第六章 巨人の神殿 5
白銀に輝く峰々を見てサンドラが歓声を上げた。
「すっごぉーーい!本当にギラギラと山全体が輝いているのね」
「まぁこれが黄金とか銀だったら良かったんだろうけど、何の値打ちもない鉱物だからなぁ」
「もう、ロマンが無いわねぇ」
「ごめんごめん。何年も毎日のように見てたからね」
「ねえねえ、レントの住んでた所ってあのふもとの村?」
「ああ、・・・だけど途中の神殿の方が凄い人だかりだな。例の視察かな?」
「遠回りして降りる?あそこを通って行くなら相当な時間のロスを覚悟しないといけないわね」
「急ぐ旅でもないし、あそこでお昼でも食べてゆっくり行かないか?」
「それもそうね。なんだかお腹がすいて来ちゃった」
途中の街道も、にわか作りの休息所もたくさんの人で賑わっていた。
最近では観光名所にもなっているのか神殿の周囲には出店や屋台が所狭しと並んでいる。
ここでも通行証の効果は絶大で、何を買おうとしても頑なにお金の受取りを拒まれた。
串焼肉を食べながら道行く人々を見てレントが唸った。
「なんかみんな木札とか紙札を首から下げてるけど、僕たちの持ってるこれって想像以上に特別な物なんじゃないかな?」
「確かにこんな宝石を散りばめた高価そうな物を首から下げてる人は居ないわよね。・・・あら?」
ふと横を見たサンドラが楽しそうにレントに言った。
「噂をすれば・・・あなたの弟子が来たわよ」
サンドラの指さした先で人々を押しのけて僧兵の1団が駆け寄り、先頭を走るバーリーがレントに抱きついてきた。
「師匠ーーーー!レント師匠ーーー!!」
「うわっ、言ってたら来やがった・・・とりあえず離れろ。抱きつくな」
「バーリーさん。相変わらず元気ですね」
「これは姐さん、旅に不自由はありませんでしたか?」
「おかげ様で快適な旅を楽しませてもらってるわ」
「それはなによりです。このバーリー、弟子冥利に尽きまする」
「おいおい、弟子とか言うな。それにしてもこの通行証だが、お前もしかしてジェイン教徒の中でもかなり地位が高いんじゃないのか?」
レントの質問にバーリーの周りに居た僧兵やジェイン教徒の顔が引きつった。
次いで1人の僧兵がおずおずとレントに言った。
「あの、バーリー様は我ら僧兵20万人の束ねとなっている僧兵長なのですが・・・」
「な、なにぃー!バーリー、そうなのか?」
「いやいや、師匠。そんな些細な事はどうでもいいじゃないですか」
「いや、些細な事じゃないよ。じゃあガブリエルも神官職じゃあかなり上の方なんじゃないか?」
「ええ、聖堂大神官です。本当ならピサロなんかじゃなく、あいつが神官長になるべきだったんですがねぇ」
「バーリー僧兵長、教皇猊下の耳に入ったら大変ですよ」
たしなめるように言った僧兵にバーリーが顔をしかめた。
「そもそもその呼称が気に食わん、神官長は神官長だろうが。偉そうに教皇などと名乗りおって!」
「僧兵長、やめて下さい。ジェイン教徒の皆さんに聞こえてしまいます」
「構わん。例えば俺が、・・・ええと・・・師匠、僧兵長じゃなくて何か偉そうな呼称ありますかね?」
「え?ええと・・・おい猟犬、話を聞いていただろ。何か無いか?」
レントに指さされたジェイン教徒の少女が目を見開いて顔面蒼白となった。
食べていたパンを喉に詰まらせて咳き込みながら狼狽えた声で返事をした。
「ななななな、なんで、、、いえ、人違いでは・・・」
「猿芝居はいいからほら、何か僧兵長の偉そうな呼称を言ってみてくれ」
うんざりとした顔で少女が観念したように答えた。
「まったく、何でこうも簡単に見つけられちゃうんですかねぇ・・・自信を無くしちゃいますよ」
「いいからいいから、ほら」
「うーん・・・そうですねぇ。ネスカリカ教国・・・教国騎士兵団元帥・・・とか?」
バーリーがその言葉に膝を叩いて叫んだ。
「それだ!例えば俺が教国騎士兵団元帥のバーリーと名乗ったらお前たちはどう思う!自分を大きくみせようと偉ぶっているように見えるだろう!」
場が静まり返り、そこに居合わせたジェイン教徒たちが驚いた顔をしている。やがて誰かが手を叩いた。それにつられるように拍手と歓声が湧き上がった。
「え?お、おい・・・何が起こった?」
戸惑うバーリーを教徒たちが口々に讃えた。
「教国騎士兵団元帥、ばんざーい!」
「バーリー元帥ばんざーい!」
おろおろとしていたバーリーがあわてて近くに居る僧兵に助けを求めた。
「いや、違う。そうではない。おい、お前たちも何とかしろ!」
言われた僧兵たちが顔を上げた。涙で顔がぐしゃぐしゃになってる。
「ちょ、おま、なに泣いてるん・・・」
「バーリー元帥ばんざーい!」
「こここ、こらー!やめろ。やめろ!!」
「教国騎士兵団元帥、ばんざーい!」
「バーリー元帥ばんざーい!」
「教国騎士兵団元帥、ばんざーい!」
成り行きを呆然と眺めてたレントが思い出したように肉にかぶりついた。
「まぁ、こういう事もあるよなぁ」
「あるわよねぇ」
店の中でバーリーばんざい、元帥ばんざいと言う声が大きく響く中で、少女に扮した猟犬が途方にくれた顔で小さくつぶやいた。
「オレ、もしかして・・・なんかやっちゃいました?」




