第六章 邂逅の獣 13
食事が始まってしばらくの後、終始無言だったティーワラーがベルを鳴らしてお茶を運ばせた。
紅茶を手にしたまま長らく沈黙を続けてきた博士がやっと重い口を開いた。
「私のこの施設ががクーデター組織に制圧されずに済んだように国法には抜け道がございます」
「うむ、それはさっきの話で察しは付いている。それで具体的にはどう言う抜け道なのだ?」
「ご存知のように現在の法律を変える為には王御自身と議会、つまり上下院両方の合意が必要です。現在クーデターに対する法律は存在しませんが、だからといって王個人が勝手に作る事は出来ません」
「まさにそこだ。そう言った法律さえあればエイボンなどをのさばらせるような事態にはなっていないのだ」
「そこで、なのですが・・・改訂は出来ませんが条文に加筆する事は可能なのです。国王ならば、ですがね」
「なんだと!!それは本当か?」
「はい、条文には国王が加筆してはならないと制限する縛りが無いのです。ただし瑣末な補足に限定されるのと、公式な場での王ご自身の宣誓が必要となります」
「そのような事が出来たのか。だが瑣末な補足しか出来ぬのではこの事態をひっくり返すなど出来そうにもないのう」
「そこは私の腕次第です。さて、では今ここで宣言をしていただきたい」
「宣言?いったいどのような?」
ティーワラーが紙にサラサラと走り書きをしたメモをフレンダー王に渡した。
「これを声に出して読み上げて下さい」
「ああ、いいとも。ええと・・・私フレンダー王は只今より自らの権限に則って国法のいかなる条文にも書簡にて加筆を行い、これを直ちに実行する事を宣言する。・・・これでいいかね?」
言い終わるが早いか研究所内のコンピューター設備がフル稼働し始めた。
それを眺めていたティーワラー博士が満足げに答えた。
「王ご自身の意志と決断により条文の加筆がなされました。これでこの国も安泰でございましょう」
「ふむ、そうあって欲しいものだね」
「さてと、ここで非常に残念なお知らせがあります」
「なんだね?」
「我が施設のネットワーク防御網がまもなく無力化されます」
「な、なんだと!無力化されたらどうなるのだ?」
「こうなります」
ティーワラー博士がそう言い放つと同時に各所のドアが開き、完全武装の兵士たちがなだれ込んできた。
王もブライもその周りの者も、ティーワラー博士以外の全員が取り押さえられて拘束された。
「テ、ティーワラー博士、だましたな!」
「だますとは人聞きが悪いですな。王さまが我が身のみの安泰をお望みになっていればこんな事にはなりませんでした」
「だまれ!だまれだまれ!!この裏切り者が!!」
「あまり感情的になられてはいけませんな」
「息子も協力者も捕らえられているのに感情的になるなだと?ふざけるな!」
「その表情、良いですな。為す術なく無力感に苛まれるその表情」
「きさま、きさまきさまきさま!絶対に許さんぞ!」
「あ、そうそう。明日王宮にてエイボン様への王権移譲の儀式を執り行います」
「な・・・王権移譲・・・だと?」
「エイボン様はすでに実権は握っているのであくまでも形式的な事ですが、全てを失いたくないとお考えなら拒否なさらないのが賢明ですな」




