第六章 邂逅の獣 6
居合わせていたエリクシアが1歩前に出て王女に声をかけた。
「我が主よ、使用人の分際で主を侮辱するような無礼な態度と言葉遣い、我にこの者の放逐を・・・いや、むしろこの手と爪で引き裂く事を許可願います」
「・・・だ、そうです。どうしますかメイド長?」
「頭に安物の宝石を飾ってると言いましたね。私は侮辱されました。アスタクリス王女、あなたを訴えて裁いてもらいます」
「それまで私が生きてるかどうか、いいえ、それ以前にあなたの頭がその胴体に付いているかどうかも分からないですよ?」
「なっ、なんですって!」
「あなたはその安物の宝石をどうやって手に入れたのかしら?」
「そ、それは正当な賃金から賄ったに決まっています」
メイド長の言葉にアスタクリスが堪えきれずに笑い出した。
その場に居るメイドたちの方に指をさして冷ややかな声でメイド長に言った。
「あなたは私がこの子達に1日1枚持ち帰るようにと渡していた黄金を取り上げていましたね。私が咳と共に吐き出した黄金の花びらを」
「いえ、そんな!いったい誰がそのような嘘を王女様に吹き込んだか分かりませんが・・・」
「お黙りなさい!もう調べはついているのです」
「何かのお間違いでしょう。私がそのような事をする訳がございません。お前たち、そうでしょう?」
そう言うと振り返ってメイドたちを睨みつけた。
睨みつけられたメイドたちが返事をしかねてオロオロしている所に、甲高い叫び声と騒々しい靴音が近付いて来た。やって来たのは兵士に両腕を掴まれて真っ青な顔をした宝石商であった。
無造作に床に叩きつけられた宝石商の前で兵士の1人が銭箱を開けて中身をぶちまけた。
中から数十枚の黄金の花びらが飛び散った。
「メイド長、これでもまだシラを切るつもりですか?」
「なんのことでしょう?この宝石商と私に何の関係があるのですか?」
「ふふふ、足掻くわね。その姿勢は嫌いじゃないけど相手を選ぶべきだったわね」
「言っている意味がわかりませんわ。私がその宝石商と取引をしたという証拠でもあるんですか?」
傍らで聞いていたエリクシアが王女とメイド長との間に割って入った。
「我が主よ、我は言葉など知らぬ方が良かったと悔やんでおります。このような嘘を平気で吐くような者の言葉など聞くに耐えません」
「な、なにを言い出すんだい、このけだもの!畜生!」
「お黙りなさいメイド長、自分の過ちを認めなさい」
「そ、そんな!これはきっとメイドの誰かが私に罪を着せる為にした策略です」
「あら、なぜあなたに罪を着せる必要があると言うのですか?」
「そんな事、私だって知りませんよ!厳しく絞り上げて白状させます」
「厳しく?絞り上げて?・・・いいのかしら?そんな事を言って?」
「な、何がですか?」
「あなたは今の言葉に覚悟を持って応えて下さいね。・・・衛兵!」
「ハッ!」
「私はたった今この者を解雇しました。この【元】メイド長を厳しく絞り上げて白状させよ!」
「ハハッ!王女様の仰せのままに!」
「何をするんだい!お離し、私に触るんじゃないよ!」
衛兵がジタバタと暴れる元メイド長の顔を鋼の籠手で殴りつけるとあっけなく気絶した。
そのまま襟を掴むと有無を言わさずに部屋の外へと引きずって連れ出した。
「我が主よ、生かしておいては禍根を残すやもしれません。我にあの者の始末をお命じ下さい」
「我が愛しい獣エリクシアよ、禍根などどうでも良いのだ。どちらにせよ私はもう長くはない」




