第六章 巨人の神殿 1
ファウンランドの遥か西、山々の尾根を越えた先の小さな村でレントとサンドラが宿を取った。
光の谷まで徒歩で2日と言った所である。イリア村からひとっ飛びに故郷に行かなかったのは気圧や土地柄で体調を崩さない為であった。通常ならば深海である。
「お客さーん、ビールとおつまみおまちどー」
どっかりと置かれた肉の塊を見てサンドラが苦笑した。
「レントってば相変わらず大食いね」
「いや、ここいらはこの肉の炭火焼きが名物なんだ。サンドラにも食べさせたくってさ」
「まーた私にかこつけるんだから」
「まぁまぁ、・・・それにしても人が多いな。観光名所でもないのにこんなに賑わうなんて」
「あら、お客さん知らないんですか?今ネスカリカの神官長様が光の谷を視察に来るって言うんで、お供の方々含めて大勢詰めかけてるんですよ」
給仕の娘に言われてレントが改めて周囲を見渡した。
「なるほどな。確かに言われてみたらいかにもそれっぽい連中が多いな」
「私は今のピサロ神官長とは面識が無いけど、どんな人なの?」
「僕も会った事は無いが、クロロの話だと禿げてて冴えない風貌のねじけた男らしいな」
「そんな言い方をしたらジェイン教徒が怒るわよ」
「構わないさ、なにしろこっちはクロロとアークを殺されそうになったんだ」
炙り肉を頬張りながら喋るレントのそばに屈強な浅黒い男が立ちはだかった。
「失礼だがあんた、蠍旅団のクロロと知り合いかね?」
「ああ、同じ旅団の仲間だ。そう言う君はジェイン教徒かね?」
「おお、彼の仲間か!クロロと言う男はすごく強かった。俺は残念ながら刃を交わす事は出来なかったが彼の強さには感動したぞ」
男はレントの両手を握り締めて語った。
「ああ、自己紹介がまだだったな。俺の名はバーリー、ジェイン教の僧兵長だ。よろしくな」
「えーと・・・蠍旅団・・・のレントだ。よろしく」
「あんたもクロロと同じぐらい強いのか?俺は強い奴と戦うのが大好きで・・・」
「いやいや、待ってくれ。まさか女性を連れてる奴に勝負を持ちかけるつもりか?」
「え?ああすまんすまん。俺とした事がつい・・・」
バーリーのあまりの性急さと気さくな態度にサンドラが笑い出し、つられるようにレントとバーリーも笑い出した。
「クロロはずいぶんとジェイン教徒を斬り殺したみたいだが、仲間を殺されたのに恨んでないのか?」
「何を言ってるんですか。たった2人を嬲り殺しにしようとしたあいつらにこそ非があるんです」
「ほう、堂々と仲間を非難するとは・・・教徒と言うより豪傑だな」
「ご、豪傑?俺が豪傑?」
「ああ、我が身かわいさで口をつぐんでいる奴や点数稼ぎで平気でへつらう奴とは大違いだ」
「嬉しいねぇ。そう言うあんた、レントさんもきっと名のある騎士様なんでしょうねえ」
「いや、そんな事はない。自分の信じたままに戦場を駆けるだけの兵卒さ」
「いいや、俺にはわかる。あんたは立派な騎士様に相違ねぇ。お近づきの印に今夜は俺に奢らせてくれ」
「ええええ?いやいやいや、ちょっとまっ・・・」
「おおおおおーーい!酒と肉、こっちにジャンジャン持って来い!!」
レントとサンドラが顔を見合わせて、こりゃダメだと言うように肩をすくめた。
「よおおおおし、レントさん、お嬢さん、乾杯だ」
ビールがなみなみと注がれた手持ち樽をバーリーが一気に傾けた。
そのまま飲み干すかと思われたその時、パブの扉が乱暴に開けられて鎧を纏った兵士がレントたちのそばまで駆け込んできた。
「我らはキュプ王国軍である。先王アモンを暗殺したレント・オルフィスだな!覚悟しろ!!」
剣を振りかぶった兵士の顔にバーリーが盛大にビールを吹いた。




