第六章 邂逅の獣 12
クロウラーの狭い機体の中でぎゅうぎゅう詰めになったまま移動する事およそ10分。
エリクシオンとその取り巻き以外の者は扉が開くと開放感と安心感で転がるように外に出た。
「ようこそフレンダー王、お待ちしておりました」
出迎えたティーワラー博士が王の手を取って立ち上がる手助けをした。
「こちらの屈強そうな獣人は護衛の方ですかな?」
「いや、この者は・・・」
「我はミクラ国のエリクシア。アスタクリス王女の手によって造られたキメラだ」
「エリクシア?暴虐たる白獅子と噂されているあのエリクシア様で?」
「そういう呼び方をしている者も居るようだ」
「ではあちらに居られるのはもしかして好色なる黒豹エリクシオン様ですか?」
「そうだ」
「黒豹と呼ばれているのでてっきり獣頭の偉丈夫かと思ってましたが麗しい美男子でありますな」
「ついでに言うと奴は好色な訳では無い。男も女もそれを望むから応えているに過ぎないのだ」
「それは・・・失礼しました。さぁ皆さん、あちらで食事でもしながら今後の方策について話し合いましょう」
ティーワラー博士に案内されて広間に入った途端に王子のシルク・ル・ブライが無言で駆け出し、テーブルに載っている肉にかぶりついた。エリクシアの目を通しながらレントが不快感に顔をしかめた。だがそもそも助けてもらっている自覚も無さそうだし礼のひとつも言う訳ではない。もしかしたら口が利けないのかも知れないし心の病なのかも知れない。レントがそう思っているとフレンダー王がブライを叱りつけた。
「こら、ブライ!いずれ王となる者がなんたる醜態だ!」
「王になったら誰も逆らわない。何をしても誰も文句を言わないからいいだろ」
「なんだと!・・・お前のような男は世継ぎから外す!」
「ま、まぁまぁ、王さまもお気を静めて下さい。王子も気が動転しておるのでしょう」
慌てて間に入ったティーワラーが取りなすとブライは不満そうに鼻を鳴らして食べかけの肉を投げ捨てた。
ティーワラーや周囲の者はともかく、何事も無かったかのように冷静に振舞うエリクシアに対してレントが驚いた。自分なら無言で叩きのめしているか、もしかしたら反射的に殴り殺していたかも知れない。レントは改めてエリクシアを見直した。
「さて、それでフレンダー王。王さまは多くを失いましたが、その全てを取り戻すおつもりですか?それとも我が身の安泰をお望みでしょうか?」
「私は生きている限り王である。なぜ一身の安泰など考えようか」
「・・・なるほど、それならば多少危険は伴いますが方法はございます」
「まことか!」
「はい。まさにエイボンがクーデターを成功させ、また逆に私がこの研究所を守る事が出来たかの理由を考えれば明白ですが、国法とその権限の所在に依る所が大きく関わってまいります」
「クーデターに関してはエイボンに全権を預けた報いではあるな。だがここを制圧できなかった事は未だに疑問である」
「それこそが権限の所在になるのですが、この施設は国家ではなく王室の支配下にあるのです。だからこそ支配の受け入れを拒否する事も可能だった訳です」
「ふむ?だがそれもいつまで抵抗できるものやら、博士の進退を考えれば支配を受け入れた方が良かったのかも知れんぞ」
「確かにその通りですが私はエイボンが好きではありません。それに私は今以上の研究費、つまり予算が欲しいのです。この部分で私と王さまとの間に利害の一致があると思いますが?」
「なるほど、いいだろう。もしも私の失った物を全て取り戻すことが出来たら今の予算の5倍を出そう」
「恐れながら全く足りません」
「ではどのぐらい必要なのだ?遠慮せずに言ってみよ」
「それでは・・・国家予算の40%を頂きたい」
「・・・うむ、いいだろう!では具体的な話に入ろうか」




