第六章 栄誉無き軍神 2
ネスカリカの大神殿横に夢幻号が砂煙を上げながらその巨体を着陸させた。
すでにピサロが死亡し、ガブリエルが神官長になると言う声明が夢幻号の通信機を通して近隣各国に伝達されているせいだろう。居並ぶ神官や僧兵たちが敵意をむき出しにしてハイネルドたちを睨みつけていた。
タラップを使わずに夢幻号から飛び降りたレントが鞘の位置を正しながら、不満そうな顔をして並んでいる者たちに厳しい声で言い放った。
「43代目神官長ガブリエルの帰還だ。全員平伏せよ」
初老の小男が不快そうにレントの正面に歩み出た。
「そう言うお前は何者だ?神官長は聖堂大神官が裁決を取って決める物だ。個人が勝手に決めて良い物ではないわ!」
その言葉にレントの目が糸のようにスーっと細くなった。
死線をくぐり抜けて来た者、レントを良く知る者にとっては背筋の凍る光景であった。
殺戮者の目、肚を決めた者の目である。
「なるほど、じゃあ参考までに聞かせて欲しいんだが神官長ってのは聖堂大神官の中から選出するのか?」
「そうだ」
「その聖堂大神官ってのは何人いるんだ?」
「13人だが?」
「ふんふん、・・・で?ピサロを神官長にした時の内わけは?13人の内、誰と誰がピサロを推したんだ?」
「貴様ごとき者が教皇猊下を呼び捨てにするな!」
「何が教皇猊下だ!ただのクズ野郎じゃねえか!」
「な?・・・ク、クズ?」
「いいから口答えせずに答えろ!グズグズしてるとお前ら全員皆殺しにするぞ!」
「な?・・・なんだ・・・?皆殺し?何を言ってるんだお前は?」
慌てて駆け寄ってきたガブリエルがレントと小男のあいだに割って入った。
「レントさん、やめて下さい。事を荒立ててどうするんですか。ネスカリカと戦争になってしまいます」
「戦争だぁ?むしろ望むところだ」
「そんな!待ってくださいよ」
「ちょうどいい、ガブリエル、ピサロを神官長に推した聖堂大神官は13人中で何人だ?」
「え?えーと・・・10人ですがそれが何か?」
「その中にお前は入ってるのか?」
「いえ、私は前神官長の息子と言う立場上、どのような意見も出しませんでしたし採決にも関わっていません」
「ガブリエル、このレントとか言うのはなに者なんだ?さっきからずいぶんと・・・」
言い終わるのを待たずにレントが小男の大神官を手の甲で張り倒した。
転がり倒れた大神官の襟元を掴んで引き起こす。
「残り9人、まとめて殴り殺されるかガブリエルに服従するか今すぐ選べ」
「貴様、私に手を上げた事を後悔させてやるぞ。そんな非道が通るとおも・・・ぐがが・・・」
「うるせえよ。お前は問われた事にだけ答えろ」
レントの怒りに呑まれて周囲の神官たちも口を出す事が出来ない中、首を絞められていた大神官が哀れみを乞うように地面に両手をついた。
夢幻号の横で遠目に見ていたマルコスが横目でハイネルドの顔色を伺った。
「我が王、レント様を止めないのですか?」
「怒りの理由が分かった以上、止める気は無いな。何よりあいつの連れ合いが止めないのに俺が口を出す事も無いだろう?」
「ですが事は国家間の問題になりますよ?」
「ならねぇよ」
「え?」
「ガブリエルがネスカリカの神官長になれば何の問題も起きない」
「・・・あ!そう言われてみればそうでした」
「だろ。それよりも少し厄介そうなのが来たな」
ハイネルドが指さした先に異様ないでたちの兵団が駆けているのが見えた。真っ直ぐにレントの方へ向かう50人ほどの白装束の兵たち全員がその手にオーヴァルブレードを携えていた。走る速度が異常に早い。その足には古代兵器の一種と思われる膝丈まで覆う機械のブーツを装備させている。
ハイネルドがちらりとサンドラを見やる。
動揺など微塵もないその顔を見て、レントの勝利を確信した。
「あれはしろがね部隊!師匠が危ない!」
駆け出そうとするバーリーを引き止めてサンドラが楽しそうに笑った。
「バーリー、良い機会だからよく見ておけ。お前の師匠の戦いをな」




