第三章 軍旗強奪祭り 10
過去編は今回では終わりませんでした^^;
ハイネルドに護衛で付き添っている猟犬はおよそ30人。
手練揃いとは言え城兵を相手にして互角に戦えるのは140~150人と言った所だろう。
主力がマルコス達の対応で手薄になってるとは言え油断はできない。
現に中通路で出会った兵団でも200は居ただろう。
テラスへと向かう途中でハイネルドはちらりと資材置き場を見た。レントの為に用意した特製の巨大な木剣と鉄塊としか思えない緑色の甲冑が虚しく転がっている。
走りながらセーラに、そして自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「まぁこういう事もあるよな。思い通りにならないのが戦場って事か。」
「王子、レントが居ないのがそんなに心細いですか?」
「ああ、心細い。ここまでは一応目論見通りに事が運んでるが俺にも予想がつかない事があってな」
「それは・・・一体?」
「親父だよ。観覧席は掲揚台のおよそ100メートル先、軍旗強奪は待ち伏せ禁止だが俺が姿を見せた時に親父がどう動くかがわからん。」
「と言うと?」
「父親として動くのか王として動くのか、または1人の戦士として動くのか・・・何しろこの旗は親父の旗だ。俺の姿を見たら直属の衛兵を動かす可能性は充分有り得るし、自ら突っ込んで来る可能性だってある」
「そんな、まさか・・・」
「父親としてじっと動かずに見守るなんて保証は全く無いんだよ。俺を息子ではなく1人の男としてみたら尚更だ。全力で阻止してくるかも知れない。」
「それは・・・しかしそれとレントが居ないのとは、あまり関係がな・・・」
「セーラさん、あなたは戦闘はともかく作戦指揮には疎いようですね」
「そ、それは言い過ぎです王子」
「親父が突撃をかけてきたらそれを打開する1番効果的な方法は総大将、つまり親父を生け捕りにする事だ。俺の知る限りあいつはそれが出来る唯一の男なんだ。」
「そこまで信頼をしてるんですか。」
「ちょっと違うな。何となく解るんだよ、あいつが何か普通ではない物を持ってるのがな。単なる馬鹿力や強さじゃない。そう、戦の神に愛されているとでも言えばいいのかな。リンダも本能でそれを感じてるよ。」
捕らえようとする城兵を躱しながらハイネルドが続けた。
「今回は他にも策を取り入れているが正直レントが居ないと成功率は65%ぐらいだ。まぁ最低保証付きだからそれでも勝算は充分なんだが・・・」
そこまで言った時、背後で爆発音が轟いた。
「あら、思ったより早かったみたいですね。今の爆発で塞がっていた階段の瓦礫は綺麗に吹き飛んだはずですから少し遅れてレントも合流して来ますわ。」
「そうか、ならちょっとぐらい無理しても大丈夫だな。悪い予感が当たったみたいだ。玉座の位置と近衛兵の配置場所が掲揚台にかなり近くなってる。」
「ここからだと300メートルぐらいですね。向こうは掲揚台から100メートル弱といった所でしょう」
「いよいよ大詰めだ。解放された生徒たちとハットンの部下、合わせて600人、そして切り札のリンダとレントが合流してくるなら錐で穴を穿つように軍旗を掲揚台まで持って行ける。」
一方のレントは・・・
爆風で吹き飛ばされた為に城壁の真下には落なかったが、更にその下の崖へと吸い込まれるように落ちていった。恐怖と死への予感でレントの全身から汗が噴き出し、すべての神経が全開になった。
今この瞬間にまさに自分は生きていると言う事を今更ながらに感じた。斜面に激突する刹那、地を蹴って横に飛んだ。着地し滑りながらも足で土砂を切り崩して滑落速度を落としていった。バランスを崩して転び、だが転がりながらも機を見て飛び上がる。ほんの数秒のこの出来事がレントにはとても長くゆっくりと見えた。
下を見ると地面までおよそ30メートル、この速さで激突したら命を無くす事になると直感した。
あと20、・・・あと10・・・レントは思いっきり斜面を蹴ると同時に浮遊掌で斜面から遠ざかった。体を丸めて大地に落ちた。そのまま物凄い速さで転がって行く。
何度も背中に強い痛みと衝撃が走る。目が回り、既に何も考えられない。やがて大きく肩に、そして頭に衝撃を感じ、そのまま意識が途切れた。
残りの距離が200となり、100となった。にわかにハイネルドの周りに仲間たちが合流して来た。その数およそ500人。加勢を伴って一気に掲揚台へと駆けて行く。
その時、王の右手が静かに上がった。そしてその手が前に向かって振り下ろされた。
広場を埋め尽くす3万もの軍勢がハイネルドを目がけて咆哮を挙げて押し寄せてきた。
「楔形陣形を取れ!掲揚台はすぐそこだ!陣形を崩さず進めー!!」
両軍が激突し、押し包まれるように兵力を削り取られる。
(リンダは、レントはどこだ?早く来い・・・)
ハイネルドを守る盾の囲いを城兵に突破されそうになったその時だった。
掲揚台の横に居並ぶ楽隊の中から1人が立ち上がり機甲兵突撃の曲を高らかに吹き鳴らした。
帽子とウイッグを放り捨てた。燃えるような赤い髪のリンダが立っていた。
「我こそはワルキューレの末裔リンダ・リンクス!我が兵たちよ、王子を守るのだ!!」
軍勢の後ろに控えていた兵士たちが兜に赤く大きな羽を挿して城兵を蹴散らしながら押し寄せ、ハイネルドの周囲の守りを固めた。なんとその数およそ5千人にも登った。
「おいおいおい、この軍勢・・・リンダ、どういう事だ?この加勢の人数半端じゃねぇぞ・・・」
「あら、言ってなかったっけ?ザモラの戦役で妙に慕われちゃってね。今回どうしても手伝いたいって言うから来てもらっちゃったのよ。」
「これは・・・1歩間違ったら反乱、反逆って言われても仕方ない規模だぞ。」
「今日は無礼講だから大丈夫でしょ。・・・所でレンちゃんは?」
「足止め食らって少し遅くなってるが、もうすぐ来るはずだ。」
「あら、じゃあ来る前にさっさと旗掲げちゃいましょ。」
そう言うとリンダは掲揚台に向かって手を振って叫んだ。
「我が兵たちよ、その屍を敷き詰めてでも王子の征く路を築くのだ!」




