第六章 巨人の神殿 7
山のように積み上げられたパンやベーコンを振る舞いながらクレアがレントの幼少期の話を披露した。
村を拡張する為の石切り場から巨石を運んで来た話や、不幸にも何も知らずに村を襲ってきた盗賊団をハンニバルと共に2人だけで撃退した話、子供たちの取っ組み合い祭りで優勝した事など、いくらレントがやめてと頼んでも止まらない。
「まぁ何しろこの谷では小さい者ほど力持ちって言われてるからねぇ。レントちゃんはその中でも格段に小さくて力持ちだったよ」
「それにしても父上とレントが盗賊を撃退だなんて初めて聞きましたわ」
「おや、お嬢さんもしかしてハンニバルの娘さんなのかい?」
「はい、思いがけず父上の話を聞いて驚きました」
「ええと・・・1人・・・娘と聞いていたんだけど・・・」
「はい、そうですが・・・あの、どうかしました?」
クレアの顔が曇ったのを見て取ったサンドラが怪訝そうな顔をした。
「私が聞いてた話とお嬢さんが同じ人だとはとても思えなくてね。レントちゃんと付き合ってるんだよね?」
「はい、そうですが・・・?いったい私のどんな話をお聞きになったんですか?」
「いや、なんでも凄い男勝りの男嫌いで、言い寄ってきた者を・・・」
「あああああ!!!その話は・・・!勘弁して下さい!」
「あー・・・やっぱりそうなんだね。レントちゃん、よくまぁ付き合う事が出来たねぇ」
「え?いやまぁ僕の時はそんな事無かったから・・・」
「そう言えばお嬢さんも精霊の騎士と聞いてたけど、体に宿ってないようだねぇ」
「ああ、普段はトラブルを避けるために見えないようにしてるんです。レントもそうですよ」
「レントちゃんが?精霊は部外者には一切伝えないんじゃ無かったのかい?」
「色々とありまして、レントは部外者として最初で最後の、そして精霊の騎士としても恐らく最後の1人です」
「最後の?」
「はい、彼は村にあるすべての精霊を飲み干してしまいましたから。今後イリア村から精霊の騎士を輩出する事は2度と無いと思います」
「レントちゃん、あんた本当に加減ってものを知らないねぇ」
呆れ顔で言うクレアの横でバーリーが唸った。
「いやー、まさか師匠が巨人族で精霊の騎士だなんて思いもしませんでした」
「師匠?あんたレントちゃんの弟子なのかい?」
「まだ正式に弟子とは認めてもらってないですがそのつもりです」
「やめときなさい。巨人族の武人に弟子入りしたって何も得る物なんてありゃしないよ」
「な、なぜですか?師匠の技や戦い方には教わるべき点が数多くあると思いますが」
「じゃああんたドラゴンに弟子入りしたら炎が吐けるようになるとか鳩に弟子入りしたら空を飛べるようになるなんて思ってるのかい?」
「いや、そんな事は誰も思わないでしょう」
「巨人族に弟子入りするってのはそれと同じなんだよ。人並み外れた腕力、膂力が無ければ同じ事なんて出来やしないし早死にするのが関の山だよ」
「それは俺も同じ意見だ。バーリー、残念だがな」
「そんなぁ、師匠ー・・・」
「まぁいい、お前の気が済むまで好きにすればいい。俺が教えてやれる事なら教えてやるさ」
「師匠、ありがとうございます」
ホッとした顔でバーリーが笑った。
「師匠、それにしてもここは本当に谷底とは思えないぐらい明るいですな。光の谷とは良く言ったものです」
「このへんの山から反射した日の光が全部集まるみたいだからなぁ。そのくせ眩しくはない。不思議なモンだよ」
「光と緑に囲まれて、土地柄で普通に暮らしてるだけでトレーニングにもなるんでしょう?」
「俺の師匠もそれでここに来たって言ってたからなぁ」
「鳥のさえずりに水のせせらぎ、堪りませんなあ」
「いや、さすがに水のせせらぎは・・・この音は何だ?」
音の先に目をやると小道の横を水が流れている。ついさっきまではそんな物は無かった。
「レントちゃん!山頂の・・・山頂の形が変わっている!」
「いったい何が起こってるんだ?・・・うん?この音は何だ?」
低い金属音が響いて地面が振動した。
「バーリー、何が起こってるかは知らないが、ここに残ってる人たちを飛空艇に乗せて安全なところまで運んでくれないか?」
「師匠は?」
「知れたことよ」
言うと同時に背中から黒い翼を出すと軽く羽ばたて宙に浮いた。
「巨人の神殿だ!」




