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第五章 人にあらざる者 4

 たまらず1人の幹部が声を荒らげた。


「高々魔獣が一匹とガキ1人に何をしている。召喚士、重騎兵、さっさとこいつらを始末しろ!」


 むしろこの言葉にケルベロス、そして旅団員が一気に殺気立った。

それぞれが召喚士、そして重騎兵に向けて言い放った。


「召喚士よ、せいぜい呼べる限り最強の魔獣、悪魔を召喚して見せよ」

「蠍旅団を目に入らぬ小物と見たか。おのれの不明を死で贖え」


 さすがにこの気迫には後ろを向いていたレントの背中にも寒気が走った。


「団長、これは俺たちの問題です。手を出さないで下さい」

「我が王、これは私の問題です。手出し無用に願います」

「お、おう。ほ・・・ほどほどにな」


 近くで兵士に紛れ込んで聞いていた猟犬の1人が腹の中で唸った。


(こいつら滅茶苦茶だ。大体目的は牽制と一時的な休戦じゃないのか?違うのか?まさかこいつらここで自分たちが死ぬまで敵を殺し続ける為に来たのか?)


 巨人たちがレントの彫りの深い顔を見、軽々とハンマーを持つのを見て訝しそうな顔をした。


「俺は光の谷出身の巨人族だ。逃げるなら命は助けてやるぞ」


 巨人族は本来恐れに対して鈍感な種族なのだ。自分より大きな者や目に見える闇の力以外にはほとんど怯む事はない。果たして巨人たちはハンマーを持ってレントに殺到する。

レントの言った言葉の意味さえ理解しているかどうか分からない。

取るに足らない小さな毒虫を踏み潰すぐらいの気安さと性急さしか持ち合わせていないのだ。

打ち下ろされるハンマーを無造作に薙ぎ払う。信じられないと言う顔をした巨人の脇腹に逆にハンマーをぶち込んだ。まだ信じられないという顔をした巨人の頭部に逆手からハンマーを叩き込む。

周囲からどよめきが起き、ここで初めて巨人たちの顔に動揺が広がっていった。


 一方のケルベロスに対しても召喚士たちは高を括っていた。

たかが魔獣一匹、見た事のない姿ではあっても自分たちはもっと強い魔力を持ち、大きな身体の魔獣を召喚出来るという自負があった。ケルベロスにどれだけの実力があるかを見極める事が出来ないのだ。

召喚士の長が嬉しそうに語りだした。


「悪魔、魔人、魔獣、その数4000万にしてこの世に実体を形作る事の出来るのはおよそ40万、お前が実体化出来るのは評価するが我らが召喚する魔には足元にも及ばんだろう。飼い主の小僧の目の前で八つ裂きにしてくれるわ」

「・・・400ね」

「400?・・・なにが400なんだ?」

「私と同等、もしくは私より強い魔族の数よ」

「たわけた事を・・・では聞くがお前の名前はなんだ?名乗ってみよ」


 にわかに空がどんよりと暗くなり、そこだけ気温が下がったように冷気が立ち込めた。

背中越しにもレントにはケルベロスが懸命に殺意を押し殺しているのを感じた。


「下郎に名乗る必要は無い。御託はいいから早く召喚しなさい。まぁ無理でしょうけど1万分の1に期待するのね」


 立て続けに3体の魔物が召喚された。

見るからに獰猛そうで巧緻に長けた風貌の魔物である。が、ケルベロスの姿を認めるなり2体は何も言わずに掻き消え、残る1体は召喚士を噛み殺した。いずれも何より契約を重んじる魔族の行動では無かった。

気が触れたように周囲の兵士、巨人を噛み殺しながら呆然としている者たちを蹴散らして魔物は走り去ってしまった。その目にはケルベロスに対する恐怖しか無かった。


「バカな!召喚した魔物達が消え去っただと?」

「そういうの要らないからさっさと呼べるだけ呼んでちょうだい」

「ぐ・・・ぬ・・・お前たち、なんでもいいから片っ端から召喚しろ!!」


 怯えながらも召喚士たちが次々と魔物を呼び出した。その数15体。

先程とは違い、ケルベロスに怯えながらも数に勝る状況を見て魔物たちは立ち向かう事に決めたらしい。


「言葉もわからず口も利けぬような低級魔族をよくもここまで取り揃えてくれたわね。」

 一旦言葉を切ってから再びケルベロスが召喚士の長を見つめた。

地獄の底から響くような、聞く者に死の恐怖を、絶望を与えるような低い声で言った。




「一応聞いておくけどあなたたちは私を舐めてるの?それとも・・・我が王を舐めているのかしら?」


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