第六章 栄誉無き軍神 5
呆然と立ち尽くし、あるいは震えて座り込んでいる数人の聖堂大神官を横目で見ながらハイネルドがため息をついた。
「なぁレント、物事には落とし所ってのがあるがお前はどう始末をつけたいんだ?」
「さっき言った通りだ。ピサロの悪行に加担した聖堂大神官及び神官、僧兵は身分を剥奪して追放。アスタクリスの件に関与した者は斬首だ」
「ちょっときつ過ぎやしないか?せめて降格させ・・・」
「ダメだ!自分でも馬鹿げていると思うがアスタクリスの事だけは許せない。本音を言えばこの国ごと滅ぼしてしまいたいぐらいだ」
「何でそんなに怒っているのか分からないんだが、お前もしかしてそのアスタクリスってのと以前会った事でもあるのか?」
「当たり前だ!ミクラ国の至宝と呼ばれた王女だぞ。知らん訳が・・・・え?いや・・・ちょっと待ってくれ」
「レント?おいおい・・・お前大丈夫か?」
「いや・・・オレはどうしちまったんだ?」
頭を抱えたレントのそばにルクレが不思議そうな顔をしてやってきた。
「あの、レント様がなんでそったら事を知っているのか分かわからねぇけんども、確かにアスタクリスは若くして亡くなったミクラ国の王女ば模して造られたアンドロイドだべ」
「いったいこりゃどうなってるんだ・・・」
「もしかしたら・・・オレは何かの出来事を修正するために置かれた駒かも知れないな」
「何を言っている?修正とか駒とか意味がわからないよ」
「以前人ではない者にそう言われた事があるんだ。やり直すために、修正するために歴史をなぞり、歴史に巻き込まれるだろうってな」
「人ではない者ってのはつまり、人に紛れて時々姿を現す神の化身みたいな奴らの事か?」
「ああ、だがその話はまぁいい。今はピサロと共謀していた者共をあぶり出して始末する。これに関しては意見は一切聞かないしやめるつもりも無い」
レントが改めて剣の柄に手をかけたその時、ルクレがマルコスに向かって叫んだ。
「提督、ヘルプラネットがこっちさ飛んで来てるべさ。現在距離1200キロだべ」
「な、なぁにぃ?」
「追尾ミサイルば回避する為にランダムに転移ジャンプしながら来るべ。こったら機能も追加されただなぁ」
「・・・破壊する事は可能か?」
「提督、いぐらなんでもそれは無理だべさ。夢幻号1隻だけだばとても勝ち目はねぇべ」
「ああ、うん、知ってた。一応聞いてみただけだ」
剣を抜きかけたままボーっとしているレントにハイネルドが畳み掛けた。
「聞いただろレント、坊主を吊るし上げてる場合じゃねぇ。取り敢えず全員避難だ」
《その必要は無い》
「・・・え?なんだ今の声?」
周囲を見回すハイネルドの目の前に機械仕掛けの蜂が飛んで来て空中停止した。
その蜂からアスタクリスの声が聞こえてきた。
《逃げる必要は無いと言ったのだ。その気なら逃げようともそこに居る全員を殺せるのだぞ》
「あー・・・これ情報収集用の電気蜂だべ。オラとした事が周囲の索敵を忘れてたべさ」
「情報収集って事はつまり・・・」
「んだ。会話も映像もヘルプラネットのアスタクリスにぜーんぶ流されただなぁ」
あっけらかんに言い放ったルクレをフッと影が覆った。
人々が頭上を見上げたその先にはヘルプラネットが現れていた。
突然現れた直径約5キロの球体は見た者の顔に絶望と恐怖をもたらした。逃げ出す者、恐慌を来たす者、泣き叫ぶ者、先程まで傲岸不遜な態度を取っていた聖堂大神官たちも例外ではなかった。
マルコスさえ震えてルクレにしがみつく有様で、平然としているのはレントたち数人だけであった。
「電気蜂が逃げる必要は無いと言ってるんだからシャンとしろよマルコス。俺を失望させるな」
「ハイネ、お前部下に厳しいなぁ」
「オラは提督に抱きつかれて嬉しいだ」
「私もレントが抱きついてくれると嬉しいんだけどなぁ」
《あなたたち・・・この状況でずいぶんと楽しそうね》
「あ・・・そうだった。聞かれてるんだった」
《そう、私は全てを見てすべて聞いていた。用があるのはほんの数人だ。それ以外は手を出す気は無い》
深い紫色の光が幾筋も地上を照らし、数人が捉えられてヘルプラネットへ向かって吸い込まれるように上へと持ち上がっていった。恐怖と戸惑いの表情で上空へと持ち上げられた神官たちが豆粒ほどの大きさになった時、紫色の光がフッと消えた。拘束が解かれ、絶叫しながら墜落して地上に叩きつけられた神官たちが鈍い音を立てて肉塊となった。血や肉片が飛び散り、あちこちで悲鳴が上がった。
「少しむごいな」
「ええ?妥当だろ?当然の報いを受けただけだろう?」
「まぁそうなんだろうが・・・と言うかレント、お前・・・!」
「ん?・・・あれ?ちょっ、ま、何これ?」
レントの体が紫色の光に包まれて持ち上げられた。
「いやいやいや、まてまて、何でオレまで・・・」
「レント、あなたまさか・・・!私の知らない間に報いを受けるような事を!!」
「してないしてない!いや・・・ちょっと・・・おおーい・・・」
レントが上空に引き上げられるのと同時に電気蜂たちも一斉にヘルプラネットへと飛び去った。
ルクレにしがみついたままのマルコスが震えた声で言った。
「ルクレ、索敵を頼む。電気蜂はもう居ないか?」
「1匹残らずヘルプラネットさ飛んで行っただなぁ」
「そうか。とりあえずは危機は去ったと見ていいかも知れないな」
ヘルプラネットを見上げて安堵のため息をついたマルコスがハッと気付いてルクレから体を離した。
「すまない、そんなつもりで抱きついた訳じゃないんだ。許してくれ」
「そったらこと気にしなくていいべさ。むしろオラは嬉しかっただ」
「お前ら仲いいなぁ。まぁしかし、レントまで殺そうとするとは思わなかったな」
「そうですね。空も飛べるし浮遊掌で地面への激突も避けられるから良い物の・・・何を考えているのか分かりませんね」
ヘルプラネットを見上げながら話している間にもレントはどんどん上空に持ち上げられ、やがてヘルプラネットの中に吸い込まれて行った。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
ハイネルドたちが呆然と見守る中、レントを取り込んだヘルプラネットが高速で飛び去っていった。
しばらくは何が起こったのか理解できないまま立ち尽くしていたサンドラが叫んだ。
「レントが、レントがさらわれたーーーーー!!」




