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第五章 砦の王 5

 休める時は休んでおけと言われたサンドラがベッドでまどろむ中、レントが服を持ってそっと部屋を出た。まだ西の空がうっすらと明るい。

屋敷の外に出ると手早く服を着て暗緑色の長衣を羽織った。鎧は敢えて纏わない。

今日、今夜のうちにケリを付けるつもりだった。

サンドラの言葉に逆らえなかったから。戦場に出るなとは言えなかったからだった。

弍路を身に付けるとサンドラの居る部屋の窓を仰ぎ見た。


「さて・・・見込みのある投降兵を見付けないとな」


 歩き出そうとしたレントの前にキュプ王国軍の兵士が立ちはだかった。

身構えるレントに軽装の雑兵が声をかけた。


「我が家の婿殿は独断専行が多すぎて困る」

「ハ、ハンニバル先生・・・!なんで?」

「珠を砕きに行くのだろう?俺も混ぜろよ」


 これは宝珠、つまり敵王の首を、アモン王を始末しに行くと言う意味だ。


「珠を砕くとは先生も言い方が古いですね」

「行かないなら俺が一人で行ってくるがどうする?」

「行きますよ。ところで後ろのその人は?」

「こいつはシューカ、投降したキュプの将軍だ。協力を快諾してくれたよ」

「ずいぶんと手回しがいいですね。もしかして馬も用意してるんじゃないですか?」

「何言ってるんだ?当たり前じゃないか」


 からかったつもりのレントだったが事もなげに言い返すハンニバルに言葉を失った。

すぐに直立してまっすぐにハンニバルを見つめた。


「・・・失礼致しました。詳しい手筈は馬上にてお伺い致します」

「うむ。では参るか」



 外壁の拡張作業が捕らえられた捕虜たちの手によって急ピッチで進められていた。

自発的に投降し、武装解除されているとは言え5万人近い捕虜である。

砦の上では緊張した年若い兵士が汗だくになって作業員と遠方の監視をしていた。

この外壁と堡塁はまるで城ではないかと驚愕する兵に下から声を掛けてきた者が居た。


「開門。扉を開けよ!」

「何者だ。名を名乗れ」

「蠍旅団のレント・オルフィスだ。開門!!」

「りょ・・・?団員はどうした?それに開門許可は?」


 身を乗り出して問いかける兵士の肩に手が置かれた。


「いいんだ。開けてやれ」


 振り返った兵士が驚きのあまり落ちそうになった。


「こ、これはハイネルド王。よろしいのですか?」

「無論だ」


 大急ぎで綱を巻き上げて門を開く中、ハイネルドが下に向かって大声で言い放った。


「レント!4時間だ。それまでに戻らなければ全軍で侵攻する。わかったな?」

「いつもそう言ってるが俺が戻らなかった事なんて無いだろ。安心しろ」

「今回もそうあって欲しいよ」

「じゃあ行ってくる」

「おう。団員と女騎士には黙ってた方がいいのか?」

「ああ、内密に頼む」


 そう言うと3騎揃って門から飛び出して行った。

急いで門を閉めながら兵士は戸惑っていた。

たった3騎で何をするつもりなのだろうか?この王からの信頼はどこから来ているのだろうか?

敵前逃亡など有り得ない以上、当然敵軍に向かうのだろう。30万の軍勢にたった3騎で。

恐ろしくはないのだろうか?死ぬのが怖くないのだろうか?


「どうした新兵。何か気にかかるのか?」


 ハッとした兵士が姿勢を正して敬礼をした。


「いえ、なんでも・・・あの、・・・自分には理解できなくて・・・」


 兵士が今思ったままを口にするとハイネルドは少し困った顔をして答えた。


「お前は俺の何だ?」

「部下であり臣下であり、国民であります」

「まぁそうかしこまった言い方をするな。お前には理解できんかも知れないがレントは部下じゃない。仲の良い友人と言う意味では無いぞ。・・・あいつは俺と対等の1人の王だ」

「王?そんな・・・現に王様の配下として仕えているではありませんか」

「違うんだよ。あいつの主人は俺では無くあいつ自身だ。忠誠など誓ってはいない。友として力になってくれているだけだ」

「ですが・・・配下として部隊編成もしてますし・・・」

「それは便宜上そうしておくのが面倒が無いからだ」

「いやしかし、たった1人で何が出来る訳でも無いでしょう」

「お前はまだ年若いから知らないだろうが5年前のクーデター未遂の時も7年前のザモラ戦役の時も、いや振り返ってみればあいつは自分で国を建ち上げたりファウンランドを乗っ取ろうと思えばいつでも出来たよ」

「まさかそんな、有り得ないですよ」

「そうかな?今だってそうだぞ。投降兵5万はレントに降伏している。今のあいつはこの砦の王なんだ」

「砦の王・・・」



「そうだ。あいつは1人の王であると同時にこの砦の王なんだ」

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