよ。ちゃんと仲直りしよう」



 膨れっ面の彼女は、だんだんと眉を下げて反省顔になる。

 お互いに「ごめんね」と伝え合い、花ひらく彼女は、ひまわりのような笑顔。



「一緒に帰ろう」



 彼女の手を取って。

 夜のひまわり畑を眺めながら、僕達は少し遠回りをする。


 あのひまわりの根元も、このひまわりの根元も、そのひまわりの根元も。君が膨れっ面をしていた、愛しい場所。

 想い合うからこそ、僕達は何度でもすれ違うんだ。


 その度に、僕は膨れっ面のひまわりを見つけ出すよ。

 


 



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― 新着の感想 ―
[良い点] 猫じゃらし様の御作品はゆったりと全体が美しくて愛おしい…。 そんな気持ちに浸りながら読めて幸せです。 彼が迎えに来てくれるのが嬉しいですよね、ひまわりさん!! しかも謝ってくれるなんて…尊…
[良い点] 抒情的で情緒的で、読み始めから読んでいる最中、それに読後まで、いずれも趣深いと感じさせてくれました。「愛しい場所」という表現が、身勝手な物言いながら、身近さを匂わせてくれました。さすが実力…
[一言] なんと文学的で、叙情的で、素敵な作品でしょうか。 僕と彼女の穏やかな関係性。僕が彼女に向ける揺るぎない愛情。ひまわりに隠れて答える彼女の可愛らしさ。 こんな作品書いてみたいなぁと思いました。…
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