第六章 邂逅の獣 16
いったい何が起きたのか、エイボンがそれを理解する間も無く無力化針で部下たちがどんどん倒れて行った。つい先ほどまで長々とつまらない王室の歴史を語っていただけだった筈なのに、どうしてこうなってしまったのか理解が追いつかなかった。とっさに王に向けて繰り出した雷撃魔法は王が装着した革手袋に備えられた魔法具によって打ち消され、催眠効果を持つ宝冠も今は無い。
「ティーワラー、貴様裏切ったな!!」
「人聞きの悪い事を言うなエイボン、お前こそ国家転覆を企む逆賊ではないか!」
エイボンはクリスタル状の障壁を錬成して身を防ぎつつ腰に帯びた剣を引き抜いた。
赤黒く光る禍々しい刀身を見るなりティーワラーが悲鳴のような叫び声をあげた。
「お逃げ下さい王さま!その刃に触れると魔気で身が腐り落ちます」
「逃がさん!国王の座が空位となれば反逆の要件は満たさなくなる。命ばかりは助けてやろうと思ったがこうなっては死んでもらうぞフレンダー王!」
衛兵の陰に隠れてエイボンの斬撃から身を躱したフレンダーが宮殿奥の回廊へ駆け出した。
それと同時に離れて見ていたエリクシアが跳躍しようと身を低くした。
《おいおいエリクシア、まさかあいつと闘り合うつもりか?》
《無論だ。あの王には恩を売らねばならぬからな》
《だってお前のその手じゃ剣は扱えないんだろう?》
《我にはこの鎧をも引き裂く爪とトリトンから授かった魔法がある》
《あー・・・お前やっぱり俺だな。分かった、好きなだけ暴れろ》
レントが言い終わるやいなやエリクシアが跳躍、飛翔し、高速回転しながらエイボンに体当りした。
エイボンを防御していた障壁が砕け散り、その勢いのまま2人は石柱に激突、粉塵を上げて石柱が崩れ落ちた。
「ぐう・・・、何だ貴様!吾輩の邪魔をす・・・」
エイボンの声を無視して渾身の力で爪を振り下ろす。
体勢を立て直そうと横に身を躱したエイボンを更に追撃する。礼式用の華奢な鎧が紙屑のように引き裂かれ、エリクシアの鋼のような爪が深々とエイボンの右肩に食い込んだ。
堪らず剣を取り落としたエイボンが後方に飛翔し、それを追って跳躍したエリクシアが手を振り上げた瞬間、雷がエリクシアを直撃した。黒く焼けた体でそれでも飛び上がろうとしたエリクシアの脇腹を死角から飛んできたエイボンの剣が切り裂く。
「驚いたな。こんな所にこんな恐ろしい獣人が居るとは思ってもみなかった」
「驚いたついでにその首をよこせ!素直に従うなら苦しまずに冥府へ送ってやるぞ」
「ふふふ、あいにく今はお前の相手などしてられんのだ。吾輩の首が欲しければ日を改めて出直すんだな」
そう言うとエリクシアには目もくれずにエイボンが宮殿奥の回廊へ飛んでいく。
エリクシアも回復魔法をかけながら同時に飛翔魔法を使って矢のような速さでエイボンを追いかけた。建物の中で高速移動などしたら壁や柱にぶつかって首の骨を折るかシミになるのがオチで誰もそんな無茶はしない。が、壁を蹴破り柱を壊してエイボンのすぐ後ろに迫った。
エイボンのマントに爪をかけて思いっきり地面へと叩きつけると自身も着地して飛びかかった。
だがまたしてもクリスタル状の障壁を無数に錬成し、エリクシアの攻撃を避けながら剣で深手を負わせていった。大量の血を流し、精根尽き果て、エリクシアが倒れ込んだ。それでも手近にある瓦礫を掴んで弱々しく、だが明確な殺意を持って投げつけた。
しかし目の前にいるエイボンに傷ひとつ付ける事さえ出来ない。
「この獣人風情が吾輩をここまで手こずらせおって!」




