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第五章 金床神の地下王国 9

 呑鉄竜はイプイスに掴まろうとしたレントに冷ややかな目を向けた。


「お前、翼を出し入れ出来るのに何で金床神に頼ろうとするんだ?」

「いや、あんまり目立ちたくなくてさ。ドワーフたちに驚かれて敵対されても面倒だし」

「ふむ、そういう物か。ならば我も姿を見せぬほうが良いかも知れぬな」

「まぁ年に200人もの人間を喰うような竜が現れたら驚くだろうな」

「我が喰らうのは生かしておいても為にならぬ罪人だけだ。炎竜とは違う」

「人から見たら同じだよ。しかしそこまで主義が違うのになぜ炎竜を始末しなかったんだ?」

「それがなぁ、源流が違っても同族。我に同族殺しは出来ぬのよ。それはともかく・・・」


 しばし考え込んだ呑鉄竜が虚空に手をかざした。

黒い紐のような筋が現れ、それが両側に開いて人が通れるほどの亀裂になった。


「金床神よ、この先にお前の工房がある。それを信じて中に入れ」


 それを見たレントに思い当たるものがあった。スピカの胸当てである。

おっかなびっくりしながら潜ろうとするイプイスとは対照的なレントの態度に呑鉄竜が訝しそうな顔をした。


「レント、お前もしかしてこれを知っているのか?」

「ああ、これと同じ魔法を使う魔法使いを知っている」

「ほう・・・これは我が何百年も試行錯誤して考案したものだ。我から教わった人間はそう多くはないし、同じ魔法を開発出来る者はもっと少ないと思うが・・・不思議な事もある物よの」

「その人もずいぶん長生きしてるからね」


 亀裂からひょっこりとイプイスが顔を出した。


「あ、あの、呑鉄竜様。私の工房に繋がってます」

「よし、では行こうか。あまり時間も無いしな。そこのワルキューレも早く来なさい」


 全員が通り抜けると呑鉄竜が手をサッとひと振りし、亀裂が閉じた。


「ほう、なかなか良い工房ではないか。道具も一級品が揃ってる」

「呑鉄竜様に気に入って頂けてなによりです」

「おいおいイプイス。お前も一応神様なんだから竜にへつらうのやめろよ」


 レントが咎めるとイプイスがとんでもないと言って手を大きく振った。


「わかるんですよ。このお方は私などよりも遥かに長い刻を生き、神域へ達しています」

「お前・・・そんな竜を俺に退治させようとしたのかよ」

「金床神よ、お前そんな事したのか?」

「あわわわわ・・・竜の姿しか知らなかったので勘弁して下さい。それよりもほら、炎竜の竜玉を火床に入れて剣を鍛えましょう」

「うまくごまかしおったな・・・まぁいい。時間が惜しい、始めるか」


 呑鉄竜は火床に転がした竜玉を双龍で叩き割るとその中に無造作に双龍を放り込んだ。

熱を帯びて透き通った青に色味が差すと首をかしげた。


「これは人が鍛えた剣では無いな・・・レント、誰がこの剣を鍛えた?」

「ドワーフ族のペレって爺さんだ」

「ペレなら私も知っている。腕のいい鍛冶職人だが、ただのドワーフだ」

「・・・ペレだと?それは鍛冶の神ヒパイストの別名だぞ」

「ひぃっ!ペペペペペ、あのペレが?ヒパイスト様?」

「金床神よ、お前は本当に末端の神よの」

「そんな・・・まさかそんな・・・」

「久しぶりに会いたいが今頃はもう姿を消してるであろうな」


 呑鉄竜は感慨深くそう言うとレントに優しく微笑んだ。






「レントよ、お前は神々に愛されておるな」 

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