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第五章 人にあらざる者 2

 ハイネルドの帷幕で王国の機械技師が首をかしげながらシユケに呟いた。


「すごい機械だがこいつはもう使えないな。魔力の集積部分が完全に焼き切れてるし私の、いや今の知識では修復は不可能だろう」

「もう・・・使えない?」

「ああ、兵器としてはもうダメだ。まぁ目としての機能が働くだけまだマシってやつだな」


 話を聞いたシユケがレントを睨みつけた。


「レント、お前がバカみたいに魔力を流し込むから」

「えーと・・・ゴメン」

「ゴメンじゃねーよ馬鹿野郎!最後の切り札をいきなりダメにしやがって!」

「しかしまぁシユケのおかげで被害が最小限に抑えられた事には本当に感謝している」


 取りなすように言って来たハイネルドにレントが鋭い目を向けた。


「今はとにかく少しでも情報が欲しい。分かった事だけでも教えてくれ」

「ふむ・・・死者は6名、重軽傷者は80名。攻め込んで来たのはキュプ王国で先遣隊およそ8000人がシユケの攻撃で全滅している。宣戦布告は無しだ」

「キュプか。大陸の半分を支配するだけじゃ足りないって事だな。後続部隊の規模と距離は?」

「およそ30万、ここから北に7キロほどの所に陣を構えてるそうだ」

「こちらの配置と兵力は?」

「兵力は2万3千程だ。リンダは村人を教会の方に避難誘導させている。他は砦の外壁造りだ」

「じゃあ出陣した者はゼロか?」

「ああ、猟犬に周辺調査をさせてるだけだ」

「なるほど、じゃあ少し遊んでや・・・ん?」


 話をしていたレントが自分に向かって手を合わせ、深々と頭を下げている女性に気付いた。

ひどく顔色が悪く痩せこけていた。


「あなたは?どこかでお会いしましたか?」

「粉屋の下働きをしていた娘の母親でございます。あなた様には並々ならぬ御恩を賜り、本当に感謝の言葉もございません」

「いやいや、気まぐれに恩などと、おやめ下さい。それであの娘さんは?」

「それが・・・朝の仕入れに出かけた先で例の砲撃があったせいで・・・こちらには来れません」


 その言葉にレントの顔に影がよぎった。


「・・・そうですか。状況が落ち着き次第改めてお伺いいたします。アーク、こちらのご婦人を安全な所までご案内せよ」

「ハッ」


 アークに伴われて立ち去る婦人を見送ってから、レントが背筋の凍るような声でハイネルドに言った。


「予定変更だ。・・・鉄騎馬を8頭用意してくれ」

「鉄騎馬っておい、そんなもん何に使うつもりだ?」

「お前が1番よく知ってるだろう!乗り込むんだよ。俺が!」


 殺気立つ空気の中で怒りを込め、搾り出すようにレントが言った。


「俺から何かを奪う奴にはその身を持って償ってもらう。それが俺の流儀だ」

 周囲の者がその絶対的な魔力とオーラで恐怖のあまり座り込んだ。震え、嘔吐するものまで居た。


「カル・・・いや、・・・我が下僕ケルベロスよ!!」


 この言葉に周囲に居た者全員が戦慄し、カルビが狂喜した。

子猫のような姿から一転、3つの頭と翼を持つ巨大な魔獣へと姿を変えた。


「ご主人様、いいえ我が王。私の正体を明かしてよろしかったのですか?」

「構わん。ケルベロス、お前に命令を与える」

「我が王。なんなりとお命じ下さい。地獄の番犬の名にかけてどんな命令でも必ず遂行致します」

「お前は我が足となれ。敵の本陣まで行くぞ」

「承知致しました」


 カルビの返事に軽く頷くと視線をクロロ達に向けた。


「部下クロロ、そして我が部下達よ」

「ハッ、団長!」

「貴様ら全員今日死ぬかも知れんが覚悟はいいか」


 レントの問いに震えながら部下たちが答えた。


「喜んでお供させていただきます」

「蠍旅団の名に恥じぬよう努めます」

「元より死ぬ覚悟も無しに蠍旅団には入れませぬ」


 騎馬の検分に向かったレントたちの姿が消えると同時に数人の忌術師がベタリと座り込んだ。


「ケ、ケケ、ケルベロスだ。あれは絶対本物のケルベロスだ」

「あの召喚された悪魔が名前を教えなかった訳がやっと解った。言える訳がない」

「ワシは・・・30万の敵よりもあの男が恐ろしい・・・」


 ガクガクと震える忌術師を横目に見ながらシユケもまた本能的な恐怖に身体の震えが止まらなかった。あれでもし呪文魔法が使えたならば勝てる者など居ないのではないか?

その思いがシユケを恐怖させた。


「あら?シユケさん。レントさんと一緒ではなかったのですか?」


 シユケが見た先に粉屋の下働きだった少女、串焼き屋台の店主が大皿いっぱいの串焼きを抱えて立っていた。


「お、お、おま、・・・ちょっ、ちょっと待てお前!砲撃で死んだんじゃなかったのか?」

「誰がそんな事を?」

「誰って、お前の母親だよ」

「かぁさんが私が死んだと言ったんですか?」

「ああ、はっきりと・・・はっきりと・・・言ってない。・・・言ってないぞおい!」

「訳分かんない事言ってないで差し入れ食べてもらうからレントさんを呼んで来てよ」

「いやだからレントはだな・・・」

「もう自分で探すからいいわ。シユケさんは炊き出しの手伝いをして頂戴」

「炊き出しって材料は?調理器具は?大体お前そんな金無いだろう」

「何言ってんのよ、きのう粉屋と居酒屋を買い取ったから全部あるわ。さぁ、人手が少ないから手伝って」


 少女をまじまじと見つめてシユケが化け物を見るような目で言った。



「おっそろしいな・・・お前商売の神様かよ」


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