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第六章 戦乱の高嶺に咲く華 7

 キュプ国王宮の外れにある発着場へと小型の高速飛空艇が着陸し、ハッチが開くなりせわしなく降り立ったイルケルの顔が青ざめていた。

約束の古代兵器が届かないばかりかピサロと連絡さえ取れなくなった為に急遽ネスカリカへと向かったイリケルであったが、待たされた後に面会した相手は姿だけはピサロだが中身は全くの別人だった。

(ピサロは別人になっていた。いや、あれはもはや人では無い。ピサロの姿をした何かだ)

イルケルがピサロの心の中に入り込もうとした瞬間、石に閉じ込められたような恐怖に包まれた。人の世に生を受けて500有余年、初めての経験であった。逃げ出すようにネスカリカを後にしたイルケルの脳裏にピサロの無表情でありながら酷薄な顔が浮かび、思わず身震いした。


「イルケル王、いかがなさいました?」

「お顔の色が優れないようですが・・・」


 駆け寄ってきた重臣たちに気取られないように何気ない風を装ってイルケルが答えた。


「いやなに、気流が激しくてな、少し風に酔ったようだ」

「古代兵器の方はいかがでした?」

「ん?ああ、どうも手違いがあったようですぐには届けられなくなったそうだ。なに、心配はいらん。手持ちの武器と兵力だけでも易々とファウンランド王を討ち取れる」

「では明日の調印式に変更はございませんな」

「ああ、街道及び軍港、発着場にそれぞれ兵を配備し、相互連絡を密にして事に当たれ」

「すでに配備しております。早ければ今夜の晩餐会の前には朗報を届けられるよう努力致します」

「うむ、期待しているぞ。今夜は主役不在でさぞかしつまらなくなりそうだな」

「晩餐会は夜の7時からとなりますが、王は何時ぐらいにレーベンへお発ちになりますか?」

「高速飛空艇であれば3時間もあれば着くだろう、午後の2時ぐらいにでも出発しようか」

「承知致しました。それまでに準備を整えて置きまする」


 重臣たちが立ち去るとイルケルは長椅子に寝そべってブドウを口にした。

ブドウを食べながらネスカリカでのピサロとの面会を思い出した。あの時の無機質なピサロの顔がいつまでも心に重くのしかかった。



 一方その頃、イリア村では重臣たちが幕舎で議論を交わしていた。


「調印式に王自らがご出席されるなど、噴火口にヒツジを投げ入れるような物、絶対に行かれてはなりません」

「そもそも戦勝国の王が敗戦した敵国領へ出向くなど道理が違いまする」


 幕舎の奥の椅子に座ったハイネルドがあくびをしながらそのやりとりをつまらなそうに聞いている。


「いや、我が国の威勢を示す為には王御自身がご出席されるのが1番ですぞ」

「なんと!ハイネルド王の身に何かあっては遅いのですぞ?」

「何かとはどういう事を指しているのだ?」

「キュプ国のアモン王と同じ最後を迎えるやも知れんと言う事だ!」

「そうならない為に我らが王を護衛するのではないか!」

「まったく、レント殿が先走って彼の国の王を討ち取ってしまわれた事は軽率と言わざるを得ません」

「ああ、あの者は遠望深慮と言う物が無い」

「うむ、困った事をしてくれたものだ」


 重臣たちの言い争いがレントへの非難へと変わるのを横目で見ながらリンダがハイネルドのそばに歩み寄った。


「ハイネルド王、そろそろ出発しなければ今夜の晩餐会に間に合いませんが、出席なさらないのですか?」

「うん?ああ、つい重臣たちの言い争いが面白くて見入ってしまったな」

「レンちゃ・・・いえ、レント殿への罵詈雑言が面白いと?聞き捨てなりませんね」

「聞き捨てならない?何がだ?」

「単身乗り込んでアモン王を屠ったレント殿に対して、あまりにも無礼な物言いがです」

「何を言うか。この者たちは私の代わりに調印式に出向き、場合によっては新王イルケルと刺し違える覚悟なのだぞ。そうだろう、お前たち?」


 問われた重臣たちが口を揃えて答えた。


「もちろんでございます」

「ほら見ろリンダ、覚悟を以て諌言する家臣たちを悪し様に言うお前の方が間違っているぞ」

「いえ、ですが・・・」

「ですがではない。私は決めたぞ。調印式には私の代わりにこの者たち全員に行ってもらう」


 突然の決定に重臣たちが震え上がった。


「ハ、ハイネルド王。性急に事を決めるのは・・・」

「いやいや、お前たちの忠信我が心に響いたぞ。さっそく支度をして飛空挺へと行くがよい」


 言うが早いかハイネルドはマントをひるがえして帷幕を後にした。重臣たちが止める間も無かった。

笑うのを堪えていたリンダが気を取り直して重臣たちに向かって厳しく言い放った。


「王の命令である。出発は2時間後、家臣の皆様に於いては早々に乗船するように」


 驚愕の表情となった重臣たちを後に、リンダもまた帷幕から足早に立ち去った。

リンダが大通りの先に差し掛かると案の定ハイネルドが待っていた。


「リンダ、飛空挺を発進させたら1時間でUターンして戻って来い」

「乗り込んでいる家臣たちはどうするの?」

「もちろん今以上に厚遇してやらねばなるまい」

「て事は・・・乗らなかった家臣は?」

「降格、蟄居、解雇、お前の裁量で処遇を決めれば良い」

「わかったわ。ところでハイネはどうするの?」

「調印式には行くさ、だが晩餐会にまで出席するつもりは無い」

「主催者であるイルケル新国王の顔を潰す事になるけど大丈夫なの?」

「大丈夫に決まってるさ、どっちにしろ俺は晩餐会には出れなくなる予定になってるんだからな」

「ちょっと、それって・・・」

「ああ、俺は死体になる予定になっているのさ。イルケル新国王の命令でな」

「それはまた・・・レンちゃんが知ったら新国王を始末しに行くって言いそうだわ」

「ん?レントは知ってるぞ」


 ハイネルドの言葉にリンダは背中に氷を充てられたかのように寒気が走った。


「ち、ちょっと!止めなきゃマズいんじゃないの?レンちゃんは今どこに居るの?」

「ああ、レントならサンドラを連れて生まれ故郷に里帰りに行っちまったぞ」

「ななな、なんですってーーー!!」

「まぁ落ち着けよリンダ、それだけ今回の調印式はのんびりとした些細な出来事なのさ」

「なんだか頭が痛くなってきたわ」

「お前は昔っから気苦労が絶えないからなぁ・・・」

「ま、いつもの事だからいいわよ。所でついでだから聞きたいんだけど、3日ほど前からあなたのそばに控えているその緑色の髪の女の子はなんなの?」

「ああ、この子か。この子はな・・・」

「この子は?」


 ハイネルドは周囲を窺ってリンダの耳元に口を近づけ、小さな声でささやいた。





「それは秘密です」

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