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第五章 将の器 8

 不満げな顔をしながらレントが両手を横に伸ばした。

そして誰も居ないにも関わらず、大きな声で命令を発した。


「早くよこせ。取り敢えずは斬らないから安心しろ」


 レントの言葉に応えるように2人の朧ろな影が現れた。猟犬であった。

突如現れた猟犬たちに周囲の兵士が驚愕した。


「り、猟犬だ・・・」

「しかも鈍色の仮面・・・2人とも銀狼だ。」


 先ほど投げ飛ばしてしまった二路を恭しくレントに手渡すと、またその姿が希薄になってかき消えた。

目にも止まらぬ速さで二路を腰の鞘に収める。その姿を目にした誰もが畏怖の念を以てレントを見た。

並の兵士では、いや、名立たる武将が束になっても勝てはしないだろう事を確信したと言ってもいいだろう。


「ハンきゅん、あんた良い弟子を持ったわね」

「フンッ、まぁ用心深さや決断の速さ、実行力は及第点だ」

「強すぎて逆に早死にする人が多いけどこの子は大丈夫そうね」

「ああ。慢心が原因であっさり殺されると思ってたが、ここまで生き延びた。正直ここまで来るのが1番難しい。猛獣と同じでここからは強いぞ。正直俺もこいつがどこまで高みに登りつめるのか見当もつかん」

「先生、変な持ち上げ方をしないで下さい。それよりもこの男、どうするんですか?」


 大国の王を指差してこの男呼ばわりするレントに2人が苦笑した。


「・・・そうさね、どうしたものやら」


 スピカは怯える王の前に立つと憐れむような顔で口を開いた。


「あんたは不本意ながらもアモンと行動を共にして来た。それも8年と言う長い歳月をな・・・」

「うああ・・・殺さないで・・・」

「その事自体は同情するが、いずれアモンと同じ事をする可能性が高い。共有した知識で多少の魔法も使えるようになってるだろうし感化されて性格が変わってる可能性も高い」


 スピカの言葉に王がしまったという顔をした。


「やっぱり殺っちゃいましょう。一度殺すと言った相手を見逃すほど危うい事は無い」


 そう言って再び二路の柄に手を伸ばしたレントをスピカがうんざりした顔で止めた。


「本来ならそれが正解だ。だが敢えて殺さぬ」

「だからどうしてですか?」

「元を正せば原因は私にあるからだ。心技共に出来の悪い弟子を拾い上げたのは私だ。例えそれで身を滅ぼす事になろうとも生き延びる機会も与えずにこの男を殺す事は出来ない」

「・・・なるほど、先生が惚れる訳だ。伊達に長生きしてないですね」


 そう言ってレントは剣に伸ばした手を下ろした。


「こ、こらレント、歳の話をするとスピにゃんが・・・」

「怒る訳ないでしょ、それって最高の褒め言葉だわ」

「俺が歳の割にシワ1つ無いって言ったら森3つ燃やしながら追っ掛けて来ただろうが!」

「あんたのは褒め言葉じゃなくて喧嘩を売ってるだけじゃない。それからレント君にもう1つだけ言っておくわ。ここに居る兵士たちに命令を下せる最高責任者が殺されたら統率も取れずに暴徒化する者も居る。略奪に走る者も居る。戦争ってそういう物よ」


 言われたレントがハッとした。


「・・・軽率でした」

「気にしなくていいわ。ともかくアモンはいずれ私が始末する。弟子の始末は付けねばならんし、何よりも・・・あら?」


 話していたスピカの前に申し訳なさそうな顔をしたシューカが立っていた。

その横にはサンドラとリンダ、そしてルネアが。後方には銀狼を含めた猟犬部隊が立ち並んでいた。


「サンドラ!何で来たんだ!」

「あ、あの・・・レントが心配で・・・」

「心配って・・・まぁ僕も勝手に動いてるから言えないか」

「ちょっとぉ、わたしらにはそれ言ってくれないわけ?」


 リンダが面白そうにレントを冷やかす中、棒立ちになったスピカがつぶやいた。


「・・・サンドラ?ちょっとまって、あなた・・・サンドラなの?」

「え?ええそうですが・・・あなたは?」

「私の名はスピカ、ハンきゅんから聞いてない?」

「スピカって・・・もしかして大魔導師の?」

「大魔導師かどうかは知らないけど魔法使いよ」

「たとえそれが本当の名前だとしても魔法使いで大魔導師本人以外にスピカを名乗る者など居ませんわ」

「あらそうなの?それはそれとして・・・ハンきゅんから私の話は聞いてないの?」

「はい、大魔導師スピカ様のお名前を父上が語った事など1度もありませんが・・・」


咎めるように横を向いたスピカにハンニバルが咳払いをしてごまかした。


「かわいい私の娘よ。半ば伝説として生きるこの身で母親らしい事など何一つ出来なかった。どうか許して欲しい」





「やっぱり!一目見た時にそうではないかと思っていました」



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