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第六章 戦乱の高嶺に咲く華 12

 ドクンと心臓の音が鳴った。

心を読めるのか?または他の方法で見破ったのか?

イルケルは疑心暗鬼に陥った。

一方のハイネルドに他意は無い。

この男なら暗殺される様子を絶対に見ていたであろう事、邪悪でねばつくような視線を感じた事と、ヒカルらの攻撃の後その視線が消えた事。そして自ら古代兵器を手にしていた可能性を考えた結果の発言だった。


「死んだかと思った、とはこちらが言う言葉ですよ。いま聞いたのですが我が軍の不満分子がハイネルド王を亡き者にしようと市街で攻撃を仕掛けたとか。誠に申し訳ありません」

「不満分子ねぇ・・・そんな見え透いた嘘をつかれるとはな。私も甘く見られたものだ」

「気分を害されたのは本当に申し訳ないが、嘘とは言い過ぎで・・・」

「黙れ!平民ならば古代兵器ひとつあれば死ぬまで働かずに暮らせるだけの金が手に入る。暗殺者はおよそ50人。それだけの古代兵器を用意する財源とツテがどこにあると言うのだ?」

「いや、それは・・・」

「お前こそが不満分子の指導者であり財源ではないか!」


 イルケルの心は怯え、震えていた。そして平常心を取り戻す為に反射的にハイネルドの心に入り込んだ。

手順はいつも同じだった。自身を覆うオーラを相手の背中に背負わせて浸透させる。その浸透したオーラに便乗するように相手の背中から精神を潜り込ませるのだ。

人の体をこれ1回で乗っ取る事は出来ないが、同じ相手に10回ほどもやれば体から精神を追い出して自分の物にする事が可能だった。

個体差により多少の違いはあったが手順は概ね同じだった。

薄闇の先にある縦に長い楕円の光の中に入ると、対象者が後ろか横を向いている。

後はそっと近づいて後ろから催眠を掛けるように語りかけるだけだ。言葉にすれば大層な事だが実際にはほんの数秒で事足りる。

だが薄闇など無かった。逆にまばゆいほどの光の中で目眩を覚えてイルケルが膝をついた。

混乱しながらも辺りを見回すと、どことも知れぬ異国の庭園である。

戸惑うイルケルの視線の先にあるあずまやからスッと人影が動いた。真っ白に光り輝く姿が眩しすぎて直視する事が出来ない。その人影がイルケルに向かって歩いてくる。

眩しさと畏れとがそうさせたのか、イルケルは顔を見ることも出来ずに下を向いた。体が震えていた。

人影は下を向くイルケルの前で立ち止まった。体が燃え上がるほどの強い視線を感じて更に頭を下に、気が付くと地面に顔を押し付けてしまっていた。


「無礼者!」


 このひとことでイルケルは現実世界に引き戻された。

座っていたイスごと後ろに倒れ、周囲に居た者たちが心配そうに見つめていた。

立ち上がりながらハイネルドの方に視線を向けたイルケルが息を飲んだ。

ハイネルドは抜き身の剣を持ち、うずくまるイルケルの顔に剣先を突きつけていた。


「キュプの王よ、お前死にたいのか?」


 慌てて周囲の者たちが取りなすが、どちらが大国の王なのかわからないほどに対照的な態度であった。

威厳を失ったイルケルにはハイネルドに対してなんら反論も意見も言う術は無かった。

震える手で調印書にサインを書くのが精一杯だったと言える。

立ち会った司祭が調印式の終了を告げるべく立ち上がった。


「これで調印式は無事終了致しました。今後とも両国の発展を願って・・・」

「まだだ」


 言葉をさえぎったハイネルドに司祭が怪訝そうな顔をした。


「キュプの王よ、これは警告だ。調印書には一両日中に撤退となっているが、明日になってもテケシュ半島に兵が残っていた場合は敵対行為と見做して掃討する」

「い、いや、確かに一両日中とはなっているが慣例上数日かけて撤退するのが・・・」

「もう少し立場をわきまえて黙れ。出来ないと言うのならたった今から戦争開始だ!」

「だ、黙れだと・・・?立場をわきまえろだと?」


 これはむしろイルケルにとってはチャンスであった。対外的な体裁を無視出来るのなら包み殺しにしてしまう事など簡単な事だ。そもそも敵国の城塞都市にのこのこやって来るなど、スズメバチの巣の中にミツバチが入り込むような物である。イルケルの目に残忍な光がよぎったその時、ハイネルドが傍らに立っている緑髪の女性に命令した。


「ロク、夢幻号をテケシュ半島上空に移動させろ。軍事行動を取る兵士は処分して構わん」

「わかっただ。今すぐ移動させるだよ」


 直後、広間の中にまで外からの悲鳴と怒声が聞こえ、次いで地響きと轟音が鳴り響いた。

外から真っ青になった兵士が駆け込んできた。


「報告します。ただいま古代兵器と見られる巨大な物体がレーベン上空に現れました!」


 慌てて外に駆け出し、上空を見上げたイルケルががっくりと座り込んだ。

その目はうつろで絶望の影しかなかった。






「ネスカリカは・・・教皇猊下は・・・何をしているのだ」

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