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第六章 巨人の神殿 9

 襲い来る機械を叩き壊しながらレントが怪訝そうに振り向いた。


「サンドラ、どうかしたのか?」

「ううん、何でもないわ」

レントに向かってにっこりと微笑むとサッと横を向いてバーリーを睨みつけた。

「そうよね?バーリー?」

「は、はい!」

「ふむ、もうすぐ祭壇だ。気を抜くなよ」


 後続が来るのも待たずに3人が祭壇のある広間へと駆け込んだ。

祭壇の後ろの壁が壊されてポッカリと穴があいている。奥から陽の光が差し込んでいるのが見えた。


「まさか奥に部屋があるとは思わなかったな。行くぞ」

「だ、大丈夫なんですかね?」


 気弱そうに返事をするバーリーにレントが声をかけた。


「バーリー、弟子になるなら覚えておけ。戦士にとって必要な資質は何を見ても驚いて動きを止めない事、そして状況を見て一瞬で危機回避を判断し行動する事だ」

「は、はい師匠!」


 飛び込むと同時に散開した3人に見慣れぬ形の短剣が飛んで来た。

レントは飛んで来た5本の内、3本を躱しながら2本を弾き返した。サンドラは最小限の動きで短剣を叩き落とした。そしてバーリーは致命傷となる箇所を避けて攻撃の体勢を取った。左肩に突き刺さった短剣を抜こうとはせずに構えを取ったまま次の攻撃に備えるべく短剣の飛んで来た方へと目をやる。


「上出来だ。目を逸らさず、つぶらず、急所を避けるのは仲々出来る事じゃない」

「師匠!・・・弟子と認めていただけますか?」

「心得から叩き込む事になる。今までの戦闘が遊びだと思えるぐらいにな。それでもいいのか?」

「し、師匠・・・ありがとうございます」


 今にも泣き出しそうな顔のバーリーと、かつての自分の姿が重なって思わずレントまで泣きそうになった。

ハンニバルに師事した幼い日。最強を目指した日。厳しい鍛錬と優しい慈父のような励ましを受けた日。父親の居ないレントにとって、ハンニバルはまさに父そのものと言えた。


「・・・バーリー、礼を言うのは早いぞ。見ろ」


 そう言ってレントが部屋の中央にある円筒状の小高い建造物を指さした。その真上には先ほど目にした銀色に光る巨大な球体が浮かんでいる。


「ねぇレント、あの銀色の球体、さっきの倍以上大きくなってるわ」

「ああ。止めるにしろ壊すにしろ、まずはあの中に突入するしかないな」

「あの円形の建物に・・・ですか?師匠?」

「そうだ。そしてオレの弟子になってもあまり意味が無いと言う意味をよく知っておけ」


 言うなりレントは斬鉄牙を結合させ、頭上で回転させながら建物の壁目がけて駆け出した。

サンドラがバーリーの肩に刺さった短剣を引き抜きながらよく見ておけと言うように顎をしゃくった。

砂の城が崩れるかのごとく、もうもうと土埃を上げて壁が打ち壊されていく。

太刀筋が高速過ぎてバーリーは目で追う事さえ出来なかった。


「繭囲いと私たちは呼んでいる。基本の型が50通りほどあって、それを自在に組み合わせて高速の太刀筋を生み出す。まるで野蚕が繭を紡いでるみたいでしょう」

「これは・・・!凄すぎます」

「あなたも出来るようになるわ。3年ほど真面目に鍛錬すればの話だけどね。・・・ただし、レントのように石壁を破壊するのは一生をかけても恐らく無理だわ」


 土煙が風を受けて消えた先にレントが立っていた。そしてその向こうには神官長ピサロが両手を空に向けて掲げており、更にその周囲ではガブリエルを始めとして10人ほどの神官が喘いでいた。

レントは無造作にピサロの方へと歩き出し、短刀を射出する円柱を蹴り砕いた。


「なぁ?お前が神官長ピサロか?人の土地でずいぶんと好き勝手してくれるじゃないか」


 掲げていた手を下ろすとピサロがゆっくりとレントの方を向いた。


「人の土地、か。まぁいい」

「いや、良くないんだがなぁ。お前も1国の主なら道理ぐらい弁えろよ」

「元々この山のヘリキシウム鋼は私の物だ。とやかく言われる覚えはない」

「ヘリ・・・なんだって?」

「ヘリキシウム鋼だ。お前にもわかるように言うと学習させる事の出来る金属だな」

「ほう。・・・で、そのヘリキシウム鋼を渡さないと言ったらどうする?」

「言ってもどうにもならんさ。既に大部分があそこにあるからな」


 ピサロが空に浮かぶ球体を指さした。

遥か上空に先程よりも更に大きくなっているのが見て取れた。


「どうにもならん、か。それは神官長のお前を拷問にかけてもか?」

「ああ。私を拷問にかけてもだ。もう元には戻せん」

「なるほど。・・・バーリー、試してみる価値があると思うか?」


後続隊と共に駆け寄ってきたバーリーが返事をする代わりに剣を摺り上げてピサロに斬りかかった。

鋭い金属音と共にバーリーの持っていた剣が折れ飛んだ。斬り付けられたピサロの足からは血の一滴も流れては居なかった。






「やっぱりだ。師匠、こいつはピサロを模した機械です」


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