第六章 邂逅の獣 14
捕縛されたわりには牢に入れられる訳でもなく、エリクシアたちは宮殿近くの屋敷にまとめて入れられただけだった。
フレンダー王は別に案内されたが、恐らく同じように近隣の屋敷に居るのだろう。
エリクシア自身はアスタクリス王女の治療法を知る可能性があるからこそ出向いているだけで、特にフレンダー王に対して思い入れがある訳でもない。エリクシオンと2人抜け出して逃げるだけなら可能だろうが、ミクラ国にとってエイボンが国の実権を握って良い事などひとつも無い。
どう動くのが最良の選択なのだろうかと思案しているエリクシアにレントが話しかけた。
《トリトンから授けられた魔法でエイボンを倒す事は充分可能だと思うがやらないのか?》
《そのトリトンはこうも言ってたハズだ。エイボンは古今随一の魔法と剣の使い手だとな》
《なんだ。倒す自信が無いのか?》
《無いな。例えば同じ魔法を使ってもレベルも熟練度も桁違いに我より上だろうし、我の魔力が先に尽きる》
《だったら剣があるだろう》
《我の手は剣を扱うのに向いていないし剣を扱った事がない。この牙と爪で相手を引き裂く事しか知らん》
《摂食進化出来るんだろう?剣の扱いに向いた手を持つ奴を食ったらどうなんだ?》
《我はアスタクリス様より人を喰うのを禁じられておる》
《うーん・・・そうか、せめて俺の魔力を分けてやれれば良いんだがなぁ・・・》
《それにしてもティーワラー博士は信用に足る者のようであったが分からないものだ》
《人格の良し悪しはわからないが、まぁイカれてるのだけは確かだな》
《それは間違いない。ともかくエイボンに挑むのもここから逃げるのも良くない選択に思える》
《じゃあどうする?》
《取り敢えず明日に備えて寝ておこうか?》
《さすが俺だな。賛成だ》
ソファーからクッションを取り払って横になろうとしたエリクシアの耳が立ち、毛が逆立った。
とっさに3歩ほどの距離を横に飛んで身構えた先に黒いスーツの男が立っていた。
男からの敵意は感じられないものの、その身体からは途方もない程の得体の知れぬ力を感じた。
「見慣れぬ服だな。何者だ?」
「中に居るレント君の知り合いだ。スミスに連れて来られたと聞いたものでね」
《あ、・・・アマイモモ!》
《レント、彼は何者なのだ?この魔力と禍々しさは尋常じゃない》
《悪魔だ。それも飛びっきりの怪物だ》
「アマイモモ、様ですか。それで悪魔であるあなたがなぜここに?」
「特に理由は無い、ただ些細な事なんだが未来がほんの少し変わったんで友人数名に訊ねてみたんだ。そうしたらスミスの奴がレント君をその時代に案内したって言ってたんでね」
「歴史が変わった!ではあなたはこのクーデターがどうなるかもアスタクリス王女の病が治るかどうかもご存知なんですね?」
「うーん・・・まぁ知ってはいるが教えられないし直接的な介入、干渉もしてはいけないんだ。済まないがそこは分かって欲しい」
「・・・そうですか。残念ですが我は自分の為すべき事を為すだけです」
「それでいいんだ。好きに生きて良いんだよ。それに歴史なんてのは長い時間を通過する間に本来の形に修正されて大筋では元に戻る物なんだ。・・・よほど大きな変化が無い限りはだがね」
「大きな変化、ですか」
「実はレント君が関わってると聞いて心配していたんだが、彼自身がここで何かする訳でもなさそうだからホッとしたよ」
《レント、お前は悪魔に心配されるほど破天荒な人物なのか?》
《不可抗力が重なって重大事が起きた時にたまたま居合わせる機会が多かっただけだ》
「まぁせっかくこの時代のこの時間線に来たからしばらく君たちと一緒に過ごさせてもらおうかな」
「それは構いませんが・・・所で未来がほんの少し変わったと言ってましたが何が変わったのですか?」
「ああ、本当に些細な事さ、トゥーピーカードで遊んでいたらテュポンが片目じゃなくなっていたんだ」
「テュポン?」
「ああ、トリトンの事だよ。彼の肖像画が描かれたカードは片目に眼帯を付けて居たんだが、それが無くなっていたんだよ」
「それはもしかして・・・」
「ああ、彼が眼帯を付けて居たのは君に片目を潰されたせいだったんだ」




