第三章 軍旗強奪祭り 8
通常二刀を用いる場合は一方を正対して構え、残りの一刀を添えるが、レントの構えは全くの異質だった。剣を交差させて剣先を床に付ける。
そしてレント自身も這いつくばるほどに姿勢を低く構えた。
それを見たサンドラの供2人も猟犬の2人も初めて見る構えに戸惑った。
ただ1人サンドラだけが棍を引いて言った。
「ふふふ、知っているぞ。ミズチ(蛟)の型だろう。」
「へへへ、正解。」
言うと同時にレントは一気に詰め寄ると脛払いと突き上げの同時攻撃を放った。
立てた棍を軸にし、体を横一文字にして避けたサンドラが勢いそのままに上体の上がったレントに両足で飛び込みながらの蹴りを入れる。
後ろに飛び下がり威力を軽減させたレントに対し、サンドラは精霊を腕のように伸ばして打撃を与える。レントは左に体をずらして何とか躱すとそのまま後退して身構えた。
「やるねえ、黒鎧。」
「お前は見込み違いだな。思ったほど強くは・・・」
サンドラが喋っている途中でレントが浮遊掌(影越し)で木剣を矢のように飛ばした。
虚を突かれたサンドラが木剣を避けるために大きく身を躱す。
そこへ地走りで飛び込んできたレントが横をすり抜けながらの抜き胴、棍で受け止められると反転してサンドラの脇腹にヒジを叩き込んだ。
痛みと衝撃で倒れそうになりながらも、辛うじてサンドラが後ろに飛んだ。鎧越しとは言えレントの人間離れした痛烈な打撃に片膝が折れた。
抜き胴を受けた際に折れてしまった棍を投げ捨てながら立ち上がると半足の構えを取ってレントに向き合った。
それを見たレントもまた木剣を捨て、腰を低く落として構える。
互いに静かに歩を詰めた時、仕切り部屋の入口で拍手がした。
いつから見ていたのか、そこにはクロロが立っていた。
「いやいや、2人ともなかなかやるじゃねえか。」
上着を脱ぎながら2人に近づくとサンドラに向かって言った。
「だが悪いなゴキブリ野郎。このバッタ野郎は俺の獲物なんだ。」
サンドラが言い返そうとしたその時、レントが不意に笑い出した。
「どうしたバッタ?何がおかしい。」
「いや、だってさクロロ、ゴキブリにバッタにサソリだぞ。全部害虫じゃねぇか。」
レントの言葉に思わずサンドラが笑い出した。釣られてクロロも。
ひとしきり笑った後でレントがサンドラに声をかけた。
「悪いがこっちのサソリが先約なんだ。勝負の途中で悪いがすぐに済む。どっちが勝つにしろお前は残った方とやり合え。」
「ゴキブリ呼ばわりされてか?こっちは別に2人がかりで来たって構わないぞ?」
「言うねえ、このゴキブリ野郎。俺だってそうさ、バッタとゴキブリをまとめて始末するぐらい酒場女のコルセットを脱がすより簡単だぜ。」
「ほう。じゃあ・・・・決まりだな。3人でやろうぜ。」
「ところでバッタ、お前体が小さい割にこっちの方は案外でかいな。」
クロロがレントの股間を指さし、ふとサンドラが視線を向けた。
その僅かに兜が下がったタイミングでレントとクロロがほぼ同時にサンドラに打撃を放った。倒れたサンドラの頭を蹴るために駆け寄ったクロロの後頭部目がけてレントが後ろ回し蹴りを入れる。
サンドラと吹っ飛ばされたクロロが同時に立ち上がりレントに向かって突進した。
迎え撃つレントと2人の間合いが詰まったその時、東側の仕切り壁が爆発音と共に粉々になって部屋に居た者全員に破片が飛んでぶつかってきた。
体に刺さった木の破片を抜き取りながらレントが愚痴った。
「セーラさんが階段を吹き飛ばしたみたいだな。壁を吹き飛ばすほどの爆風とかどんだけ火薬を使ってんだよ。」
「セーラっておい。まさかダイナマイトプリンセスか?」
「他にセーラって名前のやべーやつが居てたまるか!まぁいい。これでどっちみち俺は合流できなくなった。通路も階段も塞がれてこの先には行けないだろうからな。」
「ふ、ふふふふはははははは。私とした事が迂闊だったな、あれがダイナマイトプリンセスのセーラだったとはな。」
「なんだ黒鎧。お前知らないで一緒に居たのか。」
「知ってたら強引にやってたさ。まぁ、その前に・・・・決着を付けようか。」
その言葉を合図に3人はそれぞれの距離を取って構えた。
ハイネルドは走りながら振り返り、煙の舞い上がる北東カドの階段を見た。
「セーラさん。いくら通路前に兵士がひしめいて居たからって、いきなり爆破とか有り得ねぇから。あれ絶対に何人か生き埋めになったよ。」
「まぁどっちにしろ爆破する予定だったからいいじゃないの。これで中通路からの追跡は無くなったんだから問題ないわ。」
「いや問題ありすぎだろう・・・・あー、もういい。こんなやべーやつに頼んだ俺が一番悪いって事だ。・・・・・まったく泣きそうだぜ。」
「それよりも王子、色違いのレンガをちゃんと走ってくださいね。足を踏み外したらサンテックス直伝の落とし穴に落ちますわよ。」
「ちくしょー、どいつもこいつも頭おかしいぜ!」
怒鳴りながらハイネルドは城門上のテラスへと、走る速度を早めた。




