第六章 邂逅の獣 9
クーデターから2日目の夜。グレイブ国内の混乱に乗じて小悪党や暴徒が略奪や放火を行う中、国王シルク・ル・フレンダーと1人息子のブライが多くの民衆と共に地下シェルターへと避難していた。
日に数度の割合で王族探しの兵士が様子を見にやってきたが、その都度居合わせた者たちが毛布や資材を使って2人を匿った。
フレンダー王はそろそろ時期が来たと思っている。一時的な混乱や無秩序な状態から、逃げ延びた王を擁護する勢力が態勢を立て直す時期が。
1番危険な嵐はやり過ごした。後は風が弱まった機を見て飛び出すだけだった。
とりとめもなく思案に耽っていたフレンダー王の肩に毛むくじゃらで巨大な手が置かれた。
「この匂い。間違いない、あんたフレンダー王だな?」
フレンダーは背筋に氷でも当てられたかのように震え上がった。
「なななな、なんだお前は?私はお前の言うような者では・・・」
「宮殿に出入りしている侍女から靴を貰った。とぼける必要など無い」
「う、嘘をつくな。少なくとも宮殿の者たちは皆私に忠誠を誓っておる!」
「その忠誠心が失われる事もある。例えば・・・恋慕の情とかな」
「恋慕の・・・情?」
「まぁいいからゆっくりと振り向け。我は敵ではない」
恐る恐る振り向いたフレンダー王の目の前には純白の巨大な獣、そして漆黒の肌をした端正な顔立ちの若者が立っていた。そして若者の陰に隠れて、見覚えのある顔が見えた。
「お前は!我が宮殿の使用人ではないか」
「あ、お、お許し下さい。私自身どうしてこんな事になったのかよく分からないのです」
「分からない訳があるか!お前は私を裏切ったのだ」
若者が怯える少女を抱き抱えてフレンダー王を見つめた。
敵意のある目ではない。むしろ慈愛に満ちた優しい眼差しだった。
その瞳を見つめるフレンダー王の心の中にある感情が芽生えた。この若者を抱きしめたい。王自身は決して同性愛者ではない、同性に性的な興味を持った事もない、それなのになぜこんなにも感情が高ぶるのか・・・
「エリクシオン、お前また悪い癖が出たな。控えなさい」
「キュー・・・ルル・・・」
エリクシオンと呼ばれた若者が目を逸らした途端に王が正気を取り戻した。
「これはいったい・・・」
「ルルゥ・・・」
「失礼、我が名はエリクシア、この者の名はエリクシオンと言います。この者は口が利けない代わりに直接感情を心に訴えます。主に女性ですが彼に魅了された者は理屈抜きで彼に従ってしまうのです」
「なるほどなぁ・・・で、エリクシアとやら、王の地位を追われたこの私に何の用なのだ?」
「恩を・・・」
「恩?」
「はい、・・・恩を売りに参りました」




