第六章 巨人の神殿 12
アスタクリスがサンドラを突き放して怒声を放った。
「何言ってるの。私のせいで世界が滅ぶのよ?なんなのよあの人!」
「あなたの屈辱と怒りは私たちには理解できないほど深くて、悲しくて、それで彼は泣いているの」
「話にならないわ」
「本当にそう、私もそう思うわ。・・・ねぇ、私もあなたに質問していいかしら?」
「・・・いいわよ。聞きなさいよ」
「あれが落ちてきたら私もレントも死ぬかも知れない。それでも何か言い残す事があったら言ってくれない?」
「質問の意味がわからない。・・・どういう事?」
「私があの人の代わりにあなたを殺すわ。人間が生き残る為ではなくあなたのために」
「そんな事をしたらこの場に居る全員が死ぬわよ」
「構わないわ。ここで死ぬならそれがあの人たちの運命よ。さぁ、言ってちょうだい」
暫しの沈黙の後、アスタクリスが顔を伏せた。
「聞き間違いかしら?機械の私を壊すのではなく殺すと言ったわよね?」
「聞き間違いなんかじゃないわ」
「あなたもあの人も・・・私を殺す代償に自分たちも死んで構わないって言うの?」
「それはわからないわ。死ぬ瞬間まで私たちは生きる事を諦めない。案外生き残るかも知れないわよ」
「そう。・・・じゃあ・・・」
アスタクリスが顔を上げて言葉を続けようとした瞬間、頭上で耳をつんざくような爆発音が鳴り響いた。
ヘルプラネットの1部が黒煙を上げている。
見上げた人々の視界にヘルプラネットに激突し、爆発するミサイルが写った。
だが妙な事に破片が降ってくる事が無い。飛散した破片がヘルプラネットの周囲に靄のように浮かんでいる。
そしてその破片がゆっくりと破損した箇所を塞ぐように修復されていった。
「どうやら敵対国のミサイルが生き残っていたみたいね。撤退するわ。・・・あなたへの答えは次に会った時でいいかしら?」
「構わないわ」
「あなた、名前は?」
「サンドラよ。サンドラ・ハンニバル」
「サンドラ、レント、また会いましょう」
言うが早いか目にも止まらぬ速さでヘルプラネットに吸い込まれるように向かって飛んでいった。
やがてヘルプラネットが自転しながら遠ざかっていった。
呆然とそれを見つめているレントにバーリーが駆けつけてきた。
「師匠ー!師匠!通信機に師匠を名指しして連絡が入ってます」
「オレあてにか?」
「はい、この通信機のアクセスがどうして分かったのか不思議ですが、間違いなく師匠あてです」
「不思議でも何でもないさ、通信機のある所ならどこに居ようといつだってどこだって通信をしてくるよ」
通話機を受け取ったレントの耳にハイネルドの声が響いた。
《レント、みんな無事か?》
「ああ、・・・ルクレがヘルプラネットの信号を感知したのか?」
《そうだ。とにかくそこは地盤が脆くなってていつ崩れてもおかしくないらしい。すぐに艦艇に全員乗り込んでくれ》
通話しているレントの頭上に大きな影が差した。
船側にユニコーンが描かれている。ハイネルド艦の夢幻号がその船体をゆっくりと降下させた。
バーリーが震える声でレントに聞いた。
「師匠!あれ、いったい何ですか?ロングスピア号に少し似てますが・・・」
「ロングスピア号と同じ古代兵器だからな。そりゃ少しは似てるだろう」
「古代兵器・・・我々ネスカリカの知らないこんな古代兵器があるとは・・・!」
「話は後だ。とにかく神官たちを早く船に乗せるぞ」
時折足元が揺れる中、急いで全員が乗り込むと夢幻号が再び上昇した。
甲板から見下ろすと、かつての光の谷はその輝きを完全に失い、谷の底には水が流れ込んでいた。
水漏れや崩落を防ぐ役割を持ち、岩や山の裂け目を埋めていたヘリキシウム鋼が無くなったのだから当然の結果と言える。
水底に沈み、故郷を失ったレントや巨人族の悲しみを思うとサンドラはかける言葉も見つからなかった。
甲板からかつての故郷を見下ろすレントの手をそっと握った。
「あの、・・・レント、故郷を失ったあなたに何と言っていいのか分からないわ」
レントがその言葉に驚いてサンドラの方を向いた。
山々が崩れ落ち、水が満ちて行く様を指差してレントが笑った。
「数年すればここは美しい土地になるだろう。これも悪くない。そうだろ?」




