第四章 旅団長レント 4
このたび東天紅は一身上の都合によりタイトルを変えさせていただく事となりました。
長文タイトルが苦手な方も居られるとは思いますが変わらずお読みいただければ幸いです。
咳き込みながらハイネルドが呻くように言った。
「バニラって、査問長官の、あのバニラか?」
その問いに怪訝そうな顔をしたマルコスが事も無げに答えた。
「はい。あのバニラ様でございます。」
「なんだってあんな奴をここに連れてきた!!」
「いえ、その・・・王様が希望者は総て同行を許すとおっしゃったので・・・」
「お、お、・・・俺が?」
「はい、左様でございます。覚えがないと仰せならばわたくしは自決させていただく事になります。」
「まてまて、えーと・・・あ・・・言った。・・・俺、確かに言ったよ。」
そう言うとハイネルドはがっくりと肩を落とした。
テーブルナプキンで顔を拭きながらレントが声をかけた。
「どうしたんだよ、いつも冷静なお前らしくないなぁ。」
「そうか、お前は知らなかったんだな。バニラってのは上役が耐えられなくなって泣きながら辞任するぐらい凄まじい拷問官だよ。おかげで昇進させたくもないのに今や査問長官様さ。」
「拷問かぁ。必要に迫られてやった事あるから話が合うかもな。僕もかなり自白させたからね。」
「ふ、ふざけんな!怒りに任せて容疑者を殴り殺すせいで嘘の罪を自白する奴ばっかりだったじゃねぇか!」
「そ、そうだったっけ?」
「まぁいい。とりあえず奴の所に行って拷問をしてるようならやめさせないとな。」
「ん?別に放免するように命令を伝えさせればいいだけじゃないの?」
レントの問いに悲しそうな笑いを浮かべてハイネルドが答えた。
「奴はな・・・俺の命令以外は聞かないんだよ。」
「ふうん、お前も大変なんだなぁ。」
「誰のせいだと思ってるんだ!」
「いや、連れて来たお前の責任だろ。・・・まぁ僕にもまったく非がない訳じゃないけど」
「お前ってやつは・・・」
「いやいや、ごめん。悪かったよ。僕も一緒に行って説明させてもらうから許してくれよ。」
そう言うと紅茶をクイッと飲み干してカルビに声をかけた。
「お前も早くその菓子を食って付いて来い。」
「はーい、ご主人様。」
幕舎の乱立する中でもひときわ目を引く一郭があった。
ピンク色にファンシーなイラストの描かれた奥行きの異常に長いテント、入口の横には『バニラの館へようこそ』と書かれた看板が立てられている。
さすがのレントもそれを見てテントの手前で足が止まった。
「これは・・・何の店だ?とても拷問官のテントとは思えないんだが・・・」
「残念ながら紛れもなく拷問官の出張所だよ。」
「あの・・・ご主人様・・・あの絵って・・・もしかして私ですか?」
カルビが小さな声でレントに囁いた。その声に促されるようにテントに描かれた絵に目を向けた。
なるほどかわいらしく描かれてはいるが3つの頭を持った犬の絵や無邪気に人間を食い殺したり引き裂いている犬の絵が無数に描かれている。
「どうやらそうらしいな。それと気付いたんだがこのテントの造りは怖いな。」
ハイネルドがそれを聞いてレントに問い質した。
「怖い?お前がそんな事を言うとは珍しい事もあるもんだ。で、どう怖いんだ?」
「これはな、アリの巣だ。」
「アリの巣?あの黒い虫のアリか?」
「そうだ。このテントは奥行き100メートル弱だがアリの巣に置き換えると大体50センチぐらいだろう。ハイネルド、想像してみてくれ。お前がアリに捕まった虫だとして入り口付近なら逃げられる可能性はかなり高いよな?」
「うん?・・・まぁそうだな。」
「これが50メートル、つまり虫にとって25センチまで奥に引っ張られたとしたらどうだ?」
「かなり可能性は低くなるな。」
「80メートル、置き換えで40センチまで奥に虫が連れて行かれたとしたら?」
「いや、それはもう逃げるとか無理だろ・・・そうか!!」
「そうだ。1歩進むごとに希望が不安になり不安が恐怖になり・・・恐怖が絶望になる。」
「ご明察。アンタ見込みあるわね。助手にならない?」
テントから出て来た娘がレントに笑いながら言ってきた。
まだ15歳ぐらいだろうか?ピンクの簡易ドレスに身を包み、ピンクに染めた長い髪をなびかせている。
異常なのは肌の露出部分だ。ムカデが這っているかのような太い盛り上がりが数箇所、そして左肩には同じように肉で盛り上がり浅浮き彫りのようになったケルベロスの顔があった。
「バ、バニラ!お前勝手に親衛隊長とか攫うんじゃねえよ!」
「あら王様、ようこそいらっしゃいました。とりあえず全員頭髪の剃り上げが終わりまして、これから皮を削いで行こうかと思っております。」
「やめろバカヤロウ!」
「えーー・・・王様の顔に泥を塗った報いは受けなければダメなんですよぉ。」
「受けなくていい受けなくていい。すぐに放免しろ。」
「つまんなぁーい。あ、ところでこの人がレントさんなんですね。」
そう言ってレントに微笑みかけた。
「初めましてレントさん。第一王妃候補のバニラと申します。」
「勝手に候補とか言うなコラ!」
後ろでハイネルドが怒鳴りつけた。
「いいじゃないのよ。自分で言うのは勝手だわ。あ、そう言えばさっき大きな魔獣の背に乗って駆け回るのを見てましたわ。今度ぜひ私も乗せてくださいね。」
「レント、甘い顔するなよ。嫁の第一候補とか言い出しかねないぞ。」
レントが困った顔をして挨拶を返した。
「あははは・・・まぁ、よろしくバニラさん。」




