第四章 宵宮 4
薄明かりの中で目を覚ましたレントはそこがサンドラのベッドである事に気付いた。
「レント、目が覚めたのね。具合はどう?」
「ごめんねサンドラ。のぼせて気を失うなんて恥ずかしい・・・」
「気にしなくていいわよ。はい、これ飲んで」
「ありがとう」
差し出された蜂蜜酒を貪るように飲み干すと大きくため息をついた。
コップに目を落としたままレントが小さな声で何かを言った。
「ん?なぁに?レント」
「あの・・・サンドラ・・・今夜、僕の初めての人になって欲しいです」
サンドラも、もじもじと小さな声で答えた。
「レント・・・私も今夜、これからあなたに初めての人になって欲しいわ」
返事を聞くなりレントはサンドラを抱き寄せて長いキスをした。
キスを終えたサンドラが少し恥ずかしそうにうつむいてレントに囁いた。
「あの・・・恥ずかしいから明かりは消すわね」
レントもまた恥ずかしそうにうなずいた。
窓の下で明かりが消えるのを見たカルビがルネアに尋ねてきた。
「これでルネアさんは肩の荷が降りたって事ですかね?」
「さぁ?どうでしょう。カルビちゃんこそお嬢様にヤキモチを焼いてるんじゃないですか?」
「実はちょっとだけ」
そう言って互いに笑い合った。
「あーあー、私もワイルドな雄猫とデートでもしちゃおうかなー」
「穏やかじゃないなカルビ、人間界で羽を伸ばしすぎなんじゃないか?」
突然の暗闇からの声にルネアが身構えた。
「旦那様!」
カルビの声に応えるかの如く闇から溶け出すようにアマイモモが現れた。
「こんばんはお嬢さん、驚かせて申し訳ない。」
穏やかな物腰と喋り方にルネアが構えを解いた。
こんなに近くに来るまで気付かなかった事に驚きを隠せないままにアマイモモを見つめる。
「こんばんわ高貴なお方、あなたは人間では無いのですね?」
「その通り、人間ならばあなたに気付かれずにこんなに近くまで来れないでしょう」
「申し遅れました。わたくし元破壊工作集団『猟犬』の末席を汚させていただき、現在は当お屋敷のメイドを務めさせて頂いているルネアと申します。」
「私はカルビの元主人でさまよい歩く者。アマイモモと申します。なにかとカルビがご迷惑をかけてるとは思いますがよろしくお願い致します」
互いに丁重な挨拶をしているのを見ていたカルビが不平を言いだした。
「何言ってるんですか旦那様、私は迷惑なんかかけてません」
「ほう、そうかね?向こうではお前の話題で持ちきりだったがな。なんでもレント君を背中に乗せて1首煉獄形態で駆け回ったらしいじゃないか」
「ふぇ?いや、あのあのあの・・・3首じゃなかったのでお許し下さい」
「いやいや、責めている訳ではない。楽しそうで良かったなと思っているよ」
「お、恐れ入ります旦那様」
しおらしくしているカルビを見てルネアがクスッと笑った。
窓を見上げてアマイモモが満足そうに微笑みながら誰にともなくつぶやいた。
「レント君とあの娘は5回以上生まれ変わっても互いに愛し合う事が出来なかった。本当なら今度の人生でも叶わなかったみたいだが・・・運命の無数の時計と車輪との偶然の予期せぬ動きの積み重ねがお互いを引き寄せたみたいだな」
「私たちはそれを必然と呼んでいます。偶然は偶然じゃないんですから」
「全くその通りだ。これは私とした事がしてやられたな」
アマイモモはカルビを優しくなでると名残り惜しそうに背を向けた。
「ルネアさん、これからもレント君とカルビの事をよろしくお願いします」
そう言って軽く一礼すると再び闇の中に溶けるようにして姿を消した。
しばらく姿の消えた方を眺めた後にルネアが地面に座り込んだ。
認めたくはないが恐怖とその存在感に圧倒されて手足が小刻みに震えていた。
「カルビちゃん、あなたの主人って事はあの方は魔界の王なの?少なくとも私のような人間が普通にお話を出来る相手でない事だけは確かだわ」
「魔界の王などと、とんでもない。あんな下位の者と同列に言ったら旦那様が気を悪くします。・・・それと、普通の人間は旦那様とお話をするどころかひれ伏して顔を見ることすら出来ません。ルネアさんはやっぱり凄いです」
「凄くなんかないわよ。まだ震えが止まらないわ」
そう言って照れくさそうに笑いながらルネアは震える足を抑えて立ち上がった。




