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第五章 将の器 3

 馬首にしがみついて必死にキュプ王国軍から逃げるシューカの前方を黒い影が遮った。

馬が棹立ちになって堪らず地面へ叩きつけられた。

身を起こしたシューカの目に入ったのは緋線の入った漆黒の鎧、そして巨大な剣を背負った精霊の騎士サンドラだった。そして隣には黒線の入った真紅の鎧、そして手にはオーヴァルブレードを携えたリンダ=リンクス。

更にはその背後に影のように朧ろな黒い影たち『猟犬』と銀色の鎧を身に纏った女騎士、唯一人ケルベロスの称号を持つルネアが居た。


「父上とレントはこの先に居るのだな?」

「あ、ああ」

「お前は逃げて来たのか?」

「ちがう!・・・いや、そうだ。逃げろと言われた」

「なるほど、父上とレントがそう言ったのなら砦まで安全に着かせなくてはならんな」


 サンドラの心情を察してルネアが猟犬数名に護衛を命じた。

おぼろげな影に囲まれて不安そうにしていたシューカがハッとなって言った。


「ここまで来る途中で王国軍の兵士は居なかったのか?」

「200ほど居たな。ほとんど斬り倒したとは思うが漏れがあるやも知れん。護衛と共に砦に戻れ」


 シューカは事も無げに言ったサンドラに、同じくその事実に取り立てて特異な事があった素振りさえ見せないリンダやルネアに対しても同様に恐怖した。

自分が今まで生きて身に付いた常識の遥かに外であった。

100の兵を引き連れて300の敵と戦い引き分けたとか勝利したなどと言うのが普通だろう。

いや、それが誉れであり武勇伝であろう。


「精霊の騎士とはこれほどまでに凄まじい強さなのか・・・」

「サンドラお嬢様は特別です。全ての精霊の騎士がここまで強かったら国を建ててますわ」

「戯言はもういいだろう。レン・・・いや、父上が心配だ。急ごう」

「ま、待って下さい!」

「まだ何か用があるのか?」

「その精霊の騎士について、弱点についてお伝えしたい事があります」


 シューカはアモン王が腰の渦の秘密を知り得た事、ミスリルの矢を実際に腰の渦に射た事等をサンドラ達に伝えた。話がロメロに及んだ時、不意にサンドラが笑い出した。


「ふふふふ、なるほど、あの雨の日にロメロをを冥府に送り込んだのはアモン王であったか」

「その精霊の騎士とはお知り合いだったのですか?」

「ああ、よく知ってるよ」

「それは、・・・お悔やみ申し上げます。さぞ親しい方だったのですね?」

「逆だ。殺してやろうと思っていた男だ」

「ならばむしろアモン王の行動はあなたにとって好都合だったと言う事ですな」


 シューカが言い終わる間も無くサンドラがその襟首を片手で掴んで馬から体を持ち上げた。


「好都合だと?ロメロはレントが殺す予定だった。アモン王はそれをぶち壊しにしたんだ」


 物凄い力で訳も分からぬままに首を絞め上げられた。


「く、苦しい・・・た、助け・・・」


 ハッとなったサンドラが手を離すとドサリと音を立ててシューカが地面に落ちた。


「シューカ・・・だったな、すまない。ついカッとなってしまった」


 馬首を返して敵陣へと向かおうとするサンドラを顔面蒼白となったシューカが呼び止めた。


「お待ち下さい。私も同行いたします」

「何を言い出すかと思えば・・・命を大切にせよ」

「騎士には命より大事な物がございます!!」

「ほう、で、同行してどうする?」

「降伏した相手がどれほどの物なのか見届けたく思います。足手纏いにはなりません。もしそうなったら斬り捨てて下さい」


 サンドラがどうしたものかと横を向くとリンダとルネアが軽く頷いた。


「わかった、それで気が済むなら好きにしろ」


 言うが早いかサンドラはレントたちの元へと馬を駆った。

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